天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
120 / 139

支え合う

しおりを挟む
「それでどうだった?」

帰って早々に執務室に迎えば扉を開いてすぐにユースに聞かれた。

「成果はありません。どちらも協力も正直に話すことも拒否すると。」

「そうか……。」

「言い訳ばかりではぐらかしてばかりでした。」

鞄を座席に置いてから自分もドカリと座った。
いつもならすぐにお茶でも頼むが今日はとてもそんな気分にはなれない。

「王家はどれだけ舐められているんだ……子爵家は置いておいても平民にまで……。嘆かわしい。」

ウィンノルの報告を聞いてからユースは大きくため息をついた。

「命令でも出せれば直ぐにでも解決するんだがな……どうにか手立てはないか……。」

「……いっそ兄上が命令するのはどうです?立太子は確実ですし、次期国王の命令でさえも軽視するのならもう重罪です。王家をここまで足蹴にするなんて……。」

「ううん……確かにな……国王ではなくとも王子としての命令でも聞かないなら許されるものではないしな。貴族も民も全て王の臣下なのだからな……。最終的には考えてみるか。」

二人して頭を揃えてずっと考えているのに事態は好転しない。

「どちらにせよ、ミラー家と平民には罰を与えることは決定だな。王家への虚偽申告に非協力……学園からの退学くらいが妥当か?」

「そう思いますよ。王族への暴力に等しい。」

「では学園に申請しておこう。」

ユースは手早く書類を纏め始めた。方針が決まればすぐに動いた方がいい。自分たちがすぐに動いていればアレンシカは逃げなかったといつも悔いている。

「そういえば……プリム・ミラーが貴顕秩序衛務院に手紙の件を報告したとか。」

「手紙の件?ああフィラルのか。」

「外見が王族で中身が別の貴族のものだからだとか。まあ悪あがきですね。それでハッタリが出来るとでも思っているところが非常に浅はかな手です。」

「衛務院の最高責任者が王弟殿下だとは知らなかったのか?」

「それでこちらへの牽制になると思っているのだから知らなかったのではないですか?」

報告を聞いてユースは思わず出そうになる笑いを堪えた。最高責任者も王族なのだからいくら報告しようが自分たちの非になることをするはずがない。同じ身内でも可愛い息子の為に思わない国王とは大違いだ。
王弟殿下に連絡をしておくまでもない。

「王弟殿下が率いる衛務院にも話しているなら安心だろう。あちらも墓穴を掘ったな。」

ユースは鼻歌でも奏でそうに上機嫌になりながら仕事を片付けている。

「では罰するのはあちらに任せてもいいのですか?」

「いや、それだけでは示しはつかないから学園からも罰してもらう。よし、出来た。あとは届けてもらえば終わりだ。」

机の上には封書が存在感を放ちながら置いてある。あの子たちへの最後通牒だ。

「さて、あとはミラー家とリリーベル家へ……。だがこれは王の管轄でもあるからな。どうするか……。」

「まだリリーベル家への処罰が決まっていませんよね。では最後にきちんと話をしてからでもいいんじゃないですか?」

「話?」

「はい、あの子らはまだ教育が行き届いていないから融通が利かないんです。でもリリーベル家も今ならしっかり話を聞くかもしれません。プリム・ミラーへの処罰が聞かされるのなら。」

「そうだな……。侍従見習いでも処罰を与えられるのなら自分たちはさらに重くなる、と考えればもう少し王家へ協力的にもなるかもしれない。」

「これは希望的観測ですか?」

「……いや、アレンシカの婚約者はお前だ。最後にはお前の決定に俺も従うよ。」

「ありがとうございます。」

ウィンノルは噛みしめるようにお礼を言った。リーダーシップに溢れ優秀でしっかり者の兄が認めて見守ってくれることがウィンノルは嬉しかった。

「では、リリーベル家はウィンノルに任そう。雑務は俺に任せてくれ。」

「必ず成果を上げてみせます。」

兄弟の絆を確かめた時、執務室の扉が鳴った。

「失礼いたします。至急お知らせしたいことが。」

「なんだ?」

機嫌よくユースは入ってきた部下に返事をした。

「アレンシカ様が見つかりました。」
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~

めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】 ※投稿時間は多少前後する場合があります 火刑台の上で、すべてを失った。 愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。 王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。 だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。 この世界はもう信じない。 この命は、復讐のために使う。 かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。 裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。 “今度こそ、誰も信じない。  ただ、すべてを終わらせるために。”

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

処理中です...