16 / 80
知らなかった世界
しおりを挟む暗い舞台に、ぽつぽつと淡い明かりがともされる。
舞台はもう終盤を迎えていた。
なごやかに酒を酌み交わす武将がいる。最後に飲んだ盃を投げ捨てて、舞台の左右に別れていく。
「友として会うのは、これが最後よ。次に会ったら容赦しない」
「戦場(いくさば)ではお前は敵だ。最後は俺が引導を渡してやる」
「おう。お前の手に掛かるなら本望よ。だかそうやすやすと手にかかると思うな」
「違いない」
笑いあい別れる。そして幕が下ろされた。啜り泣きの声と拍手の中、前列端の女性が早々と席を立った。
暗い中でも慣れた目には、彼女の顔がはっきりと見れた。
女優さんだった。
高遠さんの出演しているドラマの刑事役。倉持里沙さんだった。彼女は席を立つとドアのすぐ前まで移動して、スタッフらしき人達と挨拶を交わしている。
ああ、共演者にはチケットを渡したりするんだ…
大きくなった拍手で、注意が舞台に戻される。
幕の下りた舞台には、主だった俳優さん達が戻って来て、深々と頭を下げていた。
頭を上げるなり、ぴたりと拍手が止む。
「えー…本日も、たくさんの方にご来場頂きましてありがとうございます。この公演も間もなく終了となりますが、毎度汗をかきながら役をやらせてもらっています…そうだよなぁ裕也」
主演の凪達之さんが、隣の高遠さんの首を掴む。
「ほんっと体はボロボロなんですけど、こうやって公演ごとにお客様からあったかい拍手を貰うことが、次の舞台に上がる原動力になります。いつも差し入れありがとーね」
わあっと拍手がおきる。高遠さんが話すと華やかな雰囲気が広がる。手を振りながら、高遠さんの視線が一箇所に止まりにこっと笑った。すぐに逸らされたものの、その視線を辿った先には倉持里沙さんがいた。
ドキンとした。
その笑顔は、共演者としてのものなの?
それとも他に意味があるの……
舞台では他の人にも話を振ったらしく、なごやかな雰囲気のなか話している。
しかし
それもカーテンコール。そんなに長く見れる訳じゃない。
出演者は、また深くお辞儀をして舞台の袖に消えていった。
会場への扉の前からは、倉持里沙さんの姿が消えていた……
別世界の人なんだと思う。あんな綺麗な女優さんが一緒にいたら、好きになってしまうかもしれない。
ぎり、と唇を噛み締めて席を立とうとしたら、会場にいる大半の観客は、熱心に舞台の感想を書いていた。
アタシも慌てて用紙を探す。席に置かれていたチラシの中にその用紙があって、ほっとする。
どこかで、繋がっていたい。
たとえそれが一方的だとしても、他に何が出来るだろう。
1
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる