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勇者、幼馴染でも何でもあげる...だって君は勇者だから【勇者になりたくないセイル物語】

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僕は勇者に何かなりたくない。

平凡が一番だ。

この世で勇者程、不幸な人生は無い。

だから..勇者にだけはなりませんように、何時も祈っている。



僕の名前はセイル、辺境の村アイシアで猟師をしていた。

今はわけあって放浪の旅をしている。

恋人で幼馴染のユリアが聖女だった為に勇者にとられてしまった。

ユリアは昔の僕にとっては全てと言って過言では無かった。

だけど、「勇者から取り返す」そんな選択は無い。

勇者の過酷さ、運命、それを知っている僕には「そんな事は出来なかった」



僕は他の人と違い見えないスキル「神の寵愛」がある。

その為、転生すると大体が「勇者」になる。

本当に神が僕を愛してくれているなら「王子にでもして貰いたい」だが、そう願うと

(神は愛する者には試練を与えるのです..その先にある栄光を掴むために)

なんて声が聞こえてくる。

神に愛されるスキルだというが個人的には否定したい..いつも僕は不幸になるから。


僕が初めて勇者になった時だった。

僕は凄く浮かれていた。

だって、農夫の子供がいきなり「勇者」に選ばれたんだ。

今迄、馬鹿にしていた地主や領主までもが僕に跪くんだ。

そして、王や王女ですら僕には「殿」をつけて話す。

この時の聖女は、今迄手も届かないと思っていた、貴族のロザリーだった。

婚約者は、第二王子だったが「聖女」になった途端にその婚約が破棄された。

そして、今は僕の傍にいる。

第二王子とは相思相愛で仲が良い..そう聞いていたが..ロザリーは僕に夢中になっていった。


勇者が最初に出会うのは必ず「聖女」だ。

そして、聖女を迎えに行き王都にエスコートして連れて行くしきたりがあった。



ロザリーを迎えに行き、王都へ向かう途中だった。

山中で一泊する事になり野営の準備をした。

「私は聖女なのですから、勇者の傍に居るのは当たり前の事なのです」

そういって一緒に寝ようとしたロザリーに気恥ずかしさから

「離れたテントで寝るよ」

そう伝えて逃げるようにして別の場所にテントを張った。

ロザリーは凄い美少女だ..童貞で女の免疫のない僕には、一緒に寝る勇気が無かった。

騎士も6人居てロザリーを守っているから大丈夫だろう。



甘かった...

その夜、オークの群れが襲ってきた。

騎士達は殺され、ロザリーは連れ去られた。


すぐに気づいた僕はテントを飛び出した、20メートル先に連れさられていくロザリーを発見した。

「邪魔だ、死ね」

「ぶびぎいいいいっ」

「ぶぶぶぶぶっ..ぶぎー」


間には沢山のオークがいた、


殺して、殺して、殺しまくったが。

既に、ロザリーはオークの巣に連れ去られた後だった。


単身でオークの巣に乗り込み..とうとう深層までたどり着いた。

そこには、犯され..変わり果てたロザリーが居た。

もう冷たくなっていた...そして周りは同じ様に沢山の女が死んでいた。

「僕が..僕が一緒に寝ていれば..こんな事にはならなかった..ごめんよロザリー」

ロザリーは何も言わなかった..


ドガッ..強い衝撃を受け僕は壁に飛ばされた。

「うすぎたない..にんげんがなにをしている」


オークキング..僕が倒した中に居なかった、そしてその横にはオークジェネラルも2体居た。

いまの僕にとっては敵う敵では無いのかも知れない。

まだ、殆ど戦った事が無い「勇者」なのだから..

ここで、僕の物語は終わる、そう思った。

オークジェネラルに斬りつけると剣ごと首を跳ねた。

聖剣とただの剣の差だ、もし同じ剣なら僕の方が押されていた。

その返す剣でもう一体のジェネラルを斬りつけた。

「ぶぶぶぶぶ」

「うるせぇーよ..ブタは死んでいろ」


「おのれ、にんげんめ..よくも..やってくれたな」


「お前達が先にやったんだろうが! 俺の..」


「にんげん、たしかにおでたちは、おまえのつがいをころした..だが、ここまでするひつようはあるのか?」

「何を言っている?」

「われわれは..1り、ころされても、むらをおそったりしない..がまんする..だがにんげんは1り、しんだだけでみなごろしにするのか? ききたい..」


「教えてやる! その1人が大切な人なら、やる..死ね」

「そうか」


オークキングは強かった。

勝つには勝ったが、こん棒で殴られた肩は千切れていた。

足も片方は千切れている..死ぬのは時間の問題だ。



ごめんね、ロザリー..僕が君を拒ばなければこんな事にならなかった..

せめて一緒にいこう..僕ははいずっていきロザリーに覆い被さった。

「ヘルファイヤー..」

炎に包まれて僕の初めての「勇者」の物語は終わった。
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