【番外編更新中】生まれた時から「お前が悪い」と家族から虐待されていた少女は聖女でした。【強火ざまぁ】

ラララキヲ

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 演壇えんだん上でうずくまって謝罪し続けるエーに聖女たちが駆け寄りその小さな体を全員で抱きしめた。エーが少しだけ不思議そうな顔をする。
 いつもなら後はカリーナに蹴られるかサマンサやシャルルに頭を踏み付けられて終わるのだが、今日はそうではなかった。だからエーは不思議がった。
 そんなエーを聖女たちが泣きながら抱き締める。口々に「もういいのよ」「もう大丈夫よ」「頑張ったわね」とエーに声を掛けていたが、エーにはそれの意味は1つも分からなかった。

 そんなエーや聖女たちの横に立ったアシュフォードが心底冷え切った視線をビャクロー侯爵家の面々に向ける。

「ビャクロー家の方々には話を聞かなければならないだろうな。
 丁重に王城までお連れするように」

 その一言で騎士たちや王家の使用人たちが動き出す。
 ランドルやカリーナやシャルルとサマンサの側には有無を言わせぬ気迫を背負った騎士たちが立ち、自分たちに同行するように迫ってきた。

「は、話など……」

 ランドルは焦るが、この人目がたくさんある状況で王太子から『話が聞きたい』と言われたことに対して抵抗するのは逆に自分の立ち場を悪くするだろうことが容易に想像でき、反論らしい反論すらできなかった。
 カリーナは演壇えんだん上で聖女たちに囲まれているエーに殺したいほどの憎しみを感じていたが、それを顔に出せば自分が不利になることが分かっていたので奥歯に血が滲むほどに噛み締めて、表情には『純粋に娘と引き離されて、疑われていることに心痛めているヒ弱な母親』に思われると思う顔を作って涙を流していた。

「あぁ……なにかの間違いです……こんな……こんな…………
 あぁ……エー……
 エー……弱い母を許してね、エー……
 今、貴女を抱き締めて上げられない、駄目な母を許して………」

 ハラハラと涙を流しながらそう呟くカリーナを周りの者はただただ訝しんだ目で見ていた。しかし一部の者は心を痛める。今までの一連の流れを見聞きしていた筈なのに『か弱い女性が泣いている』という事だけで『可哀想だ』と感じてカリーナを不憫に思った。
 そしてそんな人々の視線を目敏く感じ取ったカリーナは、自分の保身の為だけに涙を流す。今のカリーナは『王太子の権力で娘から無理矢理引き離された可哀想な母親』だった。
 側に居た騎士たちはこういう女性に騙されないように日々精進に励もうと、冷めた目でカリーナを見下ろしていた。

 騎士たちに囲まれた理由が分からないシャルルとサマンサは自分たちの周りに増えた王家の紋章入りの甲冑を着けた騎士たちに怯えて身を寄せ合っていた。

「何? 何なの……っ?」

 サマンサは周りからの視線にただただ混乱する。
 そんなサマンサと強く手を握り合いながらシャルルはそれでも気丈に周りに自分の言い分を主張した。

「あ、あれはあの子が勝手に言っているだけですわ?! わたくしたちには関係ありません?!? わたくしたちが言わせたことではありませんわ!?! そんな目で見ないで下さいませ!?!
 あの子が勝手に言っていることです! 騙されないで下さいまし!!!」

 必死にそんなことを言うシャルルに向けられる視線は冷たい。それに気付いてシャルルは息を呑む。体の奥底から押し寄せる震えにシャルルはただただ早く家に帰りたいと願った。

 ビャクロー侯爵家の関係者は使用人含め全員が王家の関係者によって同行を求められた。
 一人で大人しく席に座って父を待っていたオルドランは保護される形となった。オルドランが侯爵家の邸に戻されると同時にビャクロー侯爵邸は王家の騎士隊により出入りを禁止されることになる。

 突然の事態に聖堂内は騒然となった。
 演壇えんだん近くに居た者たちや話が聞こえていた者たちは事態を把握出来ていたが聖堂内にいる殆どの人が理由の分からない状態だった。
 そんな中でアシュフォードが演壇えんだんの前に立つ。それと代わるようにエーは数人の聖女に手を引かれてその場所を離れていた。エーは未だに何も分からずに不思議そうな表情をしていたが、ただ言われるままに聖女たちに付いて行った。
 アシュフォードと3人の聖女が演壇えんだんの上に残った。
 そしてアシュフォードが口を開く。

「皆、騒がせてすまない。私もこんなことが起こるとは想定もしていなかった。
 だが何も心配することはない。新たな聖女はまだ幼く、今後どんな成長を遂げるか誰にも分からない。彼女が健やかに大人になることを皆も祈って上げて欲しい。きっとそれは彼女のちからとなろう。
 さぁ、少し悪くなった空気は聖女が癒す。皆は盛大に新しい聖女の誕生を祝ってあげてくれ!」

 アシュフォードが両手を広げてそう言うと3人の聖女たちが微笑んで祈りの姿勢を取った。そうすると彼女たちの体を中心に浄化の光が柔らかく広がっていく。それに合わせて止まっていた音楽隊の音楽が祝いの曲をリズミカルに奏で出した。
 そしてそれを受けて王太子妃や第二王子や王女が座っていた席から立ち上がって拍手を打ち始める。王族たちが全員柔らかく微笑んで皆を見ている姿を見て、聖堂内に居た人々からも徐々に不安な気持ちが引いていく。

 ──これ以上恥をかきたくないなら静かに同行せよ──と、言われたビャクロー侯爵家の面々は弁解も訴えも助けも何も言えないままに静かに騎士たちに囲まれて聖堂内から連れ出されていた。
 貴族の大人たちはビャクロー侯爵家の終わりを悟ったが、今日この場に一緒に来ていた子どもたちから嫌な気持ちを消し去る為に直ぐに気持ちを切り替えて周りに笑顔を向けて笑い合った。

 聖堂内に漂っていた不穏な気配が無くなり、楽しげな音楽と聖女の癒しのちからが届いた聖堂の周りでは、活気が戻り新しい聖女の誕生に盛大な祭りが始まった。


 楽しげな音と人々の歓声を遠くに聞きながら、エーは自分の手を握ってくれる“温かな”手のぬくもりと、背中に添えられている“温かな”手のぬくもりを感じていた。エーはそのよくわからない感じを不思議がりながらも拒絶する気持ちは少しも感じてはいなかった。
 不思議なことばかりが起こる。
 それだけがエーの感情にあった。

 ……今この時より二度と家族あの人たちとは会わなくなるなんてエーには知る由もなかった。
     
      
     
     
         
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