─ 短編ホラ ー[2作品]

ラララキヲ

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1― 水魔法使いを使い潰した結果

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<異世界×魔法×仕事×ざまぁ×男主人公×水> 
       
       
      
      
   
   
 彼はこの領地に一人だけ雇われた水魔法使いだった。

 この世界には魔法があった。だがそれを扱える者には生まれ持った資質が必要で、全ての者が魔法使いになれる訳ではなかった。魔法使いは幼少期に魔力があると判定された者だけがなれる仕事だった。どれだけ魔力が低くとも、『魔力有り』と判断された時点で魔法使いとしての将来が約束される世界だった。
 そんな世界で彼は水に特化した魔法使いだった。

 彼の仕事は領地に必要な水を供給することだった。
 雨を降らせ、井戸を水で満たし、川を管理し、領主の邸の水瓶の水を毎日新鮮な水に取り換え、その邸の噴水を美しい水の踊りで彩る。彼の仕事は朝日が昇る前から領主が眠るまで途切れることなく魔力を使い続けるものだった。
 彼はとても疲れていた。
 それなのに周りの者はそれに気付かない。魔力を持たない者たちは魔力を使うとどう疲れるのかが理解できないからだ。その水魔法使いの1日はただ歩いては立ち止まり、杖を光らせてはまたどこかへ行くの繰り返しだった。傍目に見ている者からするとそんなことをしているだけでどうやって疲れるんだと思うような仕事振りだった。
 実際他の魔法使いは疲れてはいなかった。緑の魔法使いと火の魔法使いがこの領地に一人ずつ居たが、仕事は限られていて基本休んでいるか本を読んでいた。水の魔法使いだけが毎日の仕事に追われていた。噴水がなければまだ休む間もあったのだが、領主はそれを良しとしなかった。領主は水を出すだけのことで疲れたという怠け者でしつの悪いこの魔法使いを嫌っていた。本当ならもっと優秀な水魔法使いが欲しかったのだが、魔法使いギルドに言っても良い返事が貰えずに渋々この水魔法使いを雇っていた。
 水の魔法使いの男はやつれていた。休息や睡眠が全く足りていなかった。魔力は体を休めれば回復する。だから彼も休めば元気になるのだがその時間はなく、また願っても却下されていた。領民は水魔法で作られる綺麗で清潔な水に慣れ、それを求めた。与えられることが当たり前になり、彼に感謝の言葉を言うこともなくなっていた。水を出して当たり前であり、それをするのが男の仕事なのだからサボるなとすら思っていた。誰からも感謝されることなく、道具のように扱われていたとしても、男はそれが自分の仕事なのだと反論もせずに働いていた。

 ある時、領地がある大陸自体が乾燥した。自然に降る雨が降らず、男の仕事が増えた。雨を降らせれば井戸は自然と回復するが、大気そのものが乾燥してしまっていて大地から常に水分を奪っていった。男が雨を降らせても数日もすれば大地は乾いた。他の場所でも水魔法使いが雨を降らせていたのだが自然そのものには太刀打ちができない。森や大地は領地の端から徐々に徐々に枯れていった。広大な領地を一人の人間の力だけで守るのには無理がある。そんな当然なことに領主は気付かない。領民などにはそれが更に分からない。ただ水魔法使いの男が責められた。
 男は頑張った。寝る間も惜しんで水を出した。
 そして男の魔力は底をつく。気絶するように眠る男を蹴り起こして領主が怒る。男は無理やり絞り出した魔力で雨を降らせた。しかしそんな魔力では微々たる雨しか降らない。領主は怒り、男を更に責めた。
 雨を。
 水を。
 雨を。
 水を
 雨を水を雨を水を雨を水を雨を水を雨を水を雨を水を雨を水を

 プチリ

 男の中で何かが切れた。
 ふらりと立ち上がった男は領主を見た。

「あぁ……、なんだ……
 るじゃないか…………」

 男は領主を見てそう言った。

「? ……何を言っている。いいからさっさと雨を降らせろ!!」

 そう叫んだ領主に向かって男は杖を向けた。

「!?」

 その瞬間、領主の胃の中から何かが迫り上がり、大きく開けた口の中が大量の水で満たされた。理由が分からず一瞬にして息を奪われた領主は慌てる。
 しかし目の前の男は少しだけ穏やかな顔をして言った。

「すみません領主様。魔力が尽きてしまって魔力から水を作ることができなくなりました。
 ですがご安心下さい。
 水を作れないなら、使えば良いのですよね。
 安心して下さい。
 俺、頑張りますから」

 そう言って男は杖の先を光らせた。

「!?! ……っ、?!?!」

 ゴフッ、と領主の口から黄色い水が溢れる。パニックを起こした領主だったが両手で喉や口元を掻きむしることしかできることはなく、苦しさと痛みから自然と溢れ出る涙が視界を覆ってもそれを振り払うこともできなかった。

 ──苦しいっ!?!?! 助けっ……!?!!──

 涙の下から男を見るが、目の前で杖を掲げる男は今まで見せたことがないような穏やかな表情をしていた。

「領主様。
 領主様のご指示通りに、ちゃんと水でこの土地を満たしてみせますよ」

 そう言って力強く頷いて見せた男は、意思の宿った瞳を輝かせて領主に笑ってみせた。それはとても頼もしく見えた。領主自身の口内を水で満たしていなければとても頼りがいのある男だと思えただろう。
 だがもうそんなことを思う余裕は領主にはなかった。

「ごぼっ……!……がっ……っつ!!?!?」

 領主が白目を剥いた瞬間、男は更に杖を光らせた。

「さぁ………、水をっ!!」

「!?!??!」

 何かに引っ張られるように。
 内臓から引き下ろされるように。
 急激に何かが引きずり降ろされるような感覚が体を襲い、その次に言葉にもできない程の激痛が領主を襲った。

「!?!」

 が、とも、げ、とも分からない言葉が領主の口から漏れ、領主の口内に溢れていた水は意思を持ったかのように下に落ちた。
 流れ落ちながら水は量を増し、その逆に領主の体はしおれるようにシワだらけになった。
 年齢に似合わず若々しかった領主の肉体は突然老化が始まったかのようにしぼみ、下に流れ落ちた水が地面に消える時には領主は枯れ枝のように全身カサカサになっていた。

「……っ、な、ぁ……、なニ、がぁ………」

 領主には自分が見えない。落ちくぼんだ目はまだ見えていた。動かせなくなった体が分からず見下ろすと、視界に骨にしか見えない腕が見えた。なんだこれは? そう思い目の前の男を見ると、水魔法使いの男は少しだけ不満げに眉を下げていた。

「……すみません領主様。
 俺もっと頑張りますから……」

 何を……?
 それを問いただす力は領主にはもう残ってはいなかった。領主の意識はそこで途切れ、体は地面に倒れた。

 そして次に水魔法使いの男も倒れた。
 体力の限界だった。
 男は睡魔に導かれ、領主は死んだ。








☆ ☆ ☆








「……ぉぃ、…………ぉい! 起きろ!!!」

 怒鳴り声と自分の体を揺さぶる手に男は起こされた。

「何があった!? お前が領主様を殺したのか!?!」

 領地の騎士が騒いでいる。
 見渡すと領主の家の使用人たちや領民が周りにいた。男の前に倒れていた領主を囲み、大騒ぎになっていた。
 まだ少しだけ寝ぼけていた男は思う。
 あぁもう少しだけ寝たかった。……だけど、少し寝たから楽になったぞ。
 男はやる気に満ちていた。

「よっし! 仕事だ!!」

 そう言って飛び起きた男は杖を掲げて光らせた。

「おい?! 何をっ…………っ!?!!」

 男の側にいた騎士が驚いて声を出したその口の中に水が溢れる。側にいた人々も驚愕に目を見開いたがその瞬間に込み上げる吐き気に口を押さえた。しかし喉の奥から溢れ出た水は口の中を満たし口をこじ開ける。開いた口からは水の玉が広がって鼻を塞いだ。
 慌てもがく人々を見渡して男は告げる。

「領主様の命令です。
 皆さん、領地の為に頑張りましょうね!」

 そう言うと男は魔法で人々を包んだ。

 「「「「「?!??!」」」」」

  何が起こっているのか分からない。
 ただただ苦しくてつらい。
 呼吸ができない。息が苦しい。体が痛い。体が苦しい。体が痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。

 何がが急激にしぼられ、全身をつねられたように痛み、細かな刃物で切り刻まれるような感覚が全身を襲う。
 視界が赤に染められた。
 それが自分の血だと気付いた次の瞬間、何かが吸い取られる音と共に、意識が終わる。
 その場に居た全員が同じ感覚と共にしぼんだ果実のようになった。

 男は皆から集めた水を地面に吸わせて一息ついた。
 そしてポツリと感想をこぼす。

「汚い水になっちゃったな……
 綺麗にしないと領主様に悪いや……」

 そう言ってまた地面に横たわって寝た。








☆ ☆ ☆








 男は起きた。
 久しぶりに寝れるだけ寝た。
 地面に直接寝ていたので寝心地などは最悪で満足のいく眠りではなかったが、自分が寝たいだけ眠れたのは数年ぶりだったので、最高に頭が冴えた目覚めだった。

「あ~っ!!! よく寝た!!!」

 空には美しい星が輝いていた。
 空気が乾燥していて星がよく見えた。男はそんな夜空を綺麗だなと思うと同時にちゃんとしなきゃと思った。

 空気が乾燥しているのは良くない。

 男は仕事をしなきゃと杖を握り立ち上がった。

 そこから男は頑張った。

 人を見つけては領主様の望みですと水分を貰った。人の体は水で満たされている。男は有るところから水を集めた。
 せっせとせっせと水を集める。
 たくさん寝たので魔力は十分だった。
 領地を巡って水を集めて一旦大地の中に貯める。お仕事ですよと見つけた先から領民から水を貰った。
 同じ魔法使いたちからも水を貰う。火魔法使いの男が一瞬杖を構えたが、頭の中から水分を奪えば直ぐに動きを止めて黙った。
 これが俺のお仕事ですので。
 そう言って男は水を集めた。
 彼の後には干からびた人体が転がっていった。カサカサの肉は鳥も動物も食べない。虫も湧かず腐らないので臭いもない。大量のミイラが領地を満たし、男の集めた水も満足いくものになった。

「さすがにもう無いかな?」

 男は領地の隅から隅まで移動して水を集めた。老人から子供まで、男も女も関係なく。この領地に住む者の義務として、全ての領民から水を貰った。領地外から来ていた商人なども居た気がしたが、まぁ仕方がないなと男は有り難く協力してもらった。

 集めた水を預けていた大地から取り出し、一度一つの束にした。血などで汚れていた水は一度大地に預けたことにより濾過ろかされ綺麗になっていた。

「水よ。さぁ、空気を満たして大地に帰れ」

 男は杖を空に掲げて魔力を解放した。

 水の玉は空へと打ち上がり、上空で霧散した。杖の先が光り輝き、カラカラに乾いていた大気に水が行き渡る。
 男がグルグルと杖を回すと空に上がった水分も動き回って雲を作った。
 白から黒へ、空が透けるほどの薄さから厚く厚く。
 大空を覆い尽くす雨雲を見上げて男は笑う。

「領主様ーー!! 俺はやりましたよ!!!!!」

 わーい! とはしゃぐ男の頭に雨が降る。
 土砂降りの雨は大地に降り注いでカラカラのミイラの乾いた体を潤した。

「……………?」

 領主は目を覚ました。
 手をついて起き上がり、空を見上げた。

「な……にが……起きた……?」

 領主の周りにも人が居た。皆、理由が分からないという顔をしている。

「……領主様」

 戸惑いを隠せずに騎士が領主を見ていた。領主も何がなんだか分からずに返事もできない。

 水魔法使いの男と話していたような気がするが……、領主は倒れる前のことが思い出せなかった。

 他の者も同じだった。皆、何故ここにいるのかも分かっては居なかった。
 だが望んだ雨が降っている。
 領民はそのことにただただ喜んだ。
 体が水で満たされている。
 不思議な感じだった。








☆ ☆ ☆








「領主様、俺、少しお休みをもらいますね。
 睡眠がどれだけ大切かしみじみ自覚しましたよ」

 そう言って苦笑する水魔法使いに領主は「ゆっくり休め」と返した。前ならありえないことだった。だが何故かそう言わねばならないと思った。目の前の男に逆らってはいけない。認めなければいけない、と。
 領主はあの日からずっと不思議な感覚だった。ユラユラと揺らめいて何かが自分を満たしている。

「そういえば他の魔法使いたちはどうした?」

 あの日から見ていない二人の魔法使いのことを不意に思い出して聞いてみる。すると水魔法使いは少しだけ困ったような顔して笑った。

「やっぱ何か違ったんでしょうね。魔力の反発かなぁ? 元に戻らなかったみたいで砂と共に還ったみたいですよ」

 大地に。
 水魔法使いの言葉がよく分からずに領主は首を傾げるが問い直しはしなかった。
 帰った? 辞めたのか? 聞いていないが……、まぁ仕方がないか。
 領主はあの日からどこか水の膜が張ったような思考に戸惑いながらもそう思う。まぁ、困ったことができたらまた魔法使いギルドに行けばいいかと考え、領主は自分の仕事に戻った。
 水魔法使いはその背中を見送って欠伸をする。

 寝てまた魔力を回復しなければ。

 これからも仕事は続くのだから。











 ……数年後、妙な噂が国に広がった。

「あの領地の人間は何か変だ」
「年寄りに皺が無く、ツヤツヤしていて気持ちが悪い」

 それは最初は平民たちの笑い話や雑談の種でしかなかったが、王宮勤めの役人がその領地に行ったことにより話は大きく動いた。
 
「領主がおかしい」

 領地から出なくなった領主を心配して王宮から更に人が向かわされた。気難しさで有名だった領主はとても柔軟な思考の男に変わっていた。それだけなら不審ではあるが誰もおかしいと指摘しなかっただろう。だが派遣された者たちの中に居た魔法使いが異変に気付いた。

「魔力を持たない者たちに他者の魔力がまとわりついている!?」

 魔力を辿たどって直ぐに魔法使いは水魔法使いの元へと向かった。
 問われた男は目をパチクリとまたたいて爽やかに笑った。

「この土地を水で満たすのが俺の仕事ですので」

 魔法使いは更に問う。

「ここに居た、他の魔法使いはどこだ!?」

 その言葉に、男は困ったように笑い、頬を掻いた。

「俺も頑張ったんですよ?」

「彼らをどこにやった!?」

「頑張ったけどできないこともあるんです」

「こちらの話を聞け?! 彼らはどこだ?! お前は何をした?!」

 その問いに水魔法使いの男は小さく溜め息を吐いて苦笑した。

「ただ仕事を頑張ってるだけなのになぁ……」

 悲しげに笑った男は次の瞬間水になってパシャンと軽い音を残して地面に染み込んで消えた。

「?!?!!」

 話していた魔法使いや側に居た全員が驚愕する。しかしそれだけでは終わらなかった。
 領民たちの体から突然白い煙が上がったと思ったらその人たちの体が砂のように崩れ落ち、服を残して粉になった。領主もその使用人たちも領民も、全員が塵になった。人々から吹き上がった白い湯気のようなものはそのまま空へと消えていき、そして少し経った領地にはシトシトと雨が降った。

「な、にが……起こったんだ…………?」

 外から来ていた魔法使いが無意識に呟いていた。

 同時刻、王都の魔法使いギルドに歳の若い男がギルド登録に来ていた。
 その若者は元気に皆に挨拶する。

「頑張って、皆さんの役に立つように、お仕事します!
 宜しくお願いします!!」

 水に特化したその男は、新しい仕事が楽しみで希望に満ちていた。








【完】












────────
水魔法は人体へダイレクトアタックしてなんぼだと思います(^O^)
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