転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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四章 魔界を駆け抜けて

9 まだ続く夜時間

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1・

部屋に戻ると、陸君が飲みかけのジュースの入ったコップを手にして壁掛けに立っていた。何故か妖気が漂っている。

「陸君、どうしたんだよ」

「己と戦っていました」

寝る前にジュースを全部飲まないようにする葛藤か何かだろうか?

「ところで、何故私にいつもため口なんですか」

陸君に言われてしまった。

「そりゃあ、クラスメイトだったし、友達になったしさ」

「友達になったつもりはありません」

「ええ……?」

まだ駄目かとショックを受けた。

「だから陸君は、僕に敬語なのか。何か寂しい……んだけど、いまため口になられるととても怖い気がする」

「そういう懸念は、口から出さないようにした方がいいですよ?」

怖い。

僕らがそんな話をしている間に、こちらに来ていたルナさんが、隣の部屋に帰ろうとした。それに気付いて、呼び止めた。

「ルナさん、少し話せませんか?」

すると陸君の妖気が増し、既に眠っているレオネルさん以外が僕に注目した。

ルナさんは、緊張した面持ちで振り向いた。

「な、何の話でしょうか」

「良ければ、どうして大魔王に仕える事になったのか、教えていただけませんか?」

興味があるし、仲間のことは知っておきたいし。

ルナさんはそれを、簡単に教えてくれた。

ルナさんは長い歴史の中で混血が増えて多く出現するようになった、固有スキルを持たない無個性の魔人。
とは言え肉体的な強靱さを持ち合わせ、武芸の腕前も人並み以上にあった為に、辺境の兵士時代にスカウトされてセシリア王女の護衛になれた。

下手にスキルを持っていると、血族による派閥に組み込まれる可能性がある。大魔王を取り巻くドロドロしたものの中にいないと分かる無個性は、護衛などで重宝されるそうだ。

ルナさんはそれを教えてくれると、おやすみなさいと挨拶して行ってしまった。
大魔王を取り巻くドロドロしたものの正体を少し知りたい気持ちもあったものの、もう夜遅くなのでまた後で訊こう。

しかしここまで話をしたので、流れでアルフリードさんにも質問した。

アルフリードさんは前にも教えてくれたが、大昔から時空召喚士に仕える影の一族。城で働く父と同じように、彼も生まれた瞬間に仕える事が決定していたそう。

格好いい設定にも思えるものの、実際にその人生を送るのは大変そうだ。
……もしかしたら、彼も僕に対して同じ事を考えているかもしれない。

次に誰に聞こうかなと思って一度陸君を見たものの、にらみ返されたので止めた。

なので、陸君の次に地雷かもしれないウィリアムさんに聞いてみた。

そうしたら、意外と普通の答えをくれた。

普通に優秀な成績でミネットティオルの魔法大学を出て、時空魔法の素質があったので麒麟の護り人になれた。
国に数名しかいない時空魔法の専門家になる為に、麒麟の護り人としてイプシロンノヴァに留学。前世の僕の後輩になった。

知識を保有し管理する者として前線で戦う事はせず、教育科で教官となり後進の指導を行っていた。

「そういえばウィリアムさんは、小型宇宙船の運転免許を持っているんですよね。物凄く憧れます」

「ノア様も、帰還されてから免許を取られてはいかがですか? 訓練に付き合いますよ」

「やった! ぜひお願いします! 早く帰りたいです!」

僕の夢の一つが叶うと喜んだ。しかし何故、ウィリアムさんと陸君は目配せしたんだろうか?

次に、ロレンスさんに質問した。

彼は本当に成績優秀な学者さんで、まずそっちで働いていたら麒麟の護り人にスカウトされた。
しかし実質相談役みたいなもので、僕の護り人になるまでは政府に出向する形で、そのまま役人として働いていたそう。

「しかし、とうとう呼び出されてしまいました。最初は宇宙に出るなんて怖くて仕方ありませんでしたが、けれどいまや別世界からまた別世界に渡って来ました。人はどういう環境でも、やっていけるものですね」

楽しげに笑うロレンスさんを見ていたら、僕も笑顔になれた。
加えてキャプテンシドニーの話をしたくなったものの、ウィリアムさんの無言の威圧を感じたので止した。

カイさんのは僕もみんなも知っているので省くとなった時、陸君だけ知らないと解り、ウィリアムさんが説明した。
なぜか普通に対応する両者を見て、何があったんだろうと気になった。

それで最後にレオネルさんの話となった時、気持ち良く寝ていたのでまた次に……と思ったら、名前を呼んだのがいけなかったのか起こしてしまった。

今日はもう眠らずとも働けますなどとブラックなことを言うレオネルさんに、取りあえず身の上話を聞いた。

彼はミネットティオルの防衛大学卒業後、麒麟の護り人になった。
ほぼ護衛の任務だけ行う護り人で、僕が一日だけいた麒麟の保護施設にしばらくいた。

けれども短命の人間は、長命の麒麟には好かれない。
個人的事情ではなく、エルフより早くすぐ老いて死んでしまう人間を憐れんでしまって、精神的に良くない状況になりやすいからだそう。
それで保護施設を出た後、色々と雑用をこなしつつ麒麟の神殿周辺にいたらしい。

そこに僕がやって来て、拾ってもらったという。
前線に出られて、とても充実しているそうだ。

僕がじかに拾った訳ではないが、お役に立てて良かった。

この話が終わり、もう教えてもらう事はないとなった時、カイさんが挙手して僕に質問してきた。

いちばんややこしい身の上なので、順立てて説明してもらいたいとのこと。

陸君との因縁があるので、僕の始まりの記憶が菅原道彦という高校生なのはトリスタン大魔王に聞いて知っているらしい。

彼らは主に、僕の前世のノアの話を聞きたがった。そういえば僕からは全く教えてなかったので、いくらかかいつまんで説明した。

バティスタ様との関係はどうしようと思ったものの、それを言わないと陸君との因縁までたどり着かない。
しかし全部を言うとややこしくなりそうだから、龍神ノイエだった頃の話を退かして転生の履歴を説明した。

戦闘力のある麒麟の仲間を欲しがったバティスタ様が、時空間で菅原道彦の魂を見付けて、ポドールイ人の王となるノアに転生させた。

ポドールイ人のノアは、バティスタ様とこの世で会った。結果として闇落ちして星を滅ぼそうとしたバティスタ様を、ノアが命を落とすことで浄化して倒した。

次の如月龍馬のこの世で、バティスタ様を闇落ちさせて殺させたくないリュック・スタインウェイが藤堂陸として生まれて、本来なら死んで転生すべき菅原道彦の命を救うことで、全てをリセットしようとした。

でも僕は寸前まで彼に気付かれないように傍にいて、助けるのを阻止して歴史を変えさせなかった。

そうしてノアという存在は消される事なく、結果として魔王となった陸君の力でバティスタ様が生まれ変わり、宇宙文明がより平和になる礎を築いた。

それからは自分の力の封印、カリスマ能力などを巡って魔界の問題に引き込まれ、いまこうして六千年もの過去にいる。

改めておさらいし、僕もそういやそうだったと思い出したところで、ずっと黙って聞いていた陸君が言い放った。

「上手くまとめましたね。龍神だった時のことは、彼らにいつ話すのですか?」

やはりそれを知っていたかと陸君を睨んだものの、彼はさっさと部屋から逃げた。

みんなが僕を凝視するので、おやすみなさいと小声で呟き、ベッドに飛び込んだ。

2・

セス大魔王の居城にて、セシリアは逃走経路を確保しようとしていた。

真夜中の城の窓がどこか開いてないか探し回り、物置に隠し通路はないかと荒らしまくり。しかしどこからも逃げられない。

最終的にお腹が空いたセシリアは、大人しく厨房に向かった。

セシリアは一人廊下を歩きつつ、考える。

六千年前の大魔王の城とはいえ、改築されつつ現代も同じ場所にあるこの場所に愛着を感じる。
セス大魔王も強引に連れ去って来たにしては、逃がさないだけで自由にさせてくれている。
お世話をしてくれる魔人たちも、とても愛想が良い。
誰も、嫌いになれそうにないと。

しかし問題が問題なので、セシリアは逃げ出すべきと決めている。自分を助けに来るだろうノアには、大魔王は優しくしないだろうから。

セシリアは色々と辛く感じつつも、城の一階まで降りた。
辺りに漂う匂いを確認し、勘を頼りに歩いて行く。
そして一つの角を曲がったところで、小さな影と出合い頭に衝突し、バランスを崩してその場に座り込んだ。

「いた~い」

小さな影も倒れてそう言った。

セシリアはそれが、身綺麗な衣装を着た女の子なのに気付いた。

「ごめんなさい。まさかこんな時間に誰かいるとは思わずに」

「だいじょうぶ……です! ちょっと痛いだけです!」

八歳ほどの外見の黒髪の少女は、勢いをつけて立ち上がった。

セシリアは怪我をさせなかったかと心配になり、少女に触れた。
そして、彼女が人間の子供であることに気付いた。

セシリアは、この時代の人間がどのように扱われているか知っていて、咄嗟に抱き寄せた。

「私と一緒にいなさい。そうすれば、危険なことはありません」

「そうなの? いま私、逃げてきたところなの」

セシリアはゾッとし、手を引いて自分の部屋に戻ろうとした。
しかし目の前に突然人影が出現し、立ち止まった。

「姫様。そちらに行かれてはいけません」

「しかしこの子は――」

「ごめんなさい。盗み食いして悪かったです」

セシリアは、自分が姫と呼ばれたのではないと、すぐに気付いた。

影から出現した魔人の女性は、セシリアに一礼した。

「セシリア様も、部屋にお戻りになられて下さい。この時間帯は、大魔王の城といえども危険な事故が発生する恐れがあります」

「あの……この子は、人間の姫様なのですか?」

魔人の女性は、一瞬いいよどんだ。

「フラウ様は、大魔王様の婚約者であられます」

「え……?」

「時空召喚士の方々は、ふさわしい結婚相手がいない場合、他の種族の血を入れない為に、人間を利用する事がございます。そのため、フラウ様はこの城に招かれました」

「そんな、まだこんなに小さいのに」

セシリアはフラウを見下ろし、同情以上の感情を持った。

廊下の向こうから、フラウを捜していたメイドが駆けてきて、セシリアからフラウの手を引き取った。

「水が飲みたいの」

「部屋にお持ちしますよ」

フラウとメイドが仲良く立ち去って行くのを見ても、セシリアの心は晴れない。

「セシリア様」

残った魔人の女性は、改めてセシリアに一礼した。

「私は貴方様の影を仰せつかりました、ルビーと申します。命を賭けても、貴方様をお守りいたします」

「分かりました。よろしくお願いいたします。ルビー、あの子の事を教えて頂けますか?」

「はい。フラウ様は人間の世界より、大魔王様により赤ん坊の頃に連れて来られました。魔人に対する拒否感を生まない為に、この城で育てられています」

「それは……連れて来られる時、どこの門が使用されたか知っていますか?」

「我らは、そこまで知らされません。時空召喚士の知識については、あの方々以外は知りようがないのです」

セシリアは、セス大魔王から聞くしかないと思った。もしくは、他の時空召喚士か……。

セシリアは部屋に戻ろうと一歩踏み出した。その彼女に、ルビーは言った。

「セシリア様、どうか我らの願いを聞き入れて頂けないでしょうか。我らは、仕方ないとしても人間をこの城に住まわせ、あまつさえ王の后とするなど堪えられないのです。どうか、正妃となりあの娘を追放されて下さい」

セシリアは立ち止まり、ルビーを見た。

ルビーの目は魔人に相応しく、闇にありながら冷たく輝いている。

セシリアは胸が苦しくなった。

「協力者を、捜して頂けますか? 私一人では、あの者を城から外に出せません。どなたか、大魔王様に意見の出来る時空召喚士はおりませんか?」

ルビーはその問いに、興奮気味に目を輝かせた。

「お任せ下さい。後に、貴方様のご意見を伝えて参ります」

張り切るルビーは、セシリアの様子がおかしい事にも気付かず、共に歩き始めた。

セシリアはフラウを故郷に戻すため、ここに残ることを考え始めた。
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