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第12話 勘違い
しおりを挟む結局、宿屋のギリギリの時間までいたして、ドタバタしながらチェックアウト。
そして、今はスラムにあるアカネの小屋に戻ってきた。
夢の時間が終わり、現実の時間に引き戻される。
俺は只のホームレス。
そして、アカネは娼婦。
アカネの事が愛おしくて仕方が無い。
だけど、俺はスラムのホームレス……養えるかと言えば難しい。
本当に最後まで締まらない。
「アカネ、はいこれプレゼント……」
アカネの為に買っていたネックレスを取り出すと俺はアカネの首にかけてあげた。
「ハンス、これ私にくれるの?」
「うん、アカネに似合うと思って買ってきたんだ……どう?」
「嬉しい……私誰からもプレゼントなんて貰った事無い……ハンスありがとう!」
夢が解ける時間が来た。
此処からは……もういつもの日常に戻る瞬間だ。
「どういたしまして……そしてさようなら……」
チクショウ。
俺はなんでこの世界に来てすぐに努力をしなかったんだ。
『アカネが他の男に抱かれる姿なんて考えたくも無い』
だが、アカネは生きる為にそれをしなくちゃ生きていけない。
『俺はアカネが大好きだ』
だけど、収入が無い俺にはアカネを繋ぎ止める事は出来ない。
今の俺は正真正銘のホームレスだから。
「あのさぁ、ハンス! さよならってなに?」
「今の俺には……アカネを養う力が無いから……」
アカネの顔が曇った気がする。
綺麗な大きな黒い目に涙が溜まりだした。
「いやだよぉーーっ! 私ハンスと別れたくない!」
「だけど……俺にはアカネを養う力が無い」
「ううっ、ううっぐすんっ……だったら私、これからも体売るから、娼婦続けるから……本当はハンス以外とするの嫌だけど、ちゃんと稼ぐから『さよなら』なんて言わないでよ……おねがい、私ハンスの為ならなんでもするよ! だからさよならなんて言わないでよ」
「俺だってアカネが好きだよ……だけど……」
俺だってアカネが好きだ。
傍に居たい。
だけど『大好きなアカネが他の男に抱かれる姿』なんて見たくない。
俺がそう考えていると……
アカネが服を脱ぎだした。
「ほら!? ハンス、私の胸好きでしょう? お尻だって好きだよね! 今からでもしよう……私、ハンスがして欲しい事なんでもするよ? ねっねっ、ハンスがしたい事なんでもして良いからね! だから、さよならなんて言わないでよ! 私の事……私の事捨てないでよ……ヒクグスッお願い、お願いだから……ねっねっ」
アカネの涙が頬を伝わり地面に落ちた。
そして何も纏っていないアカネが俺に抱き着いてきた。
今の俺じゃアカネを幸せに出来ないかも知れない。
だけど、好きな子が此処まで言ってくれるんだ。
腹を括れば良い。
死ぬ程頑張れば良い。
「俺もアカネが大好きだ……愛している! ずうっと傍に居て欲しい! 他の男になんて抱かせたくない! だから娼婦をやめて俺の傍に居て欲しい! だけど、お金が無いんだ……今は本当にお金が無い! だけど頑張って稼ぐから、今すぐは幸せに出来ないけど、いつか必ず幸せにするから……俺の……俺の恋人になって下さいっ!」
無責任な言葉。
今は何も持ってないただのホームレスのガキ。
それでもアカネは傍にいてくれるんだ。
『嬉しい』
「ハンス、私も大好き! 私ハンスの恋人になる......ううんならせて下さい。ハンス貧乏だって良いんだよ! お金が無くても、ご飯が食べられなくても、大好きなハンスが居れば『私幸せ』だよ! だってハンスは私を愛してくれた唯一の人だもん! だから、もうさよならなんて言わないでね! もしハンスが居なくなったら私生きていけないから……グスッお願い……」
「解ったよ! 俺はもうアカネから離れない! 今は貧乏だけど、必ず幸せにするからね……一生傍に居て下さい」
「うん、私もうハンスから離れないからね、うんぐっぷはぁっ」
アカネは俺を押し倒して濃厚なキスをしてきた。
さっき迄やっていたと言うのに体は正直だ。
大好きなアカネに裸で押したおされて我慢できるわけもなく……
外に声が漏れるのも気にしないで俺はアカネを受け入れ抱いた。
◆◆◆
気がつくともう夕方だ。
俺はスヤスヤと眠っているアカネに腕枕をしている。
今日はもう、このままイチャイチャして明日から頑張ろう。
だけど、お腹空いたな。
アカネを起こさないように腕を抜きベッドから起きた。
アイテム収納の中にあるのは、焼いたザリガニと同じく焼いたハトが数羽しかない。
沢山あるのはザリガニだ。
勿論、頭は落としてハサミや足をもいであり尻尾の部分だけ。
見た感じは小ぶりなロブスターかエビだ。
俺はアイテム収納からザリガニを取り出した。
塩焼きだけじゃ物足りないので、少し残ったスパイスを振りかける。
「アカネ、ほら食事にしよう……」
アカネを揺すって起こした。
「う~んハンス、おはよう……あはははってそんな時間じゃないね」
「もう、夕方だからね」
なんでだろう?
アカネがザリガニを見て、変な顔をしている。
「あの……ハンス。そこに美味しそうな料理が見えるのは気のせいなのかな?」
「うん、だから食事にしようって言ったじゃない?」
なんでアカネは考え込んでいるんだ?
「あのさぁ、さっきハンスは『俺にはアカネを養う力が無い』って言ったよね?」
なんでだろう? アカネが少し怒っている気がする。
「言ったけど? どうしたの?」
怒っていたかと思うと急に呆れたような顔になった。
「あのさぁ、ハンスはずうっと私に食事をくれるじゃない? スラムだったらどれもご馳走だよ! 此処スラムじゃ1日1食、2食食べているのはそこそこ稼ぎがある人なんだからね! それもこんなご馳走じゃないよ!」
「そうなんだ……」
「ハンスが『俺にはアカネを養う力が無い』なんて言うから、これからしばらくは真面に食事なんて出来ない……そう覚悟したんだよ? ハンスと一緒なら何日も水だけの生活で良い。そこまで覚悟したの!」
「そう?」
「うん、それなのにまたこんな美味しそうなご馳走が出されているんだけど……」
只のザリガニ。
街から外に行けば山ほどいる。
「あの、凄く聞きづらいんだけど、俺が渡した食事ってアカネにとってご馳走なの?」
「うん! だって此処スラムだよ? 毎日食事がとれる事位じたい少ないんだから。酷い時は3日間位食事にありつけない時も普通にあるよ。 それもまずいお粥とか……あの鳥や魚みたいな美味しいご馳走なんて贅沢な食事になるよ」
カラスやハト、鯉に鮒。
これなら幾らでも捕まえられる。
「そうなんだ、こんな物で良ければいつもお腹一杯食べさせてあげるよ!」
「本当に!? だけど、ハンスって嘘つきなんだぁ! こんなご馳走を毎日食べられるなら、お金は無いのかもしれないけど貧乏じゃないと思う……多分、スラムの他の女の子が見たら羨ましがるくらいだと思うよ」」
確かに初めて会った時、アカネはお腹をすかせていた。
だからってこれで良いなんて思いたくない。
「そうかもしれない! だけど、俺はアカネにはもっと幸せになって貰いたいから頑張るよ」
「ええっ!? なに言っているのか解らないよ……だって私、傍にハンスが居るだけで幸せだもん!」
思わず顔が赤くなる。
「そうだね、俺もアカネが傍にいるだけで幸せだよ」
「ハンス……」
「アカネ……」
二人で見つめ合いどちらからともなく笑った。
「それじゃ食べようか?」
「うん」
守りたい相手が出来たんだ……明日からは本当に頑張ろう。
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