王太子に婚約破棄されたら、王に嫁ぐことになった

七瀬ゆゆ

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王太子に婚約破棄されたら、王に嫁ぐことになった

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王宮で開催されている今宵の夜会は、この国の王太子であるアンデルセン・ヘリカルムと公爵令嬢であるシュワリナ・ルーデンベルグの結婚式の日取りが発表されるはずだった。

「シュワリナ!貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」

夜会が始まり、貴族達が集まり切った頃合いを見て、王太子であるアンデルセンが声を高らかに宣言した。
アンデルセンの腕には、桃色の髪にピンク色のドレスを着た令嬢が珊瑚色の目を潤ませ抱かれていた。

すごい真ピンク…とシュワリナは思いつつもそんなことを考えているとはみじんも感じさせない淑女の礼をし、王太子に向き合う。

「ごきげんよう、アンデルセン様。挨拶もなく、急に何のお話でしょう?」

私のエスコートもせずに。と続けたくなる気持ちを抑え、シュワリナは口元に笑みを携える。

「言葉通りの意味だ。常に傲慢な態度な貴様にはわからぬか?」

どうやら、挨拶もせずに不躾で教養がなってないようですわね。という嫌味は伝わらなかったようだ。傲慢な態度と婚約破棄の意味を理解できないことに、なんの繋がりがあるのかもわからない。

溜息をつきたい気持ちを抑え、シュワリナが答えようと口を開いたとたんに、アンデルセンの腕の中にいたピンクが口を開いた。

「アン様ぁ!シュワリナ様は、自分が婚約破棄されるなんて考えたことないからわからないんですよぉ。シュワリナ様お可哀そう…!!」

ピンクはアンデルセンの耳元に顔を寄せながら話す。が、いかんせん声が大きすぎてシュワリナだけでなく、周りで固唾をのんで見守っている貴族たちに筒抜けだ。
ピンクの表情を見る限り、わざとの様だが。

「傲慢なシュワリナらしいな、まったく。ジュリアと違い慎ましさが無いからわからんのだ。聞いておるのか?シュワリナ!」

アンデルセンがピンクの腰を抱き、にやにやといやらしい表情でシュワリナを見る。

ここは王宮の夜会であり、なおかつ今日は王太子とその婚約者の結婚式を発表するために国内の名だたる貴族が集まっている。準公式と言っても差し支えない場所だ。
シュワリナは投げ出したい気持ちを抑えつつも、笑みを崩さず答える。

「…聞こえておりますわ。婚約破棄、承りました。」
「なんだその態度は!わかっているのか、シュワリナ?貴様には慎ましさが足りんのだ!慎ましさが!だいたい、貴様は女のくせに婚約期間中も外遊やらなにならで遊び呆けおって!その間、余のことを癒してくれたのはジュリアだ!ジュリアは毎日、余に会いに来て、気にかけてくれて、体も心も余に尽くしてくれた!」

シュワリナの貼り付いた笑みを見たアンデルセンは、嫌味が全く通じていないことに腹を立て、鬼の形相でシュワリナに捲し立てる。
そんなことより、見事な浮気宣言だ。しかも、肉体関係ありの。

「…お言葉ですが、外遊はアンデルセン様の婚約者としての務めです。決して、遊んでいたわけではありません」
「シュワリナ。本当に貴様はかわいくない女だ。ジュリアを見習って、余を立てる言葉一つもかけられんのか」
「アン様、そんな本当のこと言ったらシュワリナ様がお可哀そうじゃないですかぁ!!」

アンデルセンはやれやれと憐れんだ眼差しで、ジュリアはにたりとこちらをあざけ笑った笑みを隠すこともなくこちらを見下げる。

「よいのだ、ジュリア。シュワリナが次に婚約するとき困ると思っての行動だ。こんな女でも臣下だからな。余の思いやりだ」
「アン様、優しすぎますぅ。ジュリア、アン様のこともっと好きになっちゃいそう」
「ジュリアは本当に愛いな!それに比べてシュワリナは、余に口答えばかりで全く躾がなっておらん…」
「ジュリア、うれしい。でも、アン様?シュワリナ様ばかりにかまわないでください!今日は二人の大切な日なんですから!」
「ああ、そうだったな」

ジュリアの膨らんだ頬を見て、アンデルセンがジュリアとつないだ手を高らかに頭上へ挙げる。

「我がアンデルセン・ヘリカルムとジュリア・ジーニア子爵令嬢との婚約を発表する!!!」

夜会会場にアンデルセンの声がこだまする。拍手を贈る者はいない。

「そうだ、結婚式の日取りは春の月の1日なんですぅ。シュワリナ様も来てくださいね!」

ジュリアがシュワリナに駆け寄りつつ話しかけてきた。
下位の家の者が許しもなく上位の家の者に話しかけるのはマナー違反だ。
今夜会でジュリアはアンデルセンとしか会話をしてこなかったため、アンデルセンが許していたのだろうと気に留めていなかったが、どうやら、ただの無礼者のようである。

「ちょっと、シュワリナ様!聞いてます?」

無視をするシュワリナに業を煮やしたのか、ジュリアがシュワリナの腕をつかもうとする。

「無礼者!!」

ジュリアの手を、シュワリナが扇で叩き落とす。

「いったあい!!」
「シュワリナ!ジュリアに何をする!」

ジュリアのもとにアンデルセンが駆け寄り、シュワリナから遠ざける。

「許可もなく触れようとした無礼者の手を叩き落としただけです」
「ジュリアは貴様とは違い天真爛漫なんだ!」
「ジュリア、シュワリナ様に結婚式に来てお祝いしてほしかっただけなんですぅ」
「天真爛漫とマナー違反は別ですわ。だいたい、私はそちらの方に話して良いと許可した覚えはございませんわ」
「本当に貴様は堅苦しい…だから、婚約を破棄したんだ」
「シュワリナ様!婚約破棄されてショックなのは、ジュリアわかります…でも、「だから、発言を許可した覚えはなくてよ?」
「シュワリナ!!!王太子の命令だ、ジュリアの発言を受け入れよ!」
「…承知いたしました。さて、殿下。先ほどから私のことをファーストネームで呼ばれておりますが、婚約は破棄されるのですから私のことはルーデンベルグ公爵令嬢と呼んでくださいませ」
「本当に貴様は口が減らない…」
「それと、結婚式へ向けて準備しておりましたドレスや各国へすでにお送りしている結婚式の招待状はいかがなさいますの?」
「余とジュリアの結婚式で使うに決まっておるだろう?何を言っておるのだ?そうだ、結婚後に王宮へ入れる予定であった家財道具なども一級品だっただろう?そのままジュリアが使おう」

結婚式が春の月1日と、もう2月後と迫っているので道理でおかしいと思ったのだ。王族の結婚式は1年以上かけて準備をする。この男、間女との結婚式にシュワリナが準備したものを使おうというのだ。

「承知いたしました。では、それらは嫁入り道具として公爵家が用意したものですので、代金を請求いたしますわ。そうね、合計金貨5万枚というところかしら?」

金貨5万枚。これは1年の国家予算に当たるほどの金額だ。王族の結婚、特に王太子の結婚ともなればかける金額が違う。

「はっ!本当にみみっちい女だ!そのくらい、気前よく祝いとして払ったらどうだ?」
「…殿下?本国における1年の国家予算がおいくらかご存じでしょうか?」
「そんなものは知らぬ!貴様がみみっちいのと何の関係があるんだ!」

シュワリナは絶句した。この国を背負っていこうという王太子が国家予算の金額も知らないのだ。シュワリナはこの王太子を敬うとかどうでもよくなってきた。

「そうですか…でしたら、殿下が払って差し上げればよいのではないでしょうか?」
「本当に、みみっちい…あいわかった!余が愛すべきジュリアへの祝いとして用意しよう!」
「アン様、ジュリアうれしい~!シュワリナ様、アン様との婚約破棄、最後の希望が簡単に潰えて残念でしたね?」
「ほほほ。とんでもない、婚約破棄はすでに承知しておりますもの。覆りませんわ」

正直、ここでトンデモ物件を押し付け返されても困る。おかしすぎてシュワリナは思わず笑ってしまった。シュワリナは早くこの話を終わらせたいだけだ。

「さて、殿下。婚約破棄と新たな婚約について、あとは陛下に許可をいただくだけです。ええと、そこの全身ピンクのご令嬢も陛下のところに参りましょう」
「ピンクのご令嬢だなんてひどい!」
「シュワリナ!「ルーデンベルグ公爵令嬢」…ルーデンベルグ公爵令嬢」
「はい、何でしょう?」
「何故、ジュリアのことを名前で呼ばない!?嫉妬か!?」
「いいえ。私、この方から名乗りを受けておりませんので、お名前を存じ上げませんの。あ、興味はございませんので名乗らなくて結構よ」
「ジュリアは!ジュリア・ジーニア子しゃ…ってどこいくのよ!」
「陛下のところよ」

シュワリナが夜会を開催するホールから出ようとすると中央にある大階段の上からシュワリナを呼びかける声がした。

「ルーデンベルグ公爵令嬢、わざわざ馳せ参ずる必要はない」
「陛下…!」

シュワリナは内心慌てて淑女の礼をする。シュワリナを起点に周りの貴族たちもはじかれたように皆頭を垂れた。

「よい。楽にせよ」

この国の王、オーギュスト・ヘリカルムがスッと手をあげる。

「叔父上!」

そう、オーギュストはアンデルセンの父親ではない。アンデルセンの父親である、先王は5年前、アンデルセンが10歳の時に馬車の事故で亡くなっている。その馬車には、アンデルセンも同乗しており、亡くなったと思われていた。そのため、当時王位継承権第2位であった先王の年の離れた弟であるオーギュストが齢16歳で王座に就いた。その後、アンデルセンが奇跡の生還を遂げたのだが、そのころにはオーギュストの戴冠式もすでに終わってしまっていたため、オーギュストが王、アンデルセンが王太子という今の少しイレギュラーな形となっている。

「アンデルセン、話は聞いていたぞ。ルーデンベルグ公爵令嬢との婚約破棄だな?」
「そうです、叔父上!」
「かまわぬ、好きにせよ」

シュワリナは、驚いた。シュワリナとアンデルセンの婚約は、ルーデンベルグ公爵家がアンデルセンの後ろ盾となるための婚約だった。先王夫妻が先立った今、アンデルセンの後ろ盾は無いに等しい。それを補うために、オーギュストがルーデンベルグ公爵家に頼み込み実現した婚約だったからだ。

「叔父上、ジュリア・ジーニア子爵令嬢との婚約も認めていただきたい。ジュリアは、余がつらい時にずっとそばで癒してくれた、余が王太子でなくても平民であったとしても構わないとまで言ってくれた、心の清らかな女性なのです!!」
「国王陛下!私からもお願いしますぅ!」
「かまわぬ、好きにせよ」

なんとも形容しがたい気持ちだ。肩の荷が降りたような、国の行く末に絶望するような、地に足が着かないふわふわとした気持ちだった。シュワリナは、それらを吐き出すかのように思わず口からほぅと息を吐きだした。

王宮の人々は、両親を失い、奇跡の生還を遂げたアンデルセンにことごとく甘い。これまで、シュワリナがアンデルセンの態度を改め、王族としてきちんとした振る舞いができるように教育を施すように王族付きの家庭教師に何度も報告書をまとめ進言をした。しかし、「殿下は、両親を失って傷ついておられる。そんな無体は強いられない」と暖簾に腕押しだった。また、これがアンデルセンを増長させた。

シュワリナは、アンデルセンとシュワリナが結婚した後、オーギュストは王位を退き、アンデルセンに王位を継承することをオーギュストから婚約時に聞いていた。しかし、このまま、この甘ったれなアンデルセンが王位についたら国が傾くことが目に見えていた。なにせ、国家予算の金額も知らない男である。これも婚約者の務めと、なんとか結婚までにアンデルセンが王族として振舞えるようにシュワリナは努力したが、まあ、婚約破棄をした今となっては、なんの関係もない話だ。

「さて、私からも話がある。皆も知っているように、私は先王の王弟であり、元々はアンデルセンよりも王位継承権が低い。そのため、アンデルセンが結婚をし、落ち着いたら王位を退き、アンデルセンに王位を継承しようと思っていた。それがあるべき元の姿だと」

うんうんとアンデルセンがうなずく。

「そう思い、私は結婚をし王妃を隣に携えることなく、今日日までを過ごしてきた。私に子があっては、王位継承の争いの種になるからな。しかし、今後の人生を共に歩んでいく伴侶を決められた相手ではなく、己の意思で選び抜いたアンデルセンを見て考えを改めた。私も伴侶を決めるべきなのだろうと」

オーギュストの言葉の意味が分からず、きょとんとした顔をしたアンデルセンは思考を巡らせ、とある解へとたどり着く。

「叔父上、私に王位を継承してくれるということですね!!!余の決断に感動したということですね!!!」

アンデルセンは声を弾ませ、オーギュストがいる大階段を上っていく。そんなアンデルセンを手で制し、オーギュストは大階段を下りていった。
オーギュストの顔が下のホールにいた貴族たちにもはっきりと見えてきた時、ジュリアが声をあげた。

「え!なんて素敵な方なの!!」

オーギュストはアンデルセンと同じく金髪碧眼の整った顔をしている。しかし、アンデルセンと比較すると王として酸いも甘いも嚙み分けた貫禄がにじみ出ている。いわゆるフェロモンというやつだろうか。それなのに、年齢はまだ21歳と若い。どちらがいい男かと聞かれたら、10人中10人がオーギュストと答えるであろう。

「国王陛下、私、ジュリアと申しますの…!」

思わずといった様子でジュリアがオーギュストに駆け寄る。花の蜜に誘われた虫のように。
オーギュストはちらりと目線だけジュリアのほうに向け、すぐさま控えていた近衛兵に目線を向けなおし、合図を送る。
合図を受け取った、近衛兵はジュリアを捕縛した。なにやら叫んでいるジュリアに目もくれることなく、オーギュストはシュワリナへとまっすぐ近づいてくる。

「シュワリナ・ルーデンベルグ公爵令嬢」
「陛下…?」

オーギュストがそっとシュワリナの手を取り、跪いた。

「私と結婚してくれ」

さすがのシュワリナも驚きのあまり表情を崩す。

「ルーデンベルグ公爵令嬢、君は、私の初恋だった。私は恥ずかしながら王になりたての時、先王が旅立って急に降って湧いた王という責務に押しつぶされそうになっていてね。そんなときにまだ10歳の君がアンデルセンの婚約者として堂々とした振る舞いで責務を全うしようとしている姿を見て己の胸を打たれたんだ。しかし、君はアンデルセンの婚約者だった。それに、この王座もアンデルセンに返すべきものだと私は思っていた…」
「まぁ…」
「だが、今日君はアンデルセンの婚約者ではなくなった。そして、今日のアンデルセンの振る舞いを見て確信したよ。アンデルセンに王としての責務は果たせそうにない、と。…もちろん、今までの君の報告書も読ませてもらった上での判断だよ。これまで決断できなかった私の弱さを君は笑うだろうけどね」
「そんな!とんでもございませんわ!陛下は不幸な事故で舞い込んできた王座に16歳という若さで就かれてからというもの、立派に務めを果たされていたではございませんか!」
「ありがとう。君は私を見てくれていたんだね…この返事は君の気持が落ち着いてからでいいよ。もちろん断ってくれてもかまわない」

オーギュストがシュワリナの手を取ったまま立ち上がる。

「オーギュスト・ヘリカルムの名において宣言する!アンデルセン・ヘリカルムを臣下へと下らせる。後見人は、ロッティ伯爵とする!アンデルセン、貴殿はアンデルセン・ロッティとして、ロッティ伯爵が持つ男爵位を名乗るが良い」
「お、叔父上…?」
「アンデルセン、お前に国王としての務めは到底果たせぬであろう。男爵として、余生を過ごしたほうがいい。これが叔父としてかけてやれる最後の情けだ。そうだろう、ロッティ伯爵?」

ロッティ伯爵は、シュワリナが何度もアンデルセンの教育を改めるように言っていた王族付きの家庭教師だ。ロッティ伯爵は、真っ青な顔をしつつ群衆からおずおずと出てきた。

「ロッティ伯爵。ルーデンベルグ公爵令嬢からの報告書が私の元まで上がってこなかったのはなぜだ?」

オーギュストは笑っているが目が笑っていないことは誰から見てもあきらかだった。心なしか気温も数度下がったように感じる。ロッティ伯爵は気の毒なほど震え、ハクハクと息を漏らし答えられずにいた。

「何もできないアンデルセンを操り人形として王座に座らせ、国を乗っ取ろうとしたことはわかっている。あとでゆっくりと話を聞こうじゃないか。近衛兵連れていけ」

ロッティ伯爵は一言も発しないまま近衛兵に連れていかれた。

「ちょっと待ってよ!!!!男爵ってなによ!子爵よりも下じゃない!!!!」

近衛兵に取り押さえられたままのジュリアが声を上げる。

「おや、君はアンデルセンに『王太子でなくても平民であったとしても構わない』と言ったそうじゃないか。男爵はだめなのかい?」
「そんなのおべっかに決まってるじゃない!!このおぼっちゃまから王太子を取ったら顔しか残らないじゃない!!!王太子じゃないなら婚約破棄よ!婚約破棄!!」
「ジュリア…!」

化けの皮がはがれたジュリアをアンデルセンが驚愕の目で見つめる。

「貴族の婚約は王が認めた場合しか破棄ができないのは知っているね、君たちの婚約破棄は王として認められないな。近衛兵、ロッティ伯爵家にこの二人をお送りするんだ、すみやかにね」
「いやああああああ!!!!私は、王太子妃になって王妃になるのよ!!!この国の国母になるの!!!!」

暴れていたジュリアは、早々に近衛兵に引きずられるように連行されていった。
アンデルセンは、大階段から転げるように降り、シュワリナに詰め寄る。

「シュワリナ!!!!!貴様は余が好きだろう!?余に一生尽くすと誓え!さすれば叔父上も考えを改めてくれよう!!!」
「殿…いえ、ロッティ男爵。……私の初恋は、オーギュスト陛下ですわ。そして、今、心にあるのも先王が亡くなられて国を立て直すために外遊をはじめとして、一緒に奔走したオーギュスト陛下です。ロッティ男爵を思ったことは一度もありません」
「そんな…」

アンデルセンは糸が切れたように、その場にうなだれてぶつぶつと呪文のように「余は王太子だ、王太子だ」とつぶやきだした。

「アンデルセン…私が叔父としてできることはもうこれ以上ない…近衛兵、ロッティ男爵を下がらせるんだ」

ジュリアの時と違い抵抗することもなく、アンデルセンは近衛兵に連れていかれた。

「陛下…発言をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「許可しよう。ルーデンベルグ公爵令嬢」
「陛下からの求婚、お受けしますわ。…陛下は私の初恋の人だもの。断る理由なんてありませんわ」

シュワリナは顔を真っ赤に染めつつ蚊の鳴くような声でオーギュストの手をそっと握り返した。

「ルーデンベルグ…いや、シュワリナ嬢!本当だな?夢じゃないんだな!?」

オーギュストはシュワリナを抱き寄せる。

「へ、陛下!ここは、公の場です…!落ち着きになられてくださいまし…!」

シュワリナは真っ赤を通り越してゆでだこのような顔色で令嬢らしからぬ大きな口を開けオーギュストを窘める。
オーギュストはハッと、シュワリナを離し、ごほんと咳払いを一つして襟元を正した。

「やはり、君以外、伴侶としては考えられないね」

シュワリナにしか聞こえない声でくしゃりと一瞬笑ったオーギュストは次の瞬間には王たる堂々とした顔つきになり、展開についていけなく成り行きを見守っている貴族たちに声をかけた。

「皆の者、騒がせてすまなかった。先ほどの騒動は忘れ、この夜会を楽しんでくれ」

オーギュストの言葉を皮切りにざわざわと夜会の空気が動き出した。

それから2ヵ月後の春の月1日、オーギュストとシュワリナの結婚式が国を挙げて開催された。
外国からの来賓も多く、大いににぎわい、国の歴史にも刻まれた。
その後、2人は3男3女に恵まれ、国を大きく繁栄させていった。

アンデルセンとジュリア?
これ以降、国のどの歴史にも刻まれることが無かったため、消息は不明だ。
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