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10>>目が覚める
「や、やっぱり、国外追放じゃ甘かったんだわ……」
人差し指の爪を噛みながら呟いたフリーネの言葉にその場にいた全員が訝しむ。
「こ、国外なんかに出したから駄目だったんですわ! ちゃんと罪を償わせないと!! こ、国王様!! お義姉様を探しましょ?! 探して見つけて、ちゃんと処罰しないと!!」
フリーネが言い出した言葉に国王だけではなくその場にいた全員が困惑する。
「処罰……? 処罰とは“国外追放”だったんだろう?」
「生きて終わる罰を与えたのが甘かったのです!! 義姉は悪女です! 生きてる間はこちらに危害が来るのです! 処刑しないと! 首を刎ねて殺さないと!! ギル様! 国王様!! 悪女に罰を!! お義姉様の首を刎ねるのです!!」
「……我が身可愛さにそこまで考えるか……」
口元にうっすらと笑みを浮かべながらそんな事を言うフリーネに国王は顔をしかめて嫌悪を示した。
既に処罰した者を探し出して更に重い刑で罰しようなどと、まともな考えではない。
静かに話を聞いていたギルベルトたちも初めて見るフリーネの姿に青褪め慄いた。
これが自分たちが守っていた少女なのか?
こんな女の為に……
ギルベルトとその側近たちは自分たちが信じていたものが偽りであったと悟り、しでかした事の重さに絶望した。
「………私の罪です」
ポツリと溢れるように公爵が言った。
「……こんな者を……こんな者たちを公爵家に入れ……野放しにしてしまった私の過ちです……私が……愛人など……セリーなどと親しくしなければ全ては起こらなかった……」
「……そうだな……妻以外の女と懇意になったのはお前の落ち度だ。
だが今更それを言って何になる?起こってしまった事は何も変わらない……」
「…………失礼を。馬鹿な事を申しました」
「……謝るのであれば、亡くなったリネットの母に向けて謝罪しろ」
「そう………ですね………」
項垂れて、威厳などなくなってしまった公爵を横目に見た国王は、一度その目を閉じると、しっかり前を見てその目を開き、王座から立ち上がった。
「フリーネを地下牢に。
その母セリーと共に魅了薬の入手経路や毒の事を全て吐かせろ。
ギルベルトは自室での謹慎を」
「国王陛下」
悲鳴を上げるフリーネに構うことなくギルベルトは跪き頭を下げたままで父を呼んだ。
その臣下としての呼び方に国王は悲しい気持ちになった。
「……なんだ」
「私は北の塔へ行きます」
ギルベルトがきっぱりと言い切った言葉に国王は眉間にシワを寄せた。
北の塔は王族の中でも人殺しなどの罪を犯した者が入る場所だった。当然、塔の中の部屋は王族が入るような場所では無い。ギルベルトもそんな事など当然知っている。知っていて行くと言うのだ。
ギルベルトは既にリネットが亡くなっていると思っているのかもしれない。死んでいなくても公爵令嬢としての生き方しか知らないリネットがまともに生きていられるとは国王も思ってはいなかった。ギルベルトが望む事も分かる気がした……。
「……わかった。
ギルベルトを北の塔に。
他の者は家での謹慎を言い渡す。
魅了薬で操られていたとしてもお前たちのしでかした事は子供の過ちとして処理できる事では無い。
沙汰が下るまで己がしでかした事の重大さを考え続けよ」
「嫌よ! おかしいわよ!! わたくしは何もしてないわ!! 全部お義姉様が悪いのよ!! みんなはわたくしが好きだっただけよ!!みんなに嫌われてるお義姉様が悪いのよ!! わたくしは公爵令嬢なのよ! 第一王子であるギルベルト様の婚約者に相応しいのはわたくしだわ!! お義姉様なんかわたくしの踏み台でしかないのよ!! 愛されてるわたくしに醜く嫉妬したお義姉様が全部しでかした事なんだから!! わたくしは悪くないわ!! 魅了薬だってお義姉様が使ったのよ!! わたくしは被害者よ!! なんでこんな酷い事するのよ!! 助けて!! 助けてよギルベルト!! ねぇ! マムリム! クリオン! ゼゼオ! わたくしを守るって言ってたじゃない!! 守ってよ! 助けてよ!! わたくしを愛してるんでしょ!!! 助けてよみんなぁ!!!!」
騎士に両腕を取られ、どれだけもがいても逃げられないフリーネが泣き叫びながら連れられていく。
その姿をギルベルトも マムリムもクリオンもゼゼオも無感情な瞳で見送っていた。
あんなに四六時中頭から離れなかったフリーネの事が、いっときも離れたくなくて全てが自分の物になればいいのにと願ったフリーネの事が、フリーネを虐げるリネットなど野盗に嬲られ殺されてしまえばいいと思わせていたフリーネの事が、今は全く真っ白な紙の様に、何も、何も、何も彼女に対して思う事が無いどうでもいい存在となっていた……。
何一つ心を動かさない、むしろ嫌悪を感じるその言動に、ギルベルトたちの心は更に更に絶望へと落ちていく。
魅了薬のせいだと、フリーネのせいだと思えたら良かったのに。ギルベルトたちの心はそこまで落ちぶれてはいなかった。
一人の令嬢を死に追いやった。もしかしたら死ぬよりも辛い目に遭っているかもしれない……そんな目に自分たちが遭わせたのだ……。
その罪の重さにギルベルトたちの心は既に押しつぶされそうだった。
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