精霊と魔法世界の冒険者

海生まれのネコ

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第六章 世界と仲間を救うために

3 星を探しに

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1・

俺と咲夜はようやく、南部山地に居を構えるというエスタルドラの民に会いに行くことにした。

千年前に俺たちの存在を予言したバルネラの子孫と、皇帝アルスノバの部下たちの子孫が中心となって、今も天空都市に対抗している組織だという。

エルフ達は彼らと時折交流があったそうで、だから道案内を約束通りにクフラン達が引き受けてくれた。

最初は偶然に出会って一緒に旅をしたよそ者だったのに、今や彼らの中で俺の株が上がりまくっているらしく、物凄く親身になってくれる。

仲が良いのは嬉しい。ただ、エルフ王レオンだった時のことを思い出すから辛い。あの時は、直属の部下は全滅した。

しかしその原因のユリアヌスは今や味方だ。それに今は昔とは違う。誰一人として失わない未来だってある。だから俺は、ユリアヌスの言いつけを守る。

ユリアヌスの提案は、簡単な話だ。

カルゼア大森林から持ち込んだ食物は、全てが魔力に満ちあふれている。だから俺が持つそれを誰かに与えるんじゃなくて、俺が三食きっちり食べる。そうすれば、この魔力含有量の少ない世界でも、精霊の体を維持して育む事ができるだろうという。

俺が昨日倒れてしまった原因は、この魔力のない世界に居すぎて体に魔力を十分に吸収できていない上に、戦うことで限界まで大放出したかららしい。

ユリアヌスの言うことは大げさじゃなくて、魔力を失い過ぎると精霊は死んでしまう。体も魂も消えかねない。

だからちゃんと毎日食べて魔力摂取すれば、無理さえしなきゃ普通に戦って良いとも言われた。

あと、徹夜は止せと言われた。やっぱり、精霊も寝る子は育つのだ。

俺がその基本を約束したから、ユリアヌスは単独で諜報活動に旅立った。

俺たちはその後で南に旅立ち、そして四日が経過した。

山地の中を流れる川により作られた渓谷を、晴れの日に谷底まで降りて対岸に渡ろうとしていた。

すると俺でも発見が遅れたぐらいに、周囲の自然に溶け込んでいる青年たちに出会った。

弓矢で武装する彼らは俺たちを全く警戒せず、川の上流方向を指差した。

「アグネス様がお待ちだ。我らの聖地に侵入を許可する」

「アグネス様とは、代表者の方ですか?」

「そうだ。あなた方の到来も予知して下さった。この川の上流に集会所がある。そこで会える」

「分かりました」

感謝して、上流に向かうことにした。青年たちは共に来ず、俺たちを見送った。

そこから六時間ぐらい、岩がゴロゴロ転がる無人の谷底を歩いた。俺以外が疲れ果ててしまい、まさか嘘をつかれたのかと疑ってしまった。

でも聖地というだけあり、良質な魔力が渓谷全体を覆っている。俺の体に足りていない魔力を歩いているだけで補えて、とても心地良い。

ただ、魔力を上手く吸収できない体の咲夜たちは疲れ切った。

しょうがないので咲夜を負ぶってしばらく歩くと、そこでようやく出迎えの人間たちと遭遇できた。

川の流れが穿った渓谷の、その水の力が同じく作った岩壁の中の広い洞窟に、エスタルドラの民が数名いた。

その中心にいる、美しく織り上げられた布をまとう赤毛の女性がアグネスだと見ただけで分かる。神秘的な視線の奥に、全てを見通す知識の源が見えるような気がする。

俺たちは彼女たちの勧めで傍に座った。そして名乗った。アグネスは、ニコリと笑って頷いてくれた。

「私はアグネスです。聖女バルネラを始祖に持つ、予言者の長です。私たちエスタルドラの民は、予言にある勇者と神の到来を心から待ち望んでおりました。今この時においで下さり、誠に有り難く存じ上げます」

「あの、しかし、私は神ではありません」

俺は、一応言っておいた方がいいと思ったので最初に言った。

するとアグネスは、愉快そうな目を少しだけした。

「墜ちたというのは正しい表現ではありませんが、それに似た境遇ではある筈ですよね? かつて神であったあなた様は、この世で神に戻る資格を得ます。よくよく、お考え下さい」

「……はい」

どうやってバレたんだろうと不思議に思える。異世界のことなのに、それすら見破るのが予言者か。

魔王問題があって宗教家は苦手なんだけれど、そうも言ってられない。

俺はユリアヌスから取り戻した神石のペンダントを取り出して、アグネスたちに見せた。

「私たちはこれから、神を誕生させる為に神石を探しに行きます。もしありかをご存じでしたら、お教え願えませんか?」

「ここに一つあります。どうぞ、お受け取り下さい」

アグネスは服の中からレモン色の神石を取り戻し、俺に向けて差し出した。俺は手を伸ばして、その神石を受け取った。

ペンダントになっている神石に新しい方を近付けると、両方の表面が液体であるかのように波打った。

どうすればいいか分かり、新しい方をペンダントトップにくっつけると、二つは水のように瞬時に融合して淡く光り輝いた。

大きさに変化はないけれど、内包される魔力の量がぐんと上がった。

「ありがとうございます。活用させていただきます」

「こちらこそ、より感謝すべきなのですよ。アーサー様、何とぞ、この世界をお救い下さい」

「もちろん救うつもりです。では、他の神石は?」

「他の神石は、遺跡に忘れられている物と、人間に持ち去られた物、そして命を得て魔物となった物の三つがあります。人間に持ち去られた物は天空都市同盟の、トレシス王国の政府機関の建物にあります。魔物と化した物の一つは、ここより南西にある平原にいるでしょう。遺跡に忘れられている物は、西の遺跡群の中に存在します。地図を差し上げましょう」

アグネスの部下の一人が、なめした革に描いた地図を渡してくれた。

空から見た感じの、この南部山地から西の遺跡群周辺までの地図で、エルフの国ガレラントもエルフの聖地も、コボルトの住みかも記されている。

天空都市は、南に向かって海に出た辺りにまとめて浮いているようだ。南の平原にあるバツ印は、そこで魔物と会えるという意味なのだろう。

「魔物は倒さなければ、神石を得られませんか?」

「はい。しかしその魔物は、崩壊する大地を彷徨い始めて千年が経過する悪霊です。あなた様といえど、お二人では手に負えません。どうか、味方をお探し下さい」

「味方は、もう一人おりますが」

「例えて言うなれば、ゴールド迷宮の魔王並です。意味はお分かりですよね?」

身に染みて分かるが、それじゃあ俺たち三人でも勝てない。もっと人数を……せめて鍛えられた一つのパーティー分の戦力が欲しい。

しかしそんな存在、この世でどこにいるのか。もしユーリシエスが来てくれて、ウィネリア魔法世界の戦力を引き込めるとしても、かつての仲間たちはこの二十年でほぼ全員が前線から退いた。そして子の親となって幸せに過ごしている。

即座に現役復帰できない人が多いし、精霊たちの方は新たな精霊王の警護に命をかけている。引き抜けない。

居るとすればあの彼らだが……と悩んでいると、アグネスが別の石を取り出して咲夜に差し出した。

「非情な申し出ではありますが、これを鑑定していただけませんか? トレシス王国に潜入していた、我らの仲間から採れた魔石です」

俺はアグネスの言葉を聞いて、背筋が凍り付いた。

「咲夜! 駄目だ、触れるな、鑑定するな!」

立ち上がって叫ぶと、不思議そうな表情の咲夜は、一度出した手を引っ込めた。

「どうしたの?」

「えっ……」

説明しにくい。何故こんな酷い仕打ちをと、アグネスを睨んでしまった。

でもアグネスは、とても冷静な視線をくれる。

俺はどうしようもなく、彼女の手から魔石を奪い取った。

するとアグネスは咲夜に笑顔を見せた。

「あなた様がこの世界に呼び出された時に、その場にいた金髪の少女を憶えてらっしゃいますか? サンドラという名の、私たちの仲間なのです」

「ええと確か、召喚術を使用した術者の内の一人ですね。憶えてますよ。でも私より男子の三人と仲が良くて、彼らの教育係になっていました」

「そうですか。彼らも憶えてくれていますでしょうか」

「きっと憶えていますよ。だって、物凄く美人さんだったし、とても賢くて優しい方でしたし」

無邪気に笑う咲夜に、俺は何も言えない。でも、何をすべきかは理解した。

「あの、すみませんが、召喚された勇者のレベルアップ方法は、敵を倒すだけしかないのですか?」

俺が聞くと、アグネスはすぐ俺を見てくれた。

「いいえ、訓練として体を動かし、実戦形式で術を行使しても可能です。この咲夜さん以外はですが」

咲夜は申し訳なさげに笑った。

「咲夜……あのさ、他の勇者たちに会いに行かないか? 俺と咲夜が今どれだけ強いのか分からないだろう? 手合わせしてもらって、今後の為の経験にしよう」

「でも、戦ってもらえるかしら?」

「俺が説得するよ。だから行こう」

強く言うと、やはりクラスメイトのその後が気になるのか、咲夜は戸惑いつつも頷いてくれた。

「彼らはリルミガ高原で魔物と戦ってレベル上げをしています。地図に記しましょう」

アグネスは何がどうなるか、この先のことも分かっているんだろう。とても冷静に、西南にある高原に炭でバツ印を入れた。

大勢にとって残酷な行為だが、俺にとって必要な手段だ。黙って受け取った。
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