転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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四章 魔界を駆け抜けて

十八 取り引き

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1・

クルール様の客間に近づく以前から、彼女の強大な魔力を肌で感じることができた。
きっと、腕輪を外したのだろうと予想した。

そして客間には、僕の予想通りに力を抑える腕輪を外したクルール様がいたのだが、その姿は可憐な少女ではなく魅力的な妙齢の女性に変化していた。

まさか姿まで変わるとは思わず、驚きで挨拶もせず突っ立っていると、クルール様から声をかけてくれた

「妾が魅力的ですまないな。お主の相方も緊張して、あの通りだ」

クルール様の指さす壁ぎわに、照れているのか困っているのか分からない表情をした陸君が、押し黙ったまま立っている。

大丈夫だろうかと、本気で心配になった。

とはいえ今は、あんな呪いをくれたケブラーダン国の魔王ビスタについて、椅子に座りクルール様と話し合うことにした。

「それにしても、時空召喚士のあの技で命を救われるとは、思ってもみなかった。お主が失敗していれば、妾どころか周囲の全てが消されていただろうにな」

「はい……危険な力であるとは、私自身も十分理解しています。それを練習無しで使用してしまい、今でもその恐ろしさに身が震えます。そのような危険にさらしてしまい、心からお詫び申し上げます」

「なにを言う。ああするしか、妾が生き延びる道は無かったのだろう? ならば無礼も、大いに許す。妾はまだ死ねないからな」

クルール様の青い目が、憎しみに燃えている。

「さすがにここまでされれば、妾はあやつを殺すしかない。良きお隣さんではおれん。しかも今回の決闘に乗じて、手下どもも戦わせようとしてきた。妾の国土を蹂躙できると本気で思っているようだが、滑稽で仕方ないな」

「クルール様、我々は決闘や戦争については、表立って助力できません。ここで貴方の命を救うだけで、精一杯です」

「分かっている。大魔王の手の者が、魔王同士の決闘に口出ししては大ごとだ。しかし……一つ頼まれてくれないか」

「何をですか?」

「ビスタは享楽主義の馬鹿野郎だ。前に、面白半分に妾の図書館の蔵書を燃やそうとしたことがあってな。今回も嫌がらせに放火するかもしれん。見張りを頼みたい」

「ですがそれは、実質的に戦争に加担することにはなりませんか?」

「大魔王も情報が好きだろう? それを受け取りに来て巻き込まれ、自衛したとすれば良い。実際……妾は彼の欲しいものを持っている。命を助けてくれた礼もかねて、それを引き渡そうじゃないか。どうだ?」

クルール様の態度には、絶対に引き受けるだろうという確信が見える。

大魔王の部下と勘違いしている我々を動かすのに十分な手だと思っているのなら、セシリア王女を助ける手にもなり得るだろう。

しかし、危険を伴うことには違いない。

僕は自分一人で決断したくなくて、本調子じゃ全然ない陸君に視線をやった。

陸君は先ほどと違って真剣な様子になってくれていて、僕を見て頷いてくれた。

「クルール様、その申し出、請けさせて頂きます。貴方様の決闘の勝利を、遠方から祈っております」

「うむ。では頼んだ」

クルール様と僕は、しっかりと握手した。

そうして無事にクルール様との話し合いを終えた後、僕は陸君だけを僕の部屋に呼んだ。

「今、答えて貰えるかどうか分からないけれど……一緒に帰ってくれるんだろう?」

「帰るとも。アリスリデル様をお一人にはできない」

即答されるとは思わず、少し驚いた。

陸君の目は真剣で、嘘ではないと分かる。でもはっきりと、寂しげでもある。

「あの、陸君――」

「言うな」

陸君は覇気の無い不機嫌そうな表情をして、瞬間移動して消えた。

2・

大魔王の城の廊下で、シェリクは自分の影以外の視線に気付いてほほ笑んだ。

「悪いが、しばらく二人きりにしてもらえるか? 旅の計画を立てるんだ」

シェリクはそう言い、目の前の扉を開いて中に入った。

窓辺にあるソファーに座っているセシリアは驚き、飛びあがるように立ち上がった。

「シェリク……さん」

「ああ、私の名前を聞いたのか。少し問題があり、報告に来た」

「問題とは?」

「君の仲間のことだ」

シェリクは机の前に立つと、手に持っていた魔界全土の地図を広げた。

仲間の問題と聞いて気が動転しそうなセシリアは、それでも冷静になろうと努力しつつ机に飛び付いた。

「彼らは今、大魔王領の比較的近くの国まで到着しているが、その国で明日にも戦争が起こりそうだ。巻き込まれる可能性がある」

シェリクが指差した先にある地図上の国名を読んだセシリアは、そこが己の時代にも残るフロストドラクだと気付いた。

「フロストドラクで戦争ですか?」

「……六千年後にも、フロストドラクはあるのか?」

セシリアはそれを聞いて、シェリクが自分の身の上を確かに知っているのだと理解して動揺した。

「それは……そのう――」

「悪い。聞かなかったことにしてくれ。それにここの魔王は負けない。だから戦争に勝つだろう。残って当然だ」

「けれど、勝つとしても犠牲は出ますよね。ノア様たちが、すぐに立ち去ってくれれば良いのですが」

「彼らは、フロストドラクの魔王クルールが保護している。だからこそ、戦争が終わるまで国を出ないかもしれない。クルールは竜魔人で、竜魔人は一見残酷なようで基本的に情に厚い。その分、友となった者も情を寄せやすい」

セシリアは、ノアが友人を捨てることなどあり得ないと思った。

「ノア様は……友となった方を見捨てないと思います。だけど、人間の同行者もいるのです。どうにか開戦前に、助けられませんか?」

「できるならば、私もそうしたい。君の外出許可を取り付けることが出来れば、それにかこつけてフロストドラクに行くことも可能だが……しかし許可が下りても、君は別の安全な場所でいてもらいたい。私が一人で行ってくる」

「それは駄目です」

セシリアは心からの本音を告げ、咄嗟にシェリクの腕を掴んだ。

「私も参ります。貴方の傍から決して離れません。ですので、同行させて下さいませ」

必死になり告げてから、セシリアは台詞のマズさに気付いて顔を真っ赤にして、手を離した。

シェリクはセシリアの勢いに驚き、その後の反応にも驚いて頬を少しだけ染めた。

「いや、それは駄目だ。危険過ぎる。貴方は私の別荘で待っていてくれ。お願いだから」

シェリクは、セシリアに手を差し出した。

セシリアは戸惑ったが、自分が足手まといになる可能性を考えた。

「分かりました。私は待っています」

「ありがとう」

セシリアがシェリクの手を取ると、シェリクはその手を少し引っ張り軽くキスをした。

セシリアは先ほどよりも照れ、シェリクは後悔しつつ手を離し、踵を返して部屋から出て行った。

シェリクはそのまま、セスのいる部屋まで歩いて行った。

大魔王領の水路整備計画の資料を面白くなさそうに眺めていたセスは、シェリクをじろりと睨んだ。

シェリクは何も気にせず、話しかけた。

「セス、セシリアの外出許可を出してもらいたい。私の別荘に招待したいんだ」

「セシリアは、そんな近場で妥協したか?」

「とりあえず最初に出かけるには、適度な場所だろう」

「……そうは思えないが、まあいい。許可をやろう。ただしその前に、お前は一つ仕事をしろ」

「手早く終わるものなら、受け入れる」

「明日だけで終わるものだ。フロストドラクで騒ぎが起きるはずだから、その混乱に乗じて情報を盗んでこい」

「……良いのか?」

「お前も知っているだろう。クルールが時空から掘り出した我らの先祖の日記は、そう簡単にはこちらへ来ないぞ。それに、間違って燃やされては厄介だから、その前に確保しろ」

「なるほど、救出作業ということか。なら……明日に行ってくる」

「頼んだ」

セスは頼むと、すぐに視線を書類に落とした。

シェリクは一応愛想笑いをしてみせてから、部屋を出た。

誰もいないように見える廊下の複数の気配に、彼らがどれだけ仕事をしているのか考え、少しばかりの恐怖を感じた。
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