君までの距離

高遠 加奈

文字の大きさ
75 / 80

新しい職場

しおりを挟む

アタシで大丈夫なのかという不安はあるけれど、この出会いを許してくれて次に繋げようとしてくれている気持ちに応えたかった。



「裕也の携帯番号とアドレスを送ります。赤外線受信にしてください」



差し出された携帯に、慌てて受信画面を呼び出し、携帯を近づける。

受信状態からアドレスを受け取ったと画面が変わる。


「あなたの番号は裕也にメールを入れてください。そのほうが喜びますから」


なにもかも高遠さん中心に動くマネージャーさんの心遣いに頭が下がる思いがする。



「裕也は現在ドラマの撮影でスタジオに入っていますが、終り予定は深夜に近くなります。

私から勝次さんには連絡を入れておきますので、あなたはお好きな時間にお店までいらしてください」



アタシを見る目にわずかに柔らかな光が写る。

「何もかもありがとうございました」

「何かあった場合のために、私の番号を教えたいのですが、よろしいですか」


今度は蓮見さんが自分の携帯を取り出して見せる。

「私に番号を教える必要はありません。こちらからの連絡はありません」

アタシは頷いて携帯をかざした。もし連絡を寄越すようなことがあるなら、アタシと高遠さんは終りだと言っているみたいだ。


「それでは失礼します」

蓮見マネージャーを見送ると、途端に自分の置かれた立場というものを思い出す。

慌ててエレベーターに飛び乗り、指定された会議室のある階に向かった。



「渡辺、遅刻よ」

「すみません、花山さん。先に見て下さい」



眼鏡を直して鋭い視線を寄越すのは、今のボスだ。慌ててプリントアウトした紙の束を、花山さんの前に滑らせる。

静かな中に紙をめくる音しかしなくて、アタシは自分の心臓がいつもより早く打つのを感じていた。



「渡辺、主人公の速峰の性格、きちんと把握してる?今回は原作なしのオリジナルなんだから、速峰は当て書きして。彼の主演ドラマは何本見たの?」

「え…っと…二時間枠の特別ドラマ二本と、ワンクールのドラマを七回まで…」

ぶわっと嫌な汗が出るのがわかった。このボスの圧力は半端ない。ぎしっと椅子が軋むのにさえ、神経が擦り減りそうになる。

「ふうん…まあ渡辺にしたらリサーチしたほう?で、視聴者は何を求めてるんだと思う?」


「ええと…やっぱり格好よさですか。イケメンランキングでも上位の俳優さんだし…」

わたわたと慌ててしまい、無駄に腕を振る。

「そーね。まあそりゃ普通よ。視聴者は見たことない速峰瞬を見たい訳よ。あんたどんな男の仕草にぐっとくんのよ」



思い出したのは、さっきの高遠さんで顔が赤くなる。
誰かに好きになってもらって、あんなに求められたのは初めてだった。

そっと唇に手で触れてみるけれど、それはあの高遠さんの唇の感触とは違っていた。



「なに赤くなったんの。やらしー。この回では肉体的なコトはナシだから。チューもダメ」

「ち、違います、そんなの書けないです」



何と言っても、経験値が低すぎる。

「ふっふっふ。そこはアタシの腕の見せ所でしょうが!!」

キラリと眼鏡を光らせてアタシを見る目は、なんだかヤバい光が宿っていた。



アタシは、これからこの会議室で行われる会議に出ることになっていたのだけれど、早く着きすぎたのでスタジオの方まで足を伸ばしていたのだ。

壁に貼られた紙を確認して室内に入ると、見慣れた人の姿かそこにはあった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...