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覚悟
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エイリークも協力する方向で話し合いが終わってもまだ踏ん切りがつかず、帰る前に少し話そうと思って二人で前庭に来た。少し離れたところではメイメイとジュスティも控えているが声までは届かない距離で、ライトン伯爵は外出してしまったのでエイリークも気兼ねなくただの友人としての気持ちを話せると思った。
「アレン様、まだ考えてないですか?」
「……え?」
「自分が王都に帰ればいいって、そうすれば解決するってそう思っちゃってませんか?」
「それは……!」
開放感のある場所で話したほうが話しやすいと思ったのにいざ話そうと思っても言葉が出ない。エイリークには傷つかないでほしい。でも貴族の自分から何か言えば気を使わせてしまうし、逆に強制させてしまうのではないかと思ったらどう言えばいいのか分からなくなってしまった。
そんなアレンシカの考えも性格も見透かしているのかエイリークは何でもないかのように言った。
「解決なんてしません。あれはもうよく分からない生物です。」
「生物……?」
「何を思って何をしたいのか意味が分からないんですもん。ああいうやつの近くにいたらまた傷つきます。一回離れて落ち着いてから誰かを通して話したっていいんです。そのほうがいい時もあります。」
「そうかな……?」
婚約関係やウィンノルのことを言っているのだろうが、曖昧な言い方にしつつも、エイリークがこうして不敬ギリギリのことを言うのは珍しかった。
「皆覚悟の上でアレン様をここに連れてきたんだと思います。だから安心して任されてください。」
「でも何かあった時、一番被害を負うのは……。」
「ええ、ボクは貴族じゃないです。でもその上でボクにもあるんですよ。覚悟。きっと皆と同じくらい。自分ではそれ以上だって思ってますけど。だからただでやられたりはしません。」
にこっと明るくアレンシカに笑いかける。
「アレン様、ボクが傷つくのは嫌はなんでしょう?」
「それはもちろん!エイリに何かあったら!」
「ボクだってアレン様に何かあるのは嫌なんです。大切な……友人ですから。」
エイリークはアレンシカを見て、それから自身の胸に拳を当てた。
「アレン様、アレンシカ様。ボクってすごく諦めが悪いみたいなんです。」
「え?」
「思ったより平民だからーっていろいろ制限をかけてたんですよねボク。」
「エイリが……。」
「最近だってそうやって落ち込んでばっかだったんですよ。」
いつも堂々としていて、勉強にも一生懸命で、物事をはっきり発言するエイリークがその裏でそんな葛藤があったのは知らなかった。自分とは違いいつでも明るく前向きでいるとアレンシカは思っていた。
「だけどボク、覚悟決めちゃいましたから。もう絶対に諦めないって。だから王子にだって負けません。最後まで足掻きます。」
エイリークがいつも話す時と同じように真っ直ぐにアレンシカを見つめている。
「見ててくださいね、アレンシカ様。」
力強く笑ったエイリークの顔は今までアレンシカが見たことのない笑みをしていた。
「エイリーク、ご飯食べるー?」
「向こうでお茶飲みすぎたから後で食うわ。」
「あらまあ、じゃあとっとくから後でちゃんと食べるのよ。」
貴族の屋敷なんかとは比べ物にならない小さな家に帰ってきた。扉を開ければすぐにテーブルがあり食卓には父と母と弟と妹。それがエイリークの家族だった。
そのまま二階に上がって静かな自室に入る。ずっと学園寮にいて使っていないからか掃除していてもどこか埃っぽい。
デスクの引き出しから薄緑色の手紙を出した。アレンシカに渡した手紙とは別のもの。学園関係のものは荷物になるからと置いてきた中唯一持ってきたもの、というよりは寮を出るときにプリムに無理やりポケットに入れられたもう一つの手紙だった。手紙はひとつだけではなかった。ただこれはエイリーク宛てだから出さなかった。こちらは封をされていないから簡単に中身を見ることが出来るその手紙を開くと、アレンシカ宛てと全く同じスタイルで、だが全く違う文面でただ一言。
覚悟は決まりましたか?
「……ああ、覚悟決めたよプリム。」
「アレン様、まだ考えてないですか?」
「……え?」
「自分が王都に帰ればいいって、そうすれば解決するってそう思っちゃってませんか?」
「それは……!」
開放感のある場所で話したほうが話しやすいと思ったのにいざ話そうと思っても言葉が出ない。エイリークには傷つかないでほしい。でも貴族の自分から何か言えば気を使わせてしまうし、逆に強制させてしまうのではないかと思ったらどう言えばいいのか分からなくなってしまった。
そんなアレンシカの考えも性格も見透かしているのかエイリークは何でもないかのように言った。
「解決なんてしません。あれはもうよく分からない生物です。」
「生物……?」
「何を思って何をしたいのか意味が分からないんですもん。ああいうやつの近くにいたらまた傷つきます。一回離れて落ち着いてから誰かを通して話したっていいんです。そのほうがいい時もあります。」
「そうかな……?」
婚約関係やウィンノルのことを言っているのだろうが、曖昧な言い方にしつつも、エイリークがこうして不敬ギリギリのことを言うのは珍しかった。
「皆覚悟の上でアレン様をここに連れてきたんだと思います。だから安心して任されてください。」
「でも何かあった時、一番被害を負うのは……。」
「ええ、ボクは貴族じゃないです。でもその上でボクにもあるんですよ。覚悟。きっと皆と同じくらい。自分ではそれ以上だって思ってますけど。だからただでやられたりはしません。」
にこっと明るくアレンシカに笑いかける。
「アレン様、ボクが傷つくのは嫌はなんでしょう?」
「それはもちろん!エイリに何かあったら!」
「ボクだってアレン様に何かあるのは嫌なんです。大切な……友人ですから。」
エイリークはアレンシカを見て、それから自身の胸に拳を当てた。
「アレン様、アレンシカ様。ボクってすごく諦めが悪いみたいなんです。」
「え?」
「思ったより平民だからーっていろいろ制限をかけてたんですよねボク。」
「エイリが……。」
「最近だってそうやって落ち込んでばっかだったんですよ。」
いつも堂々としていて、勉強にも一生懸命で、物事をはっきり発言するエイリークがその裏でそんな葛藤があったのは知らなかった。自分とは違いいつでも明るく前向きでいるとアレンシカは思っていた。
「だけどボク、覚悟決めちゃいましたから。もう絶対に諦めないって。だから王子にだって負けません。最後まで足掻きます。」
エイリークがいつも話す時と同じように真っ直ぐにアレンシカを見つめている。
「見ててくださいね、アレンシカ様。」
力強く笑ったエイリークの顔は今までアレンシカが見たことのない笑みをしていた。
「エイリーク、ご飯食べるー?」
「向こうでお茶飲みすぎたから後で食うわ。」
「あらまあ、じゃあとっとくから後でちゃんと食べるのよ。」
貴族の屋敷なんかとは比べ物にならない小さな家に帰ってきた。扉を開ければすぐにテーブルがあり食卓には父と母と弟と妹。それがエイリークの家族だった。
そのまま二階に上がって静かな自室に入る。ずっと学園寮にいて使っていないからか掃除していてもどこか埃っぽい。
デスクの引き出しから薄緑色の手紙を出した。アレンシカに渡した手紙とは別のもの。学園関係のものは荷物になるからと置いてきた中唯一持ってきたもの、というよりは寮を出るときにプリムに無理やりポケットに入れられたもう一つの手紙だった。手紙はひとつだけではなかった。ただこれはエイリーク宛てだから出さなかった。こちらは封をされていないから簡単に中身を見ることが出来るその手紙を開くと、アレンシカ宛てと全く同じスタイルで、だが全く違う文面でただ一言。
覚悟は決まりましたか?
「……ああ、覚悟決めたよプリム。」
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