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5話 口の臭い少女・2
しおりを挟むそこそこ交通量のある県道沿いに、今にも崩れそうな木造家屋。
否、この現代において家屋と言うには少し設計が甘すぎる、まるで素人の父親が集めてきた古材で建てたかのような大きな犬小屋。
そう表現しても罰は当たらない程、その家屋はボロく、古く、汚く見えた。
「さぁ入って入って!」
「おいおい、まじかよ三河。家よりボロいじゃん!」
「てか、こんな近かったのかよ三河ん家」
宏と大地は思い思いの言葉を並べ立てながらも、子供だからだろうかそこまで家がボロい事など気にしていない様子で、三河さゆりの家へと無遠慮に踏み込む。
「さ、友君も! 見せたいものがあるんだぁ」
「いや、でもほら、お父さんとかお母さんは」
「大丈夫、誰もいないから」
女子の口から家には誰もいないからと誘われるそんなシチュエーションにドギマギしながら、さゆりに手を引かれた友作は二人に続き玄関とも言い難い玄関を潜る。
室内は薄暗く、平屋な為か中は何ヶ所かの部屋へと続く廊下が嫌に長く感じた。
古臭い木の匂いしがするはずのない家は、だが隣にいる女子のせいかとても心地いい、それでいてどこか甘さを感じさせるものだった。
大地と宏は家の中を勝手に探検所にして楽しんでいる。
他人の家に土足で上がり込むとはまさにこの事、悪ガキと言う言葉が今更ながらしっくり来ていた。
友作を含む宏と大地は、学校内でも有名な問題児であった。
給食泥棒、教師いじめ、ケンカ、学級崩壊、深夜徘徊。
しかし同級生のイジメには絶対に加担しない、そんなグループだった。
三河さゆりはあるグループからはいじめに近い嫌がらせを受けてはいたが、それはもう一つの派閥だ。
小学校程度でもそんな派閥があるのだから、それが中、高となれば問題が増えるのも当たり前だろう。
それを思うと、今後もそんな学校教育の中必死で生きていく若者達が不憫に思えて仕方なかった。
「ねぇ友君……」
「ん? どうした三河」
暗がりで三河の顔がふと近くなり、友作はその雰囲気に一瞬飲まれそうになる。
大人を越えて、最早おっさんである自分。
そして小学5年の男子でしかない自分。
そんな二つの精神状態が重なり、合わさり、捻じれ、友作はそれでもその雰囲気を壊す事を選択した。
「あ、あいつらどこいったんだよ。ったく他人ん家で」
「あはは、いいのいいの! あのね、友君、ありがと。友達になってくれて」
三河さゆりは静かに、そしていつもの嘘くさい笑顔とは違う顔でそう言い友作の手を取った。
「見せたいものがあるって言ったでしょ? こっち!」
「あ、ああ」
暗がりの廊下を突き当たり、家屋全体を作る黒い木材と同じ色の古びた木扉を開け放つ。
そこには一面の稲畑が広がっていた。
ふと友作の脳裏にあの頃の記憶が、輝く星のように駆け抜けた。
同じ事があったと。
いつかに見たこの景色、この気持ち。そして後悔。
何に後悔していたのかは思い出せないが、自分は確かにこの景色を知っている。
知っているも過去に見たも、今見ているのだからなんとも他人にはとても説明出来ないが、友作自身は確かに過去の記憶と今の自分が重なっていた。
庭と言うには広過ぎ、手入れがなさ過ぎるその場所。
言うなればそれは近所にある野原。
「ここ、綺麗でしょ? 好きなんだこの場所。ここを見せたかったの」
なんの事は無いただの野原。
家からたまたま繋がった外でしかない。
だがそこに生える稲はサラサラと風に靡かれ、夕陽がまるで光の栄養かのように降り注ぐ。
「友君? 大丈夫?」
「あ、え? あ、なんで、俺」
気付けば友作は涙を流していた。
泣いているのは当時の、否小5の自分か。
それとも未来、否30を越えたおっさんの自分か。
「おぉぃ!!」
「うぅりゃぁ!」
「おわっ」
そんな感傷的な空気をぶち壊すように、友作の背中へ二つの重みがのしかかる。
「なぁにしてんだよ、二人でぇ」
「うぉ、見ろよ宏。すげぇなここ」
「でしょでしょ? ここ私のお気に入り!」
ただの稲畑に同じく感動を覚える悪ガキ二人組。
そしてそんな横で嬉しそうに笑う少女。
「みんな、ありがとね」
「あぁん? 何がだよ三河」
「ううん! なんでも」
「なぁ、それより次どっか行かねえ?」
三河さゆりの言葉の意味にも気付かず、悪ガキ二人は平常運転で楽しそうに外を走り回っていた。
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