その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

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Lithium

第二十四話 泥沼のラベール花

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 あれからただ大河を横目に遥か向こうで鬱蒼と繁る森へと一直線に歩き続けた。
 その間にルナと交わした会話の殆どはルナの生い立ちから村の文化言い伝え等である。


 お陰でルナがどんな幼少期を過ごし、そこそこの鍛練を積み現在に至るのか嫌と言う程分かった。
 ただその中で疑問だったのはやはり村での魔物に対する策だろう。
 あんな化け物に襲われながら、獣と意思を疎通出来る力を持ちながら、何故か対策はギルドへ依頼を出すのみだ。
 それまで村の娘を生け贄に差し出し事なきを得ていたと言うが、それを良しとする村の意向も理解に苦しむ上何故それで魔物が帰っていくのかも分からない。

 村を襲うと言うのが魔物の目的では無いのだろうか、それとも魔物には意志があったのか、考えれば考えるほど解せなかった。
 ただ分かった事と言えばそう、ルナが年の頃十七だと言う事だ。
 真は地球にいた時二十七だったので十個も差があると言う事になる。
 話が会わないのはジェネレーションギャップだろうか、そう考えるとフレイとは年が近かったのだろうと真は推測していた。


「やっとか……全く普通に歩くと時間がかかるな」
「……はぁ、着きました。この辺りには獣がいないから大変です」


 ようやく背の低い木々が生え並ぶ森の近くまで来て、疲れた様子でルナがそんなことを口走る。

「そういえば……フレイがお前の事を獣使いモンスターテイマーとか言っていたが」
「……その言い方は分かりませんが……確かに獣とは意思疏通が出来ますね。いつからかは覚えてないんですが」

「近くにいないとダメなのか?その、獣が」


 真にはどうにもそれが信じられなかったが一応その仕組みと言うかその能力の規制を聞いてみる事にした。
 生物を操る事事態は真のいた地球では容易い。
 だが意思疏通となるとそれは出来ない事もないがする必要性が無かったのだ。

 種族固有の、それは時に言葉であったり周波数であったり、声や音であるからそれを生物の感情と発現方法から統計的に判断すれば意思疏通に近い事は出来るが動物と交友を交わしても何のメリットも無い。
 強いて動物を利用すると言えば国連が生物兵器バイオメタトロンを作製した時位であり、結局その存在はデスデバッカーの開発したアンドロイドキルラーの足元にも及ばなかった訳だが。


「そうですね……指笛がその対象とする獣に聞こえる範囲なら大丈夫です。ここならもしかしたら呼べるかもしれないですが」
「呼ばんでよろしい」

 ルナが口に指を近付けたのを見て真は空かさずそれを却下させた。
 その能力が本当かどうかを別に知りたい訳ではないのだ。
 今ここであの狼に似た物を呼ばれても真は自分がその事態をどうすればいいのか検討も付かなかった。

「ここからは川沿いにラベール花を探しながら歩くぞ」
「あっ、はいぃ!」


 王都の時より大分川幅が狭くなった大河の川岸をスタスタと進む真に慌てて後を追うルナ。
 大きめの砂利が足元の道を歩きにくくする。
 ルナはあまりこう言った不安定な場所や野山を歩いた事が無いのか、時おり足を石から踏み外したりしながら杖を落としたり必死の様子である。

 その光景を見かねた真は横で手を貸してやる事にしたが、この様なら獣に乗って来たと言うのはあながち間違ってはいないだろうと感じるのだった。











 足元の砂利も少なくなり、少しぬかるんだ土が地面の水草を支えている。
 河もすっかり渓谷を流れる清流さながらの様相だ。


「あ、これは!」
「ん……」

 ルナは何やら水草の陰に何かを見つけた様だった。
 その反応に真は先に見付けられてしまったかと少々の悔しさも感じながらルナに歩み寄る。

「シン様、これですかね?」

 ルナが指差すそこには薄紫色の花弁が何枚か付く茎の長い植物。
 茎の長さまで依頼書の絵には描かれていなかったが、色合いや項垂れた花弁の形から恐らくこれで間違いないと予測された。



「これだろうな……ちょっと待て」

 ルナのいる辺りではポツポツと同じ植物が水草の合間から花を咲かせていた。
 真はデバイスでこっそりと撮影した依頼書の絵とその花を見比べ同定していく。

「間違い、無さそうだ」
「シン、様……それは」

 ルナは真のデバイスに釘付けになっている。
 デバイスに依頼書と同じ絵が写っている事が不思議で堪らない様であった。

「気にするな、英雄七不思議だ」
「え!?えっ!……はっ!なるほどっ」


 やはりこいつは馬鹿なんだなと真は自分の予想通りの反応をするルナを横目にその花を茎から千切って集めていく。

 真にはルナの性格が段々と把握出来ていた。
 純真無垢で無知、疑う事を知らない天然娘。現在真を英雄だと勘違いしているルナならば自分の科学技術を見せてもそれすなわち理由も原理も説明不要の他言無用になるだろうと思っての行動だ。
 多少お喋りな所はあるがこの世界で常識外の話を誰かにした所で恐らく誰もこんな娘の言う事など信じはしないだろう。


「最低五十、出来れば百は摘みたい。手伝ってくれ」
「あっ、はい!勿論です、お任せくださいっ」


 ルナは真のそんな自分を頼る言葉に背筋をピンと伸ばし嬉しそうに片っ端からラベールの花を摘んでいった。
 一輪に付き銅貨一枚、だとしたらそれぐらい集めなければ今日の宿代も稼げない。
 フレイに借りた金があるとは言え、返さなければいけない以上あまり手をつけたくはなかったのだ。


 ルナがそのうちラベール花の群生地を発見した様で、はしゃぎながら花を摘んでいる。



「うっ、わぁっ!?」

 突如ルナが奇怪な声を発してその場から消え去った。
 何事かと真は慌ててルナがいたラベール花の群生地へ駆け寄るが――――

「っん!?」

 足元のぬかるんだ土に真は足を取られる。
 ルナはどうやら沼に嵌まった様で太股まで足が沈んでいた。
 元から背の低いルナは沼に嵌まった事で水草に姿が隠れ消えた様に見えたのだ。


「しっ……シン様!」
「ちょっと待てルナ、動くな」

 ルナは焦っているのだろう、首を左右に振りながら必死の形相で沈んだ足を抜こうとしていたが真が珍しくもルナの名前を呼んだ事でそれが恥ずかしかったのか頬を赤らめたまま動きを停止した。

 地球でこんな泥濘に足を突っ込む事は無かった真も内心で少し焦っていた。
 だが冷静に考える。真に関して言えば先程まで立っていた場所は少し泥がある程度でここまで地面が緩くは無かった。
 つまりは半歩後ろはまだ体重に耐えられる強度の地面である筈だと。
 一旦そこまで戻ってそれからルナを救出する方法を考えようと真は判断した。



 デバイスを操作し、加速システムの反発応力を設定1.1倍に変更。上部へ向け作動させ、体重を地面にかける。
 反発応力によって少しだけ足元が浮く感覚を感じたがまだ足が抜ける気配はない。
 足を少し左に傾け空気の通り道を作りながら反発応力の設定を上げていく。
 設定を1.7倍まで上げた所で下に荷重をかけると、真の体は一気に上へと持ち上げられた。


「ぅおっと」

 一気に抵抗を失った真の体はそのまま一メートル程中空へ上がっている。
 慌てて重力操作を行い、真の足形の様にぽっかりと二つの穴が開いた沼より後ろへ狙いを定めゆっくりと着地した。


「シン様っ!」
「ふぅ……さて、次はお前をどうするかだな」


 驚愕と不安が共存するルナの表情、動いたせいで腰近くまで泥濘に嵌まったルナを眺めながら真は頭を悩ませた。
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