悪役令嬢に転生したと思ったら、乙女ゲームをモチーフにしたフリーホラーゲームの世界でした。

夏角しおん

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13.一緒に仕事はしたくない

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「私はね、前世でトラックにはねられて死んだの。でもそれはアンノの上司さんの手違いで、だからお詫びの代わりに乙女ゲームの世界に転生させてもらったんだ」
「乙女ゲームってのはよく解らないけどさ、要するに沢山のイケメンに惚れられるゲームの世界なんでしょ。だからこの世界に転生させたんだけど、君が滅茶苦茶やり始めて驚いたよ」
何度でも言おう。私は本来のゲームに沿った動きしかしていない。例え何周したのか判らない位に全てを知った上で動いたとしても、決してシステムからもシナリオからも逸脱していないと断言できる。
第一、ヒロインって何だ。このゲームの主人公は私だし、そもそもこれは乙女ゲームでも何でもない。
まさかとは思うが、このアンノウンと言う男。適当にオープニングの動画だけを見て、これを乙女ゲームだと勘違いしたのではあるまいな。
「クライマックスで皆から断罪されてさあ。嫌だったのかもしれないけど、それはヒロインちゃんの幸せのために必要な事でしょ。何でこんな所に連れてきてるの。頭おかしいんじゃないの?」
それはクライマックスではなくオープニングだ。嫌な予感が的中したことを知り、私はこめかみを押さえて呻吟した。
この男はつまるところ、上司の尻拭いを物凄くいい加減に適当にやった挙句、自分のミスを認めず私と言う第三者を責めているわけだ。
そう言えば事務員の居た会社でもいたなあ。人の話を聞かず、勝手な判断でことごとくを悪い方向に捻じ曲げて。即座に報告すればいいものを誤魔化そうとして、結局得意先からの苦情で全てが明るみになると言う最悪の結果をもたらした社員が。
結局部長に泣くほど叱責されて、それっきり出社せずに逃げたんだったか。電話にも出ないから、最終的に社長が賃金を封筒に詰めて住所に突撃しに行ってたなあ。
話を聞きながら頭を抱え、それでも途中から歩きながらの話に誘導できた自分を褒めてやりたい気持ちだった。こんな話を魔法陣の上で固定されたまま聞かされていたら、今頃心が折れていたかもしれない。
「聞いてる? 本当はこんな風に介入するのも良くないんだよ。でも君があんまり酷いから、仕方なしにやってるんだからね」
「…」
「いい加減何か喋んなよ。あんまり馬鹿にするようなら、BANしちゃってもいいんだからね」
肩を痛いくらいに掴まれて凄まれるが、底が割れた今はあまり怖くない。
恐らくだが、世界に介入するだけでもこれだけ躊躇っていたのだ。キャラを一人抹消するなどと、出来はしても後で何らかのペナルティーを負うであろうと推察される。
であればこれは、只の脅しだ。鼻で笑ってやりたいのを堪え、一応は喉を指さして首を振っておいた。私は話せませんと言う主張であったが、さてこの男に通じるかどうか。
「なに、喋れないの。ウケるー」
…通じはしたが、何かが好転したわけでもなさそうだ。これ以上は無視しようと決め、私は目の前の扉を開いて中に入った。

この階層は殆どが答え合わせだ。真っ直ぐの通路に繋がった小部屋。その小部屋で集めた証拠や覚醒の度合いに応じた過去視ができる。
セピア色の画面で見る過去の諸々は切なく、虐げられていたのだと自覚した悪役令嬢が徐々に闇に染まっていく演出は中々の迫力があった。といっても実際には小部屋で映像を見るだけなので、動き自体は割とおとなしい。
しかし罠もなく生還が約束されたも同然の今、心は軽く楽になっていた。これでアンノさえいなければ、もっと軽やかな足取りになっていたに違いないのだが。
一つ目の部屋は、王太子が私の声を封じるシーンだった。まだ五歳の王太子が王妃にしがみ付き、「この生意気な女から声を奪って欲しい」と訴えている。王妃はそれに頷き、お抱えの魔術師に命じて私から声を奪うのだ。
「ええ、何これ…?」
男爵令嬢が、王太子の振る舞いにドン引きしている。その辺はまともな感性なのだなと感心し、さらに次の部屋に進んだ。
教育の為と公爵家から私を連れ出し、これであの女は笑えないだろうと嘲る王妃。
私への公費を横領して贅沢に耽る王妃と、それを見てあの女はこう使うのかと学習する王太子。
私を虐げている王太子を見て、諫めるどころか尻馬に乗る脳筋と眼鏡。
これだけ集めると、辿る部屋も沢山増える。攻略対象達の最低振りに言葉を失う男爵令嬢と、気まずげに目を泳がせるアンノ。映像が冤罪の裏側に及ぶと、男爵令嬢が言い訳がましく大きな独り言を喋り始めた。
「違うの。だってあなたが何もしてこないから…じゃあ振りだけすればいいって、アンノも言うから」
自分で教科書を破き、水を被る男爵令嬢。
家から白金貨を持ち出し、生徒会の金庫を開ける脳筋。
王太子に囁き、高価なドレスや宝石を男爵令嬢宛に贈らせる眼鏡。
皆で顔を寄せ合い、私を陥れる断罪計画をさも楽しそうに練る男たち。
もう今更、動くだけの心もない。部屋を足早に抜け、言い訳を呟く二人を置き去りにする勢いで最後の部屋に足を踏み入れた。

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