竜の手綱を握るには 〜不遇の姫が冷酷無情の竜王陛下の寵妃となるまで〜

hyakka

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{ 竜王編 }

18. 温室

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しばらく空を見上げていた召使は、我に返ると……軽く咳払いをし、話しかけてきた。

「これからしばらく……侍女が戻るまでは、私がお嬢様のお世話をいたします。よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。……よろしくお願いします」

いつもの不機嫌な顔とはまるで違う、笑顔を貼り付けた召使に、少し違和感を感じたが……
思ったほど、嫌われているわけでもないのかも。と思い直した。
ハンナの話では、召使たちのお局的な存在で、時期召使長の候補者でもあるそうだ。

「そういえば、この城に、温室があるのはご存知ですか?
たくさんのユリスの花が、それは見事に咲いていますよ。
一度気分転換に見に行かれてはいかがでしょうか?」

予想外の好意的な提案に驚いた。実はあの謁見の日から、全く部屋の外に出ていない。
静かに目立たず過ごそうとは思うが……正直息苦しさも感じていた。
許されるなら……温室で自然に触れたい。

「そうね。そうしてみるわ」

「では、そろそろ花瓶の花も替え時ですし、生け花など楽しまれませんか? お嬢様のお気に召したお花を数本選んで摘んできてくださいませ……」

てっきり一緒についてくるのかと思ったが、籠と鋏を渡されて、送り出された。


迷路のような王城だが、幸い温室はすぐそばだ。
通路を区切る扉を通り、螺旋階段を降りてすぐ。廊下の突き当たりに……周囲の扉とはまるで違う、壁に隠れるようにある小さな扉……予め教えてもらわなければ通り過ぎてしまっていただろう。

小さな取手を引くと陽光に目が眩んだ。
「わぁ……」
感嘆の声が漏れる。
これは……温室というよりは、まるで植物園のようだ。
ガラスドームが空全体を覆い、温かな陽が差し込んでいる。
南国のような濃厚で甘い香りが鼻をついた。
幾本もの苔むした大木に、蔓性の植物が絡み、野生種のランのような花が木肌に着生している。
大小様々な岩が立体的に組まれ、隙間にもシダや、カラーリーフが植えられている。
まるでジャングルのように、多種多様で特徴的な植物が、計算し尽くされた美しさに形作られていた。

こちらの世界の動植物は、地球のものと似ているようで、大なり小なり違いがあった。
ウサギに似た生き物には小さな角が生えていたり……小鳥が届けてくれた、小さな桃に似た果実は、マンゴーのような味がした。

前世でも今世でも、目にしたことがない美しい眺めに感激し、小径をゆっくり進む。

微かに水音が聞こえ、歩を進めるほどに徐々に大きくなる。
空気が湿っぽくなり、爽やかな水の香りが鼻についた。
大きな岩を横切ると、目の前が開け、小さな広場にたどり着いた。
2メートルほどの高さの岩肌から勢いよく流れ落ちる滝……その下の小さな池には、美しい魚が、長いヒレをドレスのように揺らしながら泳いでいた。

温室の中心部に隠されるように、まるで迷路のゴールのように作られた素敵な空間。
遊び心にあふれたこの温室の設計者に、心の中で賛辞を送る。

感心しながら、周囲を見回すと、広場を縁取るように、たくさんの鉢が置かれ、大小様々な色合いの、蘭に似た形の花が、咲き誇っていた。

出てくる前に召使に言われたことを思い出した。
ユリスはこの、蘭に似た花のことね。

幾本もの細い枝に、黄色い小花をたくさん咲かせた花と、大輪の白い花が規則正しく並んだものを、数本選んで鋏で切った。
そして、都度、鉢に残された無惨な切り口に手を当て祈る。
最後に、ハンカチを池に浸し濡らし、花束の切り口を包みこんで、籠に入れた。

この秘密の広場には、椅子が1脚とテーブルが置かれていた。
少し大きなその椅子に腰掛けると、クッションに身体が沈んだ。
包み込まれるように柔らかく、暖かく……身体が溶けていきそうなほどの心地よさに身を委ねた……その時だった。

広場に、重く鋭い声が響いた。

『何をしている!』

咄嗟に身を縮め、声のした方向に目をやると……

そこには騎士服姿のあの若い竜王が、こちらを睨み見下ろしていた……。
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