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{ 竜王編 }
19. 午餐
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竜王は……騎士服姿とはいえ、腰に剣はさしていない。
竜王の斜め後ろには、謁見の際に令嬢を宥めていた従者が立ち……居た堪れない様子でこちらを見ている。
「あ、あの……」
椅子からそっと立ち上がる。
「申し訳ございません。失礼いたします。」
俯いたまま、立ち去ろうと横をすり抜けた時……
『待て』
手首を掴まれ、反動で身体が傾く。
「ひゃっ」
慌てて石畳に手をつこうとした時、身体が抱き抱えられた。
『なぜいつもそんな……』
呟いた竜王と目が合うが、その先の言葉は聞こえてこない。
ため息をつきながら、目を逸らされた。
『おいっ、忘れているぞ』
竜王の目線の先には、花籠が、ポツンと置き忘れられていた。
「…………」
恥ずかしくて……自分の顔が赤くなっていることを自覚して、項垂れる。
また謝ろうとしたその時だった。
『食事はまだか?』
予想外の問いかけに、目が点になってしまった。
答えに窮していると、私の返事など我関せずのように……側に控える従者に指示を出した。
『まだのようだな。おいっ、もう1人分準備するように伝えろ』
召使が、椅子や食器を運び入れ、慌ただしく準備する様子を……
不機嫌そうに腕組みし眺める、竜王のその横に……身を小さくして立っているしかない私。
『もういいだろう。お前も座れ』
そう言いながら、追加された椅子に腰掛けようとすると……また腕を掴み、引き止められた。
『こっちだ』
少し苛立ったように、私がさっきまで腰掛けていた肘掛け椅子を指さす。
先程まで取り乱していた従者も、今は笑顔で椅子を引き、私に座るよう促してくる。
そっと腰掛けると、罰ゲームのような食事が始まった。
午餐というにはあまりに多い……
次から次に運ばれてくるパンとスープ……そしてありとあらゆる肉・肉・肉・肉料理!
香草グリルにカツレツ、塊肉の入ったシチューに、黒と白の大きなソーセージ!!
5皿目は、骨付きの巨大なステーキ!!
(そうか。あの体躯を維持する為には10人分は平らげなくてはダメなのね)
竜王は、次々と運ばれてくる料理を、洗練された動きで、素早く口に運んでいく。
皿から魔法のように消えていく様は爽快で、手元から口元へ、ついつい目が追ってしまう。
一品目の前菜を、つつきながら眺めていると……
それまで全て綺麗に平らげていたのに……添えられた芽キャベツだけ、皿の端に残したまま手で下げろと合図した。
こんなに偉そうなのに……。
意外に子供っぽい一面が垣間見えて、思わず口元がゆるむ。
その時、こちらをじっと見つめる竜王と目が合い、身体がこわばる。
機嫌を損ねた?怒られる!!
鋭く細められた黄金色の瞳が、こちらを見据える。
『……?』
何か質問されたが、滝と魚の跳ねる音でかき消された。
戸惑っていると
『上手いか?』と聞かれた。
先程から緊張で、食が進まず、お皿の隅をつついてばかりいた。
いつもハンナが運んでくれる、パンとスープだけで十分なのに……。
こんなに豪華な料理を口に入れれば、胃がひっくり返ってしまう。
「……はい。
ありがとうございます。
けど、あまりたくさん食べられなくて……。
申し訳ありません……」
一言一言、考えながら慎重に答える。
竜王は、従者に何事か話しかけると、また自分の皿に目を向け、料理を口に運ぶ。
従者が頷きその場を後にした。
食事が終わり、紅茶とデザートが運ばれてきた。
しばらくの間、目の前に置かれた、その物の存在が信じられず……目をしばたたかせた。
銀色の3段のトレーには、色とりどりのフルーツに、ケーキやタルト、焼き菓子が盛り付けられていた。
今世では、味わうこともないだろうと思っていたスイーツ!
トレーの隙間から、チラリと竜王の様子を窺うと……伏目がちに、紅茶に口をつける様子が見えた。
そっと手を伸ばし、タルトを持ち……齧ってみる。
カスタードが舌の上でとろけ、甘酸っぱく弾けるような食感の果実が口腔を満たす。サクサクの軽い生地も見事だ。
(あぁ、すごく美味しい!これ全部……食べたい!)
食べ尽くせないほど沢山の、色とりどりの菓子に、心が躍る。
じっくり眺めて、慎重に選ぶ。
あと一つだけ…あと一つだけ……と思いながら、結局チョコレートケーキにフィナンシェ、果実もたくさん頂いた。
お腹がいっぱいになり、惜しまれつつ皿にフォークを置いたところで……目の前の存在を思い出した!
すっかり忘れていた!
慌てて竜王に目を向けると、紅茶を傾けながら、ユリスの鉢植えを見ている。
その穏やかな横顔を見て、緊張がほぐれる。
決して、私のことが嫌なわけではないのかもしれない……。
ここで伝えるべきことは伝えて、害のないことをちゃんとアピールしなくては。
「あの……」
竜王が振り向いた。
「あの……こちらに置いてくださって、ありがとうございます。
深く、感謝しております……。
決して、ご迷惑にはならないように、気をつけますので……」
顔を上げると、こちらを真正面から見つめる、明るい金色の瞳に釘付けになった。
いつもそうだ。目が合うと一瞬時間が止まったような感覚になる。
『迷惑なことなどない……』
少し困ったように眉を寄せるが、声音は穏やかだ。
『……この温室は、気に入ったか?』
「はい。
美しくて……暖かくて……
とても落ち着きます」
『……そうか』
しばらくの沈黙の後、竜王は立ち上がって、私の摘んだユリスの花で満たされた籠をとり、いつの間にか戻っていた従者に手渡した。
『部屋まで見送るように』
従者にそう告げると、また、こちらに振り向く。
『先に席を立ってすまない。
これからも、ここで好きに過ごすといい……』
穏やかに、そう言葉を発した竜王の顔には……
年相応の若者の、どこかはにかむような……優しい笑顔が浮かんでいた。
竜王の斜め後ろには、謁見の際に令嬢を宥めていた従者が立ち……居た堪れない様子でこちらを見ている。
「あ、あの……」
椅子からそっと立ち上がる。
「申し訳ございません。失礼いたします。」
俯いたまま、立ち去ろうと横をすり抜けた時……
『待て』
手首を掴まれ、反動で身体が傾く。
「ひゃっ」
慌てて石畳に手をつこうとした時、身体が抱き抱えられた。
『なぜいつもそんな……』
呟いた竜王と目が合うが、その先の言葉は聞こえてこない。
ため息をつきながら、目を逸らされた。
『おいっ、忘れているぞ』
竜王の目線の先には、花籠が、ポツンと置き忘れられていた。
「…………」
恥ずかしくて……自分の顔が赤くなっていることを自覚して、項垂れる。
また謝ろうとしたその時だった。
『食事はまだか?』
予想外の問いかけに、目が点になってしまった。
答えに窮していると、私の返事など我関せずのように……側に控える従者に指示を出した。
『まだのようだな。おいっ、もう1人分準備するように伝えろ』
召使が、椅子や食器を運び入れ、慌ただしく準備する様子を……
不機嫌そうに腕組みし眺める、竜王のその横に……身を小さくして立っているしかない私。
『もういいだろう。お前も座れ』
そう言いながら、追加された椅子に腰掛けようとすると……また腕を掴み、引き止められた。
『こっちだ』
少し苛立ったように、私がさっきまで腰掛けていた肘掛け椅子を指さす。
先程まで取り乱していた従者も、今は笑顔で椅子を引き、私に座るよう促してくる。
そっと腰掛けると、罰ゲームのような食事が始まった。
午餐というにはあまりに多い……
次から次に運ばれてくるパンとスープ……そしてありとあらゆる肉・肉・肉・肉料理!
香草グリルにカツレツ、塊肉の入ったシチューに、黒と白の大きなソーセージ!!
5皿目は、骨付きの巨大なステーキ!!
(そうか。あの体躯を維持する為には10人分は平らげなくてはダメなのね)
竜王は、次々と運ばれてくる料理を、洗練された動きで、素早く口に運んでいく。
皿から魔法のように消えていく様は爽快で、手元から口元へ、ついつい目が追ってしまう。
一品目の前菜を、つつきながら眺めていると……
それまで全て綺麗に平らげていたのに……添えられた芽キャベツだけ、皿の端に残したまま手で下げろと合図した。
こんなに偉そうなのに……。
意外に子供っぽい一面が垣間見えて、思わず口元がゆるむ。
その時、こちらをじっと見つめる竜王と目が合い、身体がこわばる。
機嫌を損ねた?怒られる!!
鋭く細められた黄金色の瞳が、こちらを見据える。
『……?』
何か質問されたが、滝と魚の跳ねる音でかき消された。
戸惑っていると
『上手いか?』と聞かれた。
先程から緊張で、食が進まず、お皿の隅をつついてばかりいた。
いつもハンナが運んでくれる、パンとスープだけで十分なのに……。
こんなに豪華な料理を口に入れれば、胃がひっくり返ってしまう。
「……はい。
ありがとうございます。
けど、あまりたくさん食べられなくて……。
申し訳ありません……」
一言一言、考えながら慎重に答える。
竜王は、従者に何事か話しかけると、また自分の皿に目を向け、料理を口に運ぶ。
従者が頷きその場を後にした。
食事が終わり、紅茶とデザートが運ばれてきた。
しばらくの間、目の前に置かれた、その物の存在が信じられず……目をしばたたかせた。
銀色の3段のトレーには、色とりどりのフルーツに、ケーキやタルト、焼き菓子が盛り付けられていた。
今世では、味わうこともないだろうと思っていたスイーツ!
トレーの隙間から、チラリと竜王の様子を窺うと……伏目がちに、紅茶に口をつける様子が見えた。
そっと手を伸ばし、タルトを持ち……齧ってみる。
カスタードが舌の上でとろけ、甘酸っぱく弾けるような食感の果実が口腔を満たす。サクサクの軽い生地も見事だ。
(あぁ、すごく美味しい!これ全部……食べたい!)
食べ尽くせないほど沢山の、色とりどりの菓子に、心が躍る。
じっくり眺めて、慎重に選ぶ。
あと一つだけ…あと一つだけ……と思いながら、結局チョコレートケーキにフィナンシェ、果実もたくさん頂いた。
お腹がいっぱいになり、惜しまれつつ皿にフォークを置いたところで……目の前の存在を思い出した!
すっかり忘れていた!
慌てて竜王に目を向けると、紅茶を傾けながら、ユリスの鉢植えを見ている。
その穏やかな横顔を見て、緊張がほぐれる。
決して、私のことが嫌なわけではないのかもしれない……。
ここで伝えるべきことは伝えて、害のないことをちゃんとアピールしなくては。
「あの……」
竜王が振り向いた。
「あの……こちらに置いてくださって、ありがとうございます。
深く、感謝しております……。
決して、ご迷惑にはならないように、気をつけますので……」
顔を上げると、こちらを真正面から見つめる、明るい金色の瞳に釘付けになった。
いつもそうだ。目が合うと一瞬時間が止まったような感覚になる。
『迷惑なことなどない……』
少し困ったように眉を寄せるが、声音は穏やかだ。
『……この温室は、気に入ったか?』
「はい。
美しくて……暖かくて……
とても落ち着きます」
『……そうか』
しばらくの沈黙の後、竜王は立ち上がって、私の摘んだユリスの花で満たされた籠をとり、いつの間にか戻っていた従者に手渡した。
『部屋まで見送るように』
従者にそう告げると、また、こちらに振り向く。
『先に席を立ってすまない。
これからも、ここで好きに過ごすといい……』
穏やかに、そう言葉を発した竜王の顔には……
年相応の若者の、どこかはにかむような……優しい笑顔が浮かんでいた。
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