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第三章 シルバー迷宮での攻防
十二 最深部に向けて
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1・
リヒトは合流した俺と一緒に、俺のテントに入っていった。
「そもそも、トーマはどうしてこの迷宮に来た? 生まれてまだ三週間ちょっとなのに、よく来られたな。さすがに再会は、もう少し後になると思っていたんだが」
タンジェリンとハルセトに至近距離で睨まれても一ミリも動じない勇者の言葉を聞いて、俺は思い出した。
「ああ~! 忘れてたけど、探してる人たちがいるんだ! それに……昔より迷宮の魔物が強くなっているようだから、その現地調査にやって来た」
「魔物のことは、確かにそうだな。サフィリシスだった時の記憶と比べたら、今の方がとても強い。体感的に戦闘力が一・二倍から一・五倍ぐらいに跳ね上がっている気がする。でもこの現象は、精霊王が復活したから徐々に落ち着くだろう。なあ?」
「……知ってたのか?」
「え? 精霊王の役目には、地上にある強い光として世界中の闇の魔物の牽制をすることもある……って、思い出してなかったのか。今も、全部は思い出していないのか?」
「それが、肝心な部分だけ思い出せないんだ。初代精霊王として生まれてウィネリアから使命を授かった時があったような気がするっていう程度で、記憶に一枚の壁がある」
「何故?」
何故って……ん? んんん。
「それが、俺にはまだ早い的な事を、他の精霊王たちに言われている気がする」
「生後三週間じゃ、しょうがないだろう。精神と肉体と魔力の調整がなってないんだ。もう少しレベルアップしたら、思い出すんだろうが」
「それって、戦闘に慣れる事でもあるかな?」
「そうだな。力の使い方を覚える……思い出せるだろう」
やっぱり、迷宮で戦闘に参加して適度に戦うのが最適ってことか。
「俺たち、俺のレベルアップの意味もあってここより地下を目指していたんだ。そうしながら、あるパーティーを探すつもりだった」
「どうして探しているんだ?」
これはレナードたちの秘密にも関わる事だが、スポンサーの彼に話しても大丈夫どころか、きちんと相応しいようにサポートしてくれると思える。
なので俺は、オゼロのブロンズ迷宮で俺が馬鹿やった事を教えた。
リヒトは、全部聞いてからしばらく本気で笑った。
「あ~、うん。なるほど、そういう事情か。レナードたちのスポンサーになったのは、不自然な力を持つ彼らを見張る為でもあった。しかし原因がお前なら、全然問題は無さそうだ」
「俺は彼らの体調に異変が生じるんじゃないかと、ヒヤヒヤしてるんだが」
「精霊王の魔力は純粋なる光だ。その魔力は存在の強化以外に作用しない……って、ルルは言っていた」
「うーん……そうだったっけ」
精霊王たちの個別の細かい記憶は、瞑想みたいなことをしないと引き出せない気がする。寝る前に探った方が良いみたいだ。
俺が考え事をしている間に、リヒトが言った。
「レナードたちは、立派な勇者パーティーになるだろう。それは良いとして、問題は隠れている方か。黒髪長髪の美人魔術師がいる六人組パーティーだな」
「ああ……ん? 俺さっき、特徴まで話したか?」
「いいや。私が冒険者ギルドと共に仕事をしていると、先に教えなかったか? だから情報を共有しているんだ。問題の彼らはトーマと別れた後からすぐ、オゼロの冒険者ギルドでお前を探していたようだ。でも見つからないし、ずっと休んでいる訳にいかないからと、このシルバー迷宮に仕事に来たらしい」
「そうか。俺はここ最近は、ほとんど大森林で仕事してたんだ。色々とあって」
「それも知っている。精霊王かもしれない少年がウロついているから、注意した方が良いという情報も共有されている」
「うっそ。バレてる? ……しょうがないか。明らかに上下関係がある状況で、他人の豹族の精霊に懐いたからなあ」
あれ絶対に目立ってたと思う。
「私の部下からの情報によると、いま彼らは最深部三十六階にいるらしい。ここ一ヶ月は倒されていない迷宮主のボスを倒すつもりのようだ。でもまだ精霊王復活の光の恩恵を受けていないボスだから、実力はゴールド迷宮上層のボス並になっている。彼らがいくら強くとも、一つの初見パーティーだけでは確実に苦戦する」
「とすると……助けに行けないだろうか?」
そう言うと、リヒトはとても良い笑顔をくれた。
「行きたいなら、全員を送って行ってやる。瞬間移動の魔道具は持っている。ついでに、ゴールドカード取得もすればいい」
「いやいや、テストはまだ受けないよ。さすがに早すぎると思うから」
「それじゃあ彼らを助けられないぞ? ゴールドカード取得の条件はただ一つ、どこの地方のでも良いが、シルバー迷宮で最深部の迷宮主の討伐に参加して倒すことだ。多数のパーティーが同時参加しても認められる。本当はこれをシルバーカードの冒険者に教えたらいけないんだが、トーマなら別に良い」
「じゃあ行きたい。というか行かないと。俺は彼らを助けたい」
うそ偽りない言葉が俺の心から出せた。それがとても嬉しい。
「よし、なら早く合流しよう。レナードたちも呼んでくるから、準備をしておけ」
リヒトは言い残してすぐに、テントから出て行った。
俺は新しい武器と防具が入手できないか、タンジェリンに相談した。
2・
半時間経たず、俺たちとレナードたち、そしてリヒトは準備を終えて集まった。
リヒトは彼の部下と共にサポートに回ってくれるというので、俺たちはただ最深部ボスのヒドラを倒すことに集中できる。リヒトは俺たちに、今後のために確実にゴールドカードを与えたいと思っているんだろう。
そしてリヒトの持つ魔道具で最深部三十六階に向かおうかという時に、レナードたちが何か聞きたそうにしていたそれを、ようやくプリムベラが口にした。
「王子様。ヒドラに挑もうとしているその方々を止めて、挑戦を明日にしてもらえないんでしょうか? 私たちは一日中遊び回っていて、少しは疲れています。そしてもう日が暮れました」
普通はそうだよなと思う言葉に、リヒトは挑戦的な表情をした。
「悪いが、私は君たちを試したい。一日中動き、休憩も睡眠も取っていない状況で続いて大型ボスに挑むなんて、ゴールド迷宮ではよくある話だ。君たちに今、それでもボスを退治できる力があるかどうか確認させてもらいたい」
噂を聞けば聞くほど、ゴールド迷宮という場所が地獄に思える。俺たちがここでゴールドカードを取得できても、今までみたいにはすぐに活躍などできない難易度があるんだろう。これも後で、無事に帰還してから調べたい。
「今はまだゴールドカードに手が届かないと自分で思うなら、ここに残るといい。強制はしない」
リヒトはレナードたちを見回して言った。気張った表情の彼らは誰も、残るとは言わない。
「よし、では行くぞ」
俺たちはリヒトの言葉に頷いた。
彼の持つ魔道具が発動して、重苦しくよどんだ空気のある薄暗い巨大な洞窟内に移動していた。
見える位置にある岩陰に、上に続く階段と数名の冒険者たちの姿がある。
俺たちが探していた冒険者パーティーの面々と、村でリヒトの部下を名乗っていた人、そして意外にも俺たちがクロフトに襲われる前に出会った、兎を探していた筈のおっさんらだ。
「どうしてここに?」
敵か味方が分からなくて思わず指差して聞くと、おっさんらは苦笑いに近い感じでニヤついた。
「君が新しい精霊王様だろう? 俺たちは冒険者ギルド職員で、君の行動補助と観察のために先回りして潜っていたんだ。君の気分を害したら、大ごとだからな」
「ええまあ、確かに……ん?」
答えてしまってから、周囲の空気が凍ってしまったのに気付いた。やってしまったと思ったものの、これから死闘を共に味わう人たちには知っておいてもらった方が良いと考えを変えた。
「あの、改めて自己紹介します。私は少し前に大森林で誕生したばかりの、十二代目の精霊王サエキトウマです。事情がありブロンズ迷宮に潜った先で、あなた方と出会いました。そして私は、あなた方に精霊王の加護を与えました。あなた方が突然勇者になった原因は、それなのです」
根本からの事情を知らないレナードたちは戸惑い、もう一つのパーティーの面々は調査し尽くして答えに至っていたのか、真剣な様子で頷いてくれた。
「私の任務は、この世に光を満ち溢れさせることです。そのために、あなた方の力をお貸し頂きたいのです。あなた方の人生を左右する力を勝手に与えておいて、傲慢だと非難されても仕方のないことですが、私はあなた方の力を必要とします。どうか、この私と共に戦って下さい」
本当のことを話す時、彼らを愚弄する事にもなりかねないから、偶然に生み出してしまったと言うのだけは止そうと思っていた。それを排除して彼らに許してもらおうとして口から出た台詞は……嘘ではなくて、何故か本気だった。
俺の中の見知らぬ部分が、世界にとり彼らが必要だと訴えかけてくる。これから俺が全てを知った時、彼らが本当に必要になる時がくると囁いてくる。
だから、どうか受け入れてと心から願って彼らを見つめた。
「驚いたけど……分かりました。俺は、俺たちは、トーマ様に従います」
レナードに言われて焦った。
「いや、従うって問題じゃなくて、無理のない範囲での共闘を頼みたいんだ。あと、レナード君。俺のことは呼び捨てでもタメ口でもいいし……」
「そんな、精霊王様を相手にして、それは不敬すぎます。どうかご容赦下さい」
レナードがそんなことを言って、頭を下げた。
俺はショック過ぎて、リヒトを見た。リヒトに、何か言ってくれ光線を浴びせた。
リヒトは、おもむろに咳を一つして言った。
「あ~っ、トーマ君は同年代ぐらいの子供たちと友達になりたいだけなんだ。きっと間違って殴って蹴飛ばしても怒らないと思うから、友達になってあげられないか?」
「それは無理です。恐れ多くて、近付けません……」
「え~っ」
即答したレナードにがっかりして肩を落とした。そりゃ、俺の常識からしても無理な願いだと思うんだが。
友達欲しかった……と黙り込んだところで、俺の隣に立つタンジェリンが少しだけ前に出て発言した。
「まだ赤子のトーマ様は、友達と一緒に楽しく遊び回りたいお年頃なのです。本当ならば迷宮になど潜らず、数百年は大森林で仲間と共に遊んでいる方が良いのですが、それでもトーマ様は世のため人のために、こうして御自らが迷宮に赴かれております。せめて少しだけでも、トーマ様の心を癒すために遊んで差し上げて下さいませんか」
いや俺は、主に迷宮に遊びに来た……かったんだけどなあ。
しかし頼れるタンジェリンの切実な願いは、良い子のレナードたちの心を動かしたようだ。
彼らはお互いの顔と様子を確認してソワソワして、最後にレナードが代表して答えてくれた。
「分かりました。私たちで良いのなら、友人になります。でも殴ったり蹴ったりはしませんよ」
「やった~!」
気の合う仲間が帰って来てくれた!
俺は嬉しくて彼らに飛び付いて行った。クロエも含めてハイタッチしたのに、プリムベラだけが嫌そうな顔で拒否をした。
「何だ。どうしたんだ、プリムベラ」
「私、まだあなたが私のストーカーじゃないかって疑ってるの」
「精霊王だって言っただろ? あ、でも人間……なるほど」
プリムベラはその匂いを感知できるのか。優秀だ。
「えっ、やっぱりストーカー?」
「違うって言ってんだろ!」
俺が叫ぶと、差はあれみんなが笑った。
そして俺が探していた方のパーティーのリーダーらしい、マンティコア戦で俺を手伝って針を抜いてくれた彼が言ってくれた。
「我々はさすがに遊び相手とはいきませんが、長年ブロンズ迷宮でくすぶり続けてきた我らに希望を下さった精霊王様の、剣と盾となる事を誓います。共に参りましょう」
さすがに大人の彼らは、礼儀正しい一礼をくれた。俺はその思いを受け取り感謝して、俺も上品な感じで一礼をした。
丁度その時に、遠くの方から何か巨大な物が動いている気配と物音がした。
全員でそちらを見た。リヒトの部下の人が言う。
「殿下、ヒドラが広場に入ったそうです」
「よし、それじゃあ戦闘開始といこう。みんな、狭い通路に戻られる前に対処しなきゃ今日中の退治は難しいと思ってくれ。あと、誰が戦線離脱しようが気にするな。全員生かして我らが回収する。前だけ向いていろ」
「はい!」
みんなはそれぞれが気合いを入れ、それぞれの武器を構えた。
リヒトは合流した俺と一緒に、俺のテントに入っていった。
「そもそも、トーマはどうしてこの迷宮に来た? 生まれてまだ三週間ちょっとなのに、よく来られたな。さすがに再会は、もう少し後になると思っていたんだが」
タンジェリンとハルセトに至近距離で睨まれても一ミリも動じない勇者の言葉を聞いて、俺は思い出した。
「ああ~! 忘れてたけど、探してる人たちがいるんだ! それに……昔より迷宮の魔物が強くなっているようだから、その現地調査にやって来た」
「魔物のことは、確かにそうだな。サフィリシスだった時の記憶と比べたら、今の方がとても強い。体感的に戦闘力が一・二倍から一・五倍ぐらいに跳ね上がっている気がする。でもこの現象は、精霊王が復活したから徐々に落ち着くだろう。なあ?」
「……知ってたのか?」
「え? 精霊王の役目には、地上にある強い光として世界中の闇の魔物の牽制をすることもある……って、思い出してなかったのか。今も、全部は思い出していないのか?」
「それが、肝心な部分だけ思い出せないんだ。初代精霊王として生まれてウィネリアから使命を授かった時があったような気がするっていう程度で、記憶に一枚の壁がある」
「何故?」
何故って……ん? んんん。
「それが、俺にはまだ早い的な事を、他の精霊王たちに言われている気がする」
「生後三週間じゃ、しょうがないだろう。精神と肉体と魔力の調整がなってないんだ。もう少しレベルアップしたら、思い出すんだろうが」
「それって、戦闘に慣れる事でもあるかな?」
「そうだな。力の使い方を覚える……思い出せるだろう」
やっぱり、迷宮で戦闘に参加して適度に戦うのが最適ってことか。
「俺たち、俺のレベルアップの意味もあってここより地下を目指していたんだ。そうしながら、あるパーティーを探すつもりだった」
「どうして探しているんだ?」
これはレナードたちの秘密にも関わる事だが、スポンサーの彼に話しても大丈夫どころか、きちんと相応しいようにサポートしてくれると思える。
なので俺は、オゼロのブロンズ迷宮で俺が馬鹿やった事を教えた。
リヒトは、全部聞いてからしばらく本気で笑った。
「あ~、うん。なるほど、そういう事情か。レナードたちのスポンサーになったのは、不自然な力を持つ彼らを見張る為でもあった。しかし原因がお前なら、全然問題は無さそうだ」
「俺は彼らの体調に異変が生じるんじゃないかと、ヒヤヒヤしてるんだが」
「精霊王の魔力は純粋なる光だ。その魔力は存在の強化以外に作用しない……って、ルルは言っていた」
「うーん……そうだったっけ」
精霊王たちの個別の細かい記憶は、瞑想みたいなことをしないと引き出せない気がする。寝る前に探った方が良いみたいだ。
俺が考え事をしている間に、リヒトが言った。
「レナードたちは、立派な勇者パーティーになるだろう。それは良いとして、問題は隠れている方か。黒髪長髪の美人魔術師がいる六人組パーティーだな」
「ああ……ん? 俺さっき、特徴まで話したか?」
「いいや。私が冒険者ギルドと共に仕事をしていると、先に教えなかったか? だから情報を共有しているんだ。問題の彼らはトーマと別れた後からすぐ、オゼロの冒険者ギルドでお前を探していたようだ。でも見つからないし、ずっと休んでいる訳にいかないからと、このシルバー迷宮に仕事に来たらしい」
「そうか。俺はここ最近は、ほとんど大森林で仕事してたんだ。色々とあって」
「それも知っている。精霊王かもしれない少年がウロついているから、注意した方が良いという情報も共有されている」
「うっそ。バレてる? ……しょうがないか。明らかに上下関係がある状況で、他人の豹族の精霊に懐いたからなあ」
あれ絶対に目立ってたと思う。
「私の部下からの情報によると、いま彼らは最深部三十六階にいるらしい。ここ一ヶ月は倒されていない迷宮主のボスを倒すつもりのようだ。でもまだ精霊王復活の光の恩恵を受けていないボスだから、実力はゴールド迷宮上層のボス並になっている。彼らがいくら強くとも、一つの初見パーティーだけでは確実に苦戦する」
「とすると……助けに行けないだろうか?」
そう言うと、リヒトはとても良い笑顔をくれた。
「行きたいなら、全員を送って行ってやる。瞬間移動の魔道具は持っている。ついでに、ゴールドカード取得もすればいい」
「いやいや、テストはまだ受けないよ。さすがに早すぎると思うから」
「それじゃあ彼らを助けられないぞ? ゴールドカード取得の条件はただ一つ、どこの地方のでも良いが、シルバー迷宮で最深部の迷宮主の討伐に参加して倒すことだ。多数のパーティーが同時参加しても認められる。本当はこれをシルバーカードの冒険者に教えたらいけないんだが、トーマなら別に良い」
「じゃあ行きたい。というか行かないと。俺は彼らを助けたい」
うそ偽りない言葉が俺の心から出せた。それがとても嬉しい。
「よし、なら早く合流しよう。レナードたちも呼んでくるから、準備をしておけ」
リヒトは言い残してすぐに、テントから出て行った。
俺は新しい武器と防具が入手できないか、タンジェリンに相談した。
2・
半時間経たず、俺たちとレナードたち、そしてリヒトは準備を終えて集まった。
リヒトは彼の部下と共にサポートに回ってくれるというので、俺たちはただ最深部ボスのヒドラを倒すことに集中できる。リヒトは俺たちに、今後のために確実にゴールドカードを与えたいと思っているんだろう。
そしてリヒトの持つ魔道具で最深部三十六階に向かおうかという時に、レナードたちが何か聞きたそうにしていたそれを、ようやくプリムベラが口にした。
「王子様。ヒドラに挑もうとしているその方々を止めて、挑戦を明日にしてもらえないんでしょうか? 私たちは一日中遊び回っていて、少しは疲れています。そしてもう日が暮れました」
普通はそうだよなと思う言葉に、リヒトは挑戦的な表情をした。
「悪いが、私は君たちを試したい。一日中動き、休憩も睡眠も取っていない状況で続いて大型ボスに挑むなんて、ゴールド迷宮ではよくある話だ。君たちに今、それでもボスを退治できる力があるかどうか確認させてもらいたい」
噂を聞けば聞くほど、ゴールド迷宮という場所が地獄に思える。俺たちがここでゴールドカードを取得できても、今までみたいにはすぐに活躍などできない難易度があるんだろう。これも後で、無事に帰還してから調べたい。
「今はまだゴールドカードに手が届かないと自分で思うなら、ここに残るといい。強制はしない」
リヒトはレナードたちを見回して言った。気張った表情の彼らは誰も、残るとは言わない。
「よし、では行くぞ」
俺たちはリヒトの言葉に頷いた。
彼の持つ魔道具が発動して、重苦しくよどんだ空気のある薄暗い巨大な洞窟内に移動していた。
見える位置にある岩陰に、上に続く階段と数名の冒険者たちの姿がある。
俺たちが探していた冒険者パーティーの面々と、村でリヒトの部下を名乗っていた人、そして意外にも俺たちがクロフトに襲われる前に出会った、兎を探していた筈のおっさんらだ。
「どうしてここに?」
敵か味方が分からなくて思わず指差して聞くと、おっさんらは苦笑いに近い感じでニヤついた。
「君が新しい精霊王様だろう? 俺たちは冒険者ギルド職員で、君の行動補助と観察のために先回りして潜っていたんだ。君の気分を害したら、大ごとだからな」
「ええまあ、確かに……ん?」
答えてしまってから、周囲の空気が凍ってしまったのに気付いた。やってしまったと思ったものの、これから死闘を共に味わう人たちには知っておいてもらった方が良いと考えを変えた。
「あの、改めて自己紹介します。私は少し前に大森林で誕生したばかりの、十二代目の精霊王サエキトウマです。事情がありブロンズ迷宮に潜った先で、あなた方と出会いました。そして私は、あなた方に精霊王の加護を与えました。あなた方が突然勇者になった原因は、それなのです」
根本からの事情を知らないレナードたちは戸惑い、もう一つのパーティーの面々は調査し尽くして答えに至っていたのか、真剣な様子で頷いてくれた。
「私の任務は、この世に光を満ち溢れさせることです。そのために、あなた方の力をお貸し頂きたいのです。あなた方の人生を左右する力を勝手に与えておいて、傲慢だと非難されても仕方のないことですが、私はあなた方の力を必要とします。どうか、この私と共に戦って下さい」
本当のことを話す時、彼らを愚弄する事にもなりかねないから、偶然に生み出してしまったと言うのだけは止そうと思っていた。それを排除して彼らに許してもらおうとして口から出た台詞は……嘘ではなくて、何故か本気だった。
俺の中の見知らぬ部分が、世界にとり彼らが必要だと訴えかけてくる。これから俺が全てを知った時、彼らが本当に必要になる時がくると囁いてくる。
だから、どうか受け入れてと心から願って彼らを見つめた。
「驚いたけど……分かりました。俺は、俺たちは、トーマ様に従います」
レナードに言われて焦った。
「いや、従うって問題じゃなくて、無理のない範囲での共闘を頼みたいんだ。あと、レナード君。俺のことは呼び捨てでもタメ口でもいいし……」
「そんな、精霊王様を相手にして、それは不敬すぎます。どうかご容赦下さい」
レナードがそんなことを言って、頭を下げた。
俺はショック過ぎて、リヒトを見た。リヒトに、何か言ってくれ光線を浴びせた。
リヒトは、おもむろに咳を一つして言った。
「あ~っ、トーマ君は同年代ぐらいの子供たちと友達になりたいだけなんだ。きっと間違って殴って蹴飛ばしても怒らないと思うから、友達になってあげられないか?」
「それは無理です。恐れ多くて、近付けません……」
「え~っ」
即答したレナードにがっかりして肩を落とした。そりゃ、俺の常識からしても無理な願いだと思うんだが。
友達欲しかった……と黙り込んだところで、俺の隣に立つタンジェリンが少しだけ前に出て発言した。
「まだ赤子のトーマ様は、友達と一緒に楽しく遊び回りたいお年頃なのです。本当ならば迷宮になど潜らず、数百年は大森林で仲間と共に遊んでいる方が良いのですが、それでもトーマ様は世のため人のために、こうして御自らが迷宮に赴かれております。せめて少しだけでも、トーマ様の心を癒すために遊んで差し上げて下さいませんか」
いや俺は、主に迷宮に遊びに来た……かったんだけどなあ。
しかし頼れるタンジェリンの切実な願いは、良い子のレナードたちの心を動かしたようだ。
彼らはお互いの顔と様子を確認してソワソワして、最後にレナードが代表して答えてくれた。
「分かりました。私たちで良いのなら、友人になります。でも殴ったり蹴ったりはしませんよ」
「やった~!」
気の合う仲間が帰って来てくれた!
俺は嬉しくて彼らに飛び付いて行った。クロエも含めてハイタッチしたのに、プリムベラだけが嫌そうな顔で拒否をした。
「何だ。どうしたんだ、プリムベラ」
「私、まだあなたが私のストーカーじゃないかって疑ってるの」
「精霊王だって言っただろ? あ、でも人間……なるほど」
プリムベラはその匂いを感知できるのか。優秀だ。
「えっ、やっぱりストーカー?」
「違うって言ってんだろ!」
俺が叫ぶと、差はあれみんなが笑った。
そして俺が探していた方のパーティーのリーダーらしい、マンティコア戦で俺を手伝って針を抜いてくれた彼が言ってくれた。
「我々はさすがに遊び相手とはいきませんが、長年ブロンズ迷宮でくすぶり続けてきた我らに希望を下さった精霊王様の、剣と盾となる事を誓います。共に参りましょう」
さすがに大人の彼らは、礼儀正しい一礼をくれた。俺はその思いを受け取り感謝して、俺も上品な感じで一礼をした。
丁度その時に、遠くの方から何か巨大な物が動いている気配と物音がした。
全員でそちらを見た。リヒトの部下の人が言う。
「殿下、ヒドラが広場に入ったそうです」
「よし、それじゃあ戦闘開始といこう。みんな、狭い通路に戻られる前に対処しなきゃ今日中の退治は難しいと思ってくれ。あと、誰が戦線離脱しようが気にするな。全員生かして我らが回収する。前だけ向いていろ」
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