天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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階段

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テストの順位が発表されてアレンシカがウィンノルに傷つけられたあの日、泣き崩れて力の入らないアレンシカが公爵家の馬車に乗って帰って遠ざかっていくのを寮の窓から見ていた。

「エイリーク君。」

窓にべったり張り付いて外を見ていたプリムはふいに自分を呼んだ。部屋へ続く階段なんて誰に見られるか分からないんだからみっともない真似はやめろと何度言っても黙って動かなかったのに。

「私はねー、ああいうやつ許せないんです。」

「それは……ボクだってそうだよ。」

「本当に本当に許せないんですよ。」

窓に張り付いているからプリムの表情はエイリークからは見えない。言葉は淡々としており、いつもらしくはある。

「どれだけ傷つけてるのか、全然分かってないんですかねー。分かってやってるなら最悪ですけどー。」

いつのまにかアレンシカの従者に収まっていたプリム。なんでそこまでアレンシカに懐いたのかエイリークには分からない。プリムはちゃらんぽらんに見えて色々と隠してきていたのかわかりづらい。しかしその日頃の友人として接してきてプリムが何を考えているのか分かってきてしまっている。
つまり今、プリムは友達の置かれている状況にとても怒っている。

「私ーあんな人がアレンシカ様と結婚するの嫌です。」

「……うん。」

「だって私、アレンシカ様の従者ですもん。そしたらあの人にも従ったりしないとかもしれないんですもん。すっごくすーごく嫌なんです。」

「ちょっと、誰が聞いてるか分からないんだから、あんまり不敬なこと言ってると……。」

今の時間はまだ寮生は帰ってきていないから誰もいないとはいえ、あまりいい行いではない。距離はあるけど管理室には人もいる。

「ふんっ、別にいいんですよー。大切なお友達を傷つける人なんですからー。」

「アンタが子爵家の人間でも相手は王族でしょ。雲の上の人間だよ。あんま言ってると何されるか……。」

思わず腕をさすっているといつの間にかさっきまで窓の外を見ていたプリムがエイリークを見ていた。その顔はどこか仏頂面だった。

「いつものエイリーク君はどうしたんですか。弱気すぎますよ。」

「ボク平民だよ。すっごい力のない平民。本来はアンタよりも無力なの。そりゃ少しくらい弱気になるでしょ。」

「そうですかねー。いつものエイリーク君ならちょっとくらいガツンって。」

「それってアンタにだけじゃない?」

「そーでもないですよー。」

しかしムスッとした顔も一瞬で、次に瞬きした時にはもういつものような飄々とした何でもないような顔だった。

「私はね、エイリーク君。決めちゃったんですよ。」

「何を?」

「アレンシカ様の婚約の解消。」

「……はあ!?」

いつも何を考えているのかよくわからない人だけど、今回は随分と大それたことを言い出す。

「何言ってんの?!いくら従者だからってそんなこと出来る訳ないでしょ!」

「じゃあエイリーク君はこのままでいいんですか?」

「でも!」

「みんなで協力すれば出来るかもしれないじゃないですか。」

「……相手は王家でしょ、きっと公爵家でもどうにも出来ないからこんなことになってるんじゃないの。」

「私は大切な友達がずっと傷付くって分かってるのに何もしないのは嫌なんです。アレンシカ様がずっと泣くのは見たくないです。」

エイリークの頭には先程までのアレンシカの様子がこびりついて離れない。自分達が駆けつけた時には大勢の前で責められて崩れ落ちていたアレンシカ。何度声をかけても涙を流しながら呆然としてこちらを一切見ることはなかった。あんなにつらそうなアレンシカは見たくない。その気持ちはエイリークだって同じ。
それなのにどこか自分が平民であるということが心に鍵をかけている。

「エイリーク君、エイリーク君は頑張り屋さんだからどうにかなるんじゃないかって信じてるんですよ。だってその為にずっとずっと頑張ってきたんでしょー?」

「それは……、」

「私はねーエイリーク君。自分で決めるってことを大切にしてるんです。」

プリムはトントンと楽しげでも一歩一歩しっかりとした足取りで軽やかに階段を駆け上がる。
くるりと振り返りエイリークを見下ろす。その顔はいつも通りのプリム、しかし強気で決意に満ち溢れた力強い目をしていた。

「エイリーク君、私は覚悟しました。エイリーク君は?」

「……何、を。」

プリムは真っ直ぐにエイリークを見据えた。


「アレンシカ様を好きなんでしょう?」
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