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第四章 決戦に向けて

4 出発の前日の決定

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1・

朝早く。清々しい気分で目覚め、新しい週の始まりに満足感を覚えた。

今日から心機一転で学校の勉強も頑張るぞと気合いを入れていると、部屋にエリック様が来て一緒に朝食をと誘ってくれた。

明日にバンハムーバ母星に帰るエリック様と食事をするのは、楽しい。

ところでアデンに行ってレリクスとしての新しい自分に生まれ変わるのか? と質問されるまでは。

「忘れてました!」

「急ぎで悪いが、昼には決断してくれるか?」

「ええと、確か、本当は昨日の夕方が答える期限でしたよね? あの、あの、色々とありますが、戦いに備えて僕は強くなるべきだと思います。だから、本当に行きます。物怖じしないで行きます」

「そうか。ならばこちらで旅の手配をしよう。ショーンは、十日間ほどの旅に持っていきたいものを鞄に入れるんだ。同行者は護衛と案内役を兼ねた俺の妻のクロ。それに片道だけだがノアも行ってくれるし、あと追加でアデンの隣の星のファルクスまではロゼマイン様方も同行してくれるという。確実に、アデンに行くまでは事故なんてないから安心しろ」

「イツキと、オーランドさんもですよね?」

「それにホルンも同行する。勿論、戦艦に乗って行くから宇宙軍の兵士たちも沢山いる。可愛がってもらえるだろう」

「それは嬉しいです。友達……は無理でも、仲良くなれるのは楽しいですよね」

「……ああ。遠足気分で行くといい。アデンに到着すれば、レリクスの王様が色々と教えてくれる。何も心配しないでいい」

「はい。僕は……あ、私は、立派で強い一人前の男になって帰還します。そうしたら、エリック様に真っ先に連絡を入れますね。あの、まだ使った事がない遠距離通信室の大画面で、報告しますからね」

「分かった。母星の中央神殿で待ってるぞ」

「はい!」

ここからは、また楽しい朝食に戻れた。

食事を終え、エリック様と笑顔で別れた。じゃあしばらくは学校に行けないなと考えた時、問題に気付いた。

一緒に通学しようと思っていたアデリーさんのいる客間まで行き、扉の前でモジモジした。

そのうち扉が開いた。

対応に出てくれたベルタさんに、アデリーさんとお話していいですかと頼んだ。

アデリーさんももう食事を終えたようなので、部屋にお邪魔した。

椅子に座り、僕がこれから十日間ほどアデンに行くとアデリーさんに説明した。理由は言えないけれど、重要な任務だと伝えた。

「それでは、私は一人で登校すれば良いのですね?」

「いや、それは危険じゃないだろうか。ふ……今回の襲撃の首謀者が、どれだけユールレム王家に害意があるか分からないから、できるなら学校に通うのは諦めてもらいたいんだ。かといって、中央神殿で一人いるのも安全かと言えばそうじゃない気がするし」

「では、私もやはり兄と同じ城に居るべきでしょうか」

アデリーさんは、言いながらどこかガッカリしてしまった。

昨日、ユールレムが襲撃されたと聞いた時よりましに見えるけれど、落ち込んでいるのは分かる。

アデリーさんを元気にしてあげたい僕は、考えてきた通りに提案した。

「ええと、好きにしてもらいたいんだけれど……アルファルド様と一緒にいるか、もしくは僕と一緒にアデンに行くか。凄い護衛の方々がいて下さるんで、アデンに旅をしても大丈夫だよ」

「護衛とは、どのような方々ですか?」

ベルタさんが、横から素早く聞いてきた。

「ポドールイのロゼマイン様たちと、ミネットティオルのノア様に、エリック様の奥様のクロ様、あとイツキたちもいますし、そもそも宇宙軍の軍艦で行くんです。安全ですよ?」

「は、はい。それはそうですね」

いつも厳しいあのベルタさんに、素直に同意してもらえた。良かった。

「だからその、遠足気分で一緒に行こうよ。楽しめると思うよ?」

「…………その……楽しみたい気分ではありませんけれど、安全だというのでしたら、ご同行いたします」

「分かった。ありがとう。じゃあ十日間ほどの旅の準備をしてくれるかな? 足りないものがあれば、その……」

僕は、オーランドさんを見た。オーランドさんは笑顔で、僕の代わりに言ってくれた。

「私でも良いし、どの神官たちに仰っていただいても準備いたします。昼過ぎまでに荷物をまとめていただければ、即座に引き取りに参ります。夕方に宇宙軍港に移動して、向こうで夕食となります。シャムルル様もですよ?」

「あ、はい」

僕も荷物を作らなくては。

「じゃあアデリーさん。また後でね」

楽しんでもらえないかもしれないけれど、気晴らしにはなってくれると思う。僕はそう願いつつ、手を振って部屋を後にした。

そして廊下を歩きつつ、はたと気付いた。

「……勝手にアデリーさんを連れ出しても、大丈夫なんだろうか?」

「大丈夫ですよ。シャムルル様のご命令ですし」

歩いている時は僕の斜め後ろに大体いるイツキが、サラッと答えてくれた。

「でもその、アデンからの帰りも安全だろうか? ロゼマイン様もノア様も、片道だけだし」

「クロ様がおられるので、大丈夫です。ホルン様に私たちもいますよ」

「う……うん。そうだよね」

それに軍艦だし、アデンはクリスタから近いし。全然大丈夫だろう。そう思うことにした。

次に、隣を歩いているオーランドさんが話しかけてきた。

「ところで、いつ貴方様のお父上となる方と再会なさいますか?」

「ん?」

誰のことだろうと思った。

「……アデンに行かれてから、再会された方がよろしいかもしれませんね。あの方はシャイでしょうから」

「……あ」

ようやく思い出した。僕にレリクスの新しい命をくれるレリクスの王様を、先に生き返らせるべきだった。

でも今も含めて僕の周囲に沢山の人が居すぎて、イツキの言うとおりアデンに到着するまでに作業をする隙がないように思う。

「僕も、その方がいいと思う」

「はい」

オーランドさんは微笑みつつ頷いた。

うっかりミスが多すぎる僕に助け船を出す人は本当に必要だと、シミジミ感じてしまった。

しかし、ミンスさんに電話するのは忘れない。

自分の部屋に戻るとすぐにスマホを取り出し、窓際に寄りつつミンスさんに電話した。

「ショーン君、おはよう」

「お、おはようございます」

ミンスさんのテンションが低かったので、思わず動揺しつつ窓に向かって頭を下げてしまった。

「まだ朝早いけど、どうしたの?」

「あ、その、ええと、実は、こっちの仕事の都合で、アデンに旅をしなくちゃいけなくて。今日から十日間ほど、学校を休みます」

「ああ……そうなんだ。あのね昨日の夜にいきなり衝撃的なニュースが飛び込んできて、なかなか眠れなかったのよ。まだ大っぴらにできないみたいだけど……ショーン君、本当に神殿で働いてるのよね?」

「う、え、その。はい」

龍神シャムルルであることをいつミンスさんにバラせばいいか決めてないけれど、眠そうなミンスさんに電話越しで伝えたくはない。

「じゃあいっか。あのね、ジェラルドお兄ちゃんが昨日、何故か龍神に覚醒しちゃって、うちの一族がてんてこ舞いになっちゃってるの。お兄ちゃんのお父さんやお兄さんたちが龍神助手官になるようだから、彼らの商売の仕事を代わりに誰に任せるかって話になっちゃってさ。もう大変」

二日前に会った人たちだと思い出した。

「ああ……そうなんですね。そのような事態になっていましたか」

「……ショーン君、お兄ちゃんが龍神になったの知ってたのね? いつもだったら、ギャーとかウワーって言うのにね」

「あっ……き、昨日、偶然に神殿でお会いしたんです。その時は目を疑いました」

「アハハ。その反応見たかったなあ! んーと、それで……まあいいわ。私の話は、またショーン君が戻って来てから言うわ。行ってらっしゃい」

「は、はい。無事に行って戻ってきます。アデンから電話していいですか?」

「旅の途中でも良いわよ? そちらが忙しくなかったらね」

「じゃあそうします。あ、あと、アデリーさんも一緒に……いえその。ユールレムのことがあって、しばらく学校を休むそうです」

「ああ、あちらも大変よね。うちの取り引きは多くないけど、ジェラルドお兄ちゃんの家の方はガッツリ関係があって……って、この話もいいわね。私、今から朝食にするわ~」

「あ、はい。朝早くに、済みません」

「いいのよ。話せてスッキリしたわ。じゃあまたね」

「はい。また後で」

僕は役立ったようだと思って、とても嬉しくなった。

2・

時間になっても学校に行かなくていいというのは、行きたい時はとても物悲しく思える。

ショボンとして旅行鞄に何を詰め込もうか考えていると、神官さんの一人がジェラルド先輩がもうすぐ来られると伝えてくれた。

出迎えに行こうと決めて仮面を装着して、中央神殿の居住区の正面玄関前ロビーに向かった。

お出迎えの為に既にエリック様もいて、その他の神官さんたちや役人さんたちもいる。クラレンス様とマーティス様がおられないのは、やっぱりユールレムの襲撃問題の対応をしているからだろうか……。

エリック様の隣に立ち、複雑な気持ちになっている間に、ジェラルド先輩と関係者たちが到着した。

神官さんたちが、両開きの扉を全開にした。

ロビーから見える玄関前に降り立った飛空車から、陸軍の軍服を着たジェラルド先輩は颯爽と降り立つと、振り向いて車の方に手を差しだした。

何をしているんだろうと思っていると、ジェラルド先輩の手を取り降りてきた人がいた。

ジェラルド先輩は、とても綺麗に着飾り美しいローレルさんの手を引き、二人で仲良くロビーに入ってきた。そしてエリック様と僕の前で立ち止まると、龍神式の軽めの会釈をした。

ジェラルド先輩はまずエリック様に挨拶をした。彼の隣に立つローレルさんはいつもと違い、緊張して控え目な様子だ。

それにしても化粧をして大人びた青みがかった白いドレスを着たローレルさんは、まるで別人だ。本当に美しい。

美しいといえば、出会った時のミンスさんも美しかった。とすれば、ミンスさんもこういう格好をすれば、それはもうかなり美しくなるという事なのでは……。

「……」

「し、シャムルル君?」

エリック様に呼ばれて、ハッとした。

「は。はい、何か?」

「ああ、うん。昨日の式で疲れてるから、仕方ないか。……では一度会議室の方に移動して、これからの活動内容を詳しく話し合いたい。ジェラルド君、構わないだろうか?」

「はい。よろしくお願いいたします」

ジェラルド先輩は堂々としているけれど、前にエリック様を尊敬していると言っていた通りに、子供みたいに目を輝かせて彼を見ている。

彼の情熱が伝わってくる。本当に、龍神になれて良かったねと思えた。

僕はエリック様とジェラルド先輩を見送ろうとしたんだけど、控え目にイツズミに押されて動かされた。

僕も行くのかと気付いてついて行き、大会議室に入った。執務室より大勢が入れるし、比較的簡単に誰でも入っていい場所らしい。執務室と比べたら、だけど。

エリック様とジェラルド先輩とローレルさん、僕と僕の部下。それにジェラルド先輩の家族で二日前に会った方々と、幾人かの神官さんや役人の方々など。

全員が入って、一部が着席した。僕は当たり前ながら目立つ席に座らされた。

僕の隣の席のエリック様が話し始めた。ジェラルド先輩のお付きの者達の承認と、その紹介らしい。だから僕も聞く必要があるのか。

まずジェラルド先輩はこのクリスタの出身であるから、僕と同じくここの守護者になるとのこと。そして僕は前線に立てる能力がないので、後方支援の魔法研究をする。ジェラルド先輩が、ロック様のように周辺宇宙域に出て賊と戦い、国を護る仕事を担う。

そしてクリスタの内政と外交政策にもジェラルド先輩が関与して、クラレンス様と同等に働く星の責任者となる。

その為に、僕を追い越して第二位の龍神に認めるという。

あと、ユールレムの襲撃事件のこともあり明日に母星に帰るべきエリック様が戦闘訓練をつけたいからと、急な申し出となるものの母星に共に渡るように要請した。

色んなことを既に受け入れているのだろうジェラルド先輩は、この頼みも即座に受け入れた。

その次に、彼のお父さんとお兄さんたちが龍神助手官に任命された。そして龍神副官長に、エリック様が推薦するユールレム王国の第二王子アルファルド様を任命するって……。

僕だけじゃなく、この場にいる全員がその人事に驚いた。アルファルド様は事情がある身なので、しばらく後に共に働くようになるとのこと。

その人事の驚きで部屋中がザワついている間に、中央神殿に新しく赴任する神官さんが、ジェラルド先輩の専属となる一人だと紹介された。

僕みたいにまだ子供……学生っぽい細身の青年で、バンハムーバ人ぽい外見なのにポドールイ人だという。

そう言われれば、青い目がとても澄んでいて遠くまで見通すような鋭さがある。そして、何だか……ポドールイ人というより別の不思議な感覚がする?

この感じは何だろうと僕が悩んでいる間に、パーシーという彼の紹介は終わった。

その次に、エリック様の推薦で僕の龍神助手官になるという……。

「え?」

気付かないでいたけれど、龍神助手官の制服を既に着用しているウィル先輩が、僕の傍にいてうやうやしくお辞儀してくれた。

「せ、先輩、せんぱ──」

「ああ、それから役職ごとに細々とした事は、神殿管理局の者たちと神官たちに説明を受けてもらいたい。そして忙しくて申し訳ないが、ジェラルド君の部下の幾人かは仕事を覚えてもらうために共に母星に来てもらいたいので、昼までにそちらで選出をお願いする。では、会議を終了する」

僕がアワアワしている間に、エリック様が話し終えて会議が終わって解散となった。

僕はにこやかに笑いながら僕を見下ろすウィル先輩にどう接しようかと悩み、しばらく椅子に座ったまま固まるしかなかった。
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