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8話 リピート
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「おい、友作! いつまで寝てんだよ、行くぞ、アイツイジメんだよ」
古臭いが何処か懐かしい匂い。
茶色と、艶のない銀色で構成された机と椅子。
飲み込まれそうな程の深緑で埋め尽くされた全面には、消し損なった白いチョークの文字。
「か、ぁ、か、かはっ! はぁ、はぁ、はぁ……」
馬鹿な。
白いチョークの文字?そんな事はどうだっていい。
白い?
いや、赤。
それは黒に赤をほんの少しだけ混ぜた、そう。
カラスをその場で叩き潰したような赤と黒。
そこから伸びる、細い首。赤いランドセル。散らばるノートと教科書。
スカート。
捻じれた脚――
「ぅ、お、おぇぇ!!」
そこまで記憶を振り返った時、友作はこみ上げる吐き気に抗えなくなった。
何故。
何が起きた。
そんな事は明白だった。
自分が、三河を、突き飛ばし、そこへ……。
三河が、死んだ。
自分のせいで、トラックに轢かれた。
目の前で。
宏と大地は無事だった。
あまりに強すぎる記憶が、友作のシナプスを全開に開け放ち、フラッシュバックさせる。
今までの強気な態度など全て忘れてしまったかの様に、ワルガキ等と呼ばれて喜んでいた事が嘘のように。
叫ぶ二人。
顔の潰された少女。
「は、はっ、はっ……お、俺が、俺が突き飛ばさなきゃ、三河は、わ、わ、おぉぇえええ」
友作は自分の罪を言葉にしようとしてその罪悪感と、壮絶な画面に、小学生ではとても耐えられない現実に精神を壊しかけた。
だが100回を超える呼吸の後、なんとか酸素の回り始めた脳内で記憶の整理が始まる。
自分の吐き出した未消化の給食と胃液。
床に塗られたワックス独特の匂い。
それが友作を冷静に動かした。
教室の外に出て、扉を見上げる。
教室名を教える木版には5年3組の文字があった。
「……馬鹿な」
廊下にへたり込んだ友作はもう一度教室を見渡す。
僅かに開けられた窓から風が吹き込み、カーテンが揺れる。
それはまるで何事もないつまらない日常だと友作に教えてくれるかのように。
「そんな訳……俺は確かに、やり直して、それで」
再び友作の脳裏に赤黒い血だまりと赤いランドセル、細い捻じ曲がった脚が蘇る。
「あれは、嘘なんかじゃない」
そもそも自分は何をしていたのだったか。
32年生きて、気がつけば日雇いまで落ちて、そこから這い上がろうと思えばブラックな企業と最悪な嫁に捕まり。
死んだ。
その後、死後の世界だと思った自分の過去の記憶は、実はやり直しの人生だと気付き、そこから立て直すつもりだった。
そう、そんな矢先に、三河が死んだ。
否、自分のせいで三河は、もうこの世界には。
そこまできて、教室の木版を思い出す。
「三河っ!!」
三河さゆりは3年の時から同じクラスだ。
そしてあの時は6年。
今いた教室は5年3組。
ならば、ならばと。
夕陽のオレンジが徐々に強くなる中、友作は廊下を駆けた。
「どこだ、どこだよ!」
分からない。
どこに居るのかなんて。
そもそも本当に生きているのか、ここはまたやり直しが始まったあの日あの場面なのかすらも。
それでも見たかった。
三河の姿が。
一目でいい。
それさえ、三河さえ居てくれるなら、もう何もいらない。
「三河ぁぁ!! 頼む、よ……居てくれょ、頼む、から……」
「そぉんなに叫んで、どぉしたの、友ー君?」
馴染みのある、間の伸びた話し方。
甘ったるく、気安いその声。
友作が振り返ると、そこには赤いランドセルを背負いあの時の嘘くさい笑顔で腰を曲げる三河さゆりがいた。
「み、かわ……」
「え、ちょ、ちょっとぉ」
気付けば友作は嗚咽し、三河さゆりの脚にしがみついて泣いていた。
古臭いが何処か懐かしい匂い。
茶色と、艶のない銀色で構成された机と椅子。
飲み込まれそうな程の深緑で埋め尽くされた全面には、消し損なった白いチョークの文字。
「か、ぁ、か、かはっ! はぁ、はぁ、はぁ……」
馬鹿な。
白いチョークの文字?そんな事はどうだっていい。
白い?
いや、赤。
それは黒に赤をほんの少しだけ混ぜた、そう。
カラスをその場で叩き潰したような赤と黒。
そこから伸びる、細い首。赤いランドセル。散らばるノートと教科書。
スカート。
捻じれた脚――
「ぅ、お、おぇぇ!!」
そこまで記憶を振り返った時、友作はこみ上げる吐き気に抗えなくなった。
何故。
何が起きた。
そんな事は明白だった。
自分が、三河を、突き飛ばし、そこへ……。
三河が、死んだ。
自分のせいで、トラックに轢かれた。
目の前で。
宏と大地は無事だった。
あまりに強すぎる記憶が、友作のシナプスを全開に開け放ち、フラッシュバックさせる。
今までの強気な態度など全て忘れてしまったかの様に、ワルガキ等と呼ばれて喜んでいた事が嘘のように。
叫ぶ二人。
顔の潰された少女。
「は、はっ、はっ……お、俺が、俺が突き飛ばさなきゃ、三河は、わ、わ、おぉぇえええ」
友作は自分の罪を言葉にしようとしてその罪悪感と、壮絶な画面に、小学生ではとても耐えられない現実に精神を壊しかけた。
だが100回を超える呼吸の後、なんとか酸素の回り始めた脳内で記憶の整理が始まる。
自分の吐き出した未消化の給食と胃液。
床に塗られたワックス独特の匂い。
それが友作を冷静に動かした。
教室の外に出て、扉を見上げる。
教室名を教える木版には5年3組の文字があった。
「……馬鹿な」
廊下にへたり込んだ友作はもう一度教室を見渡す。
僅かに開けられた窓から風が吹き込み、カーテンが揺れる。
それはまるで何事もないつまらない日常だと友作に教えてくれるかのように。
「そんな訳……俺は確かに、やり直して、それで」
再び友作の脳裏に赤黒い血だまりと赤いランドセル、細い捻じ曲がった脚が蘇る。
「あれは、嘘なんかじゃない」
そもそも自分は何をしていたのだったか。
32年生きて、気がつけば日雇いまで落ちて、そこから這い上がろうと思えばブラックな企業と最悪な嫁に捕まり。
死んだ。
その後、死後の世界だと思った自分の過去の記憶は、実はやり直しの人生だと気付き、そこから立て直すつもりだった。
そう、そんな矢先に、三河が死んだ。
否、自分のせいで三河は、もうこの世界には。
そこまできて、教室の木版を思い出す。
「三河っ!!」
三河さゆりは3年の時から同じクラスだ。
そしてあの時は6年。
今いた教室は5年3組。
ならば、ならばと。
夕陽のオレンジが徐々に強くなる中、友作は廊下を駆けた。
「どこだ、どこだよ!」
分からない。
どこに居るのかなんて。
そもそも本当に生きているのか、ここはまたやり直しが始まったあの日あの場面なのかすらも。
それでも見たかった。
三河の姿が。
一目でいい。
それさえ、三河さえ居てくれるなら、もう何もいらない。
「三河ぁぁ!! 頼む、よ……居てくれょ、頼む、から……」
「そぉんなに叫んで、どぉしたの、友ー君?」
馴染みのある、間の伸びた話し方。
甘ったるく、気安いその声。
友作が振り返ると、そこには赤いランドセルを背負いあの時の嘘くさい笑顔で腰を曲げる三河さゆりがいた。
「み、かわ……」
「え、ちょ、ちょっとぉ」
気付けば友作は嗚咽し、三河さゆりの脚にしがみついて泣いていた。
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