34 / 34
◇ ◇ ◇
コザックの第二の人生・激変
-
コザックは使いどころがなく貯め込む形になっていた資産を使って新しい商売を始め、それを軌道に乗せた。領地改革も上手くいき、小さいながらもケノゼイ男爵領は貧乏領地から早々に脱却した。
コザックは元来優秀なのだ。
それから2年。
のんびりとした環境で、周りの大人たちに愛され保護される事を知ったトイセルは元来の性格を取り戻して腕白な少年へと成長していた。実父から無理矢理食べさせられていた食事がなくなり、メルの作る素朴ながらも栄養面が考えられた食事のお陰でその体は直ぐに標準体重に戻った。
キャロルはまだコザックに自分から意見を言う事はないが、それでもコザックから聞かれればちゃんと答え、自分の意見を言える様になった。子供の頃から実は密かにやりたかったというお菓子作りの楽しさを覚え、クッキーなどを作って売ったりしてどんどん外の世界に目を向けている。
コザックは忙しくはあるが、とても充実した毎日を送っていた。
そんなある日。
突然、父であるアイザックが胸元に何かを抱えてやって来た。
「喜べコザック、キャロル。
お前たちの新しい子供だ!」
「は?」
笑顔で父から差し出された赤ん坊にコザックは本当に意味が分からずにそれしか反応出来なかった。
動きの止まってしまった息子を諦めて赤ん坊をキャロルに抱かせたアイザックがニコニコ顔で話し出す。
「見た通り、訳有りでな。
血筋は良いが両親には育てられん。かと言って母親父親どちらの家でも面倒は見れないと言われてな。最悪孤児院も考えられたのだが、それは駄目だと反対意見が多くて養子にと決まったのだ。
そこで私はお前を推薦したのだ!
皆、お前の家なら問題ないだろうと了承してくれた。お前も乳飲み子の子育てをしてみたいだろう?」
「……………色々気になる事はありますが……その、父上の言う“皆”と言うのは……」
「スマンな。誰が居たかは言えんのだ。だが安心しろ。
陛下もお前になら安心だと言って下さった!」
「………陛下………」
今となっては雲の上の人となったこの国を支える人の名前が出てきてコザックは頭を抱えたくなった。一体どんな子だというのだ……
「子育てに必要な資金も貰って来てやったから金の事は気にするな。
まぁお前は上手くやっている様だから必要ないかもしれんがな」
「…………その心配はしておりません……キャロルは……」
金の事じゃないんだよ……と思いながらキャロルを見ると、キャロルは赤ん坊をしっかりと抱いてあやしながら赤ん坊の顔をジッと見ていた。
そしてその目をコザックへと向けた。真剣な、既に気持ちの決まった目を……
「……わたくしたちが断ったらこの子はどうなるのですか? また他の家に連れて行かれるのでしょう?
……でしたら、ここで育てて上げるべきです。
…………わたくしはもう子を産みたいとは思いませんが……こんな子を一度抱いてしまっては……この子を手放したくないと思ってしまいます……」
「キャロル……」
ギュッと赤ん坊を抱きしめたキャロルを見たコザックは溜め息と共に妻の名を呼んだ。
「では決まったな!
頼むぞ、コザック。
この子を立派な“男”に育ててやってくれ」
ドンッとアイザックはコザックの胸元を叩く。その目は期待の籠もった目をしていて、そんな目を向けられてはコザックは腹を括るしかなかった。
「……分かりました。
引き受けたからには私が全ての責任を持って、この子を立派に育ててみせます」
妥協ではなく自分の意思で引き受けるのだとコザックはその目に乗せて父に伝える。
アイザックはそれをちゃんと読み取り大きく頷いた。
「頼むぞ」
そんな父の一言が何故か無性に嬉しくなるのは何故だろうかとコザックは思う。
そんな親子のやり取りの横から、おずおずといった感じでキャロルが声を掛けた。
「……この子の名前をお聞きしても?」
その質問にアイザックが肩をすくめて話し出した。
「実はまだ無いのだ。父親はこの子が生まれた事も知らんだろう。母親は名前を付けんかった。
あぁ、捨てたのではない。自分が育てられないと分かっていたから付けなかった様だ。子を育ててくれる相手に愛情を持って育てて貰える様に、名付けを譲った様だな……
だから、コザックにキャロルよ。
この子に良い名を付けてやってくれ」
アイザックの話にキャロルは少しだけ悲しそうな顔をして、コザックは最後の言葉に反応した。
「……名を……」
そう呟いたコザックに寄り添ったキャロルが優しく微笑む。
「良い名を……付けて上げましょう……」
「あ……あぁ……」
そんな2人のやり取りをアイザックは優しく見守る。
突発的に夫婦となった2人だが、上手く夫婦をやれている様で父として義父として内心ホッとしたのだった。
そして、その日から数えて4日、名付けに頭を悩ませたコザックにキャロルは苦笑して、最終的にはコザックが考えた名前からトイセルが選ぶ形で子供の名は決まった。
またもや突然始まった子育てにコザックはあわあわしながらも、それでもキャロルに丸投げする事なく自ら率先して子育てを手伝った。
1年後。
「喜べ! コザック、キャロル!
娘が出来たぞ!!」
ジャーンという効果音が付いていそうなアイザックの登場に、コザックは驚きよりも諦めの境地となった。
「父上……この国は大丈夫なのですか……?」
アイザックが連れてくるという事はまたもや訳有り高位貴族関係だろう。産んでいるという事は無理矢理純潔を穢されたのではないだろうが、それでも、『本来ならば産まれないはずの子』が毎年産まれるのは如何なものか……
「全く良くはないが考え方を変えろ!
お前は子が増え、私は孫が増える!!
喜ばしい事だ!!」
父のテンションがおかしい事になっている事から、父上も若干やけくそになってるんだなと思いながらも、コザックは新しく増えた家族に自然と口元を綻ばせた。
長男となったトイセルは突然増えた弟妹に驚きはしたが何よりも喜んだ。他所の血を持ち養子となる弟妹に爵位の継続権が生まれる事が無い上に、どうやら高位の血筋を引いているらしい弟妹は大きくなっても男爵家のあれこれに関係する事はない。
コザックとキャロルは預かった男児と女児をただ立派で筋の通った考えの大人になる様に育てると誓いあった。
ケノゼイ男爵家には4人の子供を育て上げた老夫婦が居たのも助かった。
コザックとキャロルだけでは子育てに疲れて問題が出たかもしれないが、ジャンとメルが本当のお爺ちゃんとお婆ちゃんの様に家族の一員として2人を支えてくれた。
時々様子を見に来たアイザックがお爺ちゃんしているジャンに謎の嫉妬を燃やしたりもしたが、大きな問題も起こらず、子供たちはすくすくと育っていった。
それから9年。
次男が10歳となった時、またもや事件が起こった。
何と隣国の第二王子が妻だという女性と共にケノゼイ男爵家に子供を取り戻したいとやって来たのだ。
次男を預かる時に陛下の名前が出たので高位の血筋だとは思っていたがまさか隣国の王族が出てくるのは思っていなかったコザックとキャロルは度肝を抜かれた。
だが、大切に育てた子供を権力に負けてホイホイと差し出すつもりはない。
怖がり怯える次男を17歳となっていたトイセルが背中に庇い、妹がギュッと次男に抱き着いた。そして子供たちの前で凛と立つコザックとキャロルは、どこからどう見ても信頼しあっている家族だった。
そんなコザックたちに王子は自分たちの事情を話した。
この国に来た時に侯爵令嬢と出会い、恋に落ちた。いけない事とは理解しながらも、互いを愛する気持ちを捨てられなかった。
令嬢には婚約者が居て、婚約を解消したがった令嬢の願いを跳ね除けた。王子も王子で一度国に帰って王族を抜けると願い出たが却下された。
悩んだ2人は駆け落ちして平民となった。別の国で警備兵の仕事と家庭教師の仕事をそれぞれ見つけて家庭を築いた矢先に見つかり連れ戻され、引き離された。
その時既に令嬢は身籠っていたが、王子はそれを知る事なく国に返された。令嬢は一人で産んで育てると言ったが元婚約者の家がそれを許さず、彼女は罪を償う為に子を産んで直ぐに修道院へ入れられた。
それから10年。
10年経っても考えを変えない王子たちに周りの方が折れた。許されない恋ではあったが身分は悪くは無い。既に元婚約者家族の溜飲も下がり好きにすればいいと言っている。ならばもう2人に障害は無いと結婚する事になったが、ならば子供は? となり、頭を下げて居場所を聞き出しやって来たのだと話した。
物語の様な話だと皆が驚きながら聞いていたが、だから子供を返せと言われても簡単に手放せる様な愛情の掛け方はしていなかった。
だが、親子だと思って見てみれば、隣国の王子もその横にいる女性も、とても次男と似た面影を持っていた。それこそ、寄せ集めの様なコザックの家族よりもしっかりと一つの家族の様に見えた……
それでも……
「血の繋がりはありませんが、私たちは今まで皆で手を取り合って生きてきた家族です。
私は立派な父親ではありませんが、それでも、子供たちをここまで育てた責任があります。血縁者が出てきたからといって簡単にその手を離す程、愚かではありません。
この子は、私の息子なのです」
コザックの言葉に続く様に次男が一歩前に出た。その目にはもう怯えはなかった。
「オレの父上はコザック・ケノゼイただ一人です。母もキャロル・ケノゼイだけです。
オレは妹をまもると誓ったのでこの家を離れることは出来ません。血がどうとかオレにはわかりません。オレの家族はケノゼイ家だけです。
もしオレを探しにきたのだったらすみません。オレの家族はもう居ます」
そう言って頭を下げた次男にコザックは目頭が熱くなるのをグッと我慢した。
王子たちはその後も粘りはしたが、次男の気持ちが変わる事はないと知ると、また来ると言って帰っていった。
『頑固さは血筋かな』と言って笑った王子の悲しそうな顔がコザックには忘れられなくなった。
それから……
時々親戚の様にケノゼイ男爵家を訪れる様になった隣国の王子、改め隣国の公爵夫婦と、少しずつ時間を共有していった次男に、コザックは声をかける。
「……2人はお前と離れたくて離れた訳では無い。この世界には思う様にいかない事がたくさんある。それを多くの人が諦めて生きていくのだが、あの人たちは諦めなかった。そのお陰でお前が生まれた事も事実だ。
私はお前と離れたくはない。血の繋がりはなくてもお前は私の大切な息子だ。……だが、あの二人の気持ちも痛い程分かる。私がお前と引き離されたらきっと今の2人と同じ事をするだろう。
無理にどうするかを決める必要は無い。だが……、もし迷いがあるのなら、これだけは覚えておいてくれ。
離れていようとも私とキャロルがお前の父と母である事は変わらない。ただお前に父と母が一人ずつ増えるだけだ。この家を出ても、名乗る家名が変わろうとも……私は死ぬまでお前の父親だ」
そう言ったコザックに次男は抱き着いて泣いた。とても複雑で難しい悩みを抱えた10歳の息子をコザックはただただ強く抱き締めた。
『ここに居ろ』と言う事は簡単だったが、そんな父親にコザックはなりたくなかった。
それから半年後、次男はケノゼイ家を去った。
自分の所為で悲しげに笑う2人を無下にし続ける事は、優しく育った次男には無理だったからだ。愛情をたくさん貰った次男は、今度はそれを生んでくれた両親に返すんだと笑って旅立って行った。
いつでも帰って来ていいからなと言ったコザックはその後、半年置きくらいに里帰りしてくる次男に、喜んでいいのか怒った方がいいのか、複雑な気持ちになるのだった。
それから更に数年後。
ある日、キャロルがお客様だと伯爵夫人を連れて来た。
お菓子作りを教えるのだと笑ったキャロルが娘を呼び、皆で一緒に作りましょうと女性3人で台所に入って行った。
少しだけお転婆に育ってしまった娘と、お客様である夫人の髪色が似ている事に気付いたコザックは少しだけ息を呑んで、そして気付かなかった事にして執務室へと向かった。
どんな関係であれ、子供たちが愛されているのであればいいと、コザックは思った。
「父上」
コザックの仕事の補佐をしているトイセルが執務室に入って来たコザックに笑いかける。
その愛情を窺える笑顔に、コザックは幸せを感じて笑い返す。
「トイセル。今日のおやつは期待できるぞ」
そんな何気無い話を息子と出来るなど昔のコザックには考えられなかった。
人生、何があるか分からないものだと、コザックは笑った。
[完]
───────────
※ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございます。
「ざまぁ話」がいつしかこんな形になりました。(不思議)
コメントで「主人公はコザック」と言われて、最後をこの形にするのが決まっていたので、本当にそうだな!と思いました。
クズ男がクズ男のままで終わらずに申し訳ないです。反省の10年間が結構キツいお仕置き(精神的な)になったと思うのですがどうでしょう?(苦笑)
コザックは使いどころがなく貯め込む形になっていた資産を使って新しい商売を始め、それを軌道に乗せた。領地改革も上手くいき、小さいながらもケノゼイ男爵領は貧乏領地から早々に脱却した。
コザックは元来優秀なのだ。
それから2年。
のんびりとした環境で、周りの大人たちに愛され保護される事を知ったトイセルは元来の性格を取り戻して腕白な少年へと成長していた。実父から無理矢理食べさせられていた食事がなくなり、メルの作る素朴ながらも栄養面が考えられた食事のお陰でその体は直ぐに標準体重に戻った。
キャロルはまだコザックに自分から意見を言う事はないが、それでもコザックから聞かれればちゃんと答え、自分の意見を言える様になった。子供の頃から実は密かにやりたかったというお菓子作りの楽しさを覚え、クッキーなどを作って売ったりしてどんどん外の世界に目を向けている。
コザックは忙しくはあるが、とても充実した毎日を送っていた。
そんなある日。
突然、父であるアイザックが胸元に何かを抱えてやって来た。
「喜べコザック、キャロル。
お前たちの新しい子供だ!」
「は?」
笑顔で父から差し出された赤ん坊にコザックは本当に意味が分からずにそれしか反応出来なかった。
動きの止まってしまった息子を諦めて赤ん坊をキャロルに抱かせたアイザックがニコニコ顔で話し出す。
「見た通り、訳有りでな。
血筋は良いが両親には育てられん。かと言って母親父親どちらの家でも面倒は見れないと言われてな。最悪孤児院も考えられたのだが、それは駄目だと反対意見が多くて養子にと決まったのだ。
そこで私はお前を推薦したのだ!
皆、お前の家なら問題ないだろうと了承してくれた。お前も乳飲み子の子育てをしてみたいだろう?」
「……………色々気になる事はありますが……その、父上の言う“皆”と言うのは……」
「スマンな。誰が居たかは言えんのだ。だが安心しろ。
陛下もお前になら安心だと言って下さった!」
「………陛下………」
今となっては雲の上の人となったこの国を支える人の名前が出てきてコザックは頭を抱えたくなった。一体どんな子だというのだ……
「子育てに必要な資金も貰って来てやったから金の事は気にするな。
まぁお前は上手くやっている様だから必要ないかもしれんがな」
「…………その心配はしておりません……キャロルは……」
金の事じゃないんだよ……と思いながらキャロルを見ると、キャロルは赤ん坊をしっかりと抱いてあやしながら赤ん坊の顔をジッと見ていた。
そしてその目をコザックへと向けた。真剣な、既に気持ちの決まった目を……
「……わたくしたちが断ったらこの子はどうなるのですか? また他の家に連れて行かれるのでしょう?
……でしたら、ここで育てて上げるべきです。
…………わたくしはもう子を産みたいとは思いませんが……こんな子を一度抱いてしまっては……この子を手放したくないと思ってしまいます……」
「キャロル……」
ギュッと赤ん坊を抱きしめたキャロルを見たコザックは溜め息と共に妻の名を呼んだ。
「では決まったな!
頼むぞ、コザック。
この子を立派な“男”に育ててやってくれ」
ドンッとアイザックはコザックの胸元を叩く。その目は期待の籠もった目をしていて、そんな目を向けられてはコザックは腹を括るしかなかった。
「……分かりました。
引き受けたからには私が全ての責任を持って、この子を立派に育ててみせます」
妥協ではなく自分の意思で引き受けるのだとコザックはその目に乗せて父に伝える。
アイザックはそれをちゃんと読み取り大きく頷いた。
「頼むぞ」
そんな父の一言が何故か無性に嬉しくなるのは何故だろうかとコザックは思う。
そんな親子のやり取りの横から、おずおずといった感じでキャロルが声を掛けた。
「……この子の名前をお聞きしても?」
その質問にアイザックが肩をすくめて話し出した。
「実はまだ無いのだ。父親はこの子が生まれた事も知らんだろう。母親は名前を付けんかった。
あぁ、捨てたのではない。自分が育てられないと分かっていたから付けなかった様だ。子を育ててくれる相手に愛情を持って育てて貰える様に、名付けを譲った様だな……
だから、コザックにキャロルよ。
この子に良い名を付けてやってくれ」
アイザックの話にキャロルは少しだけ悲しそうな顔をして、コザックは最後の言葉に反応した。
「……名を……」
そう呟いたコザックに寄り添ったキャロルが優しく微笑む。
「良い名を……付けて上げましょう……」
「あ……あぁ……」
そんな2人のやり取りをアイザックは優しく見守る。
突発的に夫婦となった2人だが、上手く夫婦をやれている様で父として義父として内心ホッとしたのだった。
そして、その日から数えて4日、名付けに頭を悩ませたコザックにキャロルは苦笑して、最終的にはコザックが考えた名前からトイセルが選ぶ形で子供の名は決まった。
またもや突然始まった子育てにコザックはあわあわしながらも、それでもキャロルに丸投げする事なく自ら率先して子育てを手伝った。
1年後。
「喜べ! コザック、キャロル!
娘が出来たぞ!!」
ジャーンという効果音が付いていそうなアイザックの登場に、コザックは驚きよりも諦めの境地となった。
「父上……この国は大丈夫なのですか……?」
アイザックが連れてくるという事はまたもや訳有り高位貴族関係だろう。産んでいるという事は無理矢理純潔を穢されたのではないだろうが、それでも、『本来ならば産まれないはずの子』が毎年産まれるのは如何なものか……
「全く良くはないが考え方を変えろ!
お前は子が増え、私は孫が増える!!
喜ばしい事だ!!」
父のテンションがおかしい事になっている事から、父上も若干やけくそになってるんだなと思いながらも、コザックは新しく増えた家族に自然と口元を綻ばせた。
長男となったトイセルは突然増えた弟妹に驚きはしたが何よりも喜んだ。他所の血を持ち養子となる弟妹に爵位の継続権が生まれる事が無い上に、どうやら高位の血筋を引いているらしい弟妹は大きくなっても男爵家のあれこれに関係する事はない。
コザックとキャロルは預かった男児と女児をただ立派で筋の通った考えの大人になる様に育てると誓いあった。
ケノゼイ男爵家には4人の子供を育て上げた老夫婦が居たのも助かった。
コザックとキャロルだけでは子育てに疲れて問題が出たかもしれないが、ジャンとメルが本当のお爺ちゃんとお婆ちゃんの様に家族の一員として2人を支えてくれた。
時々様子を見に来たアイザックがお爺ちゃんしているジャンに謎の嫉妬を燃やしたりもしたが、大きな問題も起こらず、子供たちはすくすくと育っていった。
それから9年。
次男が10歳となった時、またもや事件が起こった。
何と隣国の第二王子が妻だという女性と共にケノゼイ男爵家に子供を取り戻したいとやって来たのだ。
次男を預かる時に陛下の名前が出たので高位の血筋だとは思っていたがまさか隣国の王族が出てくるのは思っていなかったコザックとキャロルは度肝を抜かれた。
だが、大切に育てた子供を権力に負けてホイホイと差し出すつもりはない。
怖がり怯える次男を17歳となっていたトイセルが背中に庇い、妹がギュッと次男に抱き着いた。そして子供たちの前で凛と立つコザックとキャロルは、どこからどう見ても信頼しあっている家族だった。
そんなコザックたちに王子は自分たちの事情を話した。
この国に来た時に侯爵令嬢と出会い、恋に落ちた。いけない事とは理解しながらも、互いを愛する気持ちを捨てられなかった。
令嬢には婚約者が居て、婚約を解消したがった令嬢の願いを跳ね除けた。王子も王子で一度国に帰って王族を抜けると願い出たが却下された。
悩んだ2人は駆け落ちして平民となった。別の国で警備兵の仕事と家庭教師の仕事をそれぞれ見つけて家庭を築いた矢先に見つかり連れ戻され、引き離された。
その時既に令嬢は身籠っていたが、王子はそれを知る事なく国に返された。令嬢は一人で産んで育てると言ったが元婚約者の家がそれを許さず、彼女は罪を償う為に子を産んで直ぐに修道院へ入れられた。
それから10年。
10年経っても考えを変えない王子たちに周りの方が折れた。許されない恋ではあったが身分は悪くは無い。既に元婚約者家族の溜飲も下がり好きにすればいいと言っている。ならばもう2人に障害は無いと結婚する事になったが、ならば子供は? となり、頭を下げて居場所を聞き出しやって来たのだと話した。
物語の様な話だと皆が驚きながら聞いていたが、だから子供を返せと言われても簡単に手放せる様な愛情の掛け方はしていなかった。
だが、親子だと思って見てみれば、隣国の王子もその横にいる女性も、とても次男と似た面影を持っていた。それこそ、寄せ集めの様なコザックの家族よりもしっかりと一つの家族の様に見えた……
それでも……
「血の繋がりはありませんが、私たちは今まで皆で手を取り合って生きてきた家族です。
私は立派な父親ではありませんが、それでも、子供たちをここまで育てた責任があります。血縁者が出てきたからといって簡単にその手を離す程、愚かではありません。
この子は、私の息子なのです」
コザックの言葉に続く様に次男が一歩前に出た。その目にはもう怯えはなかった。
「オレの父上はコザック・ケノゼイただ一人です。母もキャロル・ケノゼイだけです。
オレは妹をまもると誓ったのでこの家を離れることは出来ません。血がどうとかオレにはわかりません。オレの家族はケノゼイ家だけです。
もしオレを探しにきたのだったらすみません。オレの家族はもう居ます」
そう言って頭を下げた次男にコザックは目頭が熱くなるのをグッと我慢した。
王子たちはその後も粘りはしたが、次男の気持ちが変わる事はないと知ると、また来ると言って帰っていった。
『頑固さは血筋かな』と言って笑った王子の悲しそうな顔がコザックには忘れられなくなった。
それから……
時々親戚の様にケノゼイ男爵家を訪れる様になった隣国の王子、改め隣国の公爵夫婦と、少しずつ時間を共有していった次男に、コザックは声をかける。
「……2人はお前と離れたくて離れた訳では無い。この世界には思う様にいかない事がたくさんある。それを多くの人が諦めて生きていくのだが、あの人たちは諦めなかった。そのお陰でお前が生まれた事も事実だ。
私はお前と離れたくはない。血の繋がりはなくてもお前は私の大切な息子だ。……だが、あの二人の気持ちも痛い程分かる。私がお前と引き離されたらきっと今の2人と同じ事をするだろう。
無理にどうするかを決める必要は無い。だが……、もし迷いがあるのなら、これだけは覚えておいてくれ。
離れていようとも私とキャロルがお前の父と母である事は変わらない。ただお前に父と母が一人ずつ増えるだけだ。この家を出ても、名乗る家名が変わろうとも……私は死ぬまでお前の父親だ」
そう言ったコザックに次男は抱き着いて泣いた。とても複雑で難しい悩みを抱えた10歳の息子をコザックはただただ強く抱き締めた。
『ここに居ろ』と言う事は簡単だったが、そんな父親にコザックはなりたくなかった。
それから半年後、次男はケノゼイ家を去った。
自分の所為で悲しげに笑う2人を無下にし続ける事は、優しく育った次男には無理だったからだ。愛情をたくさん貰った次男は、今度はそれを生んでくれた両親に返すんだと笑って旅立って行った。
いつでも帰って来ていいからなと言ったコザックはその後、半年置きくらいに里帰りしてくる次男に、喜んでいいのか怒った方がいいのか、複雑な気持ちになるのだった。
それから更に数年後。
ある日、キャロルがお客様だと伯爵夫人を連れて来た。
お菓子作りを教えるのだと笑ったキャロルが娘を呼び、皆で一緒に作りましょうと女性3人で台所に入って行った。
少しだけお転婆に育ってしまった娘と、お客様である夫人の髪色が似ている事に気付いたコザックは少しだけ息を呑んで、そして気付かなかった事にして執務室へと向かった。
どんな関係であれ、子供たちが愛されているのであればいいと、コザックは思った。
「父上」
コザックの仕事の補佐をしているトイセルが執務室に入って来たコザックに笑いかける。
その愛情を窺える笑顔に、コザックは幸せを感じて笑い返す。
「トイセル。今日のおやつは期待できるぞ」
そんな何気無い話を息子と出来るなど昔のコザックには考えられなかった。
人生、何があるか分からないものだと、コザックは笑った。
[完]
───────────
※ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございます。
「ざまぁ話」がいつしかこんな形になりました。(不思議)
コメントで「主人公はコザック」と言われて、最後をこの形にするのが決まっていたので、本当にそうだな!と思いました。
クズ男がクズ男のままで終わらずに申し訳ないです。反省の10年間が結構キツいお仕置き(精神的な)になったと思うのですがどうでしょう?(苦笑)
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(153件)
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした
基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。
その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。
身分の低い者を見下すこともしない。
母国では国民に人気のあった王女だった。
しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。
小国からやってきた王女を見下していた。
極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。
ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。
いや、侍女は『そこにある』のだという。
なにもかけられていないハンガーを指差して。
ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。
「へぇ、あぁそう」
夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。
今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。
愛してくれないのなら愛しません。
火野村志紀
恋愛
子爵令嬢オデットは、レーヌ伯爵家の当主カミーユと結婚した。
二人の初対面は最悪でオデットは容姿端麗のカミーユに酷く罵倒された。
案の定結婚生活は冷え切ったものだった。二人の会話は殆どなく、カミーユはオデットに冷たい態度を取るばかり。
そんなある日、ついに事件が起こる。
オデットと仲の良いメイドがカミーユの逆鱗に触れ、屋敷に追い出されそうになったのだ。
どうにか許してもらったオデットだが、ついに我慢の限界を迎え、カミーユとの離婚を決意。
一方、妻の計画など知らずにカミーユは……。
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
感想ありがとうございます^^
私はあまりざまぁ対象者の改心を書かないのですが、この作品に関しては何故か突然に降ってきましたね😆w ざまぁの罰によっては対象者にも次の人生がありますから『本人が改心できたのなら』幸せを感じて欲しいですよね🤭
激変を楽しんで頂けた様で嬉しいです!😆
不幸になるのも突然なら、幸せになる切っ掛けが舞い込んで来るのも突然です!😆w
感想ありがとうございます^^
そもそもコザックはその段階での立場はほぼ『罪人』と同じです。本来なら罰として平民落ちさせられていてもおかしくないところを家に残してもらえたのです。
でも罪は罪です。
罪人が監獄で「もう自由になりたい」と言ってじゃあ自由に羽ばたけと許す看守がいますか?ってところです。気持ち悪く感じて頂けていて安心しました☺️あの父親のセリフはコザックに自分の立場を理解させる意味もあるので、『息子を縛り付ける』意味で言えば毒親の言葉と同じかもしれませんね。
でもそもそもコザックの立場が『罪人』なので、何『普通の息子』みたいな顔してんだ?って感じですね(笑)
コザックが平民であれば「不倫程度で」となるでしょうが、コザックの立場は貴族でそれも高位貴族で次期当主でした。簡単には許されません。が。結構守られた環境で十年で許されましたね(笑)
気に入っていただけたようで嬉しいです^^