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第二章 龍神の決断
3 ごまかしても、そこにあるもの
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1・
首都にある、一番の近場の海水浴場に行ってみた。
ミンスさんがいなけりゃ、中央神殿傍の龍神専門プライベートビーチに行っても良かったけど、ミンスさんがいなきゃ行く意味が無い。
だって、イツキは友達じゃないし……。
変な事にこだわり始めたと分かっているのに、気にするのが止められない。僕の友達は、ミンスさんだけのような気がする。
龍神になる前に、正体が知られる前に、イツキと出会えて友人になれていれば、こんなに悩まなくても良かったのに。
辛いなと思いつつも、ミンスさんとイツキと一緒に波打ち際まで散歩に行った。
少し黄土色がかった白く美しい砂浜と、澄んだ海。もうすぐ秋になる涼しい気候に、和らいできた空の青色に、まだ夏のような白い雲が見える。
ミンスさんは楽しそうに海水に触れたり、打ち寄せる波から逃げたり、貝殻を拾い集めたりしている。
僕はその元気なミンスさんを時折目で追いつつ、波のこない砂浜に立って遠くの方を眺めた。
背後に、イツキの気配がする。
僕からは声をかけられないと変に緊張していると、イツキの方から話しかけてきた。
「ショーン様。少し、お時間を頂いても構いませんか」
何かの決意が込められた力強い声に思えたので、振り向いた。
イツキは二本の木刀を持っていて、一本を僕に向けて差し出していた。
「手合わせしてください」
「手合わせって言っても、木刀なんて振った事ないよ」
「訓練だと思って下さい」
イツキが真剣だから、そういうのも必要だろうなと受け入れた。
それで木刀を持ってみたものの、思った以上に重くて、両手で構えてようやくゆっくり振れるぐらいでしかない。
こんななのに、訓練って無理だ。
困ってただ笑うと、鋭い目付きのイツキが言った。
「ショーン様は、母親を失った現実が辛くて、それから目を逸らしているのではないですよね」
「……え?」
「貴方が直視しないのは、自分で母親を殺した現実ですよ」
言われた瞬間、体中に衝撃が走った。
考えないようにしてたのに。みんなが……エリック様が、僕のせいじゃなく、みんなが悪かったって謝ってくれたのに。
だけど、僕が殺した。状況がおかしいのに気付かずに、ただ言われた事だけ頭に入れて、自分で考えずに言葉を伝えてしまって、母さんをあんな風に苦しませて、殺してしまった……!
「よくも……言ったな!」
辛くて悲しくて苦しくて、胸が押し潰されそうだ。
「僕は、ただ、仲良くしたかった……!」
頭の中もぐるぐるして、ただ怒りに流される。
「みんなと、母さんと、友達になりたかった、だけなんだ!」
僕が本気で打ちかかっても、イツキは冷静に全てを受け流す。
彼を慌てさせる事すらできない。それも悔しくてしょうがなくて、ただひたすら木刀を打ち付けた。
すぐに息が上がり、腕が上げられず、動かせなくなった。
それでも悔しくて向かっていこうとして、木刀が手からすっぽ抜けて砂浜に落ちた。
汗を流して肩で息をし、震える手で頬に触ってみて、ようやく自分が情けないぐらいに泣いてるのに気付いた。
それに、手が血まみれだ。必死すぎて、手の皮がむけた事にも気付かなかった。
でも気付くと、ジンジン痛んだ。その強い痛みが、余計に僕の苦しみになった。
「痛い、痛いよ」
そう言ってから、どうしようもなく声を上げて泣いた。
「大丈夫です。すぐ治しますから」
イツキが木刀を捨てて僕の手を取り、白の治癒魔法なんだろうものを発動させた。
少しの白い光が走り、僕の手の傷は消えた。
痛みが無くなったから、少しだけ落ち着いた。でも悲しくて寂しくてしょうがない。
まだ泣き止めないでいると、イツキが強く抱き締めてくれた。
ようやく少し安心できたけど、でも……彼は仕事でここにいる。
そう考えてまた悲しくなってくると、イツキは僕から離れて片手を差し出してきた。
「ショーン様、私は貴方の護衛官です。けれど私は、貴方の友人に……友達に、なりたいのです。なって下さいますか」
「え……」
そりゃもちろん、なりたい。なりたいけど……。
「ショーン様、私を友達にして下さいますか?」
「…………分かった。僕も、友達になりたい。なって……くれて、ありがとう」
僕がこう言っても、イツキは死なない。嬉しそうに僕の手を取り、握り締めてくれている。
良かった。僕、友達を増やそうとする度に、殺したりしなくていいみたいだ。
僕からも、イツキの手をギュッと握り締めた。
それから突然に嬉しくなり、やっぱり涙が止まらないけどニッコリ笑えた。
そのうちにオーランドさんがタオルを持って来てくれたので、それで涙と鼻水と血を拭いた。
泣き止めてもシャックリが出てろくに話せないでいると、微笑ましい感じで笑ってるミンスさんが、僕に綺麗な貝殻をくれた。
「あ、りがと、う」
「うん。あのね、私……考えたんだけど、文化祭に出るわ。一人でも歌ってみせるわよ。だから応援よろしく!」
「え……あ、うあ?」
「心配しなくても大丈夫よ。私、ギター弾きながら歌えるからね。まあ、期待してて」
「いや……そのう、でも、一人じゃ……」
「なによ。私に出て貰いたがってたのに、今さら反対するの?」
「そ、そうじゃ、なくて……誰か、他に……」
イツキを見たけど、笑顔で首を横に振った。僕も無理だ。
「じ、じゃあ僕、誰か一緒に出てくれる人、探してみる」
「もうあと一週間しかないから、練習できないでしょ? オールドクラシックを知ってる人は少ないし、一人でいいわ」
でも、ミンスさんは一人で出るのを嫌がってた。だから、僕が助けたい!
「歌える人、じゃなくて、楽器演奏が、できる人は、どう?」
「あのね、軽音部の人たちなら別枠で出場するから、誘えないわよ」
「う~。じゃあ、軽音部じゃない人を、当たって、みる」
「ショーン君、無茶しないでね」
「大丈、夫」
シャックリしながら言う大丈夫は、大丈夫そうじゃないなあと自分で思った。
その後は、みんなで仲良くして心を温めつつ帰宅した。
2・
深夜、エリックは仕事があった城から中央神殿に帰宅する途上にいた。
電話がかかってきて、即座に対応する。
「今日はなにが?」
電話口の向こうで、イツキは答える。
「少し長引きますが、よろしいでしょうか?」
「うん。ちょっと待ってろ」
エリックは乗っている飛空車を駐車場に停車させ、同乗していた神殿長と龍神助手官、龍神副長官と警護官たちをコンビニに追い払った。
「よし話せ」
「ショーン様に内情を吐露させました。一番辛いことから逃げて隠せば無くなると思っていたようですので、表に出させて泣かせました」
「そうか。よくやってくれた。それで一応、なにが問題か理解できただろうから、今後は自分だけでも立ち向かえるだろう」
エリックは、自分のせいであれ程まで傷つけたと思い、ため息をついた。
「しかし……本来は、受けなくても良かった傷だ。俺は、ショーンにどう償えばいいか分からない」
「ショーン様は、エリック様に償ってもらいたいなどと思っていませんよ」
「今はな。イツキも理解しているだろうが、今のショーンはまだ幼児だ。自分が定まらず、ただ感情に流されて表情をコロコロと変える。レリクスだと周囲が教え込んだことを素直に信じて、二度しか会っていない猫を母と信じる。だが、彼もいつかは大人になる」
「しかし……レリクスの母については、やはりそう深い愛情を持っていないように見えます。母という単語に反応し、悲しくなり泣いているだけのようです」
「かもしれないが、それでも十分だろう。レリクスとして最後の一人となったことに思いをめぐらせ、俺に復讐したく思う時もあるかもしれない。その時は、彼の邪魔をするな」
「いえ、ですが──」
「イツキはイツキの仕事をしろ。命令だ」
「……了解しました」
「しかし……彼の心が大人になった時、長寿の俺でももう寿命で死んでるかもしれないな。その時は、墓石でも壊させてあげてくれ」
「まあ……そうですよね。先は長いですね」
「ショーンの寿命は、きっと俺より長い。しかも、あれ程の隔世遺伝でありながら、力強い神族だ。大人になった時に人を憎んでいれば、彼は容赦なく宇宙文明を滅ぼすだろう。彼を魔王にしてはいけない。そうならないように、俺たちは彼を真っ直ぐ育て上げないといけない」
「肝にめいじております」
「イツキにばかり負担をかけてしまうが、これから数年の学生生活が、彼と宇宙文明の運命を決定づける。どうか彼に、人と共に生きる喜びを教えてあげてくれ」
「はい。分かっております。私は彼の友人として、二度目の学生生活を楽しみます」
「ああ。じゃあ、何か必要な物はないか? お祖父ちゃんが買ってやろう」
「……以前に頂いたもので、十分です。他の親族たちに買ってあげてください」
「買ってるとも。でも最近はもう縁遠い子供ばっかりで、遠慮がちなんだよなあ。会っても走ってきて抱きついたりなんて、してくれない」
「子供好きなのは大変良いことと思いますが、甘やかすのとは違いますよ」
「お前のそういうところは、本当にクロに似てるな。あ、でもクロは可愛い時は可愛くてさあ──」
「失礼します」
イツキは電話を切った。そして、あの存在に会った事を伝えなかったと気付いた。しかし事件そのものは他の護衛官が連絡した筈なので、もういいかと割り切った。
3・
深夜のホテルで、フリッツベルクはユールレムに電話を入れた。
相手が対応に出て、頭を下げる。
「補佐官長様、お時間よろしいですか? 無い? いやお待ちを」
フリッツベルクは慌てた。
「レリクスについての追加情報はありませんが、代わりに三人目の龍神に会いました。そちらについては、どうされますか? えっ、はあ、エリック様付きの警護官とロック様付きの神官が一緒にいたので、間違いはないかと」
フリッツベルクは、しばらく補佐官長の話を聞いた。
「私立ハルトライト高校の制服を着た、可愛らしい女の子でした。バンハムーバ政府は、彼女が学生の間は、実名を公表するつもりはないようですね。…………なるほど。はい、分かりました。では、私はレリクスの捜索に集中します。失礼します」
フリッツベルクは電話を切った。そして一度悩んだ後で、エリックに電話をかけた。
「あ、夜分遅く失礼しま~す」
コンビニでアイスを買い車内で食べているエリックは、密かに苦笑いした。
「起きてるから別にいい。それで、例の書類は?」
「今はクリスタにいましてね、今日、イツキ君に出会ったんで渡そうとしたんです。でも無視されました」
「別人だったんじゃないのか?」
「かもしれません。まあそれで、これからそちらに渡るところです。三日後に伺っても構いませんか?」
「悪いが、会えない。ホルンに言っておくんで、彼に渡しに行ってくれるか」
「え~……私、タダ働きは嫌です。本職もありますし」
「宝石が入手できればいいんだろう? それで護ってくれ」
「へえ、なかなか思い切った申し出で、驚きました。勿論、レリクスの宝石でしょうね?」
「ああ。俺は騙したりしない」
「では、取り引き成立といきましょう。しかしあの子…………まあ、いいですよ。飲み込んでおきます」
「それはありがたい。じゃあ、取りあえずそっちに行くポドールイ人たちは全部任せる。三日後にクリスタに到着するからな」
「丸投げしないで下さい。でもまあ、可愛い女子高生を護るのは楽しいですね。仲良くなっても構いませんか?」
「…………」
「エリック様?」
「……い、イツキのガードを破れたらな」
「まさか許可が出るとは」
フリッツベルクは驚きつつ、イツキは難攻不落だなと考えた。
「エリック様……じゃあ取りあえず、そういう事で」
「ああ。そういえば猫カフェ行っただろ?」
「行きました。至高の時間ですね」
「いいなあ、俺も猫カフェ行きたい。思う存分モフモフし──」
エリックのスマホは、同乗していた神殿長により通話を遮断された。
首都にある、一番の近場の海水浴場に行ってみた。
ミンスさんがいなけりゃ、中央神殿傍の龍神専門プライベートビーチに行っても良かったけど、ミンスさんがいなきゃ行く意味が無い。
だって、イツキは友達じゃないし……。
変な事にこだわり始めたと分かっているのに、気にするのが止められない。僕の友達は、ミンスさんだけのような気がする。
龍神になる前に、正体が知られる前に、イツキと出会えて友人になれていれば、こんなに悩まなくても良かったのに。
辛いなと思いつつも、ミンスさんとイツキと一緒に波打ち際まで散歩に行った。
少し黄土色がかった白く美しい砂浜と、澄んだ海。もうすぐ秋になる涼しい気候に、和らいできた空の青色に、まだ夏のような白い雲が見える。
ミンスさんは楽しそうに海水に触れたり、打ち寄せる波から逃げたり、貝殻を拾い集めたりしている。
僕はその元気なミンスさんを時折目で追いつつ、波のこない砂浜に立って遠くの方を眺めた。
背後に、イツキの気配がする。
僕からは声をかけられないと変に緊張していると、イツキの方から話しかけてきた。
「ショーン様。少し、お時間を頂いても構いませんか」
何かの決意が込められた力強い声に思えたので、振り向いた。
イツキは二本の木刀を持っていて、一本を僕に向けて差し出していた。
「手合わせしてください」
「手合わせって言っても、木刀なんて振った事ないよ」
「訓練だと思って下さい」
イツキが真剣だから、そういうのも必要だろうなと受け入れた。
それで木刀を持ってみたものの、思った以上に重くて、両手で構えてようやくゆっくり振れるぐらいでしかない。
こんななのに、訓練って無理だ。
困ってただ笑うと、鋭い目付きのイツキが言った。
「ショーン様は、母親を失った現実が辛くて、それから目を逸らしているのではないですよね」
「……え?」
「貴方が直視しないのは、自分で母親を殺した現実ですよ」
言われた瞬間、体中に衝撃が走った。
考えないようにしてたのに。みんなが……エリック様が、僕のせいじゃなく、みんなが悪かったって謝ってくれたのに。
だけど、僕が殺した。状況がおかしいのに気付かずに、ただ言われた事だけ頭に入れて、自分で考えずに言葉を伝えてしまって、母さんをあんな風に苦しませて、殺してしまった……!
「よくも……言ったな!」
辛くて悲しくて苦しくて、胸が押し潰されそうだ。
「僕は、ただ、仲良くしたかった……!」
頭の中もぐるぐるして、ただ怒りに流される。
「みんなと、母さんと、友達になりたかった、だけなんだ!」
僕が本気で打ちかかっても、イツキは冷静に全てを受け流す。
彼を慌てさせる事すらできない。それも悔しくてしょうがなくて、ただひたすら木刀を打ち付けた。
すぐに息が上がり、腕が上げられず、動かせなくなった。
それでも悔しくて向かっていこうとして、木刀が手からすっぽ抜けて砂浜に落ちた。
汗を流して肩で息をし、震える手で頬に触ってみて、ようやく自分が情けないぐらいに泣いてるのに気付いた。
それに、手が血まみれだ。必死すぎて、手の皮がむけた事にも気付かなかった。
でも気付くと、ジンジン痛んだ。その強い痛みが、余計に僕の苦しみになった。
「痛い、痛いよ」
そう言ってから、どうしようもなく声を上げて泣いた。
「大丈夫です。すぐ治しますから」
イツキが木刀を捨てて僕の手を取り、白の治癒魔法なんだろうものを発動させた。
少しの白い光が走り、僕の手の傷は消えた。
痛みが無くなったから、少しだけ落ち着いた。でも悲しくて寂しくてしょうがない。
まだ泣き止めないでいると、イツキが強く抱き締めてくれた。
ようやく少し安心できたけど、でも……彼は仕事でここにいる。
そう考えてまた悲しくなってくると、イツキは僕から離れて片手を差し出してきた。
「ショーン様、私は貴方の護衛官です。けれど私は、貴方の友人に……友達に、なりたいのです。なって下さいますか」
「え……」
そりゃもちろん、なりたい。なりたいけど……。
「ショーン様、私を友達にして下さいますか?」
「…………分かった。僕も、友達になりたい。なって……くれて、ありがとう」
僕がこう言っても、イツキは死なない。嬉しそうに僕の手を取り、握り締めてくれている。
良かった。僕、友達を増やそうとする度に、殺したりしなくていいみたいだ。
僕からも、イツキの手をギュッと握り締めた。
それから突然に嬉しくなり、やっぱり涙が止まらないけどニッコリ笑えた。
そのうちにオーランドさんがタオルを持って来てくれたので、それで涙と鼻水と血を拭いた。
泣き止めてもシャックリが出てろくに話せないでいると、微笑ましい感じで笑ってるミンスさんが、僕に綺麗な貝殻をくれた。
「あ、りがと、う」
「うん。あのね、私……考えたんだけど、文化祭に出るわ。一人でも歌ってみせるわよ。だから応援よろしく!」
「え……あ、うあ?」
「心配しなくても大丈夫よ。私、ギター弾きながら歌えるからね。まあ、期待してて」
「いや……そのう、でも、一人じゃ……」
「なによ。私に出て貰いたがってたのに、今さら反対するの?」
「そ、そうじゃ、なくて……誰か、他に……」
イツキを見たけど、笑顔で首を横に振った。僕も無理だ。
「じ、じゃあ僕、誰か一緒に出てくれる人、探してみる」
「もうあと一週間しかないから、練習できないでしょ? オールドクラシックを知ってる人は少ないし、一人でいいわ」
でも、ミンスさんは一人で出るのを嫌がってた。だから、僕が助けたい!
「歌える人、じゃなくて、楽器演奏が、できる人は、どう?」
「あのね、軽音部の人たちなら別枠で出場するから、誘えないわよ」
「う~。じゃあ、軽音部じゃない人を、当たって、みる」
「ショーン君、無茶しないでね」
「大丈、夫」
シャックリしながら言う大丈夫は、大丈夫そうじゃないなあと自分で思った。
その後は、みんなで仲良くして心を温めつつ帰宅した。
2・
深夜、エリックは仕事があった城から中央神殿に帰宅する途上にいた。
電話がかかってきて、即座に対応する。
「今日はなにが?」
電話口の向こうで、イツキは答える。
「少し長引きますが、よろしいでしょうか?」
「うん。ちょっと待ってろ」
エリックは乗っている飛空車を駐車場に停車させ、同乗していた神殿長と龍神助手官、龍神副長官と警護官たちをコンビニに追い払った。
「よし話せ」
「ショーン様に内情を吐露させました。一番辛いことから逃げて隠せば無くなると思っていたようですので、表に出させて泣かせました」
「そうか。よくやってくれた。それで一応、なにが問題か理解できただろうから、今後は自分だけでも立ち向かえるだろう」
エリックは、自分のせいであれ程まで傷つけたと思い、ため息をついた。
「しかし……本来は、受けなくても良かった傷だ。俺は、ショーンにどう償えばいいか分からない」
「ショーン様は、エリック様に償ってもらいたいなどと思っていませんよ」
「今はな。イツキも理解しているだろうが、今のショーンはまだ幼児だ。自分が定まらず、ただ感情に流されて表情をコロコロと変える。レリクスだと周囲が教え込んだことを素直に信じて、二度しか会っていない猫を母と信じる。だが、彼もいつかは大人になる」
「しかし……レリクスの母については、やはりそう深い愛情を持っていないように見えます。母という単語に反応し、悲しくなり泣いているだけのようです」
「かもしれないが、それでも十分だろう。レリクスとして最後の一人となったことに思いをめぐらせ、俺に復讐したく思う時もあるかもしれない。その時は、彼の邪魔をするな」
「いえ、ですが──」
「イツキはイツキの仕事をしろ。命令だ」
「……了解しました」
「しかし……彼の心が大人になった時、長寿の俺でももう寿命で死んでるかもしれないな。その時は、墓石でも壊させてあげてくれ」
「まあ……そうですよね。先は長いですね」
「ショーンの寿命は、きっと俺より長い。しかも、あれ程の隔世遺伝でありながら、力強い神族だ。大人になった時に人を憎んでいれば、彼は容赦なく宇宙文明を滅ぼすだろう。彼を魔王にしてはいけない。そうならないように、俺たちは彼を真っ直ぐ育て上げないといけない」
「肝にめいじております」
「イツキにばかり負担をかけてしまうが、これから数年の学生生活が、彼と宇宙文明の運命を決定づける。どうか彼に、人と共に生きる喜びを教えてあげてくれ」
「はい。分かっております。私は彼の友人として、二度目の学生生活を楽しみます」
「ああ。じゃあ、何か必要な物はないか? お祖父ちゃんが買ってやろう」
「……以前に頂いたもので、十分です。他の親族たちに買ってあげてください」
「買ってるとも。でも最近はもう縁遠い子供ばっかりで、遠慮がちなんだよなあ。会っても走ってきて抱きついたりなんて、してくれない」
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3・
深夜のホテルで、フリッツベルクはユールレムに電話を入れた。
相手が対応に出て、頭を下げる。
「補佐官長様、お時間よろしいですか? 無い? いやお待ちを」
フリッツベルクは慌てた。
「レリクスについての追加情報はありませんが、代わりに三人目の龍神に会いました。そちらについては、どうされますか? えっ、はあ、エリック様付きの警護官とロック様付きの神官が一緒にいたので、間違いはないかと」
フリッツベルクは、しばらく補佐官長の話を聞いた。
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「あ、夜分遅く失礼しま~す」
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「かもしれません。まあそれで、これからそちらに渡るところです。三日後に伺っても構いませんか?」
「悪いが、会えない。ホルンに言っておくんで、彼に渡しに行ってくれるか」
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「宝石が入手できればいいんだろう? それで護ってくれ」
「へえ、なかなか思い切った申し出で、驚きました。勿論、レリクスの宝石でしょうね?」
「ああ。俺は騙したりしない」
「では、取り引き成立といきましょう。しかしあの子…………まあ、いいですよ。飲み込んでおきます」
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「…………」
「エリック様?」
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