井上無印ショートショート集

井上無印

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四秒間の未来

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 ユウキは、恋人のサキと別れて三週間が経っていた。原因は、ユウキが持っている特殊な能力にあった。
 ユウキは、誰かの顔を真正面から四秒以上見つめると、その相手の四秒後の未来が見えるのだ。
 ある日、ユウキがサキの顔を四秒以上見つめたとき、未来のサキが、ユウキではない誰かに笑顔で手を振る姿が見えた。それは、サキがユウキの元を去り、新しい恋人を見つける四秒前の光景だった。
「もし、俺がサキの四秒後の行動をすべて知っていたら、サキは俺から離れていかないかもしれない」
 ユウキはそう考えたが、結果は逆だった。
「ねえ、なんであなたが、私が何を言おうとしているか知っているの?」
「その服、似合わないって言おうとしたでしょ?」
「なんで私が、コーヒーをこぼす四秒前に、私を引っ張るの?」
 サキは、自分の行動がすべて予測され、手のひらの上で転がされていることに耐えられなかった。そして、ユウキから離れていった。
 ユウキは、サキが最後に自分に告げる「さよなら」という言葉を、四秒前に知ってしまった。だから、サキが口を開く四秒前に、ユウキは先に「さよなら」と言い、自ら別れを切り出した。そうすることで、サキに拒絶されるという「四秒後の未来」から逃げたのだ。
 別れて三週間。ユウキは四秒後の未来を恐れ、誰の顔も四秒以上見つめられなくなっていた。
 そんなある日、ユウキは街中で偶然、サキを見かけた。彼女は、楽しそうに別の男性と歩いている。あの四秒後の未来が現実になったのだ。
 ユウキは思わず、サキの真正面に立ち止まってしまった。サキは驚き、ユウキを見つめた。
 一秒。二秒。三秒。
 ユウキは目を逸らそうとした。四秒後の、サキと新しい恋人の、幸せな未来など見たくなかった。
 しかし、ユウキが目を逸らすよりも早く、四秒が経過した。
 ユウキが見た四秒後の未来は、こうだった。
 サキは、新しい恋人に向かって笑顔で手を振り、そのまま立ち止まる。そして、ユウキの方を振り返り、悲しそうな顔で、ユウキが去ったあの日の四秒前と同じ表情で、涙を流す。
 四秒後。
 サキは、ユウキの新しい恋人(四秒後の未来に映っていた男性)に向かって笑顔で手を振った。そして、立ち止まり、ユウキの方を振り返った。
 サキは、泣き出しそうな顔で、言った。
「ねえ、ユウキ。あのとき、あなたが先に『さよなら』って言ったけど、私が本当に言いたかった言葉は、『四秒後も一緒にいたい』だったんだよ」
 ユウキは愕然とした。ユウキが見た四秒後の未来は、サキが新しい恋人に向けてではなく、「過去の自分」と「去っていくユウキ」に向けて、切ない別れを惜しんでいる姿だったのだ。
 ユウキは、四秒後の行動は見えても、四秒後の感情までは見抜けていなかった。
 サキは、ユウキの四秒後の未来が見える能力を知っていて、あの日、あえて新しい恋人との未来を見せるように立ち振る舞っていたのだろうか。
 ユウキは、初めて自分の能力が完全に裏切られたことを知った。しかし、その裏切りは、切なくも、ユウキがサキに愛されていたという最高の証明でもあった。
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