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できること
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はあ?とエイリークは心の中で呆れた。あくまで心の中でだ。
「いくら友人であろうとあくまで平民と貴族です。アレンシカ様のいない貴族様へお手紙を送れる訳がないじゃないですか。」
「でもプリム・ミラーが出入りしているだろう。頼めばいいじゃないか。」
「プリムも子爵家のご子息です。同じく友人であってもおいそれと手紙を送れる立場ではありません。」
キッパリと言い放つ。実際には手紙を送ったこともあるし友人としての交流を許されているのでおそらくアレンシカの不在時でも手紙を拒否されることはないだろう。もちろんプリム相手になら気軽に送れる。
しかしそこまで教えてあげる義理はない。
「ところで、ボクがリリーベル公爵家やプリムに送ったとして、それでどうやって王家へ連絡がいくのですか?ここまでのプリムの反応や今までの話から言ってもリリーベル公爵家とも確執があるご様子。連絡をしたところで……さらに王家へ連絡がいくとは思えませんが。」
「それは……。」
「ボクからそちらへ出来ないことをさも出来ると言わないでいただけませんか。」
おそらく先程の様子からリリーベル公爵家の手紙を勝手に買収でもして盗み見ているのだろうとエイリークは容易に想像した。レイシーラにいた時もそもそもリリーベル公爵家側から連絡を絶たれていたこともその理由として含まれるのだと思った。
「そもそもボクは初耳のことばかりです。アレンシカ様が逃げたとか逃したとか……一体なんなんですか。」
実際にはアレンシカがどういった理由でここから逃げてレイシーラに来て、そしてまた別のところに行ったのかは分かっている。アレンシカも領主も具体的には何もエイリークには教えてくれなかったけど、それでも普段のウィンノルとの関係を見れば容易に想像はつく。
それでも端から見れば、アレンシカは長期休み前に急に休みそのまま留学していったのを後から知った平民でしかない。
いくら相手が調べていようがそれで通す。あくまで相手が知っているのは後から調べてる共通点を見つけただけだ。それをさもエイリークも糸を引いているように言っているだけ。
「君は何も知らないのかい?友人なのに。」
「平民ですよ。貴族様の事情を知れる訳がありません。」
真っ直ぐに目を見てそういえばウィンノルはたじろいた。平民に何か言われたくらいでと思ったがちょうどいいので放っておく。
「……でも、」
それでもウィンノルは諦めなかった。
「リリーベル家は多くの損害を払うことになる。無責任に婚約者の責務を払わず逃げたこと。社交もあったのにアレンシカが逃げたことで出来なかったパーティーもある。金銭的支払いだけでも相当なものだろう。公爵家には財もあるがそれでも大損害であることには変わらない。」
「それって……、」
「あのたくさん送られてきた招待状のことですか?」
まだ涙は流しているがグスングスンとしているだけで少し落ち着いたよう様子のプリムがキョトンとして尋ねた。
「ああ。……でももし君たちがきちんと話してくれたら……知らなかったとしても王家に協力してアレンシカが戻れるように手助けしてくれるなら、この件は不問に出来るかもしれないんだ。」
そんなに大きな金が動くのにそんな美味い話があるのかとエイリークは思ったが、平民には気づかない貴族のやり取りでは普通なのかもしれないとも思った。
そこで貴族のプリムが助け舟を出す。
「……でもそのお手紙、みんな貴顕秩序衛務院に渡しちゃいました。」
「……何?」
「だから、全部お渡ししちゃいました。」
「何をしているんだ!」
「だって封筒と封蝋は王子様の印でしたけど中身は全然別の貴族のおうちのでしたもん。怪しくって、もし他の貴族が王族の偽物を名乗っていたらって考えたら怖くって、これは大変だーって思って連絡しちゃいました。」
エイリークには馴染みがないが、貴顕秩序衛務院とは貴族が不正や重大な犯罪をしていないか厳しく監視と取り締まりをしているところである。もちろん対象は王族も含まれる。
「なんてことを……。」
「だって他の家が王族を名乗るなんてすごーく悪いことですもん!もちろん捕まえなきゃ駄目でしょー?」
プリムは誇らしげに話す。エイリークにはよく分からないがそれはプリムがウィンノルへまたひとつ痛手を負わせようとしたのだろう。
だがあれはユースとフィラルがアレンシカを社交に出そうとしてフィラルの家門に協力を要請してやらせたことで万が一捕まってしまえば後に釈放されても不味いだろう。その後の周りからの目もある。
もちろんそれはプリムとエイリークには知らない。それでも一枚噛んでいることは分かっていたのだろう。
「どうして王子様はそんなに焦っているのですかー?偽物が捕まるんだから嬉しいことですよねー?」
目に見えて焦っているウィンノルにプリムはどこか楽しそうに聞いている。
しかし聞かれたことで思い出したように急にウィンノルは冷静になった。
「貴顕秩序衛務院の最高責任者は王弟殿下だ。特に問題はない。」
「いくら友人であろうとあくまで平民と貴族です。アレンシカ様のいない貴族様へお手紙を送れる訳がないじゃないですか。」
「でもプリム・ミラーが出入りしているだろう。頼めばいいじゃないか。」
「プリムも子爵家のご子息です。同じく友人であってもおいそれと手紙を送れる立場ではありません。」
キッパリと言い放つ。実際には手紙を送ったこともあるし友人としての交流を許されているのでおそらくアレンシカの不在時でも手紙を拒否されることはないだろう。もちろんプリム相手になら気軽に送れる。
しかしそこまで教えてあげる義理はない。
「ところで、ボクがリリーベル公爵家やプリムに送ったとして、それでどうやって王家へ連絡がいくのですか?ここまでのプリムの反応や今までの話から言ってもリリーベル公爵家とも確執があるご様子。連絡をしたところで……さらに王家へ連絡がいくとは思えませんが。」
「それは……。」
「ボクからそちらへ出来ないことをさも出来ると言わないでいただけませんか。」
おそらく先程の様子からリリーベル公爵家の手紙を勝手に買収でもして盗み見ているのだろうとエイリークは容易に想像した。レイシーラにいた時もそもそもリリーベル公爵家側から連絡を絶たれていたこともその理由として含まれるのだと思った。
「そもそもボクは初耳のことばかりです。アレンシカ様が逃げたとか逃したとか……一体なんなんですか。」
実際にはアレンシカがどういった理由でここから逃げてレイシーラに来て、そしてまた別のところに行ったのかは分かっている。アレンシカも領主も具体的には何もエイリークには教えてくれなかったけど、それでも普段のウィンノルとの関係を見れば容易に想像はつく。
それでも端から見れば、アレンシカは長期休み前に急に休みそのまま留学していったのを後から知った平民でしかない。
いくら相手が調べていようがそれで通す。あくまで相手が知っているのは後から調べてる共通点を見つけただけだ。それをさもエイリークも糸を引いているように言っているだけ。
「君は何も知らないのかい?友人なのに。」
「平民ですよ。貴族様の事情を知れる訳がありません。」
真っ直ぐに目を見てそういえばウィンノルはたじろいた。平民に何か言われたくらいでと思ったがちょうどいいので放っておく。
「……でも、」
それでもウィンノルは諦めなかった。
「リリーベル家は多くの損害を払うことになる。無責任に婚約者の責務を払わず逃げたこと。社交もあったのにアレンシカが逃げたことで出来なかったパーティーもある。金銭的支払いだけでも相当なものだろう。公爵家には財もあるがそれでも大損害であることには変わらない。」
「それって……、」
「あのたくさん送られてきた招待状のことですか?」
まだ涙は流しているがグスングスンとしているだけで少し落ち着いたよう様子のプリムがキョトンとして尋ねた。
「ああ。……でももし君たちがきちんと話してくれたら……知らなかったとしても王家に協力してアレンシカが戻れるように手助けしてくれるなら、この件は不問に出来るかもしれないんだ。」
そんなに大きな金が動くのにそんな美味い話があるのかとエイリークは思ったが、平民には気づかない貴族のやり取りでは普通なのかもしれないとも思った。
そこで貴族のプリムが助け舟を出す。
「……でもそのお手紙、みんな貴顕秩序衛務院に渡しちゃいました。」
「……何?」
「だから、全部お渡ししちゃいました。」
「何をしているんだ!」
「だって封筒と封蝋は王子様の印でしたけど中身は全然別の貴族のおうちのでしたもん。怪しくって、もし他の貴族が王族の偽物を名乗っていたらって考えたら怖くって、これは大変だーって思って連絡しちゃいました。」
エイリークには馴染みがないが、貴顕秩序衛務院とは貴族が不正や重大な犯罪をしていないか厳しく監視と取り締まりをしているところである。もちろん対象は王族も含まれる。
「なんてことを……。」
「だって他の家が王族を名乗るなんてすごーく悪いことですもん!もちろん捕まえなきゃ駄目でしょー?」
プリムは誇らしげに話す。エイリークにはよく分からないがそれはプリムがウィンノルへまたひとつ痛手を負わせようとしたのだろう。
だがあれはユースとフィラルがアレンシカを社交に出そうとしてフィラルの家門に協力を要請してやらせたことで万が一捕まってしまえば後に釈放されても不味いだろう。その後の周りからの目もある。
もちろんそれはプリムとエイリークには知らない。それでも一枚噛んでいることは分かっていたのだろう。
「どうして王子様はそんなに焦っているのですかー?偽物が捕まるんだから嬉しいことですよねー?」
目に見えて焦っているウィンノルにプリムはどこか楽しそうに聞いている。
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