転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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二章 麒麟の里帰り

2 麒麟の星ミネットティオル

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1・

話には聞いていたけれど、魔界からミネットティオル星国まで二週間の船旅で事足りた。

魔界は宇宙文明の辺境にあり過ぎて、ミネットティオルに到着するまで、人の住む星が一つもなかった。
そのおかげもあり、余計な時間がかからず、早く到着できたようでもある。

宇宙のあちこちで、どんな種族でも突然変異で生まれ出る麒麟という聖なる獣の保護を一手に引き受ける、古い歴史のある星。

強い癒やしの力を持つ麒麟が集団で暮らすミネットティオルでは、一部例外はあるけれども住民の全てが病にかからない。病死がない。
将来的に星を出て活動したいものは、病の抗体を手に入れるために、他の星に渡って一定期間過ごすようにするほど。

逆に言うと、宇宙中の病人がミネットティオルを訪れたがる。
しかしそれだけの人数を、本当に星に受け入れる訳にいかない。

麒麟を護るためにも、ミネットティオル出身者か、許可の下りた会社の人々か、他の星の政治家などしか星に降り立たせない規制を敷いている。
そして病を癒やしたい大勢の者達は、星の軌道上に設置された多数の宇宙ステーションで受け入れる。

星の周辺でいるだけでも、日数はかかるが病は治る。それほどの治癒力の強さが、麒麟という存在を神聖化する源のようだ。

僕の乗る船はミネットティオル政府所属の船なので、これといって特に難もなく地上に降り立つ許可をもらえた。
前世でいくつか見たのと大差ない、発展した街並みの中にある宇宙港は、特徴を言えば知っているものより木々が多く設置されている。

見事な大木まで港内にあり、自然と共に生きるミネットティオル人の価値観が素晴らしい事は分かる。
僕はその緑溢れる港内で、ミネットティオルの役人達と、新しい麒麟の護り人たちと会った。
見習いの護り人たちとは笑顔でお別れした。
ウィリアムさんとソヨンさんは、引き続きついてきてくれるようだ。

前世では到着し得なかった場所。僕はとうとう、大勢の麒麟たちが住まう森に行けることになった。

地上移動用の小型飛行船に乗り、数時間後。
窓から外を眺めて確認していると、都市のすぐ傍に広大な森が広がる地域が見えた。

この星に入ってから、噂に違わぬ癒やしの波動、白の魔法の強い気を感じるようになっていた。
しかし今まで以上に、目の前に広がる森からは聖なる気が強烈に発せられているのが分かる。
前世で闇の民ながら麒麟となった身では、ここでは暮らせなかったかもしれない。

転生して人間の麒麟でやって来られた事は、幸運だった。

森の入り口付近には、大きな玄関を持つ政府所属の銀色に光る建物がある。
そこで幾人かの麒麟が住んでおり、麒麟の護り人たちが世話をしているとのこと。
僕も、今日からここで暮らす。麒麟として慣れれば他の場所に行っても良いらしいが、しばらくはここで暮らす方がいいだろう。

幾人かの政府職員たちの出迎えで受け入れられてから、すぐに僕が使用していい部屋を複数案内された。
一個で十分なのにという意見は言わず、とにかく笑顔で感謝した。

そして一度麒麟の姿に変身し、皆さんに素晴らしいと讃えられ拍手されてから、僕を取り囲む会は解散することになった。

2・

僕の部屋に残ったのは、ウィリアムさんとソヨンさん、それに新しい麒麟の護り人三名。
色々と話を聞きたくて椅子を勧めて見たら、全員に丁寧に断られてしまった。
これが麒麟の威光という奴か。椅子なんて、いっぱいあり過ぎて困るっていうのに。

せっかく仲良くなれてきたウィリアムさんとソヨンさんとも距離感があったので、どうにか親しくなれないかと考えながら、彼らが給仕してくれたお茶とお菓子を前にした。みんなの分は、ない。
庶民には辛い生活だ。

しかし、急に良い案が浮かんだ。

「ウィリアムさん、麒麟の護り人の教官ですよね?」

「はい。今現在はノア様の麒麟の護り人としての任務を最優先にしておりますが、所属は教育課です」

「では、私にこのミネットティオルの事を教えて下さい。私はたくさんの事を知りたいのです」

これで着席して話をしてくれるだろうと、密かに勝ち誇った。

数分後、ウィリアムさんは僕の真横に立ち、たくさん用意してくれた教科書とノートと筆記用具を机の上にきっちり並べてくれた。

崩してしまってもいいか悩める物を前に、すでに息が詰まりそうだ。

しかし本当にミネットティオルの歴史と常識について話して聞かせてくれたので、ありがたく勉強を開始した。
普通の高校生に戻れた気がして、少し嬉しい。

のだが、開始数分でお客様が訪れた。この建物で共に暮らしている麒麟たち。
見てからに良いところの坊ちゃん嬢ちゃんを体現する存在で、優雅な立ち居振る舞いに華麗な衣装を身につけている。

彼らと話をして分かったのは、彼らが子供の頃に麒麟と判明し、すぐに救助されたものだということ。

ミネットティオルに来なければ、それ以外の星では闇取引される獣として扱われる事もある。何より他の人々と同じような生活が困難で、肉食は基本駄目で、野菜も汚染されていないものに限定される。

何より、血に対する恐怖が酷い。自分じゃなくても誰かが指を切ったぐらいの怪我で、身がすくみ動けなくなるほど。

この血の恐怖については耐性を持つ麒麟もいて、どうやら僕はその類いだから、魔人達とも何とか渡り合えた。
でもあの時、怖かったのは事実。だから途中で戦術を魔法で無双の方向に持っていった。
出来る限り血を見ないようにするために。

それに僕は、本来麒麟が転生すれば麒麟ではない世界の理の中、それでも魔法で引き継いでしまって麒麟でいる。
この無理さのせいで、前世より麒麟の力はだいぶ減ってしまった。

以前のように闇落ちした獣、力を持つ時空獣や星を丸ごと一個癒やすことは無理だろう。きっと麒麟の末席ぐらいの力しかない。

それでも魔法の知識と、黒魔法の素質は引き続き持つことができた。
それさえ失っていれば、僕はただ狩られるのを待つ小動物でしかない。

そしてその通りの存在なのだろうこの場所の麒麟達は、救助されて命拾いした。
幼い頃から俗世を離れて暮らしたために世間知らずで、ふわふわしていておっとりしている。
間違っても僕のように戦おうなんてしないだろう。

彼らは僕を新しい弟と表現し、男女関わらず一度はギュッと抱きしめたり頬にキスしたりしてきた。まるで女子の取り巻きに男子も参加したようだ。

好かれるのは嫌いじゃない。でも彼らとは、暮らしている世界が違うとはっきり理解できた。
彼らが星に居続ける理由は、犯罪に巻き込まれないためじゃない。犯罪から遠すぎて、あまりに現実を知らないからだ。

麒麟達は、気の済むまで僕と会話してから、夕方になり一人一人散っていった。

疲れた僕は早々にお風呂に入り(なんだかとても広々としたジャングル風呂)、準備されていた乙女チックな寝間着(麒麟達の流行り?)に着替えて巨大な天蓋付きベッド(本当の意味でキングサイズ)に潜り込んだ。

シルク(蚕を殺さず採取したらしい)と綿(無農薬無肥料栽培)で作られた布団とクッションに埋もれて、眠った。

3・

草木も眠る丑三つ時に起き出し、隣の部屋で寝泊まりすると言っていたので、こっそり会いに行ってみた。
   僕のと違い質素な小型ベッドで寝息を立てているので、起こさないように近付き、顔を覗き込んでみた。

眠そうな目をしたウィリアムさんが、身を起こした。

「あ、ソヨンは隣の部屋ですよ?」

「そういう意味じゃないです」

「ではあの……男性の方が?」

「それも違います! って、やっぱりそういう権限あるんですねえ」

たまらないと思い、頭を抱えて絨毯上に座り込んだ。

ウィリアムさんが起き出してきて、僕の前で正座した。

「えっと、色々と聞きたいことがあるんです。昼間に教えてもらえないことを」

「やはりその手の話でしょうか?」

「ああの、一応聞いておきますよ。もし子供ができたら、どういう扱いになりますか?」

「神の子として相応しく取り扱われ、由緒ある家の養子となり、成人した暁には役人となり国のために尽力いたします」

「自分で育てることはないのですか」

「立派な親となられた麒麟様方もおられます。けれど現在は、この施設におられる麒麟様方は……子供のように無邪気で、そのような手間をかける仕事は出来ないでしょう」

「仮定の話ということは、今は子持ちの麒麟はいないのですね」

「はい。己が神であると教育されている上に麒麟様の性質上、あまり異性に興味を持たれないご様子です。しかしノア様は――」

「いや、自分も一応そうだと言っておきます。それで本当に聞きたいことは、僕はずっとここで天国の一員として暮らさなければいけないのか、ということです」

「居住地の問題でしたら、国有地のどこでもご自由にどうぞ。建築からお選び頂けます」

「住み家も必要なものの、仕事はどうなるのかと聞きたいのです」

「それならば、明日、麒麟様のリーダーであられるファルダニア様との面会がございますので、その時にお尋ね下さい。あの方でしたら、ノア様の悩みを全て理解して頂けます」

「……なるほど。分かりました」

リーダーというからには、頼りになりそうだ。良かった。

ウィリアムさんにまた睡眠に戻ってもらい、僕は自分の部屋に帰った。
薄暗い照明の中、部屋の中央に薄ぼんやりと白い人影がある。
まさか幽霊かと驚いたら、それは可愛らしい動きで近付いてきた。

「ノア様、今日は風が強くて音が怖いです。一緒に寝てくれますか?」

茶色い熊のぬいぐるみを抱えた白い清楚なネグリジェの美少女麒麟様は、無邪気に僕の手を取った。

僕はその手を丁寧に振り払い、廊下に出た。

「お願いですから連れ戻って下さい!」

彼女の護り人たちに頼むと、いつものことみたいに対応してもらえた。
ただ、今日は駄目ですよと言うのは止めてもらいたい。
明日も来ちゃう気がする……。
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