転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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一章 転生魔王

1 転生高校生

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1・

過去、菅原道彦という高校生だった僕は、一度事故死して異世界に転生。
龍神と魔王として生き、最後に聖なる獣の麒麟としてこの世界に帰還を果たした。

宇宙戦争を引き起こさないため、異世界での因縁を切ろうとこの世界に先に転生した敵を追いかけてきたために。
そうして僕は、菅原道彦のクラスメイト、如月龍馬として生まれ変わった。

宇宙戦争を始めたいがために菅原道彦を事故から救おうとした敵の動きを押さえ、無事に自分自身である菅原道彦を殺すことに成功した。
それからは、まだなんの未来も決まっていない。

2・

菅原道彦が転落死した事故から、数日が経過した。
季節は初夏になり、青空のもと、涼しい風が木々の間を通り抜ける。
そんな爽やかな一日としても、クラスメイトが死んだばかりの高校生活はとても重苦しい。

同じクラス内に、前世では仲間だったこともある、今の世に敵として送り込まれて来たリュック・スタインウェイの転生した男子、藤堂陸がいる。

僕が自分自身を無事に死なせたあと、彼も任務を無くして目標を失い、フラフラと生きている。
僕の場合は前向きに生きていこうとしているものの、彼は今にも倒れて死にそうだ。
自分の失敗で、敬愛する上司に汚名を着せて殺したままになったのだから、仕方がない。

それと、転生の部分には関係ないのだが、菅原道彦が事件の時に救った女子が居る。自分のせいで彼が転落死したことを気に病み、事件からずっと休んでいる。

一応は自分の責任なので、どうにか立ち直ってもらいたいと願っているところだ。
しかし、事件から十日経過しても登校しないのは気になる。だから今日の放課後、彼女の家に行ってみようと決めた。

そのため、あの事件の時に傍にいた彼女の友人の二人に、昼休みに話しかけてみた。
事件のせいで落ち込んでいる二人だが、僕が話しかけると信じられないという顔をして、しばらく固まってしまった。

その理由は、よく分かっている。
転生するにあたり、事件を無事に解決するために運動神経が一番良い同級生になる存在を選択した。
生まれてからは己を鍛錬し続け、前世の勘の良さが少しばかり引き継がれたおかげもあり、去年一年生で剣道日本一を取った。

そして二度目の高校生活なので勉強も簡単に思えるし、前世は大学まで行っていたおかげで学業でも華やかな成績が得られている。
ついでに全く意図してなかった事態だが、この如月龍馬は背が高く見目麗しいタイプの男子で、町で幾度かモデルにならないかと声をかけられたことがある。

今の僕はそんな風に、普通に生きたい上での障害物を背負い過ぎてしまった。
手加減などという言葉は、前世からの因縁を取り払うために無用な長物でしかなかった。
そういう訳で、自覚なく無敵高校生と化してしまった僕の前で、今まで一度も話したことのない女子二人は固まってしまった。

「済まないが……もう一度聞かせてもらえるか?」

「は、ひゃい?」

「越野泉さんの家を知っていたら教えてもらえないか。お見舞いに行ってあげたいんだ」

「し、知ってますよ? でもなんでそのう……」

「憶えてないだろうか? 僕もあの場にいた。だから、話をしたいんだ」

「ああ……」

彼女たちはようやく、普通の思考に戻ってきてくれた。

こうして僕が住所を得たところを、後ろから藤堂陸が見ていたようだ。けれど彼は知らん振りし、放課後には素早く下校していった。

3・

越野泉さんの家は、マンションの一室にある。

扉の前に立ち、チャイムを鳴らす。

人が動いている気配はある。玄関先まで来た。しかし何故だか回れ右し、行ってしまった。

五分ほど経過した。もう一度鳴らしてみる。

今度は何かを蹴飛ばす音がしながら、再び玄関先まで人がやって来た。
意を決したように扉が開くが、五㎝だけだった。

女子と目が合う。越野泉さんだ。

「こんにちは。僕は君のクラスメイトの如月龍馬と言うんだけど、ほぼ始めましてだよね?」

扉が閉まった。また五分ほど経過したが、今度は扉が開きそうも無いので、先生から預かってきたプリントをポストに入れて立ち去ろうとした。

そうするとようやく扉が開いて、越野泉さんが声をかけてくれた。

少しややこしい始まりだったものの、中に通され彼女の部屋の小さな机の前で正座した。
同世代の女子の部屋に入るのは初めてで、質素だけれど可愛らしいコーディネートに、何故だか少し照れが出る。

越野泉さんの方はベッド脇に座って若干震え気味で、窒息しそうな感じで顔が赤い。
長居は駄目だと思ったから、遠慮することなく事件の話をした。そしてもう気にしない方がいい、君のせいじゃないと告げた。

事件の話で顔色が元に戻った彼女は、やはり気にしているようで泣きそうな顔をして俯いた。

「でも、私が不注意で……柵に登らなかったら……」

「彼は君を救えて本当に満足している。君が無事でいてくれることに、天国で感謝しているよ」

「そんなの気休めです」

当人の意見なんだけれど、それは正直に言えな……いや、言っていいのかも。

「泉さん」

「ふわっ」

「? ……誰にも話さないで欲しいんだけど、実は僕は菅原道彦君の生まれ変わりなんだ。君が気に病んでいるのが心配で、こうして押しかけてきてしまった。当人の僕はこうしてここで生きているから、全く気にしないでいいんだよ」

「……」

沈黙が訪れた。

「あの……十日間もテスト前に休んだのは、とても痛いだろう? 良かったら明日の放課後、僕が勉強を教えるから……だから、学校においで」

僕の作戦を伝えた。

泉さんの顔がまた赤くなり、ほっぺが膨らんだ。視線をこちらに向けてもらえない。
また沈黙が続いたので、のぞき見している彼女のお母さんだろう人を見てみた。彼女はギクッとし、下がっていった。

「ここで教えようか?」

「うあっ。ああ、学校でお願いします!」

「分かった。じゃあ明日に」

僕はようやく正座から解放され、彼女と彼女のお母さんにさようならと告げて、マンションから立ち去った。

4・

翌日の学校に、越野泉さんは登校してくれた。

前の彼女をそんなに知らないものの、イメチェンしたようで漂う気配が何か違う。ゆるふわになっている。
心配していたものの、いたって元気そうに見えるから良かった。

すぐ放課後になった。
僕は約束通り、廊下以外誰もいなくなった教室で、越野泉さんと一緒にテスト範囲の確認をした。

廊下が騒がしいけれども教室内は大丈夫なので、時計が六時を回り周囲が薄暗くなり始めた頃まで勉強に集中できた。

そして気付いた。暗い中、泉さんを一人で返せないと。

勉強道具の片づけに入り、勉強内容が難しかったのかどんよりしている泉さんに声をかけてみた。

「家まで送っていくよ」

彼女の動きがピタッと止まり、見る間に笑顔になった。

「お、お願いしても良いんですか?」

「構わないよ。暗い夜道を一人で帰せないからね」

「ではお願いします!」

泉さんは、とても嬉しそうに答えてくれた。
もう完全に立ち直ってくれたようで嬉しくて、僕も笑顔になった。

すると彼女がまたフリーズした。
話しかけたり触って良いのか分からないので、黙って復活を待っていると、教室の扉が開いて藤堂陸がやって来た。

「越野泉さん、私も同じ方向だから一緒に行こう」

「? それはありがたい」

僕が答えると、泉さんは力無く机に倒れ伏した。自力ですぐに復活してくれたので、助けなくて良かった。

こうして三人で泉さんの家まで行ってみたものの、藤堂陸は僕らの前をただ歩き、僕は泉さんと一緒に歩いておしゃべりした。

何故、藤堂陸が泉さんの家を知っているのか分からないまま、彼の道案内風にマンションに到着してしまった。

玄関先で彼女のお母さんに写真撮影をせがまれたので受け、しばらく写されてからマンションから出た。

僕の背後にいる藤堂陸が、盛大なため息をつく。

「あのですね、以前の貴方ならば普通の距離感で良いかと思うのですが、そのようなお姿に貴方の魂が入ると大ごとなのです。今後、特定の女子に近付かないことをお薦めします」

「何故? ただのクラスメイトとしても、自分のせいでああなったんだから、気遣っても良いじゃないか」

「良くないです」

「ええ? それより陸君……って呼んで良いかな?」

「まあ……構いませんとも。こちらでは苗字が尊称ですからねえ」

彼の魂の出身地では、名前を呼ぶ方が尊称だった。つまり、まだ僕とは距離を置きたいらしい。仕方ない。

その後、陸君は僕と同じ方向に帰宅していった。越野泉さんと同じ方向じゃなかった。
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