121 / 139
居場所
しおりを挟む
その言葉を聞いた途端ウィンノルもユースも大きな音を鳴らしながら立ち上がった。
「どこにいたんだ!」
「隣国のハンリビス王国です。」
「何⁉」
冷静に部下が答えるがウィンノルは部下に詰め寄り必死に問いかける。
「今すぐここに連れて来い!」
「出来ません。ハンリビス王国宰相であるシルロライラ公爵家へ身を寄せているようで、すぐに連れて来られる場所ではありませんでした。」
「その情報は確かなんだろうな?」
「はい、ハンリビスと交流のあった貴族からの話です。報告が来てすぐに確認させましたが確かに今ハンリビス王国宰相の屋敷にいます。報告書はこちらです。」
「……良くやった、下がっていい。」
また部下は足早に帰っていく。
ウィンノルは力が抜けたようにヘナヘナとまた座り安堵して息をついた。
「アレンシカはどうしてそんなところへ……。」
「リリーベル家はシルロライラ家と繋がりはあったか……?」
「分かりません……でもアレンシカの居場所が分かってよかった……。」
ウィンノルは本当に安心したようでホッとした表情をしている。そんな弟を見てユースは悔しさを滲ませた。
「ウィンノルがこんなに心配しているのに……アレンシカもリリーベル家も、なんでこんなに……!」
拳を握りしめて手が真っ白になる。うっかり手に持っていた書類がグシャグシャになったことに気づいてユースは慌てて書類を伸ばした。隣国にいる報告書は重要な証拠なのに。
「早くアレンシカを連れて来なければ駄目だ。でも隣国宰相のところにいるのでは下手をすれば国際問題になる。大事にならず出来ればアレンシカが自主的に来るのが一番いいんだが……。」
ユースはすぐにアレンシカを連れ戻す方法を思案するが良い方法は思い浮かばない。何せ相手は隣国の公爵家であるだけでなく宰相。隣国王家に近い立場でありひとつ間違えれば王家対王家の問題になってしまってもおかしくはない。
「でもあれだけ居場所が分からなかったのに、なんで今回はあっさりと見つかったのか……。」
安心感が落ち着いたウィンノルはアレンシカが隣国にいる理由が知りたかった。交友関係の少ないアレンシカが何故隣国だったのか。リリーベル家の計らいか別の何かか。それでも考えても分からない。
「国を出たからと油断したんだろ。隣国民は口止め出来ないことを忘れて隣国へ行くなんてとんだ抜けているな。」
「アレンシカは昔から抜けているところがありましたからね……。世間知らずですし宰相の世話になっているとはいえ知らないところでやっていけているのか……。」
「そうだな……。迷惑をかけてしまう前に帰って来ないと。フィルニースの恥になってしまう。」
ユースは新しく王族にしか使えない紙を取り出した。もちろん親書を送る為だ。
「ともかく居場所が分かって一歩前進だな。」
「はい。俺もアレンシカを迎える準備をしないと。」
ウィンノルの瞳にやる気が灯る。どこにいるか分からないアレンシカがいつ帰って来るのか分からない状況で、ただ闇雲にしか動けない状況からようやく好転した。目指すべき場所がやっと見えればあとはそこまで一生懸命に走ればいいだけだ。
「アレンシカにウィンノルがこれだけ心配しているってとこを見せてあげたいよ。そうすればすぐに帰って来るだろうに。」
「俺はアレンシカが帰って来ればそれだけでいいです。アレンシカが俺を見る時は帰って来る時ですから。」
「そうだな……。だがウィンノルは優しすぎる。もっと怒っていいんだぞ。今回のアレンシカはさすがに勝手すぎる。」
「いいえ。……俺がしっかりすればいいだけですから。」
兄として悔しさも悲しさもあるが、優しすぎて我慢しすぎてしまう弟の為に出来る限り自分が何とかしてやらなければとユースは心の中で誓った。
「アレンシカが帰って来たら、ちゃんと手握っとけよ。」
自分の考えは何も言わずウィンノルの肩を叩いてやる。
「はい。あと少しですよ兄上。」
ウィンノルは明るい未来を予感し穏やかに笑った。
「どこにいたんだ!」
「隣国のハンリビス王国です。」
「何⁉」
冷静に部下が答えるがウィンノルは部下に詰め寄り必死に問いかける。
「今すぐここに連れて来い!」
「出来ません。ハンリビス王国宰相であるシルロライラ公爵家へ身を寄せているようで、すぐに連れて来られる場所ではありませんでした。」
「その情報は確かなんだろうな?」
「はい、ハンリビスと交流のあった貴族からの話です。報告が来てすぐに確認させましたが確かに今ハンリビス王国宰相の屋敷にいます。報告書はこちらです。」
「……良くやった、下がっていい。」
また部下は足早に帰っていく。
ウィンノルは力が抜けたようにヘナヘナとまた座り安堵して息をついた。
「アレンシカはどうしてそんなところへ……。」
「リリーベル家はシルロライラ家と繋がりはあったか……?」
「分かりません……でもアレンシカの居場所が分かってよかった……。」
ウィンノルは本当に安心したようでホッとした表情をしている。そんな弟を見てユースは悔しさを滲ませた。
「ウィンノルがこんなに心配しているのに……アレンシカもリリーベル家も、なんでこんなに……!」
拳を握りしめて手が真っ白になる。うっかり手に持っていた書類がグシャグシャになったことに気づいてユースは慌てて書類を伸ばした。隣国にいる報告書は重要な証拠なのに。
「早くアレンシカを連れて来なければ駄目だ。でも隣国宰相のところにいるのでは下手をすれば国際問題になる。大事にならず出来ればアレンシカが自主的に来るのが一番いいんだが……。」
ユースはすぐにアレンシカを連れ戻す方法を思案するが良い方法は思い浮かばない。何せ相手は隣国の公爵家であるだけでなく宰相。隣国王家に近い立場でありひとつ間違えれば王家対王家の問題になってしまってもおかしくはない。
「でもあれだけ居場所が分からなかったのに、なんで今回はあっさりと見つかったのか……。」
安心感が落ち着いたウィンノルはアレンシカが隣国にいる理由が知りたかった。交友関係の少ないアレンシカが何故隣国だったのか。リリーベル家の計らいか別の何かか。それでも考えても分からない。
「国を出たからと油断したんだろ。隣国民は口止め出来ないことを忘れて隣国へ行くなんてとんだ抜けているな。」
「アレンシカは昔から抜けているところがありましたからね……。世間知らずですし宰相の世話になっているとはいえ知らないところでやっていけているのか……。」
「そうだな……。迷惑をかけてしまう前に帰って来ないと。フィルニースの恥になってしまう。」
ユースは新しく王族にしか使えない紙を取り出した。もちろん親書を送る為だ。
「ともかく居場所が分かって一歩前進だな。」
「はい。俺もアレンシカを迎える準備をしないと。」
ウィンノルの瞳にやる気が灯る。どこにいるか分からないアレンシカがいつ帰って来るのか分からない状況で、ただ闇雲にしか動けない状況からようやく好転した。目指すべき場所がやっと見えればあとはそこまで一生懸命に走ればいいだけだ。
「アレンシカにウィンノルがこれだけ心配しているってとこを見せてあげたいよ。そうすればすぐに帰って来るだろうに。」
「俺はアレンシカが帰って来ればそれだけでいいです。アレンシカが俺を見る時は帰って来る時ですから。」
「そうだな……。だがウィンノルは優しすぎる。もっと怒っていいんだぞ。今回のアレンシカはさすがに勝手すぎる。」
「いいえ。……俺がしっかりすればいいだけですから。」
兄として悔しさも悲しさもあるが、優しすぎて我慢しすぎてしまう弟の為に出来る限り自分が何とかしてやらなければとユースは心の中で誓った。
「アレンシカが帰って来たら、ちゃんと手握っとけよ。」
自分の考えは何も言わずウィンノルの肩を叩いてやる。
「はい。あと少しですよ兄上。」
ウィンノルは明るい未来を予感し穏やかに笑った。
181
あなたにおすすめの小説
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~
めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】
※投稿時間は多少前後する場合があります
火刑台の上で、すべてを失った。
愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。
王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。
だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。
この世界はもう信じない。
この命は、復讐のために使う。
かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。
裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。
“今度こそ、誰も信じない。
ただ、すべてを終わらせるために。”
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる
水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。
「君のすべては、俺が管理する」
戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。
これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる