天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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絵本

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「えれしゅかさまーこれー」

「うん?」

「これー」

ルットはアレンシカを引っ張り部屋の隅に来ると何か一冊の本をアレンシカに差し出してきた。

「よんでー。」

「これを読めばいいんだね?」

「そー!」

「ああ、すみません。ルット、エレシュカ様を困らせてはいけません。」

「ああ、本当にいいんですよ。ルットのお願いなら叶えてあげたいですし……。」

ミスミがルットを止めようと近づくが、もう隣りのルットは読まれる気満々であり目をキラキラしてアレンシカを見上げていた。

「すみません……、アイリーナも最近は自分のことばっかりで、他のきょうだいもすぐ飽きて、読んであげる子が誰もいなくて……私も手が離せないことも多くて……。」

「ごきょうだいが多いと大変ですよね。」

「帰ってきた時くらいエイリークが読んであげればいいのに……。」

「ボクその話きらーい。」

「そうなの?とてもいい話だと思うけど……。」

ルットが持ってきた話はこの国に伝わる神話を子ども向けに分かりやすく表現された絵本だった。
フィルニース王国に住んでいる者なら誰でも一度は読んだことがある、この国の成り立ちと王族のルーツについて学べる内容のお話だ。

「だって都合よくってー、綺麗なのは絵だけでしょ?」

「まったく、エイリークは何を言ってるの?素晴らしい絵本でしょう。ルットの教育にも悪いわ。」

「まあ……好みは人それぞれですから。」

「よーんーでー」

「はい、では読みましょうね。」

ルットが腕にしがみつきアレンシカに催促する。絵本を読み聞かせは初めてで緊張するが、ルットにも聞こえやすいようにゆっくり読んだ。

「……昔むかし、あるところに神様と神様のお姫様がいました……。」







外はいつの間にか日暮れになっている。
いつの間にか他の妹弟までアレンシカのそばに寄ってアレンシカの話を聞いていた。

「……神様は二人をお祝いしてたくさんのお花を降らせました。こうしていつまでも王子様とお姫様は幸せに暮らしました。おしまい。」

「ふーん。」

「あールット寝てる!」

「あらまあ。」

ルットはアレンシカの膝に頭を乗せてすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。

「読み方下手だったかなあ。」

「そんなことないですよ!お話は最悪ですけど読み方は素晴らしかったです!」

ふんふんと鼻息荒くエイリークはアレンシカをフォローする。絵本はエラントが持っていきカナーと二人でまたペラペラと読んでいる。おそらく絵だけ見ていた。

「エイリはなんでこの話が嫌いなの?素晴らしいと思うけど……。」

「えー、そうですかね。だってそれお姫様は神様の恋人だったんですよ?ようは弟は恋人を略奪したってことですよね?」

「そうかなあ……二人が想い合ってたのが分かったから身を引いたってことだと思うけど……。」

「そんなものですかねえ。案外弟が人間になったのってテイのいい神様界からの追放だったりして……。」

「えー私もそれ派。意外とお姫様も神様をお捨てになったのかもしれませんわよ。」

「エイリーク、アイリーナ、あまり弟たちの前で捻くれたことを言うのは止めなさい。不敬な子になってしまうわ。」

「はーい。」

「それにしても、フォルマ遅いわね……、また何かやらかしてないといいけど……。」

ミスミは扉を少し心配そうに見ている。

「すみません、フォルマさんに用事がある時に来てしまって。」

「アイリーナが連れてきたんですからお気になさらないでください。それに、どうせ道草でもしているだけですわ。」

「父さん郵便配達の仕事もしてるんですけど、町でよく長話してるんですよねー。」

「ねー。」

「そうなんだ。」

エイリークの生家に来てどのくらいの時間が経ったのかは分からないけれど、元々湖にいたので早い時間にこちらに来ていない。長居をしても迷惑になってしまうと思うと落ち着きがなくなってきた。
メイメイも考えは同じらしくアレンシカに目配せしてくる。

「アレンシカ様そろそろ……。」

「ううーん、でもフォルマさんがまだ……。」

その時扉の向こうからものすごく速い足音が近づいてきた。

「あっ帰ってきた。」
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