追放から始まる宇宙放浪生活

海生まれのネコ

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二章 バンハムーバ復興作戦

十七 それからの顛末

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1・

もう隠すべき事などなにも無いから、アレクシス王を信じてバンハムーバ王国が何をしようとしているのか詳しく説明した。

レヴァンに報告されて一部は知っているだろう事を、俺が未来に帰るべき存在だという部分だけを秘密にして教えた。

そして今の混乱期を、ユールレム王国として支えてあげて欲しいと頼んだ。

つい先ほどまで敵としか考えてなかっただろうバンハムーバの龍神に懇願されたアレクシス王は、この状況に違和感を覚えていそうだが、軽快に笑って受け入れてくれた。

人を威圧して自分を強く見せるしかなかった立場にあった事など、もうすっかり忘れたようだ。

補佐官たちのほうも、心では色々と思うことがあるだろうが、俺への態度が柔らかくなってくれた。

ユールレムの、宇宙の平和を司る補佐官の罷免権問題も、これで落ち着くだろう。王だけじゃなく補佐官たち自体も法律の重要性に躍らされ、その役目を果たそうと無理して王の行動をとがめるご意見番にしかなってなかった。

でも注視すべき王が疑う必要がなく心から仕えたい存在であるなら、殺傷力のある銃などどこかその辺にしまい込み、必要な時だけ拾い上げればいい。

尊敬して信頼できるなら、永遠に出番はない。結局、武器なんてその程度のものだ。

そういう風にアレクシス王との決闘及び会談が終わった後、俺とクラッドはユールレム王国の客として正式に受け入れられる事になった。

そして留め置かれていたギャリートロット号も自由にされ、カート商会の面々やイージスとサッシャも、無事に解放された。

数日後。俺たちはアレクシス王と補佐官たちと共に全員がユールレムの戦艦に乗せられ、バンハムーバまで旅をする事になった。

ギャリートロット号もクリスタでの式典の主役となる二人を乗せたままで、戦艦内部に収容されて運ばれた。

それについてレヴァンは、経費削減だと喜んでいた。

ただ、ギャリートロット号の無茶なワープを多用する旅を真似る訳に行かず、普通の安全な航路で一ヶ月かけてクリスタに向かう。

その間の旅は、それぞれがそれぞれの方法で楽しんだ。

途中、中間地点ほどでユールレム軍人たちとも程よく仲良くなれた頃、彼も落ち着いてきたらしいクラッドが、一人で俺の部屋に遊びに来た。

話があるというので聞くと、旅立つ前にアレクシス王にも質問されていたそれだった。

「クラッドが、俺の人質じゃないって言い張った理由か。アレクシス王も補佐官たちも分かってなかったけど、説明したら物凄く納得して苦笑いしてたな」

「苦笑い?」

クラッドは俺の真向かいになるテーブルの向こう側に座り、手土産の瓶詰めレモンスカッシュの蓋を開けつつ呟いた。

引き続いて俺も、炭酸飲料の蓋を開けるスリルを味わった。

「ユールレムの皆は全員、バンハムーバ人を敵と思って、本当の意味で詳しく知ろうとしていなかった。だからクラッドを人質として連れて来れば、俺が萎縮して言うことを聞くと思い違いをした。でも実際はその逆だった」

「……私は半分ほどバンハムーバ人ですが、その原因については分かりません」

「まあ、龍神特有の性質だから、普通は知られてないものだ。俺、本当はクラッドが来てくれるまで怯えてて、まともに何か考えられるような状態じゃなかった。でも、来てくれたから全てが回復して、いつも通りになった」

「はあ」

「ユールレムの蛇は母なる星を耕して収穫を子に分け与えて養う、母性が強い女神のようなものだ。バンハムーバの龍神は敵から我が子を護るためにこそ真価を発揮する、父性の強い男神のようなもの。だからどうやら、いくら状況に怯えていても、護るべき子が目の前に出現すれば、本能的に全力を出して戦い始めるようなんだ」

にやりと笑うと、クラッドも理解して控えめに笑った。

「ああつまり、私は人質ではなく気付け薬でしたか」

「その通り。それを仕込んだのは、悪名高きポドールイの王様だろう? 彼を信用しないでどうする。あと、俺とアレクシス王の二人だけの決闘に持ち込むつもりだったから、人質を取るのは無意味という意味で言ったけどな」

「本当は邪魔になったので謝罪しようと思って来たのですが、それは不要でしたか」

「逆にいい味方だった。お疲れ様です」

レモンスカッシュの瓶を掲げると、クラッドも軽く掲げて返してくれた。

それから、彼は視線を逸らして言った。

「それと、もう一つ確認したいことがあるのですが」

「ふうん、何?」

「私の方にも幾人かやって来たのでお断りを入れはしましたが、そちらの方はどうなのですか」

「……それな」

微妙な空気だ。

「俺の方はほら、事情が事情で向こうも必死だっていうのは分かってるから、なかなか断り辛かった。だけども、そんなことしたら帰った時にクロに殺される。それを察した影武者が来てくれた」

「……」

「彼、この船に乗ってないことになってるけど、いるんだ」

「なるほど」

俺たちは、その話題を二度と口にするのを止した。

2・

そうしてこっそりと俺の身の安全も保障されたクリスタへの旅は、一ヶ月ほどで無事に終了した。

俺がユールレムの王様を連れて戻ってくる事を予知していたのだろうフィルは、レドモンド辺りとしっかり連携を取って式典の準備をしてくれていた。

久しぶりに帰還したクリスタの大地は浄化が進み、木々が大規模移植されたポドールイ小屋の周辺であれば、短時間ならば普通の人が宇宙服が無くても出歩ける程になっていた。

もしかしたら未来の首都の森林公園の一部かもしれないそこに、石碑が一つ設えられている。龍神マイヨールの埋葬についての碑文が、既に刻まれている。

式典は、その前にマイヨールが納められた冷凍機を置いて行われた。

バンハムーバとユールレムの軍人たちと、いくらかの知り合いたちが見守る中。

レドモンドとアレクシスにお悔やみなどの言葉を貰った後、俺が最後にクリスタを準母星化する作業の最終段階にあることを説明した。

龍神の力のコアを抱えた俺は龍神の姿に変身して、マイヨールとその愛しい人を一緒に、冷凍機ごと大地の中に引き込んで星の核近くまで潜った。

俺にとり懐かしく感じる青白い命のエネルギー流の中で、冷凍機を手放してユールレムの蛇の力を使用した。

ユールレム蛇の母なる力は二人を共に光に変え、クリスタの命に混じり、あちこちに分散して流れ去った。

龍神の体を飲み込んだクリスタの命のエネルギー流を観察し、龍神の力のコアがこの流れに積極的に乗りたく感じているのを察知した。

宇宙規模で龍神の力を引き寄せる効果の付与に成功して嬉しくなったが、まだもう一つ作業があるので気を引き締めた。

龍神の力のコアを抱えたままで、それを通じてユールレムの蛇の力を発揮し、バンハムーバの母星が復活する二千年後まで安全にここに留めるための
卵の殻のような壁を発生させて、コアを収めた。

こうして重力が付加されたことで、龍神の力のコアはクリスタの星の深部を漂うようになる。二千年後の龍神がこれを回収しに来てくれた時の目印になるし、もう一つ大事な効果も生み出せる。

二千年後、卵の殻の中から龍神の力のコアが回収されて母星に持ち帰られた後、ここに残った殻はコアの特徴を少しばかり受け継げる。

コアの欠片として、力が弱いものの同じ働きを担えるようになるだろう。

そうすれば、それからもクリスタの近辺では龍神が発生し易い環境が維持される。クリスタに住まう人々の命を、そうして護ることができる。

そして今後、もし母星に何かあって、その時代に対応できる龍神が一人もいなくても、このクリスタが準母星としてバンハムーバを護りおおせるだろう。

これは、俺が出来ることの精一杯だ。これで、俺がすべき事を全て終わらせた。

いくつもの涙がこぼれて、星の中を漂っていく。

卵の殻に頭をつけ、どうか永遠に心優しき平和が続くようにと、魂からの祈りを捧げた。

3・

俺が作業を終えてポドールイ小屋に戻ると、その近辺は既に夜になっていた。

 小屋の中には留守番のバンハムーバ兵士がいて、ユールレムのみんなを持てなすために違うところでパーティーしていると教えてもらえた。

会場になった宇宙船格納倉庫では、美味しい料理がビュッフェタイプで並べられ、出身と身分に関係なく雑談する集団がいくつもできている。

いいなこれと嬉しく思ってその光景を眺めていると、奥の方にある椅子に座っていたレドモンドに発見された。

そして彼に俺の帰還をバラされ、倉庫内が一様にはしゃいで拍手して労をねぎらってくれてから、俺も奥の方に移動した。

さっきレドモンドと話していたアレクシスは、まさか自分がビュッフェで夕食を取るとはと本気で笑っていた。

「そうだ。まだお前……エリックに話があった。私との賭けに勝ったことで、私はエリックの願いを一つ聞かなくてはいけない状態だ。今のこの状況は私が望んで変革したことであり、エリックの望みに応えた訳ではない。何か、他の願いを言って貰えるだろうか」

「ええと……」

賭けで願いを報酬としたのは、アレクシスがすんなりクリスタに来てくれない時の保険のつもりだった。それに旅の間も、ツキシロのおかげで発動しないで済んだ。

俺が悩むと、アレクシスは呆れた様子で言った。

「まさか、考えていなかったのか? 命を賭けた立ち回りが、そんなに適当な話だったとは」

「いや、色々とあったんですが、全部先に解決してしまったのです」

「そうか。ならばじっくりと考え、後で教えてくれるか。エリックならば、どんな役職や報酬も思いのままにくれてやる」

そう言われて、彼には重要なことを話していないと気付いた。そしてこれは、俺が帰ってしまうまで秘密にしておかないと、捕まって閉じ込められてしまう大問題だ。

俺の目配せに、同席してくれているレドモンドも意味ありげな視線をくれる。

この時代に残す彼らの為に、俺が最後にできることは……。

「あ、アレクシス陛下、私の望みはここにいる龍神レドモンドと貴方様が、メル友になる事です。私はスマホなどを持っていないので、とにかく代理でお願いします」

「「メル友?」」

アレクシスもレドモンドも、同時にとても驚いた。しかし響きが気に入ったらしく、雑談用にという前置きと共にメルアド交換が行われた。

それから、せっかくだということでスマホで記念撮影をした。
今この時ほど、自分のスマホを置いてきた事を後悔したことはない。

とにかく、先に二人で会話していたぐらいだから、レドモンドとアレクシスはこれから仲良くなれそうだ。

結果として、これはバンハムーバとユールレムの真の友好関係に繋がっていくだろう。

俺はもう、本当にここですべき事を終わらせた。後は余韻を楽しむだけだ。

だから俺は、二人から離れて他に世話になった人たちに話しかけに行った。

バンハムーバ軍の料理人に混じって料理していたフィルは、いつも通りにニコニコ笑ってくれるし、本当に星一個の支配権を貰えるらしいレヴァンとその部下たちは、国民を増やしたいと言って両国の乙女たちを積極的にナンパしてるし。

ロゼレムで政権交代が上手く行ったばかりだというのに、ここに戻ってきてしまったロゼレムの元海賊たちも、みんな楽しそうに異文化コミュニケーションを行っている。

イージスとサッシャの両方が、同じ戦艦に乗ってきたユールレム軍人をいつの間にか捕まえているのには驚いた。

メリルとジリアンも功労者としてレドモンドが連れて来てくれていて、もう二度と会えないと思ってたから、笑顔で再会できて少し涙が出るぐらい嬉しくなった。

あと、影の功労者のツキシロは目立たないようにテーブルの横で、小さな狐の姿でお座りをしていたので、俺はその前にしゃがみ込んで再三の感謝を述べた。

彼としては、既に十人ぐらい子供がいるから倍に増えても構わないぐらいの状況らしい。

そして既にロゼレムの支配者であるローザは、クラッドと共にこの会場の雰囲気を隅の方で楽しんでいる。

美しく着飾った姿を見ると、確かに上品な女王様だと感じる。

俺は彼女の前に立ち、今更ながら無事に帰還したことを報告した。

それから、ローザが言葉をくれた。

「エリック様。私はどう表現していいか迷うほどに、貴方様に感謝しています。できるならば、この身を捧げたいほどに」

「ちょっと待って下さいよ! 誰がそんな冗談を教え込んだんですか! そんな類いの冗談は、もう二度と口にしちゃダメですよ!」

驚きすぎてまくし立てると、ローザもクラッドも楽しげに笑った。俺って、感謝されながらもからかわれるタイプなのか?

俺が少し落ち込んでしまったところで、ローザが笑うのを止して改まった感じで言った。

「エリック様」

「はい?」

「私と、二人きりでお話しできませんか? 貴方様に伝えておきたいことがあるのです」

「ええ、良いですとも」

今後の国の治め方の相談だろうか。

俺はローザと一緒に、パーティー会場を見下ろせる二階通路の隅っこまで移動した。

上から見下ろすと、トップが和解したからか和気あいあいとしている大勢の姿が良く見える。

正直、人の話し声が騒がしくて、ひっそりと話をするような環境ではないものの、学生時代の文化祭のような雰囲気があって穏やかな気持ちになれる。

「エリック様」

「あ、はう。話って何ですか?」

「私の手を握り締めて下さいませんか」

「え……」

その意味は何と戸惑ったものの、ローザが物凄く真剣なので、言われるままに差し出された彼女の手を握り締めた。

ローザの手はとても温かい。なのに、とても寂しげな表情をした。

「ごめんなさい」

思わず謝罪して手を離すと、ローザは大きく首を横に振った。

「謝罪されるようなことはありません。私は、感謝申し上げます。私はエリック様と出会って、スラムで助けられた時までは……男性に触れられると正気を失う精神的苦痛に悩まされていました」

「……それは、まさか、その……」

ローザの身の上を思い出すと、想像できる状況はそう多くない。

「けれど、エリック様には触れられても平気でした。私はそれを恋だと思いました。最初はそう思っていましたが、しかし今となっては違うと分かります。エリック様は、心から全ての存在を愛しておられて、私を傷つける可能性など一つも無いから、私はその優しさに安堵したのです」

ローザは悲しげに微笑み、騒がしい階下に視線を向けた。

「逆に、私の夫であった者は、私のことなど人形としか考えていませんでした。幼くして嫁いだ私は、その扱いに耐えられず、ただ恐怖から逃げるために宇宙に出たのです。本当は、国のためを思っての出奔ではありませんでした」

「それは、よく分かります。俺も同じだから」

俺は驚き、ローザに手を差し伸べた。ローザも少し驚きつつも、俺の手を取ってくれた。

「俺も、親の問題があって、人に触れられるととても恐ろしくて、時に叫んだり正気を失ったりしていました。でも俺は、友人たちのおかげで立ち直れました」

本当は、まだ少しは癒やされていない傷が心に残っていると感じる。でも、それはもう俺を脅かすものじゃない。

「だからといってローザ様に、同じように回復するだとか大丈夫とかは、心の傷は人それぞれなので言えません。けれど、心が閉じ込められた堅固な牢獄には出口があって、必ずそこから出られるとは言えます。みんながそこから手を差し伸べてくれていますから、心が落ち着けば、その手を取って外に出ましょう」

ローザは俺の言葉を聞きつつ涙ぐみ、頬に一筋のきらめきを作った。

俺は手を離し、フィルに貰っていたハンカチを取り出してローザに渡した。

ローザはそのハンカチで少しだけ涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。

「エリック様、私は今ならクラッドの手を取れます。少しずつですが、良くなっているのです」

「えっ、そうですか、良かった」

先走った不要な助言だったかと、恥ずかしくなった。

ローザは上機嫌のまま俺にさようならと言い、先に一人で一階に戻って行った。

とはいえ、二階通路の階段の前でクラッドが待ち伏せしていたから、一階に降りた時には二人で仲良く手を繋いでいた。

俺は笑顔で二人に手を振り、物凄く幸せな心地になった。

そういえば、とふと気付いた。

ローザは、俺とレドモンドの両方ともと会うのが正解だったんだ。

彼女を幸せにできる片割れになれて、それもとても嬉しく思えた。
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