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第三章 シルバー迷宮での攻防
十 サフィンとルル
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1・
勇ましい上に、人の良さが顔ににじみ出ているリヒトーフェン王子を見つめると、心が穏やかになってきた。
「分かりました」
俺は冷静に答えた。本気で国を相手取るつもりはないから、ここで引くのが一番だと判断できた。
「しかし、その者にしっかりとした裁きをお与え下さい。私は二度は許しません」
「ペールデール国の王太子である私リヒトーフェンの名に賭けて、お約束いたします」
リヒトーフェン王子は私に向けて、胸に手を当て深々と頭を垂れた。
この国の第一王子に、これだけのことをさせたからだろう。村の警備員も職員も、そして問題のクロフトも、何一つ口答えせずに大人しく王子の命令を聞いたようだ。
すぐ、どこからか出てきた第一王子の配下の兵士たちが、クロフトと関係者たちを拘束して連行し始めた。
おかげでタロートは牢屋から釈放されたし、休暇する為のテントも無料で貸してもらえた。
声をかけてきてくれたレナードたちが王子を呼んでくれたと聞いて有り難く思ったものの、本気で怒ったせいか頭がクラクラしてきたから、ろくに感謝も告げられずにテントに入って休んだ。
2・
少しだけ意識が無くなり、すぐ目覚めた。
一時間ほどしか眠っていなかったようだが、頭がスッキリしている。超健康優良児のステータスの見せどころか。
俺が横になっているハンモックの傍の椅子にタロートが座っていて、いつも通りに微笑んで見守ってくれている。
彼に何もなくて、とても嬉しい。
俺が起き出すとすぐ、ソワソワしているタンジェリンが服を持って近づいてきた。
「トーマ様、この服のサイズが合えば良いのですが。一度着てみていただけますか?」
「あ、はい」
今まで着ていた服はまだ綺麗だけどと思いつつ、服を受け取ってハンモックの上にかけた。
「……?」
その一連の動きで、何だか体が窮屈なことに気付いた。いま着ている布のシャツとクロップドパンツが、ピチピチになっている?
「あれ? どうしてピチピチに?」
「トーマ様が成長されたからですよ」
タンジェリンの言葉に、思い切り衝撃を受けた。
俺、ようやく大人になったのかと意気込んで、一個だけある小さな鏡の前に突撃したら、そこに見えたのはまだ高校生になりたてぐらいの男の子だった。
まだ大人とは言えないかもしれないものの、先の中学生からしたら確かに成長した!
俺は奇声を上げつつ着替え、きっと呼び水となっただろう経験をくれたクロフトのことを綺麗さっぱり許した。
何ならもう一回やってくれないだろうかと阿呆なことを考えつつ、何気なくテントから出た。
そして多くの視線を浴びて、うっとなった。
冒険者たちに警備員たち、国の職員たちも数名が俺のテントから見える位置にいて、遠巻きにして何気なくだがこっちを窺っている。
自分が何をしたか改めて自覚して、あの第一王子ともう一度ぐらいは話し合わないといけないと決めた。
すぐ後をついてきてくれた三人に情報を聞いてみた。レナードたちのテントの辺りにいるらしい。
昨日と同じテントに行ってみると、朝食の後片付けをしているレナードたちと一緒に、本当に第一王子が混じっていた。
先に俺をとても心配していたらしいクロエが来たからもう大丈夫と教えて、次に笑顔で手招きしている第一王子に近づいた。
焚き火の前に座る第一王子の隣に座り、話を聞いた。
彼はソロでいくつものシルバー迷宮を踏破したゴールドカード持ちの猛者で、それが真実ならば明らかに本物の勇者だ。今は、レナードたち以外の部外者にはあまり知られる事なくこの迷宮にやって来ていたそうだ。
クロフトが安易な復讐を行ってしまったのは、天然勇者の第一王子がここにいると知らなかったからだって言う。
「私は冒険者ギルドと連携して、監査役としても活動しています。見ての通り、普通の冒険者の格好で顔を隠してウロついて、犯罪者をとっちめる係なんです。クロフトが気付かなかったのも当然です」
第一王子は話しながらも、まだ悪びれた様子で笑う。彼が悪いわけじゃなくこうして取り締まりまでしているのに、自分の国の者だから犯罪者の罪を背負わないといけない。それは、国を背負う者の宿命だ。俺も然り。
俺も、この人みたいに立派になりたいと思えた。第一王子がこんなに良い人で、とても幸運だ。
それに…………とても懐かしい感覚がずっとしている。成長できたからか前より鋭くなった感覚が、彼をサフィリシスだと認めている。
彼はエルフだから、精霊のように一度で終わらず無事に転生できたんだ。そして手紙に残した約束通り、俺が困っていたから助けてくれた。
前世の事など覚えていないだろうし、そのことについては感謝できない。それでも感謝したいから、クロフトの事件を丸く収めてもらえて感謝しますと伝えてみた。
「いいえ、一方的に悪いのはこちらです。感謝されなくとも良いですよ」
「それでも……ありがとうございます……サフィン」
最後に小声で彼の愛称を付け足した。自己満足の為の台詞も、これきりだと思った。
「どういたしまして。ルル君」
一瞬、誰が言ったのかと驚いた。ルル君は、サフィリシスがシルルを呼ぶ時の愛称だ。彼以外に呼ばれた事はない。
第一王子はニヤニヤしつつ、もうすぐ消えそうな焚き火に小枝を投入した。
「サフィリシス王子?」
「鳥が豆をぶつけられたような顔をしてますけど、大丈夫ですか?」
「ちょっと、サフィン君、なにしてるの?」
「仕事してるぞ?」
「そういう意味じゃなくて! って、記憶があるんですか!」
「不思議とあるねえ。ルル君の方は全部思い出して──」
リヒトーフェン王子ことかつての俺の親友サフィリシス王子と俺の間に、剣が二本突き出された。
この状況をどうしたものかという表情のタロートはいいとして、タンジェリンまでハルセトと一緒に過激派に戻っている。
傍で俺たちの話を聞いていたレナードたちや、テントの傍に立っていた冒険者たちなどが驚いて参戦してきそうになった。
だから俺は、右手と左手にハルセトとタンジェリンの剣の刃を掴んで精一杯引っ張った。今の俺には、これしかできない!
状況に驚くのはサフィンも同じことで、彼は俺が二人と無謀な格闘を始めてからハッとして言った。
「ああ、真の名前のことか? それなら大丈夫だ。何しろ、ルルの本名は本当に長ったらしいんだぞ! そんなもの、千年後まで覚えてられるか!」
「……」
サフィンの魂の叫び声に聞こえたそれで、タンジェリンとハルセトが剣を引いてくれた。しかし二人は目付きが鋭いままで、俺から一ミリたりとも離れない。ぎゅうぎゅうだ。
しょうがないので、ちょっとした行き違いだと周囲に説明しまくり、収まった頃に再び話し合いの場を持った。俺たちの借りたテントの中で。
俺たちが知りたいのは真実だ。サフィンと俺は、俺が主となり嘘を見抜ける軽めの術をかけた。
それからサフィンは、昔のことを教えてくれた。
「私が死んだのは、今から七百年ほど前だ。エルフにも転生の知識はあったが、上手い具合にシルルとまた会える場所に転生できるかは分からなかった。だから死んで大きな光の海に魂が漂っている時に、私はシルルとまた会いたいと願い続けた。するとそこに、創造神ウィネリアがやって来た」
「は? まさか、会ったのか!」
精霊王でも会ったかどうか分からない神と!
「いや、会ったというより、意識が繋がったという方が適切だな。そして言葉をもらった。そうしなさい、と」
「それは……」
たった一言。それでも彼はウィネリアと交信した。その意味は、俺を助ける為か、もしくは間違っている俺に意見させるためか……。
「言葉を受け取った後、今から二十七年前に、私はこの地に王子として生まれた。前世の記憶を持ち越せたからか、魔力保有量が類を見ない程に優秀な王子になれたよ。そして人間の王族には基本的に歴代の勇者たちの血が多く組み込まれているから、肉体的にも優れることができた。私はこの力を、ルル……トーマの為に使う。そう誓おう」
「いや、だけどサフィン……リヒトーフェン王子は、ペールデール国の王太子だろう? その者が精霊に誓いを立ててはいけない。人種も国も違うのに」
俺がこう言うと、彼は本当に真剣な目で俺を見つめた。
「まだ根源の問題については、何も思い出してないようだな。なら、トーマが問題を思い出すまでは、この話は無しだ。それでいいか?」
「それは……俺が思い出してなければ、聞いてはいけない内容なのか?」
「思い出していなければ話し合う意味がないんだ。トーマがいま知っても、思い出していない状態では対応する力がない。精霊王として真に覚醒しなければ、問題に対してあまりにも力不足だ。あと、ここで教えたとしても、中途半端な知識が誤解という悲劇を招きかねない。ここで話すだけでも問題そのものが、取り返しがつかなくなる可能性がある」
「……確かに、そうかも」
「まあ、そう焦るな。その時が来れば私の戦力と権力、命の全てを貸し出す。精霊王はこの力を、彼の立てる計画の一部として使うだろう。私も、お前の重荷を共に背負ってやる。だから安心しろ」
まだ俺には理解できない言葉。それでもリヒトーフェン王子が心から俺を慕い、命を賭けてくれているのが分かる。
もし魔法をかけていなくたって、彼は信じられる。
「でも、時間制限はないのか? それだけは教えてくれないか」
「ああ、それなら我々の作戦でずいぶん時間を稼いだぞ。だから時間制限は気にするな。イレギュラーな事件が起こらなければだが」
「えっ、事件が起こる可能性は?」
「お前にもう一度死なれなきゃ、大概の問題は問題じゃないという意味だ。だから、今のトーマとしての命を大事にしろ。そうすれば、シルルが死んだ事件も無意味じゃなくなる」
「……という事は、シルルがサフィンの代わりに死んだ事件は、時間稼ぎだったんだな?」
「そうだ。あの当時の状況を利用した、命を賭けた時間稼ぎだ。でも、これ以上はもう聞かないでくれ。世界の為に」
「……」
やはり、シルルとサフィンは自己満足の為にエルフと精霊達を騙した訳じゃないんだ。最悪俺の野望説もあったけど、俺はエルフや人間を支配したいなんて思わない。
世界の為にと表現する方が、心にしっくりくる。
「分かった。もう話を終えよう。本当は俺の呪いの話もしたかったんだけれど、これも聞けないか」
「ああ。でも……それは解けているかもな。シルルが死ぬ前に次の世で解ける可能性を教えてくれたし、実際に会った感じでは私もそうじゃないかなと思えている」
「え。いや、そもそもこっちは呪いが何かすら分かっていないんだ。解けたと言われても、意味が分からないんだけど?」
「そりゃ気の毒に。でも良いだろう? 解けてるぞ」
「ええ……?」
親友といえど、他人に秘密を握られては面白くない。
少しすねたら、リヒトーフェン王子は本気で可笑しそうに笑った。
「じゃあ、確実に解けたかどうかの判定は、私が責任をもってしよう。その為に、少し協力してくれ」
「協力したら断言してもらえるというなら、何でも協力するよ」
俺が約束すると、リヒトーフェン王子は悪だくみしている者の笑顔を見せた。
勇ましい上に、人の良さが顔ににじみ出ているリヒトーフェン王子を見つめると、心が穏やかになってきた。
「分かりました」
俺は冷静に答えた。本気で国を相手取るつもりはないから、ここで引くのが一番だと判断できた。
「しかし、その者にしっかりとした裁きをお与え下さい。私は二度は許しません」
「ペールデール国の王太子である私リヒトーフェンの名に賭けて、お約束いたします」
リヒトーフェン王子は私に向けて、胸に手を当て深々と頭を垂れた。
この国の第一王子に、これだけのことをさせたからだろう。村の警備員も職員も、そして問題のクロフトも、何一つ口答えせずに大人しく王子の命令を聞いたようだ。
すぐ、どこからか出てきた第一王子の配下の兵士たちが、クロフトと関係者たちを拘束して連行し始めた。
おかげでタロートは牢屋から釈放されたし、休暇する為のテントも無料で貸してもらえた。
声をかけてきてくれたレナードたちが王子を呼んでくれたと聞いて有り難く思ったものの、本気で怒ったせいか頭がクラクラしてきたから、ろくに感謝も告げられずにテントに入って休んだ。
2・
少しだけ意識が無くなり、すぐ目覚めた。
一時間ほどしか眠っていなかったようだが、頭がスッキリしている。超健康優良児のステータスの見せどころか。
俺が横になっているハンモックの傍の椅子にタロートが座っていて、いつも通りに微笑んで見守ってくれている。
彼に何もなくて、とても嬉しい。
俺が起き出すとすぐ、ソワソワしているタンジェリンが服を持って近づいてきた。
「トーマ様、この服のサイズが合えば良いのですが。一度着てみていただけますか?」
「あ、はい」
今まで着ていた服はまだ綺麗だけどと思いつつ、服を受け取ってハンモックの上にかけた。
「……?」
その一連の動きで、何だか体が窮屈なことに気付いた。いま着ている布のシャツとクロップドパンツが、ピチピチになっている?
「あれ? どうしてピチピチに?」
「トーマ様が成長されたからですよ」
タンジェリンの言葉に、思い切り衝撃を受けた。
俺、ようやく大人になったのかと意気込んで、一個だけある小さな鏡の前に突撃したら、そこに見えたのはまだ高校生になりたてぐらいの男の子だった。
まだ大人とは言えないかもしれないものの、先の中学生からしたら確かに成長した!
俺は奇声を上げつつ着替え、きっと呼び水となっただろう経験をくれたクロフトのことを綺麗さっぱり許した。
何ならもう一回やってくれないだろうかと阿呆なことを考えつつ、何気なくテントから出た。
そして多くの視線を浴びて、うっとなった。
冒険者たちに警備員たち、国の職員たちも数名が俺のテントから見える位置にいて、遠巻きにして何気なくだがこっちを窺っている。
自分が何をしたか改めて自覚して、あの第一王子ともう一度ぐらいは話し合わないといけないと決めた。
すぐ後をついてきてくれた三人に情報を聞いてみた。レナードたちのテントの辺りにいるらしい。
昨日と同じテントに行ってみると、朝食の後片付けをしているレナードたちと一緒に、本当に第一王子が混じっていた。
先に俺をとても心配していたらしいクロエが来たからもう大丈夫と教えて、次に笑顔で手招きしている第一王子に近づいた。
焚き火の前に座る第一王子の隣に座り、話を聞いた。
彼はソロでいくつものシルバー迷宮を踏破したゴールドカード持ちの猛者で、それが真実ならば明らかに本物の勇者だ。今は、レナードたち以外の部外者にはあまり知られる事なくこの迷宮にやって来ていたそうだ。
クロフトが安易な復讐を行ってしまったのは、天然勇者の第一王子がここにいると知らなかったからだって言う。
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俺も、この人みたいに立派になりたいと思えた。第一王子がこんなに良い人で、とても幸運だ。
それに…………とても懐かしい感覚がずっとしている。成長できたからか前より鋭くなった感覚が、彼をサフィリシスだと認めている。
彼はエルフだから、精霊のように一度で終わらず無事に転生できたんだ。そして手紙に残した約束通り、俺が困っていたから助けてくれた。
前世の事など覚えていないだろうし、そのことについては感謝できない。それでも感謝したいから、クロフトの事件を丸く収めてもらえて感謝しますと伝えてみた。
「いいえ、一方的に悪いのはこちらです。感謝されなくとも良いですよ」
「それでも……ありがとうございます……サフィン」
最後に小声で彼の愛称を付け足した。自己満足の為の台詞も、これきりだと思った。
「どういたしまして。ルル君」
一瞬、誰が言ったのかと驚いた。ルル君は、サフィリシスがシルルを呼ぶ時の愛称だ。彼以外に呼ばれた事はない。
第一王子はニヤニヤしつつ、もうすぐ消えそうな焚き火に小枝を投入した。
「サフィリシス王子?」
「鳥が豆をぶつけられたような顔をしてますけど、大丈夫ですか?」
「ちょっと、サフィン君、なにしてるの?」
「仕事してるぞ?」
「そういう意味じゃなくて! って、記憶があるんですか!」
「不思議とあるねえ。ルル君の方は全部思い出して──」
リヒトーフェン王子ことかつての俺の親友サフィリシス王子と俺の間に、剣が二本突き出された。
この状況をどうしたものかという表情のタロートはいいとして、タンジェリンまでハルセトと一緒に過激派に戻っている。
傍で俺たちの話を聞いていたレナードたちや、テントの傍に立っていた冒険者たちなどが驚いて参戦してきそうになった。
だから俺は、右手と左手にハルセトとタンジェリンの剣の刃を掴んで精一杯引っ張った。今の俺には、これしかできない!
状況に驚くのはサフィンも同じことで、彼は俺が二人と無謀な格闘を始めてからハッとして言った。
「ああ、真の名前のことか? それなら大丈夫だ。何しろ、ルルの本名は本当に長ったらしいんだぞ! そんなもの、千年後まで覚えてられるか!」
「……」
サフィンの魂の叫び声に聞こえたそれで、タンジェリンとハルセトが剣を引いてくれた。しかし二人は目付きが鋭いままで、俺から一ミリたりとも離れない。ぎゅうぎゅうだ。
しょうがないので、ちょっとした行き違いだと周囲に説明しまくり、収まった頃に再び話し合いの場を持った。俺たちの借りたテントの中で。
俺たちが知りたいのは真実だ。サフィンと俺は、俺が主となり嘘を見抜ける軽めの術をかけた。
それからサフィンは、昔のことを教えてくれた。
「私が死んだのは、今から七百年ほど前だ。エルフにも転生の知識はあったが、上手い具合にシルルとまた会える場所に転生できるかは分からなかった。だから死んで大きな光の海に魂が漂っている時に、私はシルルとまた会いたいと願い続けた。するとそこに、創造神ウィネリアがやって来た」
「は? まさか、会ったのか!」
精霊王でも会ったかどうか分からない神と!
「いや、会ったというより、意識が繋がったという方が適切だな。そして言葉をもらった。そうしなさい、と」
「それは……」
たった一言。それでも彼はウィネリアと交信した。その意味は、俺を助ける為か、もしくは間違っている俺に意見させるためか……。
「言葉を受け取った後、今から二十七年前に、私はこの地に王子として生まれた。前世の記憶を持ち越せたからか、魔力保有量が類を見ない程に優秀な王子になれたよ。そして人間の王族には基本的に歴代の勇者たちの血が多く組み込まれているから、肉体的にも優れることができた。私はこの力を、ルル……トーマの為に使う。そう誓おう」
「いや、だけどサフィン……リヒトーフェン王子は、ペールデール国の王太子だろう? その者が精霊に誓いを立ててはいけない。人種も国も違うのに」
俺がこう言うと、彼は本当に真剣な目で俺を見つめた。
「まだ根源の問題については、何も思い出してないようだな。なら、トーマが問題を思い出すまでは、この話は無しだ。それでいいか?」
「それは……俺が思い出してなければ、聞いてはいけない内容なのか?」
「思い出していなければ話し合う意味がないんだ。トーマがいま知っても、思い出していない状態では対応する力がない。精霊王として真に覚醒しなければ、問題に対してあまりにも力不足だ。あと、ここで教えたとしても、中途半端な知識が誤解という悲劇を招きかねない。ここで話すだけでも問題そのものが、取り返しがつかなくなる可能性がある」
「……確かに、そうかも」
「まあ、そう焦るな。その時が来れば私の戦力と権力、命の全てを貸し出す。精霊王はこの力を、彼の立てる計画の一部として使うだろう。私も、お前の重荷を共に背負ってやる。だから安心しろ」
まだ俺には理解できない言葉。それでもリヒトーフェン王子が心から俺を慕い、命を賭けてくれているのが分かる。
もし魔法をかけていなくたって、彼は信じられる。
「でも、時間制限はないのか? それだけは教えてくれないか」
「ああ、それなら我々の作戦でずいぶん時間を稼いだぞ。だから時間制限は気にするな。イレギュラーな事件が起こらなければだが」
「えっ、事件が起こる可能性は?」
「お前にもう一度死なれなきゃ、大概の問題は問題じゃないという意味だ。だから、今のトーマとしての命を大事にしろ。そうすれば、シルルが死んだ事件も無意味じゃなくなる」
「……という事は、シルルがサフィンの代わりに死んだ事件は、時間稼ぎだったんだな?」
「そうだ。あの当時の状況を利用した、命を賭けた時間稼ぎだ。でも、これ以上はもう聞かないでくれ。世界の為に」
「……」
やはり、シルルとサフィンは自己満足の為にエルフと精霊達を騙した訳じゃないんだ。最悪俺の野望説もあったけど、俺はエルフや人間を支配したいなんて思わない。
世界の為にと表現する方が、心にしっくりくる。
「分かった。もう話を終えよう。本当は俺の呪いの話もしたかったんだけれど、これも聞けないか」
「ああ。でも……それは解けているかもな。シルルが死ぬ前に次の世で解ける可能性を教えてくれたし、実際に会った感じでは私もそうじゃないかなと思えている」
「え。いや、そもそもこっちは呪いが何かすら分かっていないんだ。解けたと言われても、意味が分からないんだけど?」
「そりゃ気の毒に。でも良いだろう? 解けてるぞ」
「ええ……?」
親友といえど、他人に秘密を握られては面白くない。
少しすねたら、リヒトーフェン王子は本気で可笑しそうに笑った。
「じゃあ、確実に解けたかどうかの判定は、私が責任をもってしよう。その為に、少し協力してくれ」
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