天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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家族

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妹を皆で楽しんだ後はしっかりと火を消し、アイリーナがいるということで無事に馬車を借りる許可と連絡をしてから家に向かうことになった。
汚れてしまっているからか気後れしていたようだが、馬車は領主の持ち物だというのに立派にではなく、どちらかといえば質素な作りだった。農業を生業としている領地ではもちろん領主でも様子を見る為に畑に出入りして汚れる時もある。そういった時の為の汚れても問題のない馬車だった。リリーベル公爵も様々なところへ行く為に質素な馬車を乗り回しているので、アレンシカもそういった事情はよく分かっていた。

馬車の中では主にエイリークの話をしながらだったが、アイリーナから聞くエイリークの話はやはり新鮮だった。妹の立場でないと分からないことはあるらしい。

話が弾めばあっと言う間にエイリークの生家へと着いた。町からは距離があるが行きにくいという訳ではなく、目の前には可愛らしい家が建っている。

アイリーナに手を差し出し馬車から降ろすと、何故か先程から仏頂面のエイリークがもっと仏頂面になったのだが、それはアレンシカから巧妙に見えないようにされていた。

「ただいま帰りましたー。」

「おかえりー早かったねえ。」

「お客様をお連れしたの。」

「あら?ということはもしかして……?」

「そう、もしかして!」

その瞬間家の中からたくさんの顔がこちらを除いてきてアレンシカは面食らった。 

「エレシュカ様だ!」

「エレシュカ様ー!」

「えれしゅかさま」

「こ、これはどういう……?」

「父からエレシュカ様の話を聞いて、皆お兄ちゃんの珍しいお友達だって喜んじゃって、待っていたんです。」

「えっじゃあお前本当に連れて来る予定だったのか!」

「そうだけど?」

「ふざけんなよ!」

またアレンシカの横でエイリークとアイリーナの微笑ましい口喧嘩が始まってしまった。
馬車にいる間も「今すぐ二人を降ろして帰ろう派」のエイリークと「絶対にアレンシカを連れていきたい派」のアイリーナで討論していた。

「まあまあ、そんなに見てはご迷惑でしょう。……ようこそいらっしゃいましたエレシュカ様。私はエイリークの母親のミスミです。」

ミスミは草原に咲く一輪の花のように美しい挨拶をした。

「こんにちは、ミスミさん。」

「フォルマは今席を外しておりますがすぐに帰ってくると思います。」

「さあ、エレシュカ様!入ってゆっくりしてらして?」

「お前どんだけ図々しいんだよ……。」

背後にはアイリーナもおり、目の前にはミスミと他の家族からの視線で逃げる気はないのにまるで逃さんというような包囲にどうにも動けないでいると、ひとりの小さな子が扉からトトトとやってきてアレンシカの手をぎゅっと掴んだ

「えれしゅかさま、きてー。」

「えっ」

「こらルット、すみませんエレシュカ様。」

「いいえ、では僕を案内してくれる?」

「うん!」

「そちらのメイドの方と騎士様もどうぞ中へ。」

ルットはにこにこ笑いながらアレンシカを小さな家の中へ引っ張っていった。
家の中は簡素で生活感がありながら可愛らしい部屋だった。

「アイリーナ、なんか汚れてるわ。着替えてらっしゃい。」

「はーい。」

「お姉ちゃんばっちー!」

「ああ、アイリーナさんがそうなってしまったのはこちらの落ち度で、」

「アイリーナのせいだからね母さん。」

「分かっていますよ。どうせアイリーナがまた直情的に動いて何かしでかしてしまったのでしょう。エレシュカ様に何かしていないでしょうねアイリーナ。」

「私が不審者をしたからそこの騎士様に捕まったのよ。」

「あ、いえエイリの妹さんと気づかずに……、」

「茂みの中から隠れてこっそりこっち見てたんだからなコイツ。」

「そんなの捕まって当たり前じゃない、まったくバカねえ。」

「そうでしょ。」

アイリーナはそのまま着替えるつもりか二階へ上がっていった。目の前にはミスミがお茶を並べている。

「エレシュカ様のお口に合うかは分かりませんがハーブ茶とルバーブケーキですわ。」

「わあ、ケーキもお茶も大好きなんです。ありがとうございます。」

「準備万端じゃん……。」

「ぼくのはー?」

「もちろんあるわよ。メイドの方と騎士様もどうぞ。」

「ありがとうございます。」

弟たちはわっとアレンシカの周りにやって来て次々にテーブルに着く。ミスミはそれぞれの目の前にケーキを置いた。

「いただきまーす!」

「おいしー!」

「すみませんエレシュカ様、うちなんかうるさくて……。」

「ううん、僕はきょうだいがいないからこういう賑やかな食卓は少し憧れてたから嬉しい。暖かくていいね。」

「ただうるさいだけですけどねえ。」

「毎日こう楽しくてもいいくらいだよ。」

「えー。」

ガツガツ食べる子や好きな部分を後で食べる子、隣りとおしゃべりしながら話す子達もいて確かにとても賑やかだ。もちろん貴族社会では叱られ厳しく躾けられてしまう。でもほぼひとりで食事をすることが多いアレンシカにははじめての温かく楽しい食事だった。

「あ、そうだこいつらの名前まだでしたね、女の子がマルナ、双子の吊り目がエラント、タレ目がカナー、一番小さいのがルットです。」

「るっとー!」

「よろしくねルット。」

紹介されるとルットはフォークを掲げニコッと笑った。

「エイリはきょうだいがいっぱいでこんなに楽しそうな家から来たんだって知ったら、なんか嬉しいな。」

「……そうですかねー。」

「あらまあ。」

アレンシカもルットに釣られたのかついニコニコ笑ってしまいながらエイリークを見てしまう。
そんな二人をミスミは交互に見てしまう。

「エレシュカ様はいつまでここに滞在されるのですか?」

「……うーん、詳しくは決めていません。行き当たりばったりの旅行中ですので。」

「まあ、そうなんですのね。でしたらいつでもここにいらしてください。エレシュカ様ならいつでも歓迎いたしますわ。」

「えっ。」

「でもご迷惑になってしまいますから……。」

「その方がエイリークも喜びますから。それに……、」

「おい、ルット何してんだよ。」

「なんだかルットも懐いてしまったようで……。」

いつの間にか食べ終わったのかルットがアレンシカの横についてベッタリくっついていた。

「すみません、こらルット、汚れてるのにそんなくっつくなよ。」

「いいんですよ。可愛いし、なんだか……。」

アレンシカはルットの頭を撫でる。よくケーキを食べよく笑いよく懐くこの感じをなんだか懐かしく思った。

「なんかプリムと重ねて見てませんかエレシュカ様……。」

「……そうかも?」
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