8 / 85
第8話 【閑話】地獄
しおりを挟む小さい頃は凄く幸せだった。
両親にも愛され、いつも笑っていた記憶があるよ。
エリスお嬢様や奥様は何時も意地悪だけど…皆が庇ってくれるからそんなに気にならなかった。
使用人だから仕事は有るけど、自由な時間は散歩をしたり、美味しいお菓子を他の使用人の子がくれたり、うん、凄く『幸せ』だったな。
「この子程、可愛らしい子は見たことが無い」
「※※※ちゃん、大きくなったら僕と結婚してくれる?」
そんな話ばかり。
私は子供だから、そんな将来の事なんて解らないよ。
「うん、そうね!大きくなったらもう一度言って、その時に答えるから!」
そう言うのが精いっぱいだった。
だって本当に子供だし『恋愛』なんて解らないもん。
ある日の事エリスお嬢様の6歳の誕生日、沢山の貴族の子がお祝いに来ていた。
貴族の誕生日会なんて使用人の娘の私には関係ない。
ただ、裏方でお手伝いをする、それだけの事です。
だが、この日は違っていました。
裏庭でお手伝いに走っている私の先にリューク様が居たのです。
「待ちたまえ!」
「はい、何でしょう?」
「君は凄く美しい! 名前を聞かせて欲しい!」
「※※※です、リューク様」
「そうかい? ※※※っていう名前なんだね、綺麗な君に良く似合う素敵な名前だ! 良かったら、そうだ今度僕のお茶会に来ないかい?」
「お戯れを…失礼しますね!」
幾ら子供でもこれが冗談なのは解ります。
何かトラブルに巻き込まれるといけないから、直ぐにその場を後にしました。
リューク様は『貴公子』と呼ばれる貴族の女の子の憧れの存在です。
見た目も美しく、頭脳明晰で更に子供なのにもう騎士と一緒に剣の練習までしているそうです。
憧れが無いと言えば嘘になります。
ですが、リューク様はエリスお嬢様の思い人。
巻き込まれるといけないから『近づかない』この選択しか私にはありません。
幾ら、憧れの『貴公子』でも貴族の子息。
平民の私には縁が無い方です。
『関わらない』
それが使用人の私には一番です。
◆◆◆
「ちょっと、※※※ふざけないでよ、使用人の癖にリューク様に色目を使うなんて、何様なの?」
「私、色目なんて使っていません!」
「それじゃこれは何かしら?」
エリスお嬢様が手に持っていたのは『リューク様のお茶会の招待状』でした。
「私は、何も知りませんし、何もしていません!」
「そうかしら? それじゃなんで、私にお茶会の招待状が送られてこないで、貴方に送られてくるのかしら?」
「それは…」
「お母さま、※※※が私のリューク様を好きなのを知って色目をつかって…酷いわ、ヒクッグスッ」
ウソ泣きなのは解っていますが、私は使用人だから、それを指摘できません。
「まぁ良いわ、覚えておきなさい!ふんっ!主人に恥をかかせるなんて、酷い使用人ね、屋敷から出て行きなさい!」
「奥様、お許しください」
「お嬢様、お許し下さい」
両親が間に入ってその場はなんとか収まりました。
私が別にリューク様に何かしたわけじゃ無いのに…
ですが、この事件が起きてから私は今まで以上に意地悪をされる様になったのです。
◆◆◆
8歳になった時、私は自分の胸に違和感を覚えました。
胸が何となく大きくなり、違和感を覚える様になったのです。
母に話を聞くと母も同じような経験をしたそうで、直ぐに奥様にお話をして下さいました。
「そう? それは仕方ないわね! 近くの教会に話をしておきますから、其処に通いなさい! よい? サボるのは許しませんから、他の教会にはいかせませんからね」
「はい」
教会にその足で行き『貧乳薬』を貰いました。
これで、もう大丈夫…この時の私は、何も知らずにそう思っていたのです。
それが可笑しいのです。
私の胸の成長が止まりません。
体は丸みを帯びてきて…ブサイクの象徴の胸がぷっくりしてきました。
もう見た目も誤魔化せない位に私の胸は大きくなってきました。
「なんだ、あの胸、顔が可愛いだけあって残念だな」
「俺※※※の事好きだったけど、あんな胸じゃ…気持ち悪いよな」
「あれなら、ブサイクで胸が無い女の子の方がまだいいよね」
「一気に※※※負け組じゃん、可愛そう!」
もう私は女として終わっています。
服の上からでもはっきりと解かる位、胸の大きさが解るようになりました。
『怖い』
多分、人として見られる、ギリギリの大きさです。
此処からもう少し大きくなったら『化け乳』扱いされます。
そうなったらもう、女として所か人間として終わってしまいます。
「助けて下さい」
「奥様、娘を娘を助けて下さい」
「お願いします」
「仕方ないですね!使えない子ですが、司祭に話して『貧乳魔法』を使って貰います!はぁ金貨が飛びますが、我が家から『化け乳』がでるよりマシです、本当に面倒くさい子ね」
「ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
これが、両親が私を『人として扱ってくれた最後』でした。
◆◆◆
私の胸は魔法を使っても成長が止まりませんでした。
「なんで此処に居るのかしら? あれ『化け乳』でしょう」
「本当に視界に入るなよ、気持ち悪い」
「気持ち悪いんだよ! あっちに行けよ…」
「ご、ごめんなさい…」
私のせいじゃない、私だって好きで胸が大きくなったんじゃないのに…
皆、酷い…可愛いって、言ってくれたのに…貴方なんて結婚したいって言ってくれたよね?胸が大きくなっただけでこれなの?
それなのに、まだまだ私の胸はは大きくなっていきます。
最近はお父さんやお母さんも、碌に口を聞いてくれません。
だけど、もう相談できるのはお父さんとお母さんしか居ませんでした。
「お父さん、お母さん怖いよ…胸が胸がどんどん大きくなっていくの…怖いよ」
「気持ち悪いんだよ『化け乳女』」
「貴方なんて私の子じゃないわ」
「そんな、お父さん、お母さん、助けてよ」
「「娘だと思ってくれるな(わないでちょうだい)」」
私にはもう味方は誰もいない。
それがこの時解りました。
私は『化け乳』だから…
それからの毎日は酷い物でした。
私には何をしても許される。
それが解るとエリスお嬢様だけでなく、使用人の皆も私に意地悪をし始めました。
最初は、食事が無かったり、メイド服が破かれていたり…足を引っかけられた程度でしたが、日に日にエスカレートしていきます。
酷いときにはいきなりお腹を殴られたりと本当に酷かったです。
この日もいきなりビンタされて、囲まれました。
「やめて、やめて…お願い」
「煩いな、豚女、そんな醜い胸ぶら下げて気持ち悪いんだよ…」
「俺、お前ならまだオークの方が良いよ」
「言えているな、誰か、この女とやれる奴いる?」
「気持ち悪くて吐くから無理だな」
泣くのを我慢して私が黙って立ち去ろうとすると…
「お前なに逃げようとしているんだよ?」
「お仕置きが必要だな」
「そうね…」
「いや、いやいやぁぁぁー-痛い、痛い、痛いよ止めてよー-っ」
流石に本気では無いのかもしれない…
だけど、皆なして、殴ったり、蹴ったり…痛い、痛いよ。
「此奴、鼻血をだしてるぜ」
「唯一真面な顔がこれじゃ、もうゴブリンの方が良くない?」
「確かにオークのメスの方がマシかもな!」
「鼻血にお鼻水出して、顔も少し腫れてきたな…キモイから行くぞ」
「そうね」
「ううっううっ….うわぁぁぁぁー――ん、私だって、好きでこんな体になったわけじゃ無いのに…なんで、なんでよー――っ」
幾ら泣いても、この地獄は終わらない…だけど、だけど涙が止まらない。
◆◆◆
私は『化け乳』…
『化け乳』醜い胸の気持ち悪い女。
もう、そう諦めて生きていくしかない。
人生を諦めて生きていく、ようやく諦めがつきました。
そんなある日の事です。
前からエリスお嬢様が歩いてきます。
その横にはリューク様がいました。
私が隠れたかったですがこの廊下は一本道。
逃げ場はありません。
私は顔を伏せ立ち止まり、過ぎ去っていくのを待ちました。
「待ちなさい※※※、その胸凄いわね…本当に気持ち悪いわ『化け乳』になったのね」
「嘘、この胸が化け乳か?本当に気持ち悪いね、これ本当に人間の胸なのかい?」
「凄いでしょう…これ本当に胸なのよ」
「服の下はどうなっているんだろう?」
「直接見たら良いじゃない? ※※※リューク様がその醜い胸を見たいそうよ!めくって見せなさい!」
「嫌です」
「貴方はもう使用人以下なのよ?断る権利は無いわ!豚や家畜と同じ、そうよ服を着ているのが可笑しいのよ!脱ぎなさい!」
「嫌です」
「その服は、家が貴方に貸しているの? それなら返しなさいよ!」
「嫌、嫌です、許して下さい」
「駄目よ!良い所にきたわね!皆さんこの『化け乳』を押さえつけて服を脱がしなさい! 家畜以下の人間が服を着ているのは可笑しいわ」
「「「「「はい、お嬢様」」」」」
「嫌ぁ嫌ぁいやぁぁぁぁぁー――っ」
私がどんなに泣いても喚いても誰も止めてはくれません。
結局私は服を引き千切られて『胸を晒す』事になりました。
「うわぁぁ!気持ち悪いよ、見るんじゃなかった気持ち悪い!こんな脂肪がついているのかい? まるでオークの胸みたいだ…吐き気がする!エリス、もう良い、行こう」
「はいリューク様」
耳元でエリスお嬢様が小さな声で私に言いました。
《調子にのるからこうなるのよ!もう誰も貴方なんて愛さない》
これで解ってしまった。
私は罠に掛かっていたのです。
「この気持ち悪い『化け乳女』は今日から家畜番にします!豚小屋で生活させて館に一歩も入るのも許さない…徹底しなさい」
「待って皆、私騙されていたの…だれか助けて」
なんで、皆、目を伏せるの…
「あははははっ馬鹿ね、此処は私の家なのよ? 貴方を化け乳にする為に私がした事なんて皆知っているわ!皆、喜んで手を貸してくれたわ」
「そんな…」
「ねぇ、デューク、貴方この化け乳気にいっていたわよね? 欲しければあげるわ…要る?」
「馬鹿言うなよ、気持ち悪い、こんな化け乳女見るのも汚らわしい! 行くよエリス…もう視界にも入れたくない」
「そうね…あはははははっ女性に優しい『貴公子』のデューク様でも気持ち悪いって!※※※、貴方は今日から豚と同じよ、豚…あははははっ、じゃあね化け乳の子豚ちゃん」
「いやぁぁぁぁぁー―――っ」
私の地獄が始まった。
35
あなたにおすすめの小説
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる