88 / 139
家族
しおりを挟む
妹を皆で楽しんだ後はしっかりと火を消し、アイリーナがいるということで無事に馬車を借りる許可と連絡をしてから家に向かうことになった。
汚れてしまっているからか気後れしていたようだが、馬車は領主の持ち物だというのに立派にではなく、どちらかといえば質素な作りだった。農業を生業としている領地ではもちろん領主でも様子を見る為に畑に出入りして汚れる時もある。そういった時の為の汚れても問題のない馬車だった。リリーベル公爵も様々なところへ行く為に質素な馬車を乗り回しているので、アレンシカもそういった事情はよく分かっていた。
馬車の中では主にエイリークの話をしながらだったが、アイリーナから聞くエイリークの話はやはり新鮮だった。妹の立場でないと分からないことはあるらしい。
話が弾めばあっと言う間にエイリークの生家へと着いた。町からは距離があるが行きにくいという訳ではなく、目の前には可愛らしい家が建っている。
アイリーナに手を差し出し馬車から降ろすと、何故か先程から仏頂面のエイリークがもっと仏頂面になったのだが、それはアレンシカから巧妙に見えないようにされていた。
「ただいま帰りましたー。」
「おかえりー早かったねえ。」
「お客様をお連れしたの。」
「あら?ということはもしかして……?」
「そう、もしかして!」
その瞬間家の中からたくさんの顔がこちらを除いてきてアレンシカは面食らった。
「エレシュカ様だ!」
「エレシュカ様ー!」
「えれしゅかさま」
「こ、これはどういう……?」
「父からエレシュカ様の話を聞いて、皆お兄ちゃんの珍しいお友達だって喜んじゃって、待っていたんです。」
「えっじゃあお前本当に連れて来る予定だったのか!」
「そうだけど?」
「ふざけんなよ!」
またアレンシカの横でエイリークとアイリーナの微笑ましい口喧嘩が始まってしまった。
馬車にいる間も「今すぐ二人を降ろして帰ろう派」のエイリークと「絶対にアレンシカを連れていきたい派」のアイリーナで討論していた。
「まあまあ、そんなに見てはご迷惑でしょう。……ようこそいらっしゃいましたエレシュカ様。私はエイリークの母親のミスミです。」
ミスミは草原に咲く一輪の花のように美しい挨拶をした。
「こんにちは、ミスミさん。」
「フォルマは今席を外しておりますがすぐに帰ってくると思います。」
「さあ、エレシュカ様!入ってゆっくりしてらして?」
「お前どんだけ図々しいんだよ……。」
背後にはアイリーナもおり、目の前にはミスミと他の家族からの視線で逃げる気はないのにまるで逃さんというような包囲にどうにも動けないでいると、ひとりの小さな子が扉からトトトとやってきてアレンシカの手をぎゅっと掴んだ
「えれしゅかさま、きてー。」
「えっ」
「こらルット、すみませんエレシュカ様。」
「いいえ、では僕を案内してくれる?」
「うん!」
「そちらのメイドの方と騎士様もどうぞ中へ。」
ルットはにこにこ笑いながらアレンシカを小さな家の中へ引っ張っていった。
家の中は簡素で生活感がありながら可愛らしい部屋だった。
「アイリーナ、なんか汚れてるわ。着替えてらっしゃい。」
「はーい。」
「お姉ちゃんばっちー!」
「ああ、アイリーナさんがそうなってしまったのはこちらの落ち度で、」
「アイリーナのせいだからね母さん。」
「分かっていますよ。どうせアイリーナがまた直情的に動いて何かしでかしてしまったのでしょう。エレシュカ様に何かしていないでしょうねアイリーナ。」
「私が不審者をしたからそこの騎士様に捕まったのよ。」
「あ、いえエイリの妹さんと気づかずに……、」
「茂みの中から隠れてこっそりこっち見てたんだからなコイツ。」
「そんなの捕まって当たり前じゃない、まったくバカねえ。」
「そうでしょ。」
アイリーナはそのまま着替えるつもりか二階へ上がっていった。目の前にはミスミがお茶を並べている。
「エレシュカ様のお口に合うかは分かりませんがハーブ茶とルバーブケーキですわ。」
「わあ、ケーキもお茶も大好きなんです。ありがとうございます。」
「準備万端じゃん……。」
「ぼくのはー?」
「もちろんあるわよ。メイドの方と騎士様もどうぞ。」
「ありがとうございます。」
弟たちはわっとアレンシカの周りにやって来て次々にテーブルに着く。ミスミはそれぞれの目の前にケーキを置いた。
「いただきまーす!」
「おいしー!」
「すみませんエレシュカ様、うちなんかうるさくて……。」
「ううん、僕はきょうだいがいないからこういう賑やかな食卓は少し憧れてたから嬉しい。暖かくていいね。」
「ただうるさいだけですけどねえ。」
「毎日こう楽しくてもいいくらいだよ。」
「えー。」
ガツガツ食べる子や好きな部分を後で食べる子、隣りとおしゃべりしながら話す子達もいて確かにとても賑やかだ。もちろん貴族社会では叱られ厳しく躾けられてしまう。でもほぼひとりで食事をすることが多いアレンシカにははじめての温かく楽しい食事だった。
「あ、そうだこいつらの名前まだでしたね、女の子がマルナ、双子の吊り目がエラント、タレ目がカナー、一番小さいのがルットです。」
「るっとー!」
「よろしくねルット。」
紹介されるとルットはフォークを掲げニコッと笑った。
「エイリはきょうだいがいっぱいでこんなに楽しそうな家から来たんだって知ったら、なんか嬉しいな。」
「……そうですかねー。」
「あらまあ。」
アレンシカもルットに釣られたのかついニコニコ笑ってしまいながらエイリークを見てしまう。
そんな二人をミスミは交互に見てしまう。
「エレシュカ様はいつまでここに滞在されるのですか?」
「……うーん、詳しくは決めていません。行き当たりばったりの旅行中ですので。」
「まあ、そうなんですのね。でしたらいつでもここにいらしてください。エレシュカ様ならいつでも歓迎いたしますわ。」
「えっ。」
「でもご迷惑になってしまいますから……。」
「その方がエイリークも喜びますから。それに……、」
「おい、ルット何してんだよ。」
「なんだかルットも懐いてしまったようで……。」
いつの間にか食べ終わったのかルットがアレンシカの横についてベッタリくっついていた。
「すみません、こらルット、汚れてるのにそんなくっつくなよ。」
「いいんですよ。可愛いし、なんだか……。」
アレンシカはルットの頭を撫でる。よくケーキを食べよく笑いよく懐くこの感じをなんだか懐かしく思った。
「なんかプリムと重ねて見てませんかエレシュカ様……。」
「……そうかも?」
汚れてしまっているからか気後れしていたようだが、馬車は領主の持ち物だというのに立派にではなく、どちらかといえば質素な作りだった。農業を生業としている領地ではもちろん領主でも様子を見る為に畑に出入りして汚れる時もある。そういった時の為の汚れても問題のない馬車だった。リリーベル公爵も様々なところへ行く為に質素な馬車を乗り回しているので、アレンシカもそういった事情はよく分かっていた。
馬車の中では主にエイリークの話をしながらだったが、アイリーナから聞くエイリークの話はやはり新鮮だった。妹の立場でないと分からないことはあるらしい。
話が弾めばあっと言う間にエイリークの生家へと着いた。町からは距離があるが行きにくいという訳ではなく、目の前には可愛らしい家が建っている。
アイリーナに手を差し出し馬車から降ろすと、何故か先程から仏頂面のエイリークがもっと仏頂面になったのだが、それはアレンシカから巧妙に見えないようにされていた。
「ただいま帰りましたー。」
「おかえりー早かったねえ。」
「お客様をお連れしたの。」
「あら?ということはもしかして……?」
「そう、もしかして!」
その瞬間家の中からたくさんの顔がこちらを除いてきてアレンシカは面食らった。
「エレシュカ様だ!」
「エレシュカ様ー!」
「えれしゅかさま」
「こ、これはどういう……?」
「父からエレシュカ様の話を聞いて、皆お兄ちゃんの珍しいお友達だって喜んじゃって、待っていたんです。」
「えっじゃあお前本当に連れて来る予定だったのか!」
「そうだけど?」
「ふざけんなよ!」
またアレンシカの横でエイリークとアイリーナの微笑ましい口喧嘩が始まってしまった。
馬車にいる間も「今すぐ二人を降ろして帰ろう派」のエイリークと「絶対にアレンシカを連れていきたい派」のアイリーナで討論していた。
「まあまあ、そんなに見てはご迷惑でしょう。……ようこそいらっしゃいましたエレシュカ様。私はエイリークの母親のミスミです。」
ミスミは草原に咲く一輪の花のように美しい挨拶をした。
「こんにちは、ミスミさん。」
「フォルマは今席を外しておりますがすぐに帰ってくると思います。」
「さあ、エレシュカ様!入ってゆっくりしてらして?」
「お前どんだけ図々しいんだよ……。」
背後にはアイリーナもおり、目の前にはミスミと他の家族からの視線で逃げる気はないのにまるで逃さんというような包囲にどうにも動けないでいると、ひとりの小さな子が扉からトトトとやってきてアレンシカの手をぎゅっと掴んだ
「えれしゅかさま、きてー。」
「えっ」
「こらルット、すみませんエレシュカ様。」
「いいえ、では僕を案内してくれる?」
「うん!」
「そちらのメイドの方と騎士様もどうぞ中へ。」
ルットはにこにこ笑いながらアレンシカを小さな家の中へ引っ張っていった。
家の中は簡素で生活感がありながら可愛らしい部屋だった。
「アイリーナ、なんか汚れてるわ。着替えてらっしゃい。」
「はーい。」
「お姉ちゃんばっちー!」
「ああ、アイリーナさんがそうなってしまったのはこちらの落ち度で、」
「アイリーナのせいだからね母さん。」
「分かっていますよ。どうせアイリーナがまた直情的に動いて何かしでかしてしまったのでしょう。エレシュカ様に何かしていないでしょうねアイリーナ。」
「私が不審者をしたからそこの騎士様に捕まったのよ。」
「あ、いえエイリの妹さんと気づかずに……、」
「茂みの中から隠れてこっそりこっち見てたんだからなコイツ。」
「そんなの捕まって当たり前じゃない、まったくバカねえ。」
「そうでしょ。」
アイリーナはそのまま着替えるつもりか二階へ上がっていった。目の前にはミスミがお茶を並べている。
「エレシュカ様のお口に合うかは分かりませんがハーブ茶とルバーブケーキですわ。」
「わあ、ケーキもお茶も大好きなんです。ありがとうございます。」
「準備万端じゃん……。」
「ぼくのはー?」
「もちろんあるわよ。メイドの方と騎士様もどうぞ。」
「ありがとうございます。」
弟たちはわっとアレンシカの周りにやって来て次々にテーブルに着く。ミスミはそれぞれの目の前にケーキを置いた。
「いただきまーす!」
「おいしー!」
「すみませんエレシュカ様、うちなんかうるさくて……。」
「ううん、僕はきょうだいがいないからこういう賑やかな食卓は少し憧れてたから嬉しい。暖かくていいね。」
「ただうるさいだけですけどねえ。」
「毎日こう楽しくてもいいくらいだよ。」
「えー。」
ガツガツ食べる子や好きな部分を後で食べる子、隣りとおしゃべりしながら話す子達もいて確かにとても賑やかだ。もちろん貴族社会では叱られ厳しく躾けられてしまう。でもほぼひとりで食事をすることが多いアレンシカにははじめての温かく楽しい食事だった。
「あ、そうだこいつらの名前まだでしたね、女の子がマルナ、双子の吊り目がエラント、タレ目がカナー、一番小さいのがルットです。」
「るっとー!」
「よろしくねルット。」
紹介されるとルットはフォークを掲げニコッと笑った。
「エイリはきょうだいがいっぱいでこんなに楽しそうな家から来たんだって知ったら、なんか嬉しいな。」
「……そうですかねー。」
「あらまあ。」
アレンシカもルットに釣られたのかついニコニコ笑ってしまいながらエイリークを見てしまう。
そんな二人をミスミは交互に見てしまう。
「エレシュカ様はいつまでここに滞在されるのですか?」
「……うーん、詳しくは決めていません。行き当たりばったりの旅行中ですので。」
「まあ、そうなんですのね。でしたらいつでもここにいらしてください。エレシュカ様ならいつでも歓迎いたしますわ。」
「えっ。」
「でもご迷惑になってしまいますから……。」
「その方がエイリークも喜びますから。それに……、」
「おい、ルット何してんだよ。」
「なんだかルットも懐いてしまったようで……。」
いつの間にか食べ終わったのかルットがアレンシカの横についてベッタリくっついていた。
「すみません、こらルット、汚れてるのにそんなくっつくなよ。」
「いいんですよ。可愛いし、なんだか……。」
アレンシカはルットの頭を撫でる。よくケーキを食べよく笑いよく懐くこの感じをなんだか懐かしく思った。
「なんかプリムと重ねて見てませんかエレシュカ様……。」
「……そうかも?」
150
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~
めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】
※投稿時間は多少前後する場合があります
火刑台の上で、すべてを失った。
愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。
王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。
だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。
この世界はもう信じない。
この命は、復讐のために使う。
かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。
裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。
“今度こそ、誰も信じない。
ただ、すべてを終わらせるために。”
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
王太子殿下のやりなおし
3333(トリささみ)
BL
ざまぁモノでよくある『婚約破棄をして落ちぶれる王太子』が断罪前に改心し、第三の道を歩むお話です。
とある時代のとある異世界。
そこに王太子と、その婚約者の公爵令嬢と、男爵令嬢がいた。
公爵令嬢は周囲から尊敬され愛される素晴らしい女性だが、王太子はたいそう愚かな男だった。
王太子は学園で男爵令嬢と知り合い、ふたりはどんどん関係を深めていき、やがては愛し合う仲になった。
そんなあるとき、男爵令嬢が自身が受けている公爵令嬢のイジメを、王太子に打ち明けた。
王太子は驚いて激怒し、学園の卒業パーティーで公爵令嬢を断罪し婚約破棄することを、男爵令嬢に約束する。
王太子は喜び、舞い上がっていた。
これで公爵令嬢との縁を断ち切って、彼女と結ばれる!
僕はやっと幸せを手に入れられるんだ!
「いいやその幸せ、間違いなく破綻するぞ。」
あの男が現れるまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる