悪役令嬢に転生したと思ったら、乙女ゲームをモチーフにしたフリーホラーゲームの世界でした。

夏角しおん

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15.最後の問答

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「王太子は水も食料もない階層に置き去られ、三日を待たずに死を迎えるでしょう。ですがこの迷宮に来た時点で考えうる死の中では、最も穏やかで苦しみの無い死であると愚考いたします」
この証拠を持って、王太子を連れて帰還したとしよう。全てを知った父は激怒し、王籍を抜かれた王太子を引き取って領地に帰り地下牢に閉じこめる。
私が別の男性と結婚して子供を産み、心穏やかに過ごす50年余りを、王太子は地下牢で監禁されたまま過ごすのだ。光の射さない不潔な環境下で、壁から染み出てくる水を舐め。時折放り込まれる残飯の他はネズミを捕まえて貪りながら。
それに比べれば、たった数日。しかもあの部屋で閉じこもってさえいれば、ベッドの上で死を迎えられるのだ。
「現実の世界で受ける裁きに比べれば、遥かに穏やかな死が迎えられましょう」
「なるほど。ではさらに問おう。王太子の専横に巻き込まれて迷宮に迷い込んだ側近たちの死に、後悔はないか?」
「彼らもまた、罪深き身でありました。ですが彼らは愛するものを守るため、ある意味晴れ晴れと死を迎えたのです」
誰か一人を連れて帰ると言っても、彼らは結局は高めたヘイトを昇華させるための贄に過ぎない。それぞれに応じた悲惨な末路を提示することで、悪役令嬢の苦労が報われる仕掛けになっているのだ。
脳筋の場合は、騎士団長から両手の骨を砕かれた上で放逐される。唯一の利点を破壊された脳筋は失意のまま王都を彷徨い、スラムの片隅で冬が越せずに凍死しているのが見つかる。
眼鏡も同じようなもので、莫大な賠償金を賄うために奴隷落ちする。特殊な客を取る男娼に身を落とし、死を待つだけの衰弱した姿を見せて終わるのだ。
それに比べれば、私にした仕打ちを微塵も反省せずに愛に殉じたのだから本望だろう。あれで不満があると言われれば、流石の私も顔付を変える自信がある。
彼らは皆、愛する者の為に犠牲になったのだと信じて満足しているのだ。だから私が罪悪感や後悔を抱く謂れなど無い。あるだろうと言われれば、一昼夜でも反論してみせる。
揺ぎ無い決意を込めて眼を見返すと、エレイソン殿下は頷いた。王族としての資質云々は置いておくとしても、私の洗脳が解けている事だけは確認できたようだ。
これが解けていないと、現世に戻してもらえない。ただ迷宮を永遠に彷徨うと言ったバッドエンドではなく、エレイソン殿下に求婚されて迷宮の主に嫁ぐEDを迎えるからそう悪くもない。
ただ私は両親との時間を取り戻す方を選びたいので、その選択肢は潰します。少しの沈黙を経たエレイソン殿下は柔らかく微笑み手を上げる。すると、玉座の右隣に簡素な扉が出現した。
「良いだろう、ロザリンド・フォークロア。そなたを次世代を引き継ぐ王族として認め、現世への帰還を赦す」
王太子も居ない今、粛清迷宮から帰還した私は王族を監督する血に認められた王となる。と言っても王太子教育の殆どは私が引き受けてきたため、勉強についてはそれ程の混乱は起こらないだろう。
最期にエレイソン殿下に最敬礼を取り、私は現世へと続く扉をその手で開けた。


***********

眩しい光の洪水に目を閉じ、気が付くと学園の校門前だった。背後には男爵令嬢がおり、やっと帰ってこれたのだと感動して見回す隣にはアンノもいる。
「…結局、君も転生者だったのか?」
アンノの言葉に、私は首を傾げた。事務員としての記憶は最期が曖昧だが、特に命の危機に直結する記憶はない。むしろロザリンドとしての私をサポートする、便利な異世界の記憶としての印象が強い。
ロザリンドを哀れんだ異世界の事務員が、記憶を貸与することで手助けしてくれた。そう解釈する方が私としてはしっくりくるのだ。
「私には、判りません。もしそうだとしても、今の私はロザリンドですから」
「ロザリンド様、今まで済みませんでした。お詫びして済む事ではないでしょうが」
男爵令嬢がぎこちなく、見様見真似で謝罪の形を取った。彼女は今度こそ乙女ゲームの世界に転生し、望んだ世界で幸せになるのだろう。
「今度は、冤罪など造らないようにして下さい。悪い行いは結局、自分に帰ってきますよ」
「…ごめんなさい」
彼女のした事は相当に質が悪く、下手をすれば罪なき少女が一人処刑されていたのだ。だが王太子やアンノに唆されてしたのならば、私は情状酌量の余地があっていいと思う。
彼女は素直に罪を認め、処刑台に上がる。例え認知力や痛覚を鈍らせて行ったのしても、それで罪を償ったと考えて良いのかもしれない。
「さて、まずは学園長に会いましょう。証拠品は全て提出しますが、あなたの証言も重要ですからね」
「うん。ほらアンノ、ちゃんと痛くないようにしてよ!」
アンノの姿が消える。しかし居なくなったのではなく、不可視の術でも使ったのだろう。そこに居るのだと確信している男爵令嬢と肩を並べ、私はいつになく晴れやかな笑顔を浮かべて学園の敷地内に足を踏み入れた。


悪役令嬢に転生したと思ったら、乙女ゲームをモチーフにしたフリーホラーゲームの世界でした。 完



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