バーは夜も輝く

SHUN

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第3話「こら!冷やかし少年!」

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夏が去り紅葉が実る秋になった頃、山形はやっと過ごしやすくなった。この年内に2人も客が来てくれたというのは、他の人にとってはちっぽけかもしれないが俺にとっては大きな事だ。それも、一般の客ではなく昔訪れた客が約束を守ってまた来てくれたからだ。俺にとってそれがなにより嬉しい事か。

「今度は、誰が来てくれるのやら。」

また客が来てくれる事を心待ちにしていた俺は、早朝から張り切ってゴミ捨てや清掃を行なっていた。

「いらっしゃいませー!」

なんとまだ朝だというのにも関わらず、そう言いながら入ってくる少年が店の中へと入ってきた。

「おい少年!何しに来た!」

俺は突然入ってきた少年に戸惑いを見せる。

「そういうおじさんこそ何してるの?」

「掃除をしているのさ。」

「へぇ。おじさんの噂広まってるよ。」

「なにっ!?」

「山形ですげぇ売れないバーなんだってね。おじさんよく売れもしないのに続けようと思えるね。」

「少年、私は君がどんな人か全く知らないが、店に迷惑をかけるのはやめてくれないか?」

「やだね!」

少年は土足でテーブルの上を駆け回り、せっかく俺が綺麗にしたテーブルを汚していく。

「朝から掃除していても誰も来ないよ!やめたらどうなんだ!?」

俺はこの生意気な態度を取る少年に、迷いなく言った。

「ああ。辞めてやるさ。君の望みならな。」

少年はその場を逃げていった。

「はぁ…。」

俺は朝から生意気な少年が来たなと疲れ交じりで溜め息をついた。

「この店も…閉めどきか…」

俺は頭を抱え込んだ。

------------------------------------------

僕は、いじめられている小学生だ。
誰にも、相手にされず、話しかける人もいない。そして、関係の無い人に、あのおじさんに、やけくそに当たってしまった。
でも、僕は悪くない。あのバーだって、もうダメみたいなもんじゃないか!

僕は学校になんか行きたくない。でも僕がいじめられている事を親に話せない。親に言っても信じられないからだ。なんで信じられないのかって?

親は病気で苦しんでいるから。

「おい!弘(ひろし)が来たぜ!」

クラスからはいつもターゲットにされる。見て見ぬふりをする人、いじめが楽しく一緒に混ざる人。その光景は負と負の混合を極めていた。

「僕の教科書、返してよ!」

「弘、お前が土下座してくれるなら許してやってもいいぜ。さっさとやれよッ‼︎」

僕は、言われるがままに土下座をする。いじめているやつは先生やその他諸々の偉い人達が来ないのをいい事に、見計らって暇さえあれば僕を様々な方法でいじめる。

「いいねぇ…弘クン…もっと深く土下座してくれると、皆良い気分になるんだよ。その泣き噦る顔がたまんねぇからよ!」

「くっ…」

「おい、お前ら。弘を四人がかりで取り押さえろ。」

いじめを見て見ぬふりする人が一斉に見ているのを感じたいじめっ子は一喝する。

「なんだおめぇら…文句あんのかッ!?」

一瞬にしてその人達は外方を向き始めた。

「そうだ…それでいいんだ…じゃねぇとゆっくり楽しめねぇからなァッ‼︎」

4人に取り押さえられた僕は、いじめっ子に思い切り腹部を殴られる。

「ぐっ…!」

「気分が良いぜ!今日はこの辺にしといてやる。明日はもっと楽しいおもちゃ持ってくるからな。いいか?てめぇは俺に操られるだけの人形なんだよッ!」

こうしてまた一日が終わる。誰にも打ち明けられない人も居ないまま、家に帰る。だけど…

「帰りたくない…。」

家に帰っても、病気で話せる訳がない。

「あのバーに行こう…」

完全に行き場を失った僕はまたあのバーに行った。

「やあ、少年。」

僕はおじさんに謝ろうと頭を下げた。

「おじさん、ごめんなさい!」

「良いんだよ。だが、その顔つき何かあったみたいだな。どうかしたのか?」

「実は…」

優しく話しかけるおじさんに、僕は落ち着いて自分がいじめによって行き場がない事や、話せる相手が居なかった事を全て話した。

「そうだったのか…それで俺のバーをな…」

「おじさん、僕どうすればいいの?」

「実はな…おじさんもいじめられていたんだ。」

「え…?」

「そりゃ、最初は立ち向かえなかったさ。でも、俺を慰めてくれた近所のおじさんのお陰で立ち向かう事が出来たんだ。君は、かつての俺と同じだ。」

「おじさんが…」

「誰も打ち明けるやつが居ないんだろ?打ち明けるやつも居ないのに、いつまでも抵抗しないなんてくだらなく無いか?」

「…」

「人はな、誰でも変われるんだ。君もおじさんも同じだ。相手が卑怯な手を使おうと、全力で立ち向かえ。君は、一匹狼だ。」

------------------------------------------

学校に着いた時、いじめっ子は手にナイフを持ち僕を痛めつけようとしていた。

「弘、これ何か解るか?本物のナイフだぜ。」

弘は一歩も退かずにいじめっ子を睨む。

「弘、なんだその目は。イライラさせんな。」

「来いよ。僕は1人なんだから、狙いやすいだろ?」

「ふざけんじゃねぇぞ。負け犬が。」

「早く刺せ!」

「ズタズタにしてやらぁ!」

弘は決死の思いで手でナイフの刃を握る。

「なにっ!?」

「人っていうのはな…変われるんだ!」

手を血だらけにしながら弘はいじめっ子を突き倒す。

「はぁ…うっ…痛い…!」

ナイフの痛みで弘はうずくまる。

「なんだよこいつ!」

いじめっ子は立ち上がる。

「おいお前ら!こいつを早く押さえろ!」

その場にいたいじめっ子の仲間を含む生徒達は黙り出す。

「なんだよ!早く押さえろ!」

「佐藤…それは出来ねぇよ。弘はあんな決死な思いでお前に立ち向かったんだぞ!」

「なんだと!」

「そうよ佐藤くん…もう私達見て見ぬふりなんて出来ないわ!」

「お前ら!こんなやつの味方をする気か!俺の味方をしていたくせに、生意気な!」

「どうかしたのですか!?」

偶然来た先生が、手が血だらけの弘とナイフを手に持っていた佐藤を目撃し、驚愕する。

「…!佐藤くん…それは!」

「せ…先生!」

弘は突如安心したような様子になる。

「クソ野郎がァッ!」

いじめっ子の佐藤はその後、少年法により先生の指導のもと少年院に取り押さえられる事となった。それも弘の勇気ある行動が生んだ事なのである。それ以来、弘の勇敢さをクラス全員が認め、皆から大切にされた。

そしてそれから数日後、傷が回復した弘は『BAR ゴトウ』へと訪れる。

「おじさん、こんにちは!」

「おお、弘か!」

「いじめっ子に立ち向かえたよ!」

清一はニッと顔を笑わせる。

「良かったな!」

「おじさん、やっぱり人って変われるんだね!」

続く
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