転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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四章 魔界を駆け抜けて

4 追跡者として

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1・

麒麟であり時空召喚士でもあるノアの救出活動は、人間界において着々と進められた。

最大の問題は古の門を開くことながら、実際はノアを追いかけ取り戻すことに全力を注がなくてはいけなくなる。

全ての関係者はそう考え、もう一度セス大魔王と戦うことになっても成し遂げるべきと心した。

その中で唯一勝つ気でいる藤堂陸は、顔が半分隠れるフード付きのパーカーを着て私物が入ったリュックサックを担ぎ、深夜に丘を登る。
まさかこんな事に手を貸そうとはと苦々しく思いつつも、止めるつもりはない。

陸は視線の先に、既に揃っている面々を確認した。

門を見張っている魔界の手の者たち。麒麟の護り人四名。そしてセシリア王女に、トリスタン大魔王。

これだけの人材を動かせる者は英雄だ、と陸は思った。

先に立てた作戦通り、まずトリスタン大魔王とセシリア王女が力を合わせて門を通過できる状態にする。それが出来なければ、作業を一度見て憶えた陸が力を貸して、再び開く。

それで開かなければ、潔く諦める。

この条件の中で、作業が開始された。

一度目の門の解錠作業は、封印の力にあらがいきれずにすぐに失敗した。

トリスタン大魔王は力不足を理解しつつ、陸に助力を求めた。

陸は門を開く魔力の流れを注意深く観察し、己の力でどこを補えば良いか理解した。
そして、二度目の解錠作業を開始した。

作業を行う三名は、セス大魔王の封印力を超える魔力の流れを生み出し、門の一部に穴を開いた。

門が一部とはいえ開いた事に、全員が喜び安堵した。

しかしすぐ、陸は見抜いた。

「待ってください。これは失敗です。一方通行のようです」

一方通行と聞いて、全員の表情は曇った。

ここで渡ったとしても、帰るためにはまた向こうで開かなければいけない。しかも、トリスタン大魔王は過去には行けない取り決めがある。

全員、ノアを救出して彼に力を借りれば良いと考えた。しかしそれは、ノアの実力が未知数である以上、厳しい賭けにしかならない。

別の時空召喚士の力を借りる手もあるが、楽観視はできない状況。

全員は悩み、話し合った。二度と帰れない覚悟で、門をくぐれるかどうかを。

麒麟の護り人は、全員が行くと決めた。
ミネットティオルに残された後、個人的に魔界に渡航して追いかけてきたソヨンも、ここで帰るつもりなど毛頭もない。

陸は行くのをためらいつつ、もう関与すると決めたと自分に言いきかせた。

そしてセシリア王女は、トリスタン大魔王と先に話し合って決めた通り、セス大魔王を説得する使者として向かう事に決めた。

説得出来さえすれば、帰還は容易いものだし、怖じ気づく必要はない。

誰しもそう思い、一方通行の小さな時空の門へ足を踏み入れた。

2・

暗闇の中に小さな光が点滅する時空の中、次元を越えるにもただ数歩進めばいい距離を渡る。

六人全員が通路を通過したのち、不安定な門は崩れて消え去った。

通る間、通路を補強しつつ、あわよくば保たせようとした陸の思惑は簡単に外れた。

全員、周囲を見回す。

夕暮れ色に染まる、やしの木が生えた穏やかな浜辺の様子。
少し離れた場所に木造のレストランがあり、テラス席に座る軽装の客の姿がある。

楽しげな音楽が、波の音と混じり合い、どこからともなく聞こえてくる。

「六千年前?」

ロレンスが呟く。

「いやそれより、ここが門?」

ウィリアムは驚きながら振り向き、海辺の磯に繋がるただの岩場を確認した。
和やか過ぎてどう反応していいか、戸惑う数名。

唯一冷静に現状の把握をした陸は、己にかけた幻を解除して見目麗しい姿となり、同時に薄着に衣装チェンジした。

それに気付いた他の全員が、冷え込む秋の夜用に着込んだ衣服を脱ぎ始めた。

全員の着がえが終わる前に、陸は周囲の魔力探知を行った。
門のある岩場の向こうにある、二階建ての屋敷に強い気配があるのを察知する。

「先に行きます」

「私も行きます」

陸とセシリアは、止める声を聞かずに岩場の上を伝って問題の家まで向かった。

生け垣に囲まれた屋敷の玄関先で、二人は魔人族の少年に出迎えられた。

「ようこそお越し下さいました。旦那様がお待ちです」

陸とセシリアは一瞬迷ったものの、追いついてきた四人と共に中へと通された。

応接間のソファーに腰掛け、夕闇の中で涼しげな風に吹かれるセス大魔王は、見知らぬ顔に視線をやった。

「お前は誰だ? 未来の魔王か。魔王職にあるものの時間跳躍は許されていない筈だが」

「私は正式な魔王ではありません。なることを前提にし、一つの国に逗留している無職です」

「そうか。ならば我らの法も不問だな。しかし何をしにここへ?」

「ノア……貴方のご子息を助けに来た以外に、何がありましょうか」

「お前ほどの者が来る価値が、我が息子にあるというのか」

「ええ、残念ながらね」

セス大魔王は、陸が息子を好きではなさそうだと気付いた。それでも救出にやって来るだけの価値があの息子にあるとは、まだ信じられない。

セス大魔王は、麒麟の護り人たちとセシリアに視線をやった。

「そこの女子は、大魔王の娘ではないのか? 何故ここに来た」

「私はトリスタン・デュアリス大魔王の次女、セシリアと申します。セス大魔王様にお目にかかり、貴方のご子息を帰還させてもらえるよう、説得に上がりました」

「同じ時空召喚士の者の言葉といえ、そして大魔王の娘の願いとはいえ、受け入れるつもりはない。しかし……条件による」

セシリアは、セス大魔王の威圧感を恐ろしく感じつつも、話し合いに応じてくれそうで安堵した。

「条件とは、何でしょうか」

「その前に問いたい。あの門の存在する意味を、そちらの大魔王から説明を受けたのか?」

セス大魔王は、全員の顔を見た。しかし誰も知っていると言わないので、深くため息をついた。

「知らないとは言え、決まりに従うつもりはあると取る。あの門は、我ら時空召喚士の血を絶やさぬために維持されている門の一つだ。遠い未来、もしくは過去において、数が少ない我らの相応しい結婚相手がいない場合に、人を行き来させて都合を付けるためのものだ」

セス大魔王の言葉を、全員が徐々に理解して、問題にも気付く。

「いま私には、妻がいない。契約通り、お前を妻に迎え入れる」

セシリアは、驚きのあまり立ちすくんだ。その前に、陸がかばって立つ。

「それを受け入れる訳にはいきません。セシリア王女には婚約者がおります」

「なるほど。だがこの世にいる限り、魔界の主人たる私に逆らえるものなどいない。お前が魔王であっても、大魔王の権力に不可侵である法に縛られるしかないぞ」

「それでも、受け入れられません。貴方が命令を取り下げる事を望みます」

「賢い物言いだな。嫌いではないが、これに関しては融通が効かない。魔界に時空召喚士以外の大魔王が座す事になれば、全ての国土を滅ぼす戦いが再開されるのだ。それを理解出来ない訳ではないだろう」

陸は歯を食いしばり、どうすれば良いか必死になり考えようとした。

しかし陸が何も考えつかないうちに、セス大魔王はセシリアを強制的に瞬間移動させて傍に座らせた。

「ただ、一つだけ希望を与えよう。我が息子を大魔王に相応しい男にして我が元に連れて来い。そうすれば彼女は解放する。約束する」

「……分かりました。それを受け入れましょう」

「では、大魔王領の我が城に来い。それまでセシリアは、客人として持てなす」

セス大魔王はセシリアを連れ、瞬間移動して立ち去った。

陸は己の前から女性を連れ去った大魔王に憎悪の念を燃やし、そう感じることを人間の部分で冷静に受け止めた。

自分の中にある夢魔の王としての魂と、折り合いを付けなくてはいけない。
陸はそう思うことで冷静になり、殺気を抑えた。

「陸様」

ウィリアムが名を呼ぶと、陸はより冷静になれた。

「まず、ノアの居場所を……探さねばいけませんね」

「ノア様を引き渡すおつもりですか?」

「大魔王は他の魔王と決闘は出来ません。けれど時空召喚士とならば、大魔王の座をかけて決闘できるのです。ノアを探し出し、訓練を受けさせ、大魔王に勝たせます」

「しかしそれでは……」

ウィリアムは否定したい気持ちが多くあるものの、再び話し合いをするにもノアを探すしかないと考えた。

ウィリアムは、先ほどから陸の殺気に怯えて物陰に隠れる少年を見た。
傍に行き、その頭を撫でた。

「ノア様……先に、ここに来ただろう者達はどこに?」

「北に行き……それから西に向かい、南下して大魔王領に行くと仰っていました」

「ありがとう。良ければこれを食べなさい」

ウィリアムは怯える少年に、念のためと思って持ってきた飴をポケットから出して渡した。

ウィリアムが顔を上げると、もう既に陸の姿はなかった。

麒麟の護り人たちは顔を見合わせ、慌てて後を追いかけた。

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