天使が私に落ちてくる

高遠 加奈

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僕の彼女は

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僕の彼女は小田結香ちゃん。

保育園からの片思いがやっと実って、付き合うことになったばかりだ。

もう毎日が楽しくてしかたない。


彼女は、さらさらの黒髪を背中のなかほどまで伸ばした小柄でかわいい女の子だ。

雪のように白い肌に、淡い桜色の唇。

華奢で守ってあげたくなるような女の子なのに、芯がとても強くて格好いい。


僕の大好きな女の子だ。


そんな結香ちゃんは、学校では『珍獣姫』という有り難くもない二つ名がある。


なぜ珍獣なのかといえば、感覚が少し特異で理解し難い反応をするからだ。



「ねえ昨日のNステ見た? 」

「あー見た見た! やっぱさー二台目だよねー格好よかったぁ」


というような会話には結香ちゃんは反応しない。まったく興味がないからだ。


ちらちらと結香ちゃんを伺っている男どももいるけれど、結香ちゃんの醸し出す一種独特な雰囲気にみんなが恐れおののいているので、彼女は安全なのだ。


図書室の隅でノートを広げて書きつけているのは、数学の証明問題でどれだけ美しい回答が出来るのかを競っている。

彼女は、めちゃくちゃ理系脳なので、人の感情の機敏を学ぶ国語やら古典が大の苦手で、正しい答えのある数学が好きなのだ。


ちなみに数学だけでいったら、僕も結香ちゃんには適わない。他の教科で挽回して初めて結香ちゃんを上回ることが出来るだけで、結香ちゃんほど得手不得手の差がないだけだ。


図書室の隅ではまだ二台目とやらの話で盛り上がっている。ざわざわしていても、集中している結香ちゃんは気が付かずにいっしんに書き込んでいた。


たとえ二台目の話に乗ってこなくても、僕には結香ちゃんが食らいつくネタがある。


「ねえ結香ちゃん、 ○北先生がね……」


耳元で囁くだけで、がばっと顔をあげた。顔を赤らめて耳を押さえたのもカワイイけれど、話の内容に興味があるのは目を見ればわかる。



世界的なN賞を受賞した○北先生が大好きな結香ちゃんは、この話題には食らいついてくる。

話の続きをせがむように、唇が突き出ていて摘まんでしまいたいくらいカワイイ。制服の袖をちょこんとつまんで、引っ張るのもカワイイ。

もう何しててもカワイイ。


「○北先生がね、ゴルフを始めたのは歩いたほうがいいってお医者さまに勧められたらからなんだって」


これは以前、教授なのにゴルフとかちゃらいとぷりぷりしていたから調べてみた。

ゴルフをしている人がみな、ちゃらくてミーハーだとは限らないけれど、何よりも彼女のご機嫌を損ねずいい状態に持っていきたい。


「きっと研究ばかりで無理なさっていたから、お医者さまも心配したんだね」


目がうるうるとしている。自分以外の誰かを思ってうるうるするのは許せないが、○北先生は大の愛妻家でN賞の授賞式にも胸ポケットに亡くなった奥様の写真をしのばせて、「連れてきていますから」と言って結香ちゃんの好感度をマックスまで引き上げていた。


○北先生は結香ちゃんにとって憧れの存在で、その夫婦のありかたさえも憧れなのだ。



「今、○北先生のご本を読んでいるんだけど、結香ちゃんも見たい? 」

「見たい。読んだら貸して」


おねだりする結香ちゃんもカワイイ。


必死に見上げてくる、うるうるの目とぷっくりした唇がすこし開いていてそそる。


「それから今日、結香ちゃん家に寄らない? 母さんがタルトタタンを焼くんだって」

「やーーん。いくいく」


体を揺らしてきゃあきゃあ喜んでいる結香ちゃんには悪いけれど、ヤバい下半身が。

勝手に脳内変換された結香ちゃんにのし掛かっている自分を慌てて打ち消す。

結香ちゃんへの餌付けも完璧だ。


ここまで囲い込むのにどれだけ苦労をしたか。


公認として認められなければ逃げられるとわかっていたし、まずは恋心を認識して欲しかった。


「じゃあ一緒に帰ろうね」


机の下で手を握ったら、やっと恥ずかしそうに頷いた。



「あの、手つないでて勉強できないんじゃない? 」

「今日は教科書読んでるから」


右手で結香ちゃんと手をつないでいるから心配されたけれど、本当は両手が使える。もともと左利きだったのを右手も使えるようにしたからで不便はない。

でもそれはまだ教えない。

いつ結香ちゃんが気付くだろう。


驚いてぷりぷり怒るかもしれない。それで知らなかった僕のことをもっと知りたいと思って欲しい。


「帰りもずっと手をつないでようね」


初めて会った時に結香ちゃんが見つけてくれた「天使」みたいな笑顔をつくる。


その天使の笑顔の下の欲望なんて打ち消すくらいの笑顔。


赤くなった結香ちゃんに満足して、またお互いの勉強を始める。


ゆっくりじっくり結香ちゃんを攻めていく。長い長い初恋を味わいながら。
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