異世界初心者の冒険

海生まれのネコ

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第三章 冒険者たち

1・旅立ち前夜

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1・

あと四カ月後には、母星バンハムーバにて魔法大学の大学生になる僕は、検査入院の意味もあり滞在していた病院から、ようやく家に帰る事ができた。

夜になり、僕の帰宅を祝ってくれる家族のパーティーにて、魚のフライをもりもり食べるカルラ父さんが言った。

「それじゃあ俺は、明日帰るからな」

「え」

ずっと居つきそうな勢いだったので、僕もアッシュ父さんも本気で驚いた。

アッシュ父さんは嬉しそうだが。

「ええと、ポドールイ人の故郷の星ファルクスに帰るんですね?」

僕が聞くと、カルラ父さんは口の中のものをお茶で飲み下しながら二度頷いた。

「入学するまで四カ月あるんだ。今のうちに一度帰れ」

「んん? それは、僕の話ですか」

「ポドールイの王なんだから、一度村に顔見せろ。そしたら二度と帰ってこなくて良いからな」

「その非情な感じ、僕は嫌です」

「いいやノア、そうしろ」

アッシュ父さんが、笑顔で僕に言う。

「なんたってノアは、これから魔術師のエリートとして宇宙で活躍するんだ。辺境すぎる故郷にいちいち帰ってられないだろう? 今生の別れをしてこい」

「さすがに酷いな、お前」

カルラ父さんがツッコミ入れた。

「あの、じゃあ、旅は一ヶ月もあれば十分ですよね? 論文を書くのを諦めたので、余裕で行けますよ」

「明日の朝一に出発するから、準備は手早くな」

「分かりました。アリアナも準備しないと」

当然一緒に来るだろうと思って、傍の席にいるアリアナに話しかけた。

アリアナは、少し淋しげだった。

「私は行けないの。明日、宇宙港に母さんたちが迎えに来るから」

「えっ」

また突然な話に驚いた。

「ええ? どういうこと?」

「元々、兄さんを護るためにここに来たから、任務が終わったから帰らないといけなくて」

「そりゃそうだけど……ああそうか」

アリアナにも人生があるのだから、引き止めるわけにいかない。

「仕方がない。元気でね。僕もそっちに行けたらいいのに」

「おい」

カルラ父さんがツッコミくれた。

「よし、アリアナと一緒に二ヶ月ほど出かけてくればどうだ?」

アッシュ父さんの後押し。

「そうね。じゃあ一緒に行く?」

アリアナの提案。

「ちょっと待てよ。俺はどうなるんだ」

カルラ父さんが意見する。

「一人で帰れよ」

「そうね」

アッシュ父さんとアリアナの言葉に、カルラ父さんはがく然とした。

「俺も行くに決まってんだろ!」

「もう子離れしろ!」

とうとうカルラ父さんとアッシュ父さんのプロレスが始まったので、食事どころじゃなくなった。

弟妹たちと隣の部屋に料理を避難させようとして、誰かが僕を訪ねてきた気配がした。

騒ぎの起こる食堂を後にして玄関へ向かい扉を開けると、玄関の灯りに浮かび上がる人影が一つあった。

「夜分遅く申し訳ございません。ノア・クロフォード様ですね?」

見た目は若く見えるが、実際はそれなりの歳だと思える細身の男性。目がこわいほどに真剣で、その雰囲気に押されて僕は言葉を返せなかった。

「私はミネットティオル星国から派遣された者です。貴方様に、お伝えせねばいけないことがあります」

残念な事に、僕はその星の名前を知っている。

遠く宇宙を渡ったユールレム国勢力地の、ユールレムの友好国の一つ。

この宇宙文明で唯一、麒麟が政治に関与する場所。

「何のことか分かりません」

聞いては駄目だと思ったので、彼が何か言う前につっけんどんに振る舞い、玄関扉を締めた。

鍵もかけて振り向くと、アッシュ父さんとカルラ父さんが丁度やって来たところだった。

「何があった?」

アッシュ父さんの問いに答えず、僕は自分の部屋に行った。既に事情を分かっていそうなカルラ父さんだけが、ついてきた。

「……父さん」

「ああ、何か嫌な予感がしてたんだ。まさかこんなに早く、外部に情報が漏れるとは思ってなかった。なにしろ、シーマやロックがかん口令を敷いて情報操作してくれているからなあ」

「父さん、僕はどうしたら?」

「うーん、一応、麒麟としてバレたらどうするか、一通り考えてあるんだろう? その通りに動けよ」

「それは、考えてありますが……」

麒麟は強すぎる力を持つ反面、とても弱い一族。血の一滴でも見せられたら恐怖を感じ、多量の血ともなると身動きが取れなくなる。

ゆえにこれまでの宇宙の歴史の中では、裏社会に捕まり大金で売り買いされた事件がたくさんある。

だいたいが仲間の麒麟に探し当てられ、ミネットティオル星国の者が救い出したというが、それでもいくらかは犠牲になった。

僕はまだ中途半端な麒麟でしかないものの、悪くすればその性質のせいで同じように捕まる可能性もある。

入院中に一度だけ面会に来てくれたシーマ様も、この危険性について教えてくれた。

なにも自分の血でなくても、僕は捕まってしまうのだからと。

僕には今、大事な人たちがたくさんいる。全員をポドールイの力で守れればいいのだけれど、現実的にそれは無理だ。

シーマ様も、出来るならば僕が麒麟だとバレないで一生を過ごすことが望ましいと言ってくれた。僕だって同意した。

なのに退院したその日に、現実を突きつけられるとは。

出来るならば早いことポドールイの力と麒麟の力が操作できるようになり、弱点を作らないことが理想的だった。

ポドールイの王に手出ししようなんて愚か者は、宇宙にただの一人も存在しないのだし。

けれども僕は未熟すぎる。情報が漏れてしまった今、このまま普通の大学生になるのは無理だ。

その場合、僕が考えていた策は……現実的ではないがどこか遠くに逃げることと、ミネットティオルに保護してもらうことだった。

動揺してその使者を追い返したばかりだけど……いや、まだ玄関前にいる。

情報が欲しくなり、玄関にとって返した。

鍵が開いている玄関扉を開けて外に出ると、ミネットティオルの使者とアッシュ父さん、それにカシミア様がいた。

「先に、色々と話を聞いていたんです」

カシミア様は、何があるか気付いて来てくれたようだ。

味方が増えたことで安心でき、僕はようやく冷静になれた。

「あの、良ければ中でお話し出来ませんか」

他に誰にも聞かれていないと思うものの、外ではしたくない話だ。

僕の提案で、保育園の空いている部屋を話し合いに使わせてもらうことになった。

強い光の下で見た使者の方が、エルフという種族の者であることに気付いた。

確かミネットティオルの人口の三分の一ほどがエルフ種族らしいので、まさにその星の出身ということなのだろう。

僕はまず、使者の方に要件を聞いた。

想像通り、麒麟の僕を保護しに来たという。しかしポドールイの王であるという現実も踏まえ、まずは話し合いたいということのようだ。

この夜更けに来たのは他者の目をくらますためと、明日になれば状況がどう変化するか分からないからだと言う。

この話が終わったところで、みんなが僕を見る。

この話に正解は無い。あるのは僕の意向だ。

僕は普通の大学生になりたかった。四ヶ月後、バンハムーバの母星で見知らぬ人たちと出会い、学生として色んなことを学びたかった。

でも、もう無理だ。

「一つ確認したいのですが、私のことをどこで麒麟だと判断しましたか?」

「以前の事件の映像が、遠方からのものとしても数多くメディアで取り扱われました。麒麟の力は、他と同じ白魔法を使用しても独特のエネルギーを発するので、それで判断を」

使者の方は、感情の動きを一切見せずに答えてくれた。

あの場にいた誰が麒麟なのかは、現地で情報収集したらすぐ想像がつくものだろう。

けれど今、僕は彼が本当のことと嘘を言ったのが分かった。

「……それ以前から、ご存じでしたのでは?」

「申し訳ございません。確かにその通りです。このバンハムーバ風に言えば、龍神ならば龍神が判別出来ると、そういう流れでありました」

「今現在、麒麟の方は何名いらっしゃいますか」

「ミネットティオルに居られない方も含めて二十四名です。ただ星を出て活動可能な方は、現在は三名です」

当たり前だけれど、星を出られる人は少ないのか。でも存在しているんだ。

「その、どうやって外で活動を?」

「麒麟様の能力の種類や力の強さには、それぞれ個性があります。血への耐性があられる方は、外に出ることも可能です」

「血への耐性……は、僕にもあると思われますか?」

動揺して質問すると、使者の方は初めて少しだけ困ったような感情を見せた。

「それは、私では判断しかねます」

「そうですか、済みません」

「いえ、謝罪されないでください」

今度は困らせてしまった。これはバンハムーバで言うところの、龍神に対する畏敬の念と同じものか。

もし僕がここでミネットティオルに組しないと言ったところで、この念が原因で大勢が僕のところに寄り集まり、悪意が無くとも問題が絶対に起きると思える。

一番駄目なのは悪人に利用されることだが、悪人がいなくとも生きにくくなるだろう。

答えは一つしかない。

「分かりました。私はミネットティオルに行きます。保護をお願いできますか」

「了承していただき、光栄至極です。では明日にでも船を――」

「あの、それなのですが、渡航は妹の家族の船で行います。構いませんか?」

「……それには一つ、条件がございます」

使者の方の言い分はもっともだったので、その場で即座に受け入れた。

それともう一つ、決断した。

「カシミア様……」

名を呼ぶと、それだけで彼はにこりと笑って返事をくれた。

「了解しました。お引き受けいたします」

カシミア様は、この為にここに来てくれたのだろう。
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