13 / 15
片道のイヤホン
しおりを挟むアユミは、高校の図書館で勉強しているとき、いつも不思議に思っていたことがある。向かいの席に座るサッカー部のタケシくんは、毎日本を読むとき、片方のイヤホンしか耳に入れていないのだ。
タケシくんは、クラスで人気者だが、少し不器用で、誰とも馴れ合わない。彼はいつも、左耳にだけイヤホンを差し込み、熱心に参考書に向かっている。
「片耳だけじゃ、音楽に集中できないんじゃないかな」
ある日、勇気を出したアユミは、タケシくんに話しかけてみた。
「あの、タケシくん。いつも片方のイヤホンしかしてないけど、もう片方はどうしてるの?」
タケシくんは驚いて顔を上げた。顔を赤くしながら、ぼそぼそと答えた。
「ええと、これは……予備だよ。なくしたときのために」
明らかに嘘だった。アユミはそれ以上聞けず、自分の席に戻った。
次の日、アユミがいつもの席に着くと、タケシくんはまだ来ていなかった。彼の席には、ノートと参考書、そして片方のイヤホンだけが丁寧に置かれていた。もう片方のイヤホンは、昨日のようにケースにしまわれていない。
アユミが首をかしげていると、タケシくんが息を切らして駆け込んできた。
「ごめん!ちょっと遅れた!」
彼は席に着くと、少し緊張した面持ちで、持っていたもう片方のイヤホンを、何も言わずに、アユミに向かって差し出した。
「これ……?」アユミは尋ねた。
タケシくんは、耳まで赤くして、机の上の参考書を見つめたまま言った。
「昨日、嘘ついた。予備じゃない。誰かに、いつか、貸すために空けてあるんだ」
「誰かに、って?」
「その……あの、俺、一人で音楽聞くの、あんまり好きじゃなくて。本当は、二人で聞きたいんだけど、俺、誘い方がわかんなくて」
タケシくんは、震える声で続けた。
「だから、図書館で、俺が集中して勉強してるとき、誰かが、こっそり隣に来て、黙ってこのイヤホンを耳に入れてくれないかなって、ずっと待ってたんだ」
アユミは、タケシくんの純粋で不器用な思いに胸が熱くなった。彼が毎日、勇気を出して片方のイヤホンを空けて座っていたのだ。
アユミは微笑み、タケシくんの手からそっとイヤホンを受け取った。そして、自分の右耳に優しく差し込んだ。
流れてきたのは、古い邦楽のラブソングだった。小さな音量だが、二人の耳元で、同じメロディが響き始めた。
タケシくんは、アユミがイヤホンをつけたことに気づくと、一瞬だけアユミを見て、すぐに照れくさそうに参考書に目を落とした。
その日、二人は一言も会話をしなかった。しかし、二人の間には、一本のコードと、一つの音楽という、誰にも破れない静かで特別な繋がりが生まれた。
そして、タケシくんは、誰にも誘われなかった「片道のイヤホン」が、ついに目的地を見つけたことを、小さく心の中で喜んだ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる