86 / 154
焚き火
レイシーラに来て数日。ここまで特に音沙汰はなく、さすがに休みが開けても学園へ戻ることは遅れそうだと踏んできた。
ずっと家にいても息が詰まってしまうよと言われ、よく出かけてはいるので暇に感じることはまったくなく、むしろこの自然豊かなレイシーラ領が好きになった。
王都にいては体験ができないことばかりだ。
「今日は夏芋を焼こうかなと。」
「でも今は落ち葉もあまりありませんよ?」
「大丈夫、これを使います。」
それはここ数日でたまったノートだった。勉強を遅らせる訳にもいかず勉強はしているのでノートを町で買って使っているが、ノートはアレンシカの直筆の文字がギッシリ書かれていて証拠の宝庫。アレンシカがここにいたことはバレてしまう。荷物にもなるので持っていけないとなると早々に処分してしまうことにしている。
屋敷の裏手には湖へ続く道があり、万が一の水も確保できるのでそこで燃やせばいいとのライトン伯爵の勧めにより、メイメイとジュスティを連れ今日はノートをひとつ残らず燃やしに来たのだ。ついでに芋を焼けばいいと言ったのはジュスティだった。
「エレシュカ様ー!」
「あっエイリ!」
外ということもありエイリークも呼んだ。エイリークの父フォルマからもらった芋もあったので呼んだのだ。
「エレシュカ様のいるところならどこだって行っちゃいますもん。いつでも一番に呼んでくださいねっ!」
一応外にいるということもあり呼び名は隣国式だ。
エイリークはアレンシカの隣に並び立ち手伝った。ここに来る途中で木を拾ってきたのか枯れ枝も持っている。
「燃やすのはいいけど、それで居場所が分かってしまうとかはない?煙とか……。」
「ここは畑ばっかで誰かしらしょっちゅう燃やしてるので大丈夫ですよ。」
木の枝の間にノートを挟みこみながらエイリークが答えた。
準備ができていざ火をつけるとノートはあっという間に燃えていった。
「エレシュカ様の文字がひとつ残らずなくなっちゃうなんて悲しいです……。」
「どこに行けばいいか分からないのに持っていけないからしょうがなくて……。」
「残念……。」
「レイシーラで過ごした思い出を消してしまうのは悲しいよね。」
エイリークとアレンシカのもったいないには隔たりがあるのだがそれはアレンシカには分からなかった。
「お芋って結構時間かかるんだね。」
「でもその分楽しめますから。」
「そうだね。」
湖の畔は全体的に涼しいレイシーラ領の中でもさらに涼しいので火の暖かさが体に染みる。
「エレシュカ様、ここでの生活はどうですか?王都とは結構違うこともあるでしょう?」
「そうだね、でも楽しいことが沢山あって楽しい。今まで体験したことないこともしているから……。」
「そうですか……。」
パチパチと燃える日に手をかざしながら暖をとる。火を見ているからか心が落ち着いてきている。
「今までいっぱいいっぱいだったから、すごく心が休めてるというか……、今自分は逃げてるんだってことは分かるんだけど、……本当になんか旅行に来たみたいだなって。」
「そうですね……。」
エイリークが学園で最後に見た時は暗く落ち込んだ表情だった。気丈に振る舞ってはいたけど、気を抜けばすぐに涙がこぼれて泣き崩れてしまいそうな脆く壊れそうな姿だった。
だからこうして穏やかな表情でのんびりとしているアレンシカを見られることがエイリークは何より嬉しい。
「あの……。」
「ん?」
「ア……エレシュカ様は……。」
ふいに今、ウィンノルのことを聞いてみたくなった。あんなことになって、傷ついて、今は離れて心に余裕ができ始めている今、ウィンノルのことをどう思っているのか。
あれだけ酷く責められても見限らずに尽くして期待に答えようとしているのはアレンシカがウィンノルのことを好きだからなんだろう。それくらいはエイリークにだって分かっている。自分は傷つきはしない。元から手に届かないから。
でもだからこそ離れた今、アレンシカがウィンノルとの婚約関係をこれからどうするのか気になった。
「……いえ、何でも。」
「ん?」
「お芋、楽しみですね。」
だがそこまでだ。いくら自分が想いを寄せていようともそこまで干渉してはいけない。貴族なんだから言ってはいけないこともあるし、せっかくアレンシカの心が落ち着いているとはいえまだ王都から離れてそこまで経っていないし、また心を波立たせてはいけない。
エイリークは特に何でもないふりをした。
「えっ?!」
すると突然ジュスティがどこかに向かって全力疾走した。
「ジュスティ⁉どうしたの?」
問いにも答えず全力で茂みに向かってかけていると何かに向かって飛びかかった。
「ぎゃ!」
「お前!そこで何を見ている!まさか手先の者か!」
何者かを捉えたのか掴みかかり茂みから引っ張りだした。
「やめてよ!いたい!私が悪かったから!悪い人じゃないんです!」
「エレシュカ様。怪しいやつがいました!」
後ろ手にして皆の前に突き出された人は美しい黒髪の女性だった。年はアレンシカやエイリークと同じ年頃に見える。
「ごめんなさいいい、本当に本当に、悪いことするつもりなんてないんですうう、ただ……ただちょっと見てみたかっただけなんですううう……。」
「あ、アイリーナ!なんでここに!」
「お兄ちゃん……。」
「えっ、」
後ろ手に掴まれたままの少女は涙を流しながらエイリークを見ている。
「こいつはアイリーナです!ボクの妹です!」
「えっ、ジュスティ、すぐ離してあげて!」
「でも……。」
「エイリの妹なら大丈夫だから!」
「わかりました。」
ジュスティが拘束を解くとアイリーナはその場に座り込みびっくりした顔をしている。
「驚いた……騎士?の人って強いのね……。」
「ごめんなさい、手荒な真似をしてしまって。すぐに治療をしなきゃ。メイメイ、診てあげて。」
「大丈夫です、どこも痛くないですし。私がこっそりしていたのが悪いんですから。怪しまれて当然だと思います。」
アイリーナはすぐに立ち上がりしっかりした足取りでスカートの端を持ってアレンシカに向かって礼をした。
「はじめまして、私はエイリークの妹のアイリーナ・アンティアと申します。」
ずっと家にいても息が詰まってしまうよと言われ、よく出かけてはいるので暇に感じることはまったくなく、むしろこの自然豊かなレイシーラ領が好きになった。
王都にいては体験ができないことばかりだ。
「今日は夏芋を焼こうかなと。」
「でも今は落ち葉もあまりありませんよ?」
「大丈夫、これを使います。」
それはここ数日でたまったノートだった。勉強を遅らせる訳にもいかず勉強はしているのでノートを町で買って使っているが、ノートはアレンシカの直筆の文字がギッシリ書かれていて証拠の宝庫。アレンシカがここにいたことはバレてしまう。荷物にもなるので持っていけないとなると早々に処分してしまうことにしている。
屋敷の裏手には湖へ続く道があり、万が一の水も確保できるのでそこで燃やせばいいとのライトン伯爵の勧めにより、メイメイとジュスティを連れ今日はノートをひとつ残らず燃やしに来たのだ。ついでに芋を焼けばいいと言ったのはジュスティだった。
「エレシュカ様ー!」
「あっエイリ!」
外ということもありエイリークも呼んだ。エイリークの父フォルマからもらった芋もあったので呼んだのだ。
「エレシュカ様のいるところならどこだって行っちゃいますもん。いつでも一番に呼んでくださいねっ!」
一応外にいるということもあり呼び名は隣国式だ。
エイリークはアレンシカの隣に並び立ち手伝った。ここに来る途中で木を拾ってきたのか枯れ枝も持っている。
「燃やすのはいいけど、それで居場所が分かってしまうとかはない?煙とか……。」
「ここは畑ばっかで誰かしらしょっちゅう燃やしてるので大丈夫ですよ。」
木の枝の間にノートを挟みこみながらエイリークが答えた。
準備ができていざ火をつけるとノートはあっという間に燃えていった。
「エレシュカ様の文字がひとつ残らずなくなっちゃうなんて悲しいです……。」
「どこに行けばいいか分からないのに持っていけないからしょうがなくて……。」
「残念……。」
「レイシーラで過ごした思い出を消してしまうのは悲しいよね。」
エイリークとアレンシカのもったいないには隔たりがあるのだがそれはアレンシカには分からなかった。
「お芋って結構時間かかるんだね。」
「でもその分楽しめますから。」
「そうだね。」
湖の畔は全体的に涼しいレイシーラ領の中でもさらに涼しいので火の暖かさが体に染みる。
「エレシュカ様、ここでの生活はどうですか?王都とは結構違うこともあるでしょう?」
「そうだね、でも楽しいことが沢山あって楽しい。今まで体験したことないこともしているから……。」
「そうですか……。」
パチパチと燃える日に手をかざしながら暖をとる。火を見ているからか心が落ち着いてきている。
「今までいっぱいいっぱいだったから、すごく心が休めてるというか……、今自分は逃げてるんだってことは分かるんだけど、……本当になんか旅行に来たみたいだなって。」
「そうですね……。」
エイリークが学園で最後に見た時は暗く落ち込んだ表情だった。気丈に振る舞ってはいたけど、気を抜けばすぐに涙がこぼれて泣き崩れてしまいそうな脆く壊れそうな姿だった。
だからこうして穏やかな表情でのんびりとしているアレンシカを見られることがエイリークは何より嬉しい。
「あの……。」
「ん?」
「ア……エレシュカ様は……。」
ふいに今、ウィンノルのことを聞いてみたくなった。あんなことになって、傷ついて、今は離れて心に余裕ができ始めている今、ウィンノルのことをどう思っているのか。
あれだけ酷く責められても見限らずに尽くして期待に答えようとしているのはアレンシカがウィンノルのことを好きだからなんだろう。それくらいはエイリークにだって分かっている。自分は傷つきはしない。元から手に届かないから。
でもだからこそ離れた今、アレンシカがウィンノルとの婚約関係をこれからどうするのか気になった。
「……いえ、何でも。」
「ん?」
「お芋、楽しみですね。」
だがそこまでだ。いくら自分が想いを寄せていようともそこまで干渉してはいけない。貴族なんだから言ってはいけないこともあるし、せっかくアレンシカの心が落ち着いているとはいえまだ王都から離れてそこまで経っていないし、また心を波立たせてはいけない。
エイリークは特に何でもないふりをした。
「えっ?!」
すると突然ジュスティがどこかに向かって全力疾走した。
「ジュスティ⁉どうしたの?」
問いにも答えず全力で茂みに向かってかけていると何かに向かって飛びかかった。
「ぎゃ!」
「お前!そこで何を見ている!まさか手先の者か!」
何者かを捉えたのか掴みかかり茂みから引っ張りだした。
「やめてよ!いたい!私が悪かったから!悪い人じゃないんです!」
「エレシュカ様。怪しいやつがいました!」
後ろ手にして皆の前に突き出された人は美しい黒髪の女性だった。年はアレンシカやエイリークと同じ年頃に見える。
「ごめんなさいいい、本当に本当に、悪いことするつもりなんてないんですうう、ただ……ただちょっと見てみたかっただけなんですううう……。」
「あ、アイリーナ!なんでここに!」
「お兄ちゃん……。」
「えっ、」
後ろ手に掴まれたままの少女は涙を流しながらエイリークを見ている。
「こいつはアイリーナです!ボクの妹です!」
「えっ、ジュスティ、すぐ離してあげて!」
「でも……。」
「エイリの妹なら大丈夫だから!」
「わかりました。」
ジュスティが拘束を解くとアイリーナはその場に座り込みびっくりした顔をしている。
「驚いた……騎士?の人って強いのね……。」
「ごめんなさい、手荒な真似をしてしまって。すぐに治療をしなきゃ。メイメイ、診てあげて。」
「大丈夫です、どこも痛くないですし。私がこっそりしていたのが悪いんですから。怪しまれて当然だと思います。」
アイリーナはすぐに立ち上がりしっかりした足取りでスカートの端を持ってアレンシカに向かって礼をした。
「はじめまして、私はエイリークの妹のアイリーナ・アンティアと申します。」
あなたにおすすめの小説
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
あなたの愛したご令嬢は俺なんです
久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」
没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!