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第30話 お城にて…大樹の場合

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俺の名前は 柏原大樹

この世界に勇者として召喚された存在だ。

やはり選ばれた存在は違うな、異世界人はこの世界では特別扱いだが…『勇者』はその中でも扱いは別格だ。

俺がいう事は何でも叶えて貰える。

部屋も王族の使うような立派な物に代えて貰い、調度品も良い物に代えて貰った。

うん、これが俺には相応しい。

今の所、俺の力は上級騎士にも届かない。

だが、勇者のジョブがある以上そんなのは気にならない。

塔子は可笑しいと言うが『気になんてする必要は無い』

大体、幾ら勇者だって最初から強いわけじゃない。

だが、そこはこれから『目覚める』のだと思う。

ジョブの力に目覚めたら恐らくは誰もが驚く力になる筈だ。

実際に騎士の一人に聞いてみたら…

「勇者様の場合は、ジョブが違います、すぐに我々の上にいきますよ」

「そうか」

心配はないようだ。

更に話をしていくと、勇者は光の属性の最高の剣技『光の翼』という技が身につくらしく、これは勇者にしか使えないそうだ。

だから弱いのは今だけだ。

しばらくしたら超人の様に強くなる。

何も気にする必要は無いな。

女だって俺は勇者なんだ幾らでも選び放題の筈…

だが、幾ら口説いてもメイドすら口説けない。

貴族の縁談話しも来ない。

これは凄く可笑しな気がする。

無理やり言い寄ったら…辞職して辞めていった。

本当に可笑しいな…騎士の話では『勇者はモテる』そうだ。

「万人に愛され誰からも慕われる」それが勇者様なのです。

そう聞いていたのにメイド1人口説けない。

しかもライア王女に貴族の娘との話をしたらお茶を濁された。

勿論、ライアも口説けない。

これの何処が『万人に愛される』だ…可笑しいだろう。

まぁ良い…勇者の力に目覚めたら、きっとすべてが手に入る。

その時までの我慢だ。

◆◆◆

「ライアよ…それは誠か?」

「…はい」

お父様は頭を抱えている。

これは私達王族にのみ伝わる話だが『勇者は魅了』という見えないスキルを持っている。

その為『勇者にレイプ要らず』そんな言い伝えがある。

勇者は基本的に嫌われない。

これは『勇者は世界を救う存在』そんな勇者に協力をしない存在が居たら困る。

そういう事から女神が与えたスキルだと言われている。

勇者がほほ笑むだけで好印象になり、話しをすればする程、勇者に惹かれる。

まして勇者が好意を持ち『愛を囁いたら』王家に連なる人間以外は間違いなく恋に落ちる。

だが勇者が間違った行動を犯すと不味いから王家にのみ、その防ぎ方が伝わっている。

その魅了のせいで『勇者はレイプ要らず』になる。

例え相思相愛の夫がいようが恋人が居ようが、勇者に愛を囁かれるなら、やがて夫や恋人から心は離れ勇者の物となる。

また、今までの勇者の殆どは人格者なのでそんな事は起きなかったが…勇者が女を犯したら無条件で勇者を好きになる。

これは過去に数件あった事件から解った事だ。

実際に自分の妻が犯されている最中に止めに入った主人を勇者が殺した。
その状態で妻だった女は勇者との情事を続け。

終わった後には夫を罵り勇者の物に自らなった。

そんな筈なのに。

「メイドを辞めたいですって!」

「はい、私には婚約者がいます…それなのに勇者様に口説かれて困っています、なので辞めさせて下さい」

そんな…あり得ない。

メイドにすら魅了がかかっていないなんて…

すぐ傍でお世話するメイドは確実に『魅了』が掛かる筈です。

それが掛かっていない…

しかも貴族の令嬢達からの評価が低く、勇者にしては能力が低いという情報が流れたせいか…近づいてきません。

本当なら何もしなくても好かれる筈なのに。

『困ったわ』

本当にあれは勇者なのでしょうか?

私には最早価値がある人間には思えません。

「まさか、魅了すら持っていない勇者とは…最早、何がなんだか解らぬな…ライア、お前のせいではない、もう下がって良いぞ」

「はい…」

最悪『勇者の斬り捨て』それも考えないといけませんね。


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