転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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四章 魔界を駆け抜けて

二十五 お帰りなさい

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1・

光の中に、木々が風にそよぐ様子が見える。

時空にはない本物の、命溢れる自然の様子が。

僕はフラウを落とさないように速度を落とし、ふわりと飛びあがってサーカスの輪くぐりのように映像の中に入り込んだ。

瞬時に広がる森の音。そして、僕らを信じて待ってくれていたみんなの姿。

懐かしい地面の上で、麒麟から人の姿に戻った。

背中からずり落ちそうになったフラウを腕を回してなんとか助け、地面に立たせた。

それから僕だけで前を向いて立ち、感極まり飛び付いてきたソヨンさんを受け止めて抱きしめた。

「ノア様、お帰りなさい! 私、信じて待ってました! でも、とても不安で、不安で……!」

「ありがとう、ソヨンさん。ソヨンさんが呼んでくれた声、聞こえてたよ。だから、戻って来れたんだ」

本当に、帰って来れた。帰って来れるとは思ってたけれど、今になり帰れなかったらどうなっていたかという不安に襲われた。

こんな僕でも帰って来れたのは、母さんが絶対に諦めず、信じていたから。

僕はそうして、みんなに助けられてばかりだ。だから僕も、一生をかけてみんなを助ける。

それが僕にできる、唯一の恩返しだ。

僕の目からこぼれ出た涙がいくつか結晶化した頃、ウィリアムさんが近づいてきて晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた。

「ノア様、ファルダニア様は私が説得します。だから、そのままソヨンを大事にしてあげて下さい」

僕は驚き、衝動的に片手をウィリアムさんに伸ばして抱き寄せ、ぎゅうと抱きしめ頬にキスした。

「いや、私とは結婚出来ません! ソヨンとキスしなさい!」

「ソヨンさんとは恥ずかしいんです!」

「はい、はい、分かりましたから離して下さい」

みんなに笑われている中で、僕も笑いつつウィリアムさんを離した。

それからソヨンさんに待っててと言い残し、一人で父の前まで歩いて行った。

父がフラウ母さんをお姫様抱っこする姿はすっかり親子なんだけれど、二人の間には確かに大人の愛情があると感じる。

「父さん、頼みがあります」

「何だ」

「ルビーを、許してあげてください。僕も、あの気持ちはよく分かるんです」

ソヨンさんが大事な人になってくれてから、僕の世界は変わった。以前なら違う理解をしただろうに、今はどうしても人の恋心につらく当たれない。

「しかし、お前たちを殺そうとした者だぞ。なぜ許す」

「人の人生なんて、遠くから見ればどれもこれも同じようなものです。彼女は僕自身でもあります。そして僕が彼女だったら、貴方に許されたいからです」

父は、僕の顔を見つめて何も答えてくれない。

しばらくの沈黙ののち、フラウが父の腕を引っ張った。

「パパ、私たちの息子の最初で最後のおねだりよ。聞いてあげましょう」

「……帰るのか?」

僕は笑顔で頷いた。

「ええ、帰ります。幾人かは残りますが」

「そうか。なら仕方がない。一度城に案内するが、その後に送っていく」

「ありがとうございます」

少しお門違いかもしれないけれど、感謝した。
父は表情一つ変えず、僕ら全員を大魔王の城に瞬時移動させた。

2・

決闘は結局、門が開いた事で中断し、今も父が大魔王の座にある。

その父の計らいで、お城で一泊させてもらえる事になったのはいいんだけど。

ソヨンさんと同じ部屋を与えられ、彼女が夜に素敵な下着を身につけて僕と同じベッドに入るものだから、物凄く困った。

そしてそれ以上に、何故か物凄い期待値を込めている視線を部屋の内外から多数感じてしまったので、総合して僕はなにもできずにただ添い寝してもらった。

翌日。

僕らは帰るための身支度を整えると、父に会いに行った。

昨日の夕食の席で、父は母にこっそりと、パパと呼ぶのは止してくれと言っていた。

そしたら母は、自分はリュウマのママだから、パパはパパでしょと真正面から拒否した。

それきり反論しない父を見た全員、魔界で一番の権力者が誰なのか理解した。

そういう理解の上で会えた父には、誰しも本気の笑顔を向ける。

普段無表情の父は、さすがに少しばつが悪そうなものの、きちんと僕と向き合ってくれた。

「色々とあり、お前に苦労をかけはした。しかし、それが間違っていたとは思えない」

「はい」

「時空召喚士として、なんとか戦えるようになった。そして麒麟としても、無能ではないと証明してみせた。ならば、今後はその両者を極めればいい」

「はい。そうします」

「期待している。未来の世を、お前の手で護れ」

「命を賭けて、私は世界を護ります」

僕は魂をかけた誓いとして、返事をした。

それを聞いた父は、ほんの一瞬だけ笑ってくれた。

そうして和解出来た後で、父は僕らがこの過去の魔界にやって来た門のある浜辺に、みんなを瞬間移動させてくれた。

みんなが開くのに苦労する門でも、父にかかればほぼ一瞬で開いた。

僕らは見送りの人々に手を振り、帰るために門に向けて歩いて行った。

でもまだ答えを聞いていないので、陸君の前で立ち止まった。

「どうするんだよ」

「早く行ってくれ。どうせまた会える」

「……ああ。じゃあ、またな」

手を出すと、陸君は少し愉快そうな顔をして、その手を打ち払った。

いつ仲良くなれるだろうと思いながら、僕も門に向かった。

門と浜辺の岩場の境目にソヨンさんが待ってくれていて、僕の手を取り握りしめてくれた。

振り向き、もう一度みんなに手を振った。

残ることになるセシリア王女は、シェリクさんの腕を取りつつ手を振り返してくれ、母は飛び跳ねながら両手を振ってくれた。

ルナさんも、笑顔で手を振ってくれる。

父は相変わらずで、陸君も僕を冷静に見つめている。

「それじゃあ、また会いましょう」

僕はそう言い残し、ソヨンさんと一緒に門に入った。

時空世界特有の、宇宙のような暗闇の世界をほんの数歩進んだだけで、光溢れる緑の中に到着した。

先に門を通過していた僕の麒麟の護り人とアルフリードさんだけじゃなく、日本人と思えるスーツ姿の人々と、見紛うことのないミネットティオルの軍服を着た人たち、それに知らない麒麟の護り人たちもいた。

思った以上の人数から大歓迎を受け、何がどうなっているのか分からないで混乱してしまった。

そうしたら大勢の人々の中から一人、僕が前に着ていたのと似ている麒麟の衣装を身につけたエルフ族らしい金髪の青年が前に出てきて、にっこり笑いかけてくれた。

「貴方は、私と同じ麒麟ですか?」

「はい。今までお目にかかるチャンスがなくて、ここでようやく捕まえられました。貴方の先輩に当たる、ミネットティオルの外交担当の麒麟です。これから、末永くよろしくお願いします」

彼は、すっと手を差しだしてきた。

僕はソヨンさんの手を離し、彼の手を握り締めた。

「ところで……お名前を伺っても構いませんか」

「ええ、この度もリュックという名前を頂きました」

「とすると、実験は成功したんだ?」

「六千年も何もせず暮らすのは、苦痛でしかありませんからね。せめて貴方にひと泡吹かせてやろうと、画策してみたんです」

「いやあの……ここって感動の再会の場面じゃ?」

「貴方がそのタメ口を止せば、感動してみせますよ?」

「陸君……いやリュック君! なんで友達になれないんだよ!」

「好かれているとでも思いましたか?」

握手している手が物凄く痛いんだけども、こんなに早く再会できた嬉しさがこみ上げてきて、泣きながら抱きつこうとした。

けれど突き飛ばされて張り倒され、起き上がっている間に逃げられた。

僕は事情を知っている仲間と共に、大爆笑した。
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