君までの距離

高遠 加奈

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かかってきた電話

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ひとしきり泣いたあとアタシたちは、お互いの顔を見合わせて笑った。


「相談が遅くなってごめんね。きちんと決めてから話したかったんだ」

「……いいの。話してくれたから……」

「遥香に頼みたいことがあるの。アタシの書いた脚本を見てくれる?」

「……ええ。喜んで見せてもらうわ……」

そう言って、華やかに笑う遥香はとても綺麗だった。





それから遥香に協力してもらって書き上げた作品は、締め切りまぎわにポストへと投げ込まれた。


結果から言うなら、アタシの作品は選ばれることはなかった。

がっかりしたけれど、それが実力というものらしい。

ぼーっとパソコン画面を眺めていたら、携帯が震えて着信を告げた。ポケットから引っ張り出して眺めると、携帯番号が表示されていた。登録されていない番号は、普段出ないけれど判断力の落ちていたアタシは通話ボタンを押していた。

『あ、出た出た~ねぇ、あなたアタシんとこで脚本書かない?』

「え」

誰?そして何者?

固まるアタシを余所に、通話口でまくし立てるように言葉を浴びせられる。


「あの、話が見えないのですが…どちら様ですか?」

ごくりと唾を飲み込んだ。新手の詐欺だったらどうしよう…

『ああ、どちら様?アタシ花山って言うのヨロシク~アタシあなたが書いた脚本賞で審査員してたの~で、良かったらウチで書いてみない?もちろん、今のままじゃダメよ。ビシビシしごくけどついて来れるなら、使ってあげるわぁ』

「えっ…ほ、本当ですかっ…!!」

思わず体が前のめりになって、じわっと体温があがるのを感じた。

アタシの作品、審査員が読んでくれたんだ。小説の賞だと、まず下読みという人がいて、そこで大半がふるいに掛けられて落ちてしまう。そこからさらに二次審査、三次審査、最終審査とふるいに掛けられて、最終的に残ったものが入賞作品になる。もっとも、大きな小説の賞でさえ不作の年があって入賞作品が出ない年もある。

『あなた三次まで残ってたじゃない。アタシはそこから審査に入ってたわけよ』


「うわっ…ありがとうございます…あの、どうしてアタシに声を掛けて頂けたのでしょうか」

通話口でひと呼吸あいて、ふっと笑う吐息が届く。

『ん~~正直、勘なんだけどね。あ、この子書きたいものがあるんだな~って思ったのよ。まだ技術的には上手くいかないんだけど、使ってみたい魅力があったのよね』

「魅力、ですか」

『そ。誰にも染まらないオリジナリティがあると思った。だからまぁ本来なら、一人でコツコツやったらいいんだろ~けど、なんか使ってみたくなったのよ』

そこで初めて、アタシの涙腺が崩壊した。誰かに必要とされる事なんて今まで無かったから、アタシはぼたぼた垂れる涙も鼻水もそのままに答えていた。

「あ、アタシで、いっ…いいんれすか」

『あんたがいいの。アタシは』


「ありがとう、ございます」

ただもう感謝の気持ちしか湧かず、見えない相手に深々と頭を下げていた。

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