彼女が死ねば、俺は死ねない。

神部 大

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10話 転入生

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「えぇ、今日からこのクラスの仲間になった三隅祐幸君だ。三隅君は前田市からご両親の都合でこちらに来る事になった。みんな仲良くするように、では日直」

「きりーつ、れい」



 あれから友作はニ度目の、否三度目の小学6年を過ごす事となった。

 前回の時は自分の将来を変える事に精一杯で、特に気に留めていなかった転入生、三隅祐幸。

 だがこの三隅と友作は、後に今までの派閥を全て捨てる程共に短くも長い時を過ごすかけがえの無い親友になる筈であった。


 それが本来の歴史であり、その記憶の断片を友作はこの瞬間確かに取り戻していた。

 しかしそのきっかけは一体何だったか。

 最も大切なそれをどうしても思い出せぬまま、転入生三隅祐幸の紹介は終わる。



「おぉーい! 友、八幡公園行こーぜ」

「友君早くしないとあの場所取られるって」

「わかった、わかった。今行くって」


 今日は始業式でHRが終わり次第自由の身となれる、小学生にとっては貴重な一日である。

 恐らく他のクラスの人間の幾ばくかも友作達と同様、学校近くの八幡八幡神社に隣接する八幡公園へ集まるだろう。


 そこで何をするというわけでもないが、近くの駄菓子屋で様々な資材を仕入れ思い思いの遊び方で時を過ごすのだ。


 しかしその公園における場所取りについては、やはりそれなりのヒエラルキーが存在する。

 学年、有名度、そして何より、早いもの勝ちであった。


 恐らくは公園内の敷地、その大半を占める神社境内を使って遊ぶ事になるであろう人間にとって、如何に早く公園へ到着するかが今日を楽しむ為の重要な岐路となるのだ。


 友作は担任教師に席やら何やらを紹介され、一人ポツンと明日の為の準備をする転入生三隅を一瞥すると、親友達と共に教室を出た。



「っしゃあ! 一番乗りぃ、宏場所取りな!」

「えぇ! 俺駄菓子屋行きたかったぁ、てか大地金持ってんのかよぉ?」

「あぁ? なめんなよ、俺は今日100円持ってる! ウマメン二個も買えるぜ」

「相変わらず貧乏だなぁ、どっかのお坊ちゃんとは大違いだ」



 子供らしいやり取りにふと笑いが込み上げて来た友作は、場所取りは自分がやるからいいと二人を見送る事にした。


 友作にとってこの一年は本当に幸せな日々であった。

 日銭を必死で稼ぎ、その日を暮らすので精一杯だったあの頃。


 日々変わる職場。
 休憩時間は与えられず、トイレでこっそりとパンを齧りながら休むような毎日。

 トイレットペーパーすら買えずに駅から盗んだ日もあった。

 そこから必死の思いで這い上がろうと、正社員になるも、結果的にブラック企業でゴミのように使われ、挙句女運の悪さまで最悪だった人生。

 それが今では過去に戻っただけにも関わらず、夢のような毎日を過ごしている。 

 これは一体誰の采配か、神も流石の有様に同情でもしたのだろうか。

 どこか晴れ晴れとした表情で物思いに耽る友作の背中に、細くどこか優しい絹のような感触が滑る。


「ゆーくん! 何してんのぉ?」

「さゆこそ、こんな所で暇してないで勉強した方がいいぞ。変な男に騙されないよーにな」

「えぇー、なにーそれ!」


 三河さゆりはたまにこうして友作の元へ突然現れては、何気ない会話でちょっかいを掛けていた。

 しかし今の三河は同年代女子陣でも人気トップ3位には入るのではないだろうかと思われるほどに交友関係も広い。

 友作達が遊んでやっていると言うよりは、最早三河に対して、いつも構ってくれてありがとうと言うべき存在になっていた。


 そしてそれが本来の形。
 ただ少し前世と違うのは、友作が三河さゆりの事をさゆと呼ぶようにした事位だろう。


 それは友作にとって友好の証であり、自分にとって三河がかけがえの無い友人だと感じてしまったから。

 そして何より今の友作は、30年を費やした前世の記憶を有用に使いながら、今この年齢を楽しむと決めた結果でもあった。


「ゆーくんは頭いいもんねぇー、あんなのとふざけてばっかりのくせに」


 三河は遠目に小さいカップ麺から溢れるお湯にあたふたしながら笑い合う宏と大地を恨めし気に見つめながらそう言った。


「まぁ、今の段階では、だけど。でも本当、遊ぶ相手はなんだかんだ選ばないと。さゆが変なギャルにでもなってしょうもない男に捕まるのは見たくない、というか、まあ、そんな感じだ」

「だぁかぁら、なにそれ、パパみたいなこと言う」


 確かに前世の自分はその位のおっさんだったなと、油断するとつい出てしまうおっさん節に今後気をつけなければと友作は思案を巡らせた。


「じゃあ、遊ぶ相手はゆーくんにしよ! ねぇ、宏、大地、私も混ぜてー」


 可愛らしい好意の言葉に返事する間もなく、三河は気恥ずかしさを隠すように二人の男子の元へと走っていった。




「熱っつぅ!」

「ばぁか、お前お湯入れ過ぎなんだよっ!!」

「うぉぉ! てめぇ、俺のウマメンがぁ!」

「あはは、いいよいいよまた買ってあげるからさ」

「いやでもよぉ」


 何やら駄菓子のラーメンをこぼして揉めながら戻ってくる大地と宏に、追加でもう一人のメンバーまで加わり賑わっていた。

 桑野圭。
 お金持ちの家らしく、羽振りがいいが全く嫌味の無い男子だ。

 更にそれにくっついて来たのか、他の女子陣まで集まり大所帯となって戻ってきた貧乏と普通家庭の悪ガキ二人。

「あぁ、さゆりー!」

「わぁ、りほりほー」

「友! 見ろよ、ウマメン、大量!」

「圭ちゃんに奢ってもらっただけだろが、肝心の銃はどこ行った、銃は」


 全く、と。

 何故こんなにも多くの友人がいた事を今まで忘れてしまったのだろうか。

 いつから自分は一人になってしまったのか。

 つい過去を思い出し、後悔の念が押し寄せる。

 友人が居なくなった事は、全て友作自身が決めて進んだ結果。

 そしてその先の未来も。


 だが今はそんな未来の事よりも、今この瞬間だけを無性に大切にしたかった。
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