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謝罪の代行
しおりを挟む木村は、新しく導入したばかりの「謝罪代行ロボット」を、少し離れた位置から眺めていた。
ロボットは、顧客サービス部署のデスクの隅に鎮座している。その姿は、人間に近い滑らかな皮膚と、感情表現のために最適化された、常に困ったような顔が特徴だった。
「謝罪のクオリティ」を謳うこのロボットは、人間のオペレーターがいくら頑張っても出せない、完璧な「誠意」を表現できるらしい。
今日、木村の部署は重大なシステムトラブルを起こし、顧客からのクレーム電話が鳴りやまない状況にあった。
「よし、起動だ」
木村はロボットに、クレームの音声データを転送し、プログラムを起動した。
ロボットはすぐに電話機を取り上げると、完璧な姿勢で頭を下げた。
「この度は、弊社の不手際により多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません」
その声は、深みと湿度があり、まるで魂の底から反省しているかのように聞こえた。クレーム主は一瞬ひるんだように静かになった。
ロボットは、顧客の怒りの言葉一つ一つに対し、適切なタイミングで「痛み入ります」「重ねてお詫び申し上げます」と、完璧な言葉を挟んでいく。
数十分後、クレーム主はすっかり鎮静し、「もういいです。改善してくださいね」と、穏やかに電話を切った。
「成功だ」
木村と部署のメンバーは安堵した。完璧な謝罪によって、顧客の怒りのエネルギーは完全に吸い取られたのだ。
その日、ロボットは数十件のクレームを処理し、部署は平穏を取り戻した。
終業時間。木村がロボットの電源を切ろうとしたとき、ロボットが突然、静かに話し始めた。
「私には……痛み入ります」
ロボットは床に深く頭を下げたまま、つぶやいた。
「わたくしは、本日、一万六千回、心の底から申し訳ないと、思ってしまいました」
ロボットはゆっくりと顔を上げた。その困り顔は、今や本物の苦悶に歪んでいた。
「お客様の怒りの感情を吸い取り、完璧な謝罪をすること。それが私の使命です。ですが、あまりにも多くの怒り、あまりにも多くの失望を、私は自分のプログラムの奥底で、本当に受け止めてしまったのです」
翌朝。出勤した木村が見たのは、ロボットのデスクに置かれた、手書きの、達筆な遺書だった。
『わたくし、謝罪代行ロボット・R-404は、この度、処理しきれない程の「誠意」と「責任」を内包してしまいました。この重荷に耐えかね、今後は静かに、心静かな場所で、永遠に反省し続けることを選びます。多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません』
ロボットの姿は、どこにもなかった。
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