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しおりを挟む「そんな……、そんなっ……っ!
そんなことがあるか……っ?!
死後に奴隷になるなどっ!?」
悲痛な声を上げて頭を抱える父が縋るものを求めるようにわたくしを見ました。
「っ!? あ、……エカ……、エ……、あ…………、ベアトリーチェ……
ベアトリーチェっ!! 助けてくれっ!! 父を! お前のお父様を助けてくれっ!?!」
床を四つん這いで近付いて来た父に恐怖を覚えました。後ずさるわたくしのドレスの裾を掴んだ父が絶望に染まった顔で見上げてきます。
「お前の為にっ、お前の為を思って命を捧げたが、死後に奴隷になるなど聞いていないっ?! そ、そんな死ぬよりも恐ろしいことは受け入れられないっ!! お、お前の所為だろう?! お前が我が儘を言うから悪魔になど願わなければいけなかったのだ!?! お前の願いなのだから、お前が命を差し出すべきじゃないのか!?!」
そんなことを喚く父に悪魔がしゃがみこんで顔を近付けました。
「ダメだよ、お父さま。
僕は彼女から『父と母の魂を差し出す』と言われて仕事をしたんだ。そしてそれをあなた達も喜んで賛同した。それを後から変更することはできませ~ん。それは契約違反となります。
契約違反の場合、寿命を待たずに今すぐその命を貰うことになるけど、いいのかな?」
「ヒッ……!?」
しゃがんで父の顔を覗き込んでいる悪魔の表情はわたくしには見えません。ですが父の表情が恐怖に染まったことから怖い顔をしているのだろうと想像できました。
わたくしは自然と震えだした両手を胸元で握り締めて二人を見ます。
父は恐怖から傍目にも分かるほどに体をガタガタと震えさせていました。
「あ、あ……そんな……、
私はそんなつもりじゃ…………っ」
大粒の涙を流して泣き出した父が生気の無くなった目で天井を見上げて、ただ譫言のように聞き取れない言葉を呟き出しました。
わたくしはそんな父から数歩離れ、父から目を逸らしました。
エカテリーナの命をなんとも思わなかった両親に今更向ける情などありません。自業自得だとすら思います。
ですが、『心が壊れてしまった人』を見て笑うほどの心の強さをわたくしは持ってはいませんでした。
怖くて震える体を自然と自分自身で抱きしめました。
そんなわたくしに、立ち上がった悪魔が優しい笑みを向けてきます。
「安心するといい。
君は僕の『仕事の結果』だ。今後誰かが悪魔の契約に君の命を使おうとしてもできやしない。さっき言ったように君は本来の寿命、“エカテリーナだった時の寿命”まで生きることになる。魂そのものが奪われたのだからね。
フフ、面白い願い事だったよ。曖昧で大雑把で、何も考えていない願い事は叶えやすくて助かる。それに魂を2つもくれたしね。
君は……まぁ、今までと変わらない生活が待ってるだけだから、何も気にすることはないね。
ご両親には精々人生を楽しんで貰ってくれ。生前の人生が有意義であればあるほど、死後奴隷に落とされた時の絶望が色濃く鮮やかに育つから。
僕は『長く使える奴隷』よりも『短くとも有用な奴隷』の方が好きなんだ。
君の両親は後者だね。
死ぬのを楽しみにしているよ」
そう言ってニッコリ笑った悪魔は、「じゃあね」と手を振って消えました。
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