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第三章 シルバー迷宮での攻防
十一 宴会と妖精たち
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1・
リヒトーフェン王子……リヒトが何をして俺の呪いが解けたかどうか判断するのかと思ったら、中層中部の村の広場でまず歌い始めた。
彼が歌った後で俺も歌わされ、そして何故かタンジェリンまで歌えと責っ付かれた。その頃に野次馬で集まっていた者たちも、引き継いて数名が歌った。
いつの間にかキャンプファイヤーみたいな火が焚かれ、楽器演奏も加わり、ダンスまで披露されることになった。
ほぼ精霊以外の者の為に酒と料理が運ばれてきて、知らぬ間に楽しい宴会が開催された。俺は意味が分からないまま、先の事情で逃げられずに長々と付き合った。
そういう無理矢理感があったものの、レナードたちにこちらの世界の踊りを教わり、音楽に乗せてマリエルと手を繋いで踊った事は本当に楽しかった。
大勢の大人たちが酔っぱらいに変化している横で大縄跳びをしたり、こちらの世界に会わせただるまさんが転んだをしたのも面白かった。
みんなで美味しいおやつを食べつつ、俺の背が伸びた事をお祝いしてもらえて心から嬉しくなった。
俺の正体にまだ気付いていないプリムベラに、お前は誰なのか身の上を話せと脅迫されても、みんなが笑って止めに来てくれて楽しかった。
こういう混乱の中でも俺を必死に護りたがるタンジェリンとハルセトには言葉で感謝して、いつも微笑んでくれるタロートとは並んで座ってこの世界の豆知識を教えてもらった。
前より力を身に付けたいま、脳内検索を使えば誰に教えられなくても色んな事を知ることは可能だ。だけどそれがいかに無機質で味気ないことか、こうして人と笑い合って教えてもらい、初めて知った。
俺は自分で経験したい。自分で行動してこの目で見て、色んな事を体験して肌身に感じたい。
そう気付けて、言葉に言い表せない程に楽しいと思い始めた頃。
空がほんのりと赤く染まってきた。
少し酒臭いリヒトが、土の広場に直に座る俺の隣に腰を下ろした。
「今日は楽しかったか?」
「うん」
「みんな、大好きか?」
「うん」
「この風景を永遠に護りたいよな?」
「確かに」
俺は正直に答えた。
するとリヒトは満面の笑みを見せて、俺の肩を叩いた。
「呪いは解けてるよ」
嘘じゃない、心優しく俺を思いやる言葉。俺はそれを聞いて、ジワリと思い出した。
創造神ウィネリアから命と任務を頂き、初代精霊王となった頃。
任務だから、全てを護るために同胞を慈しむ王として振る舞わなくてはいけない。他の精霊たちを力で支配できれば話は簡単なのに、創造神ウィネリアからはそのような任務は与えられなかった。
この魔法世界に残る唯一の楽園を失わせないことが、精霊王に課せられた任務。その為には武力と共に、心からの愛情で精霊たちを一つにまとめる必要があった。
でも本音を言えば、初代精霊王から今までの精霊王たちは全員が、大勢の見知らぬ者を平等に愛する心に欠けていた。
精霊王として精霊たちを思いやり護るべき存在であったのに、勇ましさでは誰にも負けないとしても、仲間に対する愛情には欠けていた。
ないことはないが、持っていたのは父としての厳しい愛。母の慈しむ愛は、心の中にはほぼ存在していなかった。
心にもない台詞や態度や行動を多くの者に見せなくては、大森林内部の秩序は護られず、下手をすれば王として失格の烙印を押されかねず、追放ともなれば大森林は崩壊しかねなかった。
だからこれまでの精霊王はシルル以外が全員、自分に嘘を吐き続け、誰にも真実を継げられず、孤独に苛まれつつ苦しんで生きた。
この記憶からすれば、シルルの行動から形成された、トーマとして生まれてすぐの離反された状況は、本当は精霊王たちが一番恐れていたものだ。しかしこの最悪の時に俺は……素晴らしい仲間たちを得て、一緒に歩んでもらって状況を変えようとしている。
俺は今、心からタンジェリンやタロートや、それ以外にも関わってくれた人たちが大好きだ。
さっきのリヒトの問いには、本気で答えられた。
俺は、心からみんなを好きになっていて、純粋に彼らの為に生きようと思えている。精霊だけじゃなく、エルフや人間たちの為にも。
嘘という呪いはもう、この心からは発生しない。
確かに俺は、呪いから解き放たれた。
何故だろうと思いつつ、美しく紅色に暮れていく空を見上げた。
そして気付いた。俺がどんな存在であろうと、俺を信じて愛してくれた者が、どの時代にも常に傍にいてくれた。
俺が本音では大事に思ってなくても、愛してなくても、俺を大事に思って命をくれた存在は大勢いた。
「イヴァン……」
俺は自分の胸に手を当て、魂すらくれた彼のことを想った。
彼は死の間際に言った。これからも、俺を愛して共に歩むと決意する者は必ず出現すると。だから、泣かなくていいって……。
「馬鹿だな。悲しくない訳がないだろう」
もう聞いてくれない、かつての世話係に愚痴をこぼしてみる。
彼だけじゃない。他にも俺の傍でバトンを渡し続けてくれた仲間たちのおかげで、俺は本気で世界を護ると誓える存在にまで成長できた。
それを思うと感謝で胸が熱くなり、涙が止めどなく溢れて視界が歪んでゆく。
その中で、見慣れた姿たちが突撃してくる。
「リヒトーフェン王子様? 大変申し訳ありませんが、トーマ様から離れて頂けますか!」
「いやちょっと、前に契約した問題は訳ありだったと納得してもらえたんじゃないのか? 私は味方だぞ!」
「怪しいものですね! いまトーマ様が泣いておられるではありませんか!」
「全部が私のせいじゃない!」
「どうだか! あっ、トーマ様、また衣装がピッチピチに!」
「え?」
タンジェリンに指摘されて立ち上がろうとしてみると、おニューの筈の服がキツくなっていた。
また成長できた中、騒ぐタンジェリンとハルセトにやっぱり責められるリヒトが笑う。間にリヒトの部下が入ってきたりして収拾がつかなくなり、状況が混沌としてきたので泣きながら大笑いしてしまった。
2・
テントに戻った。ほぼ大人だろう体格にまで急成長してしまった俺の新しい衣装をどうするかタンジェリンが悩む中、自分の力がどれほど使えるようになったか確認をしてみた。
一番知りたい、リヒトが問題にする世界の謎については、まだ精神にフィルターがかかっているようで情報の取得ができない。
過去の精霊王たちの能力は、肉体的な種族の力が必要な部分以外、つまり誰でも使える魔法と精霊王としての基本能力がほぼ使えるようになったみたいだ。
ただそれは、とても高性能のコンピューターの所有者になったのと同じ事で、使いこなせるかどうかは別問題。使用者の俺が経験を積まないと、目も当てられない結果が出るだろう。
そして精霊王個人についての記憶は、タンジェリンが最初の頃に教えてくれたように、多くの記憶が閲覧できて自分の中にあると理解できるものの、あくまで主導権は俺にある。
膨大な量の知識をわざと一度に取り込まない限りは、精霊王という一つの存在にトーマという個性が飲み込まれる心配はなさそうで良かった。
基本的に自分は自分であると理解出来たところで、ようやく一安心した。
その後で、一度瞬間移動で大森林に戻って服を取ってきてくれたタンジェリンから手渡されたそれを着てみた。
小さな鏡で確認してみて、高校生になりたてから、高校卒業するぐらいの年齢にアップしたように見えた。
つまりは外見年齢が十八歳ぐらいだ。俺、ようやく一人前になれた!
立派な大人だ! もう一人歩きできるぞ!
……って、あれ? そしたらもう城から追い出されて、世話係がいなくなるんじゃ?
あれだけ俺を構ってくれるタンジェリンとタロートが、大きく育ったからもう良いでしょうと離れて行く……のか?
せめて今、この迷宮を最後まで一緒に行ってもらいたい。でないと俺、まだほぼ無一文だ!
「トーマ様、その衣装でよろしいでしょうか?」
「え! あ! うん! これでいいですとも! ありがとうございます!」
俺はいつもと変わらないタンジェリンに勢い良く答えてすぐ、リヒトを探してテントの外に出た。
日の光がほぼ消えた浅い夜。お開きになった宴会の後片付けをする国の職員さんと酔っぱらい以外は、周囲に誰もいない。
レナードたちのテントで聞くかと思ってそっちに歩いて行く途中、薄暗い照明しかない村はずれの池の畔でキラキラ光って飛ぶ何かが数個見えた。
誰かがいて楽しそうにしているので、早くリヒトに俺の窮地を相談したい気があるものの、好奇心に勝てずに近づいていってしまった。
そこにいたのはレナードたちだった。
池の畔にピンク色に輝く大きめの花が数個咲いていて、周辺にトンボよりもう少し大きめな体と羽を持つ妖精たちが飛んでいる。
水辺で淡く光りつつ咲いている植物は睡蓮の葉っぱと花に似ていて、ピンク色から白に変化するグラデーションが美しい。
このピンク色は、嬉しそうに妖精たちと戯れるプリムベラの髪の色だと思えた。
そういえばプリムベラを妖精の女王に変化させてしまった時、俺はそんな気はなく、ただ名称を与えただけだ。
それなのに覚醒したのは、彼女があの時すでに妖精の女王たる力を持っていて、資格があったからだろう。
プリムベラは凄い。世界樹、つまり創造神ウィネリアの手を介さず、人間の愛から生まれた存在だ。それはまるで、人間が無から有を生み出したようで、彼女こそ本物のこの世の支配者のようで……って、褒めすぎか。
基本的に大森林周辺や人間たちの国の野原にいる筈の妖精が何故ここにいるのか気になったから、傍まで寄って声をかけた。
「プリムベラ、ちょっといいかな」
「……」
話しかけられたプリムベラは気付いて俺を見てくれたのに、不思議そうな表情をして答えてくれない。
クロエは俺に気付いていて変わらない様子で俺に顔を向けているんだけれど、他の子たちも俺を不思議そうに見る。
「あっ、誰も教えてなかったんだ? 俺はトーマだよ。またちょっと伸びちゃった。精霊の成長期だから、たまにこういう現象があるんだって……」
そういう無理矢理な説明と笑顔でごまかしてみた。
みんなは純粋だから、すぐ誤魔化されてくれた。その代わり、凄い凄いと群がられて頭や腕に触られまくった。
「そ、それでプリムベラ、この妖精たちはどうしたんだよ? ここに自生……じゃなくて暮らしてるのか? 迷宮の内部なのに」
「ええその……きれいな花があったから見つめてたら、花の中からポンポン生まれてきたの。この子たち、魔物じゃないけれど、ここで生まれたのよ」
「それは凄いなあ。元々、この階には魔物が出ないし、そういう不思議な事も起きるものなんだな」
「そうみたい」
「見ての通り花族の眷族の妖精たちだから、君に挨拶したかったのかな」
「……そうかしらね?」
俺に対してまだ警戒感があるらしいプリムベラは、俺から距離を置いて答えてくれた。特殊な職業同士、もうちょっと仲良くしたいんだけどな。
続いてレナードが、これは契約出来ないのかと言い始めたので、みんなはそっちの話題で盛り上がり始めた。
試しに一人ぐらい契約してみようかなと思っていると、村の中から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
酔っぱらいだけどまだ寝ないでいてくれたリヒトが呼んでいるから、俺は慌ててそっちに向かった。
リヒトーフェン王子……リヒトが何をして俺の呪いが解けたかどうか判断するのかと思ったら、中層中部の村の広場でまず歌い始めた。
彼が歌った後で俺も歌わされ、そして何故かタンジェリンまで歌えと責っ付かれた。その頃に野次馬で集まっていた者たちも、引き継いて数名が歌った。
いつの間にかキャンプファイヤーみたいな火が焚かれ、楽器演奏も加わり、ダンスまで披露されることになった。
ほぼ精霊以外の者の為に酒と料理が運ばれてきて、知らぬ間に楽しい宴会が開催された。俺は意味が分からないまま、先の事情で逃げられずに長々と付き合った。
そういう無理矢理感があったものの、レナードたちにこちらの世界の踊りを教わり、音楽に乗せてマリエルと手を繋いで踊った事は本当に楽しかった。
大勢の大人たちが酔っぱらいに変化している横で大縄跳びをしたり、こちらの世界に会わせただるまさんが転んだをしたのも面白かった。
みんなで美味しいおやつを食べつつ、俺の背が伸びた事をお祝いしてもらえて心から嬉しくなった。
俺の正体にまだ気付いていないプリムベラに、お前は誰なのか身の上を話せと脅迫されても、みんなが笑って止めに来てくれて楽しかった。
こういう混乱の中でも俺を必死に護りたがるタンジェリンとハルセトには言葉で感謝して、いつも微笑んでくれるタロートとは並んで座ってこの世界の豆知識を教えてもらった。
前より力を身に付けたいま、脳内検索を使えば誰に教えられなくても色んな事を知ることは可能だ。だけどそれがいかに無機質で味気ないことか、こうして人と笑い合って教えてもらい、初めて知った。
俺は自分で経験したい。自分で行動してこの目で見て、色んな事を体験して肌身に感じたい。
そう気付けて、言葉に言い表せない程に楽しいと思い始めた頃。
空がほんのりと赤く染まってきた。
少し酒臭いリヒトが、土の広場に直に座る俺の隣に腰を下ろした。
「今日は楽しかったか?」
「うん」
「みんな、大好きか?」
「うん」
「この風景を永遠に護りたいよな?」
「確かに」
俺は正直に答えた。
するとリヒトは満面の笑みを見せて、俺の肩を叩いた。
「呪いは解けてるよ」
嘘じゃない、心優しく俺を思いやる言葉。俺はそれを聞いて、ジワリと思い出した。
創造神ウィネリアから命と任務を頂き、初代精霊王となった頃。
任務だから、全てを護るために同胞を慈しむ王として振る舞わなくてはいけない。他の精霊たちを力で支配できれば話は簡単なのに、創造神ウィネリアからはそのような任務は与えられなかった。
この魔法世界に残る唯一の楽園を失わせないことが、精霊王に課せられた任務。その為には武力と共に、心からの愛情で精霊たちを一つにまとめる必要があった。
でも本音を言えば、初代精霊王から今までの精霊王たちは全員が、大勢の見知らぬ者を平等に愛する心に欠けていた。
精霊王として精霊たちを思いやり護るべき存在であったのに、勇ましさでは誰にも負けないとしても、仲間に対する愛情には欠けていた。
ないことはないが、持っていたのは父としての厳しい愛。母の慈しむ愛は、心の中にはほぼ存在していなかった。
心にもない台詞や態度や行動を多くの者に見せなくては、大森林内部の秩序は護られず、下手をすれば王として失格の烙印を押されかねず、追放ともなれば大森林は崩壊しかねなかった。
だからこれまでの精霊王はシルル以外が全員、自分に嘘を吐き続け、誰にも真実を継げられず、孤独に苛まれつつ苦しんで生きた。
この記憶からすれば、シルルの行動から形成された、トーマとして生まれてすぐの離反された状況は、本当は精霊王たちが一番恐れていたものだ。しかしこの最悪の時に俺は……素晴らしい仲間たちを得て、一緒に歩んでもらって状況を変えようとしている。
俺は今、心からタンジェリンやタロートや、それ以外にも関わってくれた人たちが大好きだ。
さっきのリヒトの問いには、本気で答えられた。
俺は、心からみんなを好きになっていて、純粋に彼らの為に生きようと思えている。精霊だけじゃなく、エルフや人間たちの為にも。
嘘という呪いはもう、この心からは発生しない。
確かに俺は、呪いから解き放たれた。
何故だろうと思いつつ、美しく紅色に暮れていく空を見上げた。
そして気付いた。俺がどんな存在であろうと、俺を信じて愛してくれた者が、どの時代にも常に傍にいてくれた。
俺が本音では大事に思ってなくても、愛してなくても、俺を大事に思って命をくれた存在は大勢いた。
「イヴァン……」
俺は自分の胸に手を当て、魂すらくれた彼のことを想った。
彼は死の間際に言った。これからも、俺を愛して共に歩むと決意する者は必ず出現すると。だから、泣かなくていいって……。
「馬鹿だな。悲しくない訳がないだろう」
もう聞いてくれない、かつての世話係に愚痴をこぼしてみる。
彼だけじゃない。他にも俺の傍でバトンを渡し続けてくれた仲間たちのおかげで、俺は本気で世界を護ると誓える存在にまで成長できた。
それを思うと感謝で胸が熱くなり、涙が止めどなく溢れて視界が歪んでゆく。
その中で、見慣れた姿たちが突撃してくる。
「リヒトーフェン王子様? 大変申し訳ありませんが、トーマ様から離れて頂けますか!」
「いやちょっと、前に契約した問題は訳ありだったと納得してもらえたんじゃないのか? 私は味方だぞ!」
「怪しいものですね! いまトーマ様が泣いておられるではありませんか!」
「全部が私のせいじゃない!」
「どうだか! あっ、トーマ様、また衣装がピッチピチに!」
「え?」
タンジェリンに指摘されて立ち上がろうとしてみると、おニューの筈の服がキツくなっていた。
また成長できた中、騒ぐタンジェリンとハルセトにやっぱり責められるリヒトが笑う。間にリヒトの部下が入ってきたりして収拾がつかなくなり、状況が混沌としてきたので泣きながら大笑いしてしまった。
2・
テントに戻った。ほぼ大人だろう体格にまで急成長してしまった俺の新しい衣装をどうするかタンジェリンが悩む中、自分の力がどれほど使えるようになったか確認をしてみた。
一番知りたい、リヒトが問題にする世界の謎については、まだ精神にフィルターがかかっているようで情報の取得ができない。
過去の精霊王たちの能力は、肉体的な種族の力が必要な部分以外、つまり誰でも使える魔法と精霊王としての基本能力がほぼ使えるようになったみたいだ。
ただそれは、とても高性能のコンピューターの所有者になったのと同じ事で、使いこなせるかどうかは別問題。使用者の俺が経験を積まないと、目も当てられない結果が出るだろう。
そして精霊王個人についての記憶は、タンジェリンが最初の頃に教えてくれたように、多くの記憶が閲覧できて自分の中にあると理解できるものの、あくまで主導権は俺にある。
膨大な量の知識をわざと一度に取り込まない限りは、精霊王という一つの存在にトーマという個性が飲み込まれる心配はなさそうで良かった。
基本的に自分は自分であると理解出来たところで、ようやく一安心した。
その後で、一度瞬間移動で大森林に戻って服を取ってきてくれたタンジェリンから手渡されたそれを着てみた。
小さな鏡で確認してみて、高校生になりたてから、高校卒業するぐらいの年齢にアップしたように見えた。
つまりは外見年齢が十八歳ぐらいだ。俺、ようやく一人前になれた!
立派な大人だ! もう一人歩きできるぞ!
……って、あれ? そしたらもう城から追い出されて、世話係がいなくなるんじゃ?
あれだけ俺を構ってくれるタンジェリンとタロートが、大きく育ったからもう良いでしょうと離れて行く……のか?
せめて今、この迷宮を最後まで一緒に行ってもらいたい。でないと俺、まだほぼ無一文だ!
「トーマ様、その衣装でよろしいでしょうか?」
「え! あ! うん! これでいいですとも! ありがとうございます!」
俺はいつもと変わらないタンジェリンに勢い良く答えてすぐ、リヒトを探してテントの外に出た。
日の光がほぼ消えた浅い夜。お開きになった宴会の後片付けをする国の職員さんと酔っぱらい以外は、周囲に誰もいない。
レナードたちのテントで聞くかと思ってそっちに歩いて行く途中、薄暗い照明しかない村はずれの池の畔でキラキラ光って飛ぶ何かが数個見えた。
誰かがいて楽しそうにしているので、早くリヒトに俺の窮地を相談したい気があるものの、好奇心に勝てずに近づいていってしまった。
そこにいたのはレナードたちだった。
池の畔にピンク色に輝く大きめの花が数個咲いていて、周辺にトンボよりもう少し大きめな体と羽を持つ妖精たちが飛んでいる。
水辺で淡く光りつつ咲いている植物は睡蓮の葉っぱと花に似ていて、ピンク色から白に変化するグラデーションが美しい。
このピンク色は、嬉しそうに妖精たちと戯れるプリムベラの髪の色だと思えた。
そういえばプリムベラを妖精の女王に変化させてしまった時、俺はそんな気はなく、ただ名称を与えただけだ。
それなのに覚醒したのは、彼女があの時すでに妖精の女王たる力を持っていて、資格があったからだろう。
プリムベラは凄い。世界樹、つまり創造神ウィネリアの手を介さず、人間の愛から生まれた存在だ。それはまるで、人間が無から有を生み出したようで、彼女こそ本物のこの世の支配者のようで……って、褒めすぎか。
基本的に大森林周辺や人間たちの国の野原にいる筈の妖精が何故ここにいるのか気になったから、傍まで寄って声をかけた。
「プリムベラ、ちょっといいかな」
「……」
話しかけられたプリムベラは気付いて俺を見てくれたのに、不思議そうな表情をして答えてくれない。
クロエは俺に気付いていて変わらない様子で俺に顔を向けているんだけれど、他の子たちも俺を不思議そうに見る。
「あっ、誰も教えてなかったんだ? 俺はトーマだよ。またちょっと伸びちゃった。精霊の成長期だから、たまにこういう現象があるんだって……」
そういう無理矢理な説明と笑顔でごまかしてみた。
みんなは純粋だから、すぐ誤魔化されてくれた。その代わり、凄い凄いと群がられて頭や腕に触られまくった。
「そ、それでプリムベラ、この妖精たちはどうしたんだよ? ここに自生……じゃなくて暮らしてるのか? 迷宮の内部なのに」
「ええその……きれいな花があったから見つめてたら、花の中からポンポン生まれてきたの。この子たち、魔物じゃないけれど、ここで生まれたのよ」
「それは凄いなあ。元々、この階には魔物が出ないし、そういう不思議な事も起きるものなんだな」
「そうみたい」
「見ての通り花族の眷族の妖精たちだから、君に挨拶したかったのかな」
「……そうかしらね?」
俺に対してまだ警戒感があるらしいプリムベラは、俺から距離を置いて答えてくれた。特殊な職業同士、もうちょっと仲良くしたいんだけどな。
続いてレナードが、これは契約出来ないのかと言い始めたので、みんなはそっちの話題で盛り上がり始めた。
試しに一人ぐらい契約してみようかなと思っていると、村の中から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
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