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ドライブの始まり
しおりを挟む道端に立っていたアタシの隣に白い車が止まった。チカチカとハザードランプを点滅させているのは尾上さんだった。
「待たせたね。乗って」
乗り込むと、尾上さんの香りがふわっと香る。
「今日はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、頭の上で笑い声がした。
「会社の延長じゃなく、楽にしてくれていいからね」
「いや…でも緊張しますね」
尾上さんは生地にぽつぽつと刺繍でドットの入ったシャツに、下にはジーンズを合わせていた。合わせた腕時計もカジュアルなクロノグラフで、休日の服装だった。
移動の足が確保できたことに安心していたけれど、撮影現場までは、たっぷり二時間はかかる。その間、車で二人きり。
どんなことを話したらいいのか、頭がぐるぐるしてきた。
「…きっ…きょうわ…いいお天気ですね」
隣で尾上さんが噴き出して、くつくつと笑い出す。
「何、変に意識してる?」
「…はい」
「普段どおり、気にしないでいいから。渡辺さんは車酔いするほう」
「子供の時なら酔ったりもしましたけど、大人になってから大丈夫です」
「そう。ならよかった。じゃあ車で聞きたいCDがあったら選んで」
そう言って紙袋いっぱいのCDを渡された。
「どんなジャンルが好きか知らないから、妹のCDも借りたんだけど」
確かにあらゆるジャンルを取り揃えてあった。演歌と童謡がないのが不思議なくらい。
洋楽にクラッシック、AKB、EXILE、ゆず、Mr.Children、スガシカオ、サカナクションまである。
かさかさとケースを見ていたら、一枚だけ白いディスクに油性ペンで『流れ』と書いたものがあった。
どうやらディスクに焼いてくれた人が文字を書いたようで、さらりと流れるような文体だった。
「尾上さん、これ何ですか」
言っておきながら、運転中だと気づき、慌てて付け足す。
「ああっ…そのまま、そのまま運転しながらで聞いてください。よそ見しないでいいですっ」
ちらりと窺うとくすくす笑いがおきていたけれど、こちらに注意が向いては危険だ。慌てて一気に冷や汗が出た。
「あのですね、預かったCDの中に白いディスクにペンで『流れ』と書いてあったものがあるのですが…」
「興味があるならかけてみようか。今回のCM用に編集してもらったものだから、まだ社外秘なんだよ」
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