天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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急に得意げに堂々としだすウィンノルに不思議に思った。

「それで何が問題がないんですかー?」

「いや?こちらの話だ。」

そう言ったきりそれ以上は何も言わず余裕そうに笑っているだけ。それでも考えられることはエイリークにとっては簡単だった。
身内だからいくらでも無かったことに出来ると踏んでいるのだ。いくら自分でもそう上手くいくとも思えない。でも自分は平民だから貴族や王族のやり取りは分からない。そうなるといくら疑問に思ってもそれを口にすることは憚られた。出来ないことやしていないことを「した」と言うことは相手と同じになるからだ。

「……それでもう話は終わりですか?それならもう授業に出たいんですけど。」

「それでは君たちは王家に協力しないということかい?」

「何をもって協力というのか分かりませんし、何も分からないのに協力も出来ません。」

「そうか……それが君たちの答えか。」

「はい。」

余裕そうなままこちらを見るウィンノルがまるで見下しているようでエイリークは不快だった。

「それではリリーベル家を罰するしかないな。場合によればミラー家へも罰することになる。王家に仇なすなら君もどうなるかは分からないよスプリンガード君。」

「……本当にそう思っているのなら。」

正直に言えば少し怖い。学園にいられるのは平民として名誉なことでもあるし将来もある程度は約束される。王家に敵対してしまえばただで済まないどころか重罪刑が課せられてもおかしくない。それに何より、大切な友人プリムともアレンシカとももう二度と接点もは持てない。
それでもここでしっかりと従わないと言わなければならないと思った。

「仕方ないよ。君たちは罪を犯しているのに何もかもを拒否して言い訳ばかりしているんだからね。」

もしかすれば貴顕秩序衛務院に働きかければいくらでも捕まえられるとでも思っているのかもしれない。エイリークにとってはよく分からないところで怖い。
ふと隣りを見ればプリムがただ何も変わらない態度でそこにいた。貴族の子とはいえ遥か上にある王族を相手にしているというのにいつも通りに変わらないプリムを見ていると自分も平気な気がした。どう考えても平民のエイリークの方が重罪に課せられてしまうというのに。

「ボクからすれば謂れなきことで責められることが分からないので、何もすることが出来ません。ボクは平民ですし、協力出来ることは何もありません。」

「私もー。もし困ってるなら衛務院に助けてって言えばいいと思いますー。」

「分かった。」

ウィンノルはひとつ頷く。

「では、もう行ってもいいよ。でももう君たちには会えないかもしれないな。」

「そうなるかは分かりませんけどー、出来れば会いたくないのはそうですねー?」

プリムは礼儀もなくエイリークを引っ張って応接室から出ていこうとする。エイリークは形だけの礼はしたが平民だからマナーを知らないていの失礼なスタイルだ。

廊下を出れば思ったよりも人がいた。ひとつ分の授業が終わってしまったのだろう。

「授業なくなってラッキーですねー。」

「アンタにとってはラッキーでもボクは違う。」

「大丈夫ですよーエイリーク君は頭がいいから。お昼食べに行きましょー。」

「はあ……。」

プリムに引っ張られるままに食堂に向かって歩いていく。近道をしているからこちらは人がまばらだ。

「ねえ、あんなに色々言っちゃってるけど大丈夫なの?」

「何です?」

「だって貴族が取り締まるとこもさ、責任者が国王の弟って言ってたでしょ。アンタは色々やってたみたいだけど今頃もみ消されてるんじゃないの?それどころかボクたちを捕まえにもう向かってるかもよ。」

「……そう身内がやってるから全部味方なんて都合よくないんですよー王子様は。」

「え?」

「ああ、あの応接室にいましたよ。衛務院の人。」

「はあ?!」

知らなかった。あの部屋にはどう見ても自分たち三人しかいなかったはずだった。

「たぶん王子様も気づいてないですねー。あそこは悪いことに使われることもあるので、必要があれば外部から監視も出来るんですー。さすがにどうやって監視してるのかは私も知りませんけどー。」

「悪いことって……。」

「学園であることを利用して密談に使ったりー、あとはたまーに生徒でもすでに家督についてる子もいますからー、やっぱり悪い話に使われたりですねー。」

「ここは王立学園なのにそんなことするやついるの?」

「むかーし、そういう不届き者がいたみたいですー。足元って見えにくいですからー。今は監視できるって知られてますから監視はしに来ないですねーというテイになってますねー。」

「そう……。」

平民のエイリークには分からない世界だ。いくら成績は自分の方がよくとも知らない知識を貴族のプリムはもっている。

「えっじゃあ衛務院の人はボクたちもう捕まえるつもりで……。」

「いやーあれはー王子様の監視じゃないですかー?」

「それって手紙を提出したから?」

アレンシカに届けられた手紙を貴顕秩序衛務院に渡したと言っていた。それなら王族を監視しているのも分かる。

「うーん、たぶんそれだけじゃないと思います。お手紙を提出する前から動いてたっぽいのでー。」

「そうなの?」

「お手紙を提出したのは当主様なので詳しくは分かりませんー。でもなーんか前から動いてるぽいんですよね。私の周りもウロウロしてるですからー。これは護衛かなって感じですけどー。」

「え!」

まさかプリムの周りにまでいるとは知らなかった。学園では余程のことがなければ人は入れないので、おそらく出かける時なんだろうが、それでも周りにいることはエイリークから見ても分からない。
プリムは見られていると知っていてもただ平然としていたのだ。貴族とはそういうものなのかと思うとエイリークは目を見張った。

「もしかしたらエイリーク君も何かあるかもしれないですけどー、まあちょっと我慢したらいいので頑張りましょー。」

学園に入ってから数々の貴族の子とは生活上接してきたが、それでもまだ知らなかった貴族の世界に触れてエイリークが知る貴族はほんの少しでしかないんだと知った。

「さー、くだらない話を聞いてたらいっぱいお腹空いたので早く行きましょー。」

再びプリムは走り出す。廊下は走ることを禁止されているのに。貴族らしくないプリムだがその背を見ているとそれでも貴族らしいとエイリークは思った。
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